23 合格発表(僕のじゃないよ)
「やっと今日が来た!」
「たった2日だよね?」
「今日こそ俺の運を使い果たす日······っ!」
「あ、うん······ん!?」
いやいやいや、運使い果たしちゃ駄目でしょ。というか試験に運って使わないでしょうに、問題が全部選択肢やマークシートなら別だけど、全部選択肢だとあてずっぽうで受かる人も出てくるし、いい人材を集めてる学園がそんなことをするのはないと思う。
ましてやマークシートなんて読み取る機械がないから開発もされてないだろうし。もしかして人力?
あ、でも機械じゃなくとも魔具や魔法を使って読み取ることが可能なのかな?
謎に気合いの入ったルイスと話しながら学園の方に歩いていく。
何故か『合格発表の時に一緒に行こうぜ!』って誘われて僕は一緒に来ている。
部外者が行っていいのだろうか?
そう聞いたら貴族とか近くに住む人は親が見に来るとの事。いや貴族じゃないし······ん待って、さも聞いた事のように言っていない?
「もしかして誰かから聞いた?」
「隣で受けてた子が貴族みたいで、その子からね」
サラッと怖いこと言ったよこの子。
いきなり横の人に、後から分かったとしても貴族と話せるって······コミュ力お化けじゃん。
試験日の時と比べると明らかに親子連れが多くなった通りを歩いていく。
ふと思ったけどそのベリアの言っている貴族って僕が助けたあの子とかかな?でも学園に受けに来る貴族って少なくはないと思う。
その時、後ろからガラガラと音を立てて馬車が通り過ぎていく。向かうはちらりと見える学園方向だ、それが数台。
······訂正、学園に受けに来る貴族は多いと思う。
僕達が学園に着いた時は、学園の門は塞がっていた─────というのが合っているくらい門の前に馬車やら人やら、ん?あれは駕籠?みたいな形の物とかでごった返しの状態だ。
「これじゃあ暫く入れそうにないね······」
「えぇー、俺早く見たいんだけどなー」
「しょうがないよ、相手は貴族なんだし」
確か学園生活では階級の差は無くてみんなで切磋琢磨しようみたいなことを聞いたことがあるけど、学園側で言っているだけで生徒は守れていなかったりしそうだ。
それに、今現在2人は生徒かどうかわからない状態の一般人だから、適応されない。
「あら、こんなところにいたのね」
人の壁が無くなるのを喋りながら待っていた僕達に声をかけられる。
声の主はその壁の、馬車の間からこちらへと歩いてきていた。
「おはようございます、シルベスター様」
「おはよう、ベリア。様も敬語も要らないって言ったじゃなかったかしら?」
ベリアが敬語を使ってるのは初めて見た······というかちょっと声変えてない?
いや、今はそんな事どうでもいい。
今の声······間違いない、夜に助けたあの子だ。
見る限り、あの時着ていた服じゃないけど、何て言うか······歩く時の感じ?それも同じように見える。
「周りが、ね?」
「そうみたいね。許可は出したわよね?」
「ふふっ」
ベリアがシル、ベスター?様に近づいて細々と喋ると、大きく頷く。
頷く度に、顔の左右に結わえられたであろうドリルみたいな······なんて言うんだっけ?ツインテドリル?なる髪型が揺れる。
しっかしまぁ金髪ツインテドリル貴族って······テンプレ過ぎじゃない?
あれ?あの夜の時そんな髪型だったっけ?暗くて見えにくいとはいえ、そんな特徴的な髪型ならさすがに目につくし、視界に入れば覚えている。
そのドリル髪型に挟まれたその顔は、少し見とれてしまうほどに綺麗だ。可愛いという所を残しながら、大人びた美人の部分も併せ持つ······ああぁぁ!言葉じゃ説明できない!とにかくだ、ベリアとペアを組んでテレビに出てたらすぐさまファンが沢山できるのが確信できるくらい綺麗だ。
······何変態チックに考えてるんだろうか、僕は。
かぶりを振って振ってそんな考えを吹き飛ばす。いや、別に悪いって訳じゃない、言うならそんな思考する僕が悪いわけで······いや何思ってるんだろう、これだと無限ループじゃないか。
「そっちの2人は誰かしら?」
「私と一緒の村に住んでた同い年の子で─────」
「はじめましてシルベスター様!ル、ルイスと言います!」
おぉう、ルイスが食い気味に自己紹介してる。
僕も言わなきゃダメだよね?心の準備g······
「えと、あの。ヴォルです······」
よし、何とか名前は言えた。目線を合わせる?無理無理無理!目を合わせるなんて無理だからお辞儀して回避する。
「ルイスは騎士を目指してて、ヴォルは私達の付き添いで来てくれたの」
「ふぅん······そうそう、あなたが教えてくれたおかげでその問題も答えることが出来たわ、ありがとう」
「たまたまよ、たまたま」
「謙遜しなくてもいいのに」
元から興味がなかったような気持ちを感じさせるセリフが聞こえたかと思ったら、もう既にそこはガールズトークの場になっていた。
残されたルイスと僕はただ佇むだけの人になってしまった。
気のせいだといいんだけど、ベリアがシルベスター様と喋りだしてからというもの、周りの人の目がこっちに向く。通り過ぎる人も、今門の前に来たという雰囲気の人も、受かったのかうきうきしてるように見える人も、全員1度はこちらに目を向けるのだ。
······気のせいじゃないよね。人が通る往来の中で2人綺麗、可愛い人が話していたらそりゃチラッとは見るよねって。
あ、門前に人の隙間ができた。
「ルイス」
「あぁ、早く行こうぜ」
小声で、しかも何も言ってないのに僕の意図を汲んでくれた。さすが9年一緒に過ごしただけある。そのうち1年半くらいは微妙な距離だったけどね。
ベリアはまだお喋り中だったので、とっとと門へ行くルイスについて行く。『勝手に立ち去るとは無礼千万!』みたいなことを言われたらどうしようかと思ったけど、杞憂だったようだ。
思っていた通りなんだけど、学園ってやっぱり広い、村の半分くらいありそうだ。
中に入ったものの、人の波こそはないけどおそらく貴族であろう集団で歩く人や親子連れに気を抜くと流されそうになる。
「あっち」とルイスが指をさす向こうの騒がしい方に人の流れが集まっているような気がする、そこで合格かどうか知れるのだろう。
「見える?」
「いや、全然だな」
チラチラと大きな板が頭の隙間から窺える。あれだ、合格してたら番号で発表するやつだ。僕の高校の合格発表は郵送だったから味わえなかった感覚だ、なんだか感動する。
板には番号しか書かれていない。
だけど上に『Sクラス』と書かれた枠と下に左からAからEまであるあたり、やっぱりそういう分け方が異世界だとメジャーなのかと感じる。確かに才能とかスキルがものを言う世界だからいい人をとことん伸ばす······悪いわけじゃないんだけど、なんだかこう、モヤッとする。
「番号は?」
「えっと、4689」
4000番台って······どれだけ入学希望者がいるんだ。いくら学園が広くて許容人数が多いとしても、20倍や40倍どころじゃないはずだ。
少しずつ板の方に進みながらも、人の流れの切れ目に見える文字を逃さないように集中する。
4586、違う
1689、一瞬見間違えた
人が少なくなってきた、これならルイスも探せるだろう。
SとAクラスにはいないと······筆記試験が難しかったのかな?
もっと近くに······よし、ここならよく見える。
B、C、D······いやいやいや、さすがにここまでは来ないでしょ、ルイスだって模擬戦で親に勝ったって自慢していたし、他の騎士志望の子と比べて引けは取らないと思う。
いや······僕がそう思っているだけで実際はもっと技術が高かった?可能性としては無くはない。
最後のEクラス、ここで数字が無かったら······
3764
3951
4119
4444
4680
4932
・
・
・
「──────っ」
数字が、無かった
嘘だ······あんなに勉強したのに?
時が経てば経つほど剣技が上手くなっていたのに?
どうして?
どうして
どうして──────
「っルイ······ス······」
「──────」
ルイスに声をかけようとしたけど、もう、遅かった。
「ルイス?」
手を振ってみるけど、ルイスは軽く口を開けたまま固まってしまっている。
かける言葉も見つからず、このままここにいては後ろの邪魔になるから横に引きずっていく。
引きずってもルイスの意識は戻ってきてない。
どうしたら······
「起きろルイス、起きろって」
「──────」
「ごめんねつい話し込んじゃって、ってどうしたの?」
暫くルイスの肩を揺すりながら声をかけてたら、話し終わったのかルイスの背中側からベリアがここまで来ていた。
「いやそれが······」
ルイスのことを言おうにも、当の本人じゃない僕が言うのもなんだし、ルイスは今ベリアに背を向けている状態だから顔を見て察することも出来ない状態だ。
「私の番号を探そうとしてたの?でも教えていたっけ?」
「いや······」
僕は何も言えず口ごもって──────
「じゃないと魔法科の合格発表のパネルには来ないと思うけど······」
「ん?」
今なんて?
「板?」
「え?」
「魔法科の······パネル?」
「そうそう」
「騎士科じゃなく?」
「騎士科はあっち」
ベリアが指さす先は、また別の人だかりができている場所だ。こちらよりかは数が少なく、先程まで見ていた板と酷似している板がある。
そしてその上に、『騎士科合格者』の文字が──────
「ほんとに?」
「ヴォルなら目を擦らなくても見えてるでしょ」
「ほんとにほんと?」
「本当だから······なるほど、こっちのパネルを見て自分の数字が無かったみたいね」
「そう!」
さすがベリア、察しがいい。
「とにかく騎士科のパネルはあっちだから、早く連れていった方がいいんじゃない?」
「おっけー!ありがと!」
そうと決まれば善は急げだ!
「ぶっ」
荒治療だけど、軽くルイスの頬を叩く、これで覚めるはずだ。
「なんだヴォルか······」
「なんだじゃないよ!早くあっちの板を見に行こう!」
「あぁいいんだ、俺は受かってないから······」
ネガティブ思考になってる······なんだか目が黒ずんでるような気がする。
「こっちは魔法科の板!騎士科はあっち!」
僕の言葉でルイスの目に光が戻ったような気がした。
「嘘だろ!?」
「本当だから早く!」
ルイスが覚束無い足取りで進み出したから慌ててその手をとって引っ張る。
ルイスなら合格してるはず!
「あった······あった!」
「やったじゃないかルイス!」
明らかに周りの人が魔法科より少ない騎士科の板の前、ルイスの番号はすぐに見つかった。
というのもルイスの番号はSクラスの中に入っていたからだ。
「お、お、俺がえエえSクラらス······」
「どうどう」
嬉しすぎてバグったようなルイスを何とか宥める。
「おめでとう、勉強頑張ってたしね」
「あぁ······しばらくは勉強したくないな」
「うんうん、数日くらい余韻に浸っていられるね」
入学したらすぐに勉強とか始まってしまうんだろうけどね、でも剣術とか魔法のこととかの授業もあるはずだろうから、普通科高校の勉強よりかは少ないだろうし、試験勉強の内容を見る限り、中1の頭さえあれば十分なくらいだ。でも実習の難易度的なあれが比較するとすごく厳しいのだろう。
周りを見ると、自分の結果に両手を大きくあげる人、地に四肢をつける人、親と抱き合って泣いている人······なんだろう、見ていてすごく、羨ましく感じる。
僕にも適正属性があればああなっていたと考えると、この体が忌々しく思ってしまう。
でもこの身は1度死んでいて、僕が憑依することで肉体として生きているわけで、僕は2度目の人生を謳歌?······しているわけで、そういう意味では本当に神様に感謝している。
そういう意味では、ね。
その後、ルイスは合格者に渡される資料とかを取りに行くために学園の方に入っていく。手持ち無沙汰になってしまった僕は、校門の横で待っていようかと思う。
ベリアはどうだったのかな?ルイスを引っ張ってくる前にまだ確認していなかったから、既に自分の番号があることを確認はできていると思う。
え?数字がなかったらって?
ベリアの事だし合格してるでしょ。
案の定、魔法科の板の前にいるかどうか遠目から見たけど、ベリアはいないようだった。おそらくルイスと同じように学園の方に入っていったのだろう。
「暇だー」
思わずそう呟いてしまう。というのも2人が行ってから体感で20分以上は経っているのだ。
資料とか貰ったり学園内の説明、あるいは見学となるとそこまで時間がかかるのは考えたらわかる。わかるんだけど······なんというか、暇だ。
僕は何もせず待っているっていうのが出来ないタイプなんだ。せめて本さえあれば······考え出すとあの小説読みたくなってきたな。
「うぅ······」
駄目だ、そっちを考え出すとキリがない。この世界に来た以上、どの本も存在しないのだから。
頭を振って1度思考をリセットし、代わりに戦闘のことを、村を出る前にオークと戦った時のことを出来る限り思い起こす。
あの時はベリアがいたから僕が注意を引いてベリアが火力を叩き込む戦い方ができていたわけだけど、僕1人の場合なら?
または、あの時は挑発とか上手くいっていたけど、僕を無視してベリアだけに向かっていくような個体がいたら?
前者なら大丈夫だ、1人の時であっても足を斬って機動力を削いでから倒していたと思う。
なら後者なら?
······やっぱり足を斬っていたかな?いやでも、別に倒させるわけでもなく、一緒に倒す必要がないならわざわざ足だけを狙う必要も無いわけで、腕を切って攻撃手段を減らしたり首を斬って息の根を止める手っ取り早い方法もある。オークの首って太いから一太刀では刎ねることは出来ないんだけどね。
となると動き方も変わってくるから······
1体を狙うと他の2体がこう動きそうだから······
なら······
「──ぃ、お───」
「さっきの仕返し!」
「ぶっ」
脳内で戦闘シュミレーションをしてたらいきなり頬を叩かれた。
顔を上げるともう一度叩こうとしているのか手を振り上げているルイスとこっちを向いているベリアがいた。
「おっと」
反射的に振り下ろされる手を掴んで、そのまま背後に回り込む。そのまま手を頭の方へ動かそうとして、自分がぼうっとしているのを自覚した。
「ごめん、ちょっと考え事してた」
「それにしては動きが速すぎだろ、もうちょっと腕を上げられたらたまったもんじゃねぇぞ」
「ごめんごめん、ちょっと戦闘のことを考えてたから、そういうスイッチが入ったかも」
ルイスに詫びて、3人で安眠亭へと帰る。
え?絡まれなかったって?そんなこと無いように貴族っぽい人が多そうな、それでいてたくさん人が通る門の横に立ってたんだよ。
「ヴォルはこれからどうするの?」
「ん?」
どうするって何を?
「宿よ宿、私達は合格して明日から寮に入れるけど、ヴォルはどうするの?」
ほんとだ、安眠亭は今日までとってたんだったっけ、明日からねぇ······
「それは明日見て決めるよ、もしかしたらもっといい店が見つかるかもしれないしね」
正直今の安眠亭の値段とFランククエストの報酬とを勘定したら、稼ぎ等はほぼ無いし、日に2つ以上クエストを受けておかないとお金が払えなくなってしまう。
武器の手入れとか防具を買ったりするにもお金がかかるから、そう考えると絶対に足りないのだ。
となると安くていい宿を探さないと。······そんな宿あるのかな?
安眠亭に泊まれる最後の夜、1つ宿を探す条件を忘れていたことに気づいた。
夜に素振りやトレーニングが出来るような場所がついていないと嫌だ、しかも人の目があまり来ないようなものを······益々そんな宿があるかどうか不安になってくる。不安、というより存在しないっていう確信かな?
なんにせよ、明日は宿探しに決定だ。