表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/34

21 王都探索?(後)

 どうしたらいいんだ······


 じりじりとゆっくり近づいてくるムキムキとモヒカンに対して、僕は距離を保つように後ろに下がるしかない。


「おらぁ!」


 少しディレイを入れながら向かってくるムキムキの左右のガントレットを軌道を読んで避ける。振るわれる腕はパワータイプ的なアレかかなりの速さだけど、その軌道は曲がることのない真っ直ぐなものだから、速さに慣れてしまえば避けられる。


 問題はモヒカンの方だ。ムキムキの隙を埋めるように動いてくるし、毒の飛び方をわかっているのかムキムキの近くでも射程外から振るってくる。その度に後ろへと下がるしかない。


 ─────いや待て、ムキムキとモヒカンがここにいる。殴り飛ばした人はまだ気絶しているとしても、さっきまでいた目つきの悪い人はどこに?


 ─────いた、ムキムキの影になるようにその向こう。最初に声をかけられた木箱の近くに立っている。······あれ、箱の方を向いてない?木箱の方へ?武器を振り上げて?


「待っ─────」


 咄嗟に止めようにも目の前にムキムキとモヒカンがいるせいで前に進めず、目つきの悪い人が木箱を壊すのを止められない。


「見つけたぞ」


 目つきの悪い人が言ったのか、低い声がここまで聞こえる。

 ムキムキとモヒカンが振り返った先では、髪の長い子を首を持って持ち上げる目つきの悪い人がいる。


 ─────


「そんな所に居やがったか、さっさと連れてけ。俺たちはこいつとケリをつけるからよ」

「わかった」


 ─────やめて!


 突然、目の前の光景と頭の中の記憶が重なる。

 それは僕じゃないし、僕が見たものかどうかも分からない。


 ─────嫌ぁ!


「さっさと終わらせんぞ」

「ヘッ、もう逃がさないゼェ」


 それは今まで見た記憶に無かったもの。


 ────────!──────!


 家々を燃やす火の音が


 一緒に住む村人の悲鳴が


 盗賊の高笑いが


 辺りに広がる血の臭いが


 こちらへと迫る盗賊が─────


「はぁ···っ、はぁ···」


 いつの間にか、持っていた剣を手放して服の胸の部分を掴んでいた。

 掴んだその手から、心臓の鼓動が早くなっているのをひしひしと感じる。

 呼吸が荒くなっているのが分かる。


「や─────毒───回っ───」

(────1人残らず捕まえろ!特に女子供は逃がすんじゃねぇぞ!)


「───ハァ!───殺そ────ェ!」

(────なら男は殺していいってことだよなぁ!俺待てねぇよ!)


 何かを言われてるはずだけど、重なる記憶が騒ぎ立てるせいで殆ど聞き取れない。


「う······あ······」

「黙────ろ」


 視界の先で、持ち上げられていた子が腹を殴られて力なく崩れ落ちる。


 それさえも、記憶の誰かと重なる。


 記憶の中で、腹を殴った盗賊は、持っていた剣を抜いて─────


 その地の土色に、赤色が混じる。


 咄嗟に手を伸ばしていても、そこには届かない。


 それはあまりにも短すぎていたから。


 ─────助けられない。



 ─────次は





 ─────お前だ



「─────っち、がう」


 頭を振って記憶を吹き飛ばす。

 誰の記憶かなんてどうでもいい。今の僕には、そんなの必要ない。

 あの髪の長い子を助けるために来たんだ、そうだろう?


 ひとつ深呼吸をして、呼吸を整えながら顔を上げる。

 落ち着いたからか、ひとつの考えが頭に浮かぶ。






 そうだ、何も戦う必要なんて無かったんだ。多少強引になってもいい。髪の長い子を助けられたらそれでいいんだから。


 そう考えると、体から力がみなぎってきた。

 毎晩村の隣にある森に入った時よりも力が入っている気がする。


 これならいける、あの子を、助けることが出来る。



 視界の先で、目つきの悪い人が髪の長い子を肩に担ごうとしている。そのまま連れ去ろうとしているみたいだけど······させないからね?


 足を開いて、腰を落とす。

 僕が動いたからか、ムキムキとモヒカンが身構えるけど、狙いはそっちじゃない。背を向けて歩き出した目つきの悪い人、その人に担がれてる髪の長い子が狙いなんだ。


 1歩地を全力で蹴る。

 それだけで距離を詰めていたムキムキとモヒカンの2人の前に移動する。

 さっきまで逃げていた奴が急に突進してきたらどうする?


「こいつっ─────」


 2人共に武器を盾にした。さすがにいきなり速くなった速度に合わせてカウンターなんて出来ないもんね。

 なら丁度いい、ついでにモヒカンの武器を貰おう。



 ルイスとの対戦で何度か武器を奪うことをやったことがある。成功(奪取)したら『勝負は無効だ!』って何度も再戦させられたっけ。


 踏み込んで斜めに移動、その先のモヒカンの手首を狙って手刀を叩き込む。

 ガントレットに毒が塗ってなくてよかったよ。あれだとこういう風に手首を叩けないからね。

 すかさず反対の手で剣の柄を掴んで奪い取る。

 奪い取る時に剣についていた毒が飛沫となってモヒカンの腕にかかっていたが、それはそれで自業自得だろう。


 ムキムキはというと、こちらのことは見ていたけど顔と腹の上にガントレットが置かれていて、こちらには届きそうにない。


 2人の間を進み、背を向けた目つきの悪い人に向かってなお加速する。

 目標まで、目視で25メートルも無い。


 1歩目、ピクッと反応したかのように見える。


 2歩目、こちらへとゆっくり振り返り始める。

 だけど─────



「この毒って、何の毒なんだろうね」


 3歩目、スピードを全力で落として、まだ振り返っている隙に髪を垂らす子とは反対の肩へと奪った剣で突いた。

 村で使っていた剣よりも圧倒的に切れ味が良いせいで、その刀身が曲がっているにも関わらず、その肉を裂いて深く刺さっていく。


「ぐっ、毒?お前─────」


 目つきの悪い人が何か言っているけど、それよりも髪の長い子を助けるのが優先だ。

 僕が剣を刺したせいで、目つきの悪い人の担ぐ力が無くなって髪の長い子が重力に従って落ちてくる。

 落ちてくるのをそのまま見届ける訳にもいかないし、落ちたら絶対痛いから、剣を突き刺したおかげで空いた両手を使い、彼女を受け止める。


 そう、彼女だ。

 担がれる体勢でそのまま落ちてきたから、体の前が地面に向いている訳で。そこに腕を差し出した結果、男では感じ得ることのない感触が腕に伝わったわけで······


 いや、今はそんなこと考えている場合じゃない。髪の長い子は一時的だけど助けられた。なら後は逃げるだけ!


 武器を持ってないモヒカンや片方の肩に剣を突き刺された目つきの悪い人に追撃?

 バカ言え、勝てる確証も無いのに戦えないってーの。

 それに、今の僕には人殺しなんて出来そうにないからね。

 そんな勇気もないし、もし人殺しをしてしまったら······アイツらのように、なりかねない。


 人1人分の重さは丸太を持っているのよりかは軽いから、その重さに狼狽えることなく3人から離れる。

 だけど、生憎僕はこの王都内の地理を知らない。

 だからとりあえず大通りまで自分が歩いてきた道を戻っていく。


 途中、彼女の体をホットケーキをひっくり返すようにして仰向けにする。うつ伏せの状態だと動くには持ちにくいからだ······というのは建前で、動く度に腕に伝わる感触に意識がさかれてしまうからだ。うつ伏せの状態で抱えているから仰向けの状態よりも落ちやすく、そのために落ちないようにしっかりと抱えていたせいでさらに感触が伝わりやすくなってしまっていた。うん、まともに逃げれそうになかったからね、シカタナイネ。


 来た道を戻ると言っても、初めて通った道を逆から間違えずに戻るなんていきなり出来るはずもなく、さっきから左右に分かれる道なんて直感で動いている。

 立ち止まってしまうと、その間にさっきの3人が追いついてくる恐れがあるからだ。

 追ってくる足音や声なんて聞こえてはいないんだけど、逃げ続けるに越したことはない。

 左に曲がって、突き当たりを右、左にゆっくりカーブ、じゃあ次は右!

 んん?坂道あって?階段登って上?いや行くしかない!


「よっ、と」


 階段を2段飛ばしで駆け上がり、階段の上に着く。

 振り返ってみたけど、あの3人と1人は見当たらないし、耳を澄ませても風と鳥の音しか聞こえない。とりあえず逃げれたと考えていいかな?


 振り返った景色は、家々の明かりがついていればさぞ綺麗な景色だったろうけど、それは元の世界のことで、この世界では電灯が無いわけだから暗い家しか見えない。

 遠くの方にチラホラと見える明かりは、宿から出た時に見た街灯の明かりだろう、結構遠い。

 逃げ始める時に別の方向へと走っていたら大通りには戻れていたんだけどなぁ······いや、後悔しても今は変わらない。さっさと大通りの方向に戻ろう。


 戻るとは言っても、このまま戻るとあの3人と鉢合わせするかもしれないし、必ずしも真っ直ぐ道に戻れるなんて思ってもいない。

 ならどうするか?答えは今の立地だ。


「下で分からないなら······上に行くまで」


 今立っている場所は高台と言うべきか周りよりも高くなっており、目の前には家の屋根がある。これを利用せずにどうする?


 さっき壁伝いに登って屋根に乗ったから、人1人の重量で容易く壊れることがないことは分かっている。


 今は2人になっているけど、僕の体重ほど彼女は重くないし、屋根が耐えやすいように外壁の延長上を歩いているから、多分大丈夫だろう。いや、分散させるには屋根の真ん中を渡った方が良いのか······?


 ひとつ怖いのは、屋根が壊れないかどうかだ。

 家を並んで建てたとしても、道は作らないといけないから屋根と屋根との間は空いてしまう。そこを飛んで渡った際に屋根に穴を開けてしまってはヤバイ事になるのは目に見えている。

 でもそれを持ってしても、あの3人と鉢合わせする可能性とを天秤にかけたら3人が下に落ちる。


 高くないかって?高いけど森の中でター○ンごっこやアニメの真似をして木から木へと飛び移る移動方法をしてたらいつの間にか慣れていたから大丈夫だ。

 ほら、2歩程横に逸れたら屋根から落ちてしまうのが分かってても真っ直ぐ歩ける。


 出来るだけ屋根同士が近くなるように道を選んでいく。だからなのか、時間がかかってしまう。

 屋根に立っているから下道よりも周りが見えやすく、遠くの城を目安に大通りへの方向も分かる。屋根に登って正解だった。


「んっ······うぅ」


 大通りまで残り半分過ぎた頃、彼女が腕の中で身じろぐ。

 起きて直ぐに暴れられてしまうと、屋根から落っこちてしまう可能性があるため、屋根の中央へと移動する。

 腕の中で目覚めるのも悪いだろうし、布を魔法の袋から取り出して敷いておく。おっと、頭を置く部分は厚くしなくちゃ。


 ······そういえば何て声をかけようか。

 いや待って?これ彼女からしたら僕が誘拐したことにならない?さっきまで首を持たれて気絶して、起きたら僕が目の前にいるんだよね?僕が犯人みたいなものじゃん······。


 いやいやいや、助けても敵対されたら駄目じゃん。

 起きたら優しく、優しく、決して威圧的な態度にならないように、紳士的に······


「う······あぁ」


 もうすぐ彼女が目覚めそうだ。

 目覚めたら紳士的に、そう紳士的に······紳士······


「っ!」


 彼女は目覚めてこちらを見た瞬間、手を着いて後ずさりし始める。

 でもここは屋根の上でどの方向に動こうにもすぐ屋根から落ちてしまう。

 止めなきゃ─────


「危ないですよ、お嬢様」


 ······何かキャラ入ったあああぁぁぁ!?

 咄嗟に腕を回して落ちるのを防いだけど、内心思っていたのと違う声が出で自分で自分に驚いている。

 ······まぁでも、話せてるならいいや。


「離し─────」


 大声を上げようとした彼女の口を手で塞ぐ。

 あの3人と1人に聞こえてしまったら大変だ。


「屋根の上です、落ち着いてください」


 そう言うと、フガフガとずっと手の中で喋っていた声が収まっていく。左右に首を振られた後に、今度は僕の手をどけようと手を動かし始めた。

 手をどけるとまた大声を出される可能性があるので、どかされないようにさらにしっかりと塞ぎ、後ろから体と腕を使って両肘を固定する。

 期せずして後ろから抱きしめるような形になってしまった。でも拘束が目的だから抱きしめているという感覚はない。


 ······でも彼女の髪か体の匂いが僕の鼻孔をくすぐっていて、変な気が起きそうだ······


 変な気が起こってしまいそうだったから、軽く首を振ってその気を吹き飛ばす。


「そんなに動きますと、首の傷に障りますよ」


 首筋に痛々しく見える手の跡に、思わずそう口に出してしまった。それとキャラが全然抜けてくれない、いやすらすら文章が口から出てるからキャラ無いよりかは良いんだけど、これじゃ執事のロールプレイをしてるみたいだ······


 言葉が効いていたのか、僕がそんなことを考えている間に彼女は先程までに動こうともがいていたが、今はすっかり収まっている。

 でも油断しちゃいけない。隙をみて逃げ出したりしたらいけないから······屋根の上だけど。


「私はお嬢様を助けに参りました。私はあなたを容易く拘束出来るうえ、その気になれば傷を作ることも容易く出来ます。それとここは屋根の上でございます、魔がささないよう······」


 自分で言っておいてなんだけど、これ普通に脅してるよね?『いつでも殺せるよ』みたいな感じのこと言ってどうするよ!

 これじゃあどっちが誘拐したみたいになってるんだ······


 僕の脅迫?を聞いた彼女は首を縦に小さく振った。腕に入っていた力もすっかり無くなっている。

 これなら大丈夫だと思い、彼女の口を塞いでいた方の手をゆっくりと外していく、だけど腕の拘束は念の為外さない。


「······何が目的よ」

「貴女、お嬢様を家まで送り届ける事です」


 彼女の質問に間髪入れずに答える。


「何が欲しいの?」

「欲しいものはありません」


 次の質問も


「私が誰だか分かる?」

「いえ、存じ上げません」


 その次の質問も、間髪を入れないように全部直感で答える。


「そう、誰に言われたの?」

「誰にも言われていません。自分の意思でしたことです······ところで、腕のほうは痛くありませんか?」


 敬語がおかしくなってきたたところで、話を変える。腕を内側から押し広げんとばかりに力が入っていたのに今は入っていなかったから、折ったんじゃないかと不安になる。


「痛くないわよ。もう逃げないから離してくれないかしら」


 少し怒気をはらんだような声で言われて、つい腕の力を緩めてしまう。


「······案外あっさり離すのね」

「お嬢様の身が第1であります故」

「······そう」


 フードの下からだとその下半身と少しの髪しか見えないが、今おそらく彼女は僕のことをじっとみているはずだ。

 ······すっごく話しづらい、もっとコミュ力を身につけていればよかったとつくづく思うよ。もういっそ無言で大通りまで連れて行ってやろうか······いやそれだと拉致みたいじゃん、駄目じゃん。


「私はこのままあちらの大通りまで行きますが、お嬢様はどちらに行かれますか?」







「······はぁ、城の右側よ」

「承知致しました」


 返事が来るまで間がかなりあったし、ため息つきで返された気もするけど、目的地を教えてくれたならいいか。


「それで?そこまでどうやって行くのかしら?」

「こう致します」

「きゃっ」


 ここまで持ってきたように彼女を抱える。

 立った状態からそのまま担ぎあげるのも難しそうだったので、少し手荒だけど肩を押して後ろに倒れさせて担ぎあげる。


「もっと優しくしてくれないかしら」

「すみませんお嬢様、生憎とこういったことに慣れておりません」

「ふぅん······」


 担ぎあげて顔がすぐそこにあるからなのか、じっと見られているような感覚をひしひしと感じる。

 そんな視線にずっと耐えれるほど僕のメンタルは強くないので、さっさと城の方に行こう。






「ひっ」





「あゃ」





「うぅ······」





 何とか下に降りることなく城の右側へとたどり着いた。

 途中から彼女の変な悲鳴も無くなっていったし、段々と姿勢も丸くなっていって、今となっては僕の顔を見ようとしている視線も感じない。


「到着しましたよ、お嬢様」

「······おろしなさい」


 言われた通りに、その場で降ろす。


「どうして屋根の上で降ろすのよ!降りられないじゃない!」


 怒られた。


「失念しておりました、申し訳ありません」

「······早く下に連れなさいよ」


 彼女をもう一度抱えて階下の道へ降りる。物を持った状態で飛んだことは何回かあるから、彼女と一緒に地面に崩れ落ちるなんてことはしない。


 彼女を地面に降ろすと、キョロキョロと周りを見ているのか、その場で足先が回っている。

 城ではない方向に数秒向けた後に、横の路地へと歩いていった。

 僕はどうすればいいのかな?このままついて行っても彼女の力になれるかといえばそうでもないし、彼女を家に届けたらそれでいいって思ってたから、今すごく達成感がある。


「こっちに来なさい!」


 短く呼ばれて、彼女が入っていった路地へとついて行く。

 念の為、角がある度に警戒しながらついて行く、これが案外しんどいものだ。

 僕が警戒しているとはつゆ知らず、彼女は道を知っているかのように路地をどんどん進んでいく。······いや、知っていないとこんな路地には入らないか。


「ここでいいわ」


 ふと彼女が丁の字になっている道の手前で、こっちを向いて立ち止まる。


「まずは貴方に感謝を。お陰で私は今ここにいます」

「滅相もありません」


 今更だけど、彼女が誰なのか全然知らないや、あのムキムキはガキとしか言ってなかったから全然分からない。

 ただ1つ分かるのが、彼女が中々高い地位に居るんじゃないかってこと。それは今スカートの裾のような場所を持って腰を落とした所作から伺える。


「では、私はこれで」

「待ちなさい」


 逃げようと足に力を入れたところで、彼女に呼び止められる。不思議なことに、逃げる気力が一瞬だけなくなってしまった。


「······なんでしょうか?」

「貴方の名前を聞いていなかったわ」


 『名前を聞くなら、まず自分から』と言葉が浮かんだけど、今ここで彼女に言うのは何か違うと直感で思う。

 名前かぁ······こういう時って実名言ったら面倒くさいことになりそうだ。


 じゃあ─────


「私は貴方の盾であり剣です。ですがもう、振るわれることは無いでしょう」

「待っ─────」


 頭に思い浮かんだことをそのまま言葉に並べて、彼女の顔色を伺わずに言い終わった僕は屋根の上へと跳び、泊まっていた宿へと駆け出した。


 屋根を軽く駆けながら先程の文章を思い出す。

 うん、何言ってるんだろうな、僕は。というか盾と剣って!何強そうに言ってるんだ!『もう振るわれることは無い』だって?僕自身あんなキャラ2度としたくないよ!恥ずかしくて爆発する!


 大通りに近い位置にあった安眠亭は、大通りに沿って駆けていたら案外あっさりと見つけた。部屋から出た時に周辺を歩いていて良かったよ。


 今はまだ、朝日が顔を出していないし、空が白ずみ始めてもいないけど一晩中筋トレしていた位疲れている。なんだろう、力が入りにくい感じかな?まぁ初めましての人と中々に喋っていたからね、精神的に疲れてるんだと思う。


 ルイスを起こさないようにしてゆっくりと部屋に入り、来ていたローブと、1部濡れている服を着替えてベッドの中に入る。

 数分もしないうちに、僕の意識はまどろみの中に落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ