20 王都探索?(前)
元気ですかあああぁぁぁぁ!
私は元気じゃないですうううぅぅ!
ヴォル:「おいこら」
「······」
目が、覚めてしまった。もう一度寝るとするならかなり時間がかかりそうな程に。
いつもならここまで目が覚めることは無い。じゃあ何故?って考えるほどでもない。
王都に行くのが楽しみだったからだ。冒険者生活が待っていると考えると、居てもたってもいられなかったのだ。学園生活も面白そうだとは考えていたんだけどね······
この暗い中、寝ている人の横で1人で何かをすることも何も無く、とりあえず部屋から出ることにした。
目を瞑り、耳を澄ますと遠くの方から喧騒が聞こえてくる。ここは森じゃないから、虫や鳥の音が聞こえないのは当たり前か。
集中して聞いてみると、酔っ払ったように発音する声が一際大きく聞こえる。何を言っているのかまでは分からないけどね。
外の景色でも眺めようかと窓を探すが、生憎と窓の外いっぱいに隣の建物が見えるだけだった。
屋内で出来ることがもう終わってしまった······ちょっと危険だと思うけどけど、外に出てみようかな?
部屋から持ってきた魔法の袋から深いフードのついたローブを被り、外に出る。
フード付きの服はこれ1着しかなく、雨の時にどうしても外に出る時くらいでしか着ることはなかったけど、なんだか着ていて安心する。
顔を隠しているからかな?
ローブといっても下は膝ほどまでしかないもので、走る時に邪魔にならないから、こんなのが店で売ってたら買おうかな。魔法の袋を父さんから貰った時に中に幾らかお金が入っていたから、それを軍資金にして買っておこう。
「それにしても暗いな······」
明かりはある事はあるのだが、道幅が大きい道にしか街灯として設置されておらず、今歩いているような路地裏、大通りから1つ道を外れると一気に暗くなる。
それに、ネットゲーム等で夜も起きる必要のない異世界だから、部屋からの明かりが目に入ることは無い。
現に外に出てから街灯以外の人工の明かりは見ていない。
かと言って道が見えないわけじゃない。今日は月が出ているから道のほとんどが見えているし、偶に月が雲に隠されるけど、スマホで言う光量を1段階落としただけの変化程しか感じない。
「本当に広いな、王都って······」
数回道に迷いそうになりながら、その度に来た道を少し戻ってまた先に進む。
あれ?ここってさっき来てない?······いや、同じ形の建物か、これ。路地ごとによく似た建物があるのは分かり辛いなぁ······
「──────」
「ん?」
不意に何か物音がどこからか聞こえてきて、足を止める。
こんな時間だし、周りには建物があるから、部屋の音かと思ったんだけど、それとは何かが違う、そんな気がする。
念の為、足音や布擦れの音を極力出さないようにしながら慎重に進む。
「────ゃ、ぃゃ」
物音に混じって声も聞こえてくる。森の中でモンスターを探していた時のように周囲の気配を探ってみるが、危険な感じは殆ど無く、弱々しい感じしかしない。
音の発生源はまだ少し遠そうだ。
「──ぃゃ、ぃゃ、ぃゃ」
2つ隣の路地まで行くと音が遠くなってしまったので、ひとつ戻って通路に入っていく。
声はさっきよりも聞こえやすくなり、籠ったような声に聞こえる。
だけど、路地に人は見当たらないし、中に入れるスペースのあるものなんて見当たらない。
勘違いで家の中の音が聞こえてましたー、なんてこともありそうだけど、そうだとは思えない。
「────たぃょ」
今度はさっきと違う声が聞こえる。
っと、また通り過ぎた?
でもここは家と家の隙間くらいしか────そういうこと?
路地に誰もいないことを確認して目の前の僕の肩幅より少し大きいその隙間に注意を向ける。
入ってすぐのところに木箱が重ねて置いてあり、その辺りが怪しく感じる。
さて、そうならば箱の中か裏側かどっちなんだろう。
箱自体は僕の身長の半分より少し高いくらいだけど、積み上がっているせいで僕の身長より高くなっている。それに綺麗に積まれているので、手や足を乗せれる所が無い。
「ぐすっ、ずっ」
すすり泣く声が前から聞こえる。確実に音の主はここにいる。
どうにかして助けたい。正義とかそんなものじゃなくてただの自己満足なだけなんだけどね。
泣いている人を放っておいて立ち去るのはできない性分なんだ。
「箱の裏には居ない、と」
という訳で、今屋根の上から裏側を確認した。
方法は至って簡単、軽い体を使って家の壁を手と足でゆっくり登っただけ。隙間が狭いこともあってか、そこまで疲れはしない。
裸足で登ったから音は出ていない······はず。
箱の裏に居ないとなると、残るは箱の中だけだ。
どうしよう······できるだけ怖がらせないように······うーん
ゆっくりと箱に当たらないように屋根から地に降りて、木箱を視界に入れながら腕を組んで考えても何も思いつかない。
ただ時間が過ぎるのを感じ、響く足音を聞き────足音!?
まずいまずい!何がどうまずいか表現出来ないけどまずいって!
隠れないと······って木箱の方はダメだ。
なら他は······家の間は
「ようガキィ」
遅かった······
声のした方を向くと足が6本。
流石にフードを被っていると腰あたりから上が見えなくなってしまうので、おでこの辺りまであげておく。
視界が開けたことで見えてくる、目つきの悪い顔の人や、服を押し広げる程筋肉を持つ人、モヒカンに似た奇抜な髪型の人。
それと、月明かりをギラリと反射される刃物────4つ。
「お前じゃねぇな······ここらでお前みてぇな背のガキを知らねぇか?」
「いえ······見ていないですね」
目の前の3人のうち、1歩分前にいるムキムキな人の質問に間髪入れずに即答はせず、少し考えるふりをして相手の動きを見る。
木箱にいる人が僕と同じ背丈とは限らないし、もし僕と同じ背丈であっても教えるような真似はしない。
どう見ても子供を誘拐しに来たようににしか見えない人達は僕の返答に頷き、それぞれの武器を取り出す。
「知らないとなると見られた以上生かしちゃおかねぇんだよなぁ」
いやそれ知っていたとしても情報言ったら殺されるんじゃないの?
と心の中で疑問を浮かべながら、目の前の人達の武器を見る。
ムキムキの人が刃が大きな両刃斧を、モヒカンに似て非なる髪型をした人が弧に曲がった刃の剣を、目つきの悪い人が2振りの小剣を持っている。
生憎と今は武器を装備していない。
魔法の袋から出すことはできるんだけど、そんな隙があるかな?
だからって武器縛りでこれに勝てと?無茶言ってくれるよ、これで1人1人が父さんくらいの実力があったらすぐにお陀仏になるのが容易に想像ができる。
だけど、男たちは武器を取り出したまま動こうとはしない。あまつさえムキムキの人は少しニヤニヤしている。
なんでニヤニヤしているんだろう?
僕が武器を持ってない貧弱なガキに見えるから?それとも、足音を殺して近づいて来ている4人目に気づいていないと思ってるからかな?
「死ねぇ!」
その声が聞こえる前に、振り返りながら横に動いていた。
後ろからの剣の刺突が、先程までいた場所を通り過ぎる。
せっかくほぼ足音を立てずに動いてるのに、声を出したらダメじゃん。
まぁ声に出していてもいなくても、このタイミングで動いていたんだけどね。
刺突してきた人の顔は見えないが、その体は驚愕のせいか剣を突き出したままで固まっている。
────僥倖!
「なっ、こいつがっ」
振り向いた先、踏み込む足でその人に肉薄して伸びている腕の関節を狙って殴る。
力が抜けて剣が落ちていくが今は拾わない、先にこいつを無力化してからだ。
腕を引っ張りながらさらに肉薄する、姿勢が剣を突き出したまま変わってないから簡単に前にバランスが崩れる。
こんな簡単に崩れるなんて、こんなのルイスの方がずっと強いぞ?
目の前まで来た人の無防備な顔面に合わせて拳がめり込む。
自分から後ろに飛んだ?とも思えるような軌道を描いて、奇襲をかけてきた人が仰向けのまま吹き飛ぶ。
頭から地面へと落ちていくのを視界端に入れながら、倒れ始めていた剣に手を伸ばす。
意外と重い。
フードが外れ、殴り飛ばした人は鼻血を出して動かなくなっている。
多分鼻やっちゃったかな?殴った時に何かこう『バキッ』って折れる感じがしたしね。
今こうしてノびた人を見ているけど、その間も迎撃してる間も、僕の前に出ていた3人は近づいて来なかった。
それほどまでに今の人がこれまで奇襲で確実に殺してきたからなのかな?
「ガッツ!──てめぇ!」
怒りをはらんだ声に振り返ると、ムキムキの人が両刃斧を振り上げた状態で近づいて来ていた。
速い、重そうな両刃斧を持ってるにも関わらず、多分さっき奇襲してきた人よりも移動が早い。
けど、その手に持っているのが両刃斧のせいで、振るのが遅くなっている。
流石にあの重そうな両刃斧を剣で受けるわけにもいかないので、横に足を踏み込む。
「避けんじゃねぇ!」
いや避けるでしょ。そんなの当たったら大怪我じゃすまないよ?スパッと逝っちゃうよ?
振り下ろされた両刃斧は少しだけ僕の軌道に付いてきていたけど、縦振りのため横に逃げるだけで当たらなくなり、硬いもの同士がぶつかり合う音が聞こえる。
隙が出来たので、まだ両刃斧を持つその手を────おっと。
「────しっ」
空気を吐くような声に合わせて、ブレーキをかけた僕の前を小さな刃が通過する。あのまま動いていたら片腕をもっていかれそうな軌道だった。
流石に易々と反撃させてくれないか。
ひとつ後ろに跳んで距離をとる。大きく後ろに跳んだから。さっき殴り飛ばした人の元へと着地した。
ふとこの人を盾にして戦おうかと思ったけど、すぐさま敏捷性が落ちてタコ殴り(E:刃物)にされる光景を思い浮かべ、持ち上げるのをやめた。
「ただのガキじゃ無ぇみたいだな」
「出来れば戦いたくはないんですけど······」
「どの面下げて言ってやがるっ!」
分かってはいたけど僕の願いは届かず、代わりにと届けられたのは鋭い刃。
ムキムキがブーメランのよいに投げてくる両刃斧を、通路の壁に張り付くようにして避ける。
自分の武器を投げていいのかな?いや、投げてもいいということは他の─────
「キエエエェェェッ!」
思考は上から降ってくる声にかき消される。
見上げれば曲がった剣を振りかぶったモヒカンが─────
「くっ」
咄嗟に掴んでいた剣で振り下ろされる剣筋を防ぐ。だけど弧の形の刃のせいで、一瞬防ぐだけであっちの刃が逃げていく。
「ハッハァッ!」
振り下ろされた剣が地面に着く前に、切り返して僕の胴へと迫る。
剣筋を防ぐときに踏ん張った足を使ってさらに後ろへと跳ぶ。
その際に違和感を感じた。
(あの剣······何か違う?)
形が特殊?いや、そうじゃない。
あの特徴的な形は思い出した。西洋の方で人を斬りやすいとされていた剣。でも名前までは思い出せない。
追撃とばかりにこちらに走るモヒカンの剣をよく見る。
モヒカンが剣をひいて、その先から何か小さな物が落ちる。
ふとある考えが思い浮かぶ。もしそれが当たっているなら、少しでも皮膚を切られたら終わりだ。避けるなら大きく避けないといけない。
モヒカンが近づいてきて、射程外の所から剣を横薙ぎに振るう。
それに合わせて後ろに飛び、予想通り何かが扇状に飛んでくる。大きく避けた為、それらには当たっていない。
「チッ」
舌打ちひとつ、悔しそうな顔を見せるモヒカンに対し、予想が的中したことで嬉しくなり、僕は口角が少し上がってしまう。
あの剣には毒が塗られている。おそらく致死性のものだ。毒じゃなくとも、肉を斬られたならば死へと繋がってしまう。
あれには絶対当たってはいけない。
「おらぁ!」
モヒカンが横に動いた瞬間、そこから金属の腕が飛んでくる。
モヒカンの後ろへとムキムキが近づいていたから、何かしてくると分かっていたので、横に避けれる。
なるほど、さっき斧を投げたのはこれ······ガントレット?だったか他の武器があったからか。
「ちょこまか、と!」
右、左、足と振るわれる攻撃に、出来るだけギリギリに、バランスを崩さないように避ける。
ムキムキが振り切った隙に近づくが、モヒカンによって振られる刃、その飛沫によって立ち止まらざるをえない。
くそっ、相手がムキムキの隙を埋めるように動いているせいで、反撃しようにもできない。
どうしたらいいんだ······