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19 7年ぶりの王都はどんな感じ?

再開っと·····(主人公の設定さえも忘れていたのは内緒)

 いざ、王都へ!


 ⋯⋯とは言ったものの


「ファイア」


 王都に行くまでに半日以上かかってしまうから、その間に色々と起こるわけで⋯⋯

 目の前にあるのは()()()()ゴブリンだった物、もちろんベリアの魔法で中まででしっかり焦がされている。

 炭のような色のそれは、風に吹かれて近くの草木へと舞っていく。


 ちなみにだけど、近くの草木はほとんど燃えていない。魔法って、スゲー


 さてそんなトラブルも少しあったけど、前回来た時と同じく、夕方日が沈む頃になって王都が見えてきた。


 でも前回と違うところがある。

 見える城壁の面積が少ないのだ。あの白くそびえ立っていた城壁が、半分より下が黒や茶色に変色している。

 錆⋯⋯いや、木造(あんな)建築しているわけだし、城壁が金属製っていうのは有り得ないかな。






 馬車が近づいていく。


「あぁ、溢れたのね」


 近づいてやっと分かった、これ家だ。

 多分城壁の中に家を作るスペースが無くて、安全を犠牲にしてまで王都に住みたかった結果こうなったのだろう。

 それが遠くからだと陽の光やなんやらで黒く茶色く見えたってわけか。


 家々が連なり、小さな商店街のようになっているところをゆっくりと抜けたところで馬車が停止した。


 城門をくぐる前にステータスプレートを出してと言われた時は心臓が跳ねたのがわかったけど、水晶みたいなものに翳して犯罪者かどうかを確認するためだけだったから、ステータスを開示しなくても大丈夫だった。


 どういう原理でステータスを開示せずに犯罪を確認するのか未だにわかっていないのだけど、そこは神様たちがあれこれして作ったシステムと思っておこう。






 そんな杞憂もあったけど、王都の中に入ることが出来た。


「やっぱ人多いなー」

「そうだね、7年前と変わらないね」


 中は人が多く、建ち並ぶ建物の高さも外よりも高い。

 人混みの流れに合わせて、馬車が進んでいく。


 12歳になるまでに色々見てきたからだろうか、街道をつくる数多くの店に自然と視線がいく。

 武器屋、防具屋、道具屋に服屋、軒先にまで謎の商品を置く八百屋·····あれ野菜だよね?イソギンチャクを大きくしたような緑の物体が、軒先で触手のようなものをうねうねとさせている。

 馬車は動いているためそれ以上見ることは出来なかったけど、覚えていたら後でまた来よう、凄く気になる。


 他にも大通りに連なる店を見続けていると、進んでいた馬車が止まった。乗せてくれた御者さんに礼を言って、馬車から降りる。御者さんは商人で、ここから近いところにある大きな店に商品を入れに行くとのこと、流石にそこまでついて行くことは出来ない。


「みんな何食べたい?」

「肉がいい」

「さっぱりしたものがいいかな」


 あちこち歩きながら順にベリア、ルイス、僕だ。さっきもこの質問してきたような気がする。御者さんとは今日泊まる宿のこととか、晩ご飯を食べるならどこがいいかと聞く前に別れてしまったので、自分たちで探さないといけない。

 そしてここは王都、東西南北どこの道を通ってもすぐに宿屋や食事処がある。


 つまりは、だ。宿や店が多すぎて決められないのだ。だからといってよく知らない土地で色々なところを動き回るとトラブルの臭いがする。まぁ現在進行形でそうなっている訳だが·····


(近くに食事ができる宿屋があればいいんだけどなぁ·····)

「はい、ヴォル」

「ん?」


 遠くの建物まで見渡しながら考えていると、視界の殆どを串団子で埋め尽くされる。

 ん?串団子?

 串団子を持っている手を見れば、ベリアが渡しに来てくれたようだ。その後ろには団子を売っている屋台が見える。


「ありがとう」


 貰った串団子を食べてみると、ほんのりとした甘さが口に広がる。もちもちとした食感はなく、代わって水っぽさを感じる、白玉に少し寄った団子って感じかな?

 みたらし団子や三色団子のような味はついていないのだけれどこのほんのりとした甘さが僕は好きだ。

 ルイスは少し首を傾げながら食べていた。肉料理の味付けからすると味は薄く感じるだろうし、この食感も村にいた時は無かったから不思議な感じなんだろう。


「あっちの方にいい宿屋があるみたいだから行こっ!」


 ·····いつの間に聞いたのだろうか。

 あ、なるほど、団子を買う時にあのおっちゃんに聞いたのか。流石ベリアだ、僕じゃ聞くに聞けないや。






 ベリアに着いて行った先の宿は、3階建てのレンガ造りの建物で、木でできた看板には『安眠亭』と書いてある。


「らっしゃい!3人なら奥の席が空いてんぞ!」


 中はレストランのようにテーブルがいくつか置いてあり、そのテーブルとカウンターの所に椅子が置いてある。

 食事はすることはするのだが、泊まる部屋がとれるかどうか確認したいので、おそらく宿主だろう、声のした人にその事を────


「お?この服を見るのは初めてか?良いだろ!?最近売られ始めてるんだが、これ着てれば服が汚れなくて良いんだな!」


 いや、うん。

 それは分かるんだけど·····


(圧倒的に似合ってない·····)


 声の主は髭を蓄え、落ち着いた声のする、がたいのいいダンディーなおじさんだった────ピンクのエプロンを着けた状態で。しかもそのエプロンは端がフリルになっており、どう考えても女性用のものだ。胸に当たる部分がハート型になっていない分まだマシ·····なのかな?

 そんなエプロンをつけててもダンディーさを感じるのはこれ如何に·····


「似合ってない」

「ルイス!」

「はっは!嫁にも言われたな!」


 ルイスの呟きも豪快に笑い飛ばすおじさん、やっぱりダンディーだ。


「あの、ここは泊まれるって聞いたんですけど」

「宿か?部屋ならあと4部屋余ってるぞ」

「じゃあ2部屋を4泊お願いします」


 ベリアが部屋をとってくれた。ちなみに4泊なのは明日ベリア達の入学試験があって、その2日後に発表、その次の日に寮に入れるようになるらしく、それで4泊なのだ。入学試験に合格したら、っていうのが絶対なんだけどね·····けど、親たちからはベリアはお墨付きをもらっており、そしてそのベリアに勉強を教えてもらっているルイスも、試験は大丈夫なんだろう。

 実技の方はって?心配するだけ無駄だね。ベリアもルイスも親と肩を並べれるほど強いから。


 ベリアが『これでいい』と言わんばかりにこっちを向いているので、頷いておく。

 僕はと言うと、冒険者として登録したらそれで終わりなので、1泊分もあれば十分だ。

 試験もない·····のかな?父さんは冒険者になるのになにか受けなくちゃいけないものがあるとか、必要なものがあるとかは言っていなかったし、多分大丈夫だろう。






「美味かったなー」

「んー、あの味を出すなら·····」


 そのままその宿で食事を摂って、今は部屋に入っている。

 ベリアが呟く通りに、さっき食べた料理の味を出すならどうしたらいいか僕も考えている。


 さっき出てきた料理はオムライスだ。しかも卵が半熟の状態で、少しパラパラした米にとろりとした卵が絡まってスプーンが止まらなかった。米はチキンライスでもなくケチャップすら使っていないようだったけど、美味しかった。

 目の前でおじさんが作ってくれているのを見ていたわけなんだけど、同じ男性としてダンディーさと料理の2つで既に負けている·····頑張らなきゃ。

 それにしてもあの米の味付けはなんだったんだろう?ケチャップじゃないのはもちろん、ニンニクみたいなインパクトのある味じゃない。

 うーん、異世界となると食材からして違うから同じ料理の名前でも全然材料が分からないや。


「それで、勉強するんじゃなかったっけ?」


 僕の言葉に2人はハッとしたように鞄から自作の本を取り出す。2人が勉強を始めたのを見て、僕は湯浴みしに外に出ることにした。

 この世界で日常で風呂に入る人は極小数だ。貴族だけが、という訳でもなく、風呂好きのお金持ちだけが入る一種の娯楽のような意味で広まっている。それ以外の人は自然の水や井戸水で体を洗ったり、濡らした布で体を擦るようだ。

 この宿には井戸があるから、その水を使って布を濡らして体を拭いていく。日本人としては風呂に入りたいんだけどね·····浴槽だけ作ってあとはベリアに頼んでみようかな?


 濡れた布や着ていた服を魔法の袋に入れて、新しい服を取り出す。こういう時魔法の袋は便利だ。濡れたものでもなんでも入れられるし、濡れたものが入っても中にあるものは一切濡れることがなく、もちろん袋自体濡れることもない。うん、ファンタジーって、凄い。


 部屋に戻っても、まだ2人は勉強中だった。湯浴みを交代しながら、ルイスの勉強が分からない所を教えたり、自作ノートを見せてもらってベリアに問題形式にして出題したりしながら時間は過ぎていく。

 もう窓の外は暗くなっているのだが、ベリアの魔法で部屋の中は明るくなっている。


「明日試験だし、早く寝た方がいいんじゃない?」

「そうね」

「やっと勉強終われる·····」


 ルイス、試験に受かったら勉強必須だぞ、そこは分かってる?


 ベリアがふとため息をつくと、部屋を明るくしていた光が消えて、代わりに窓から外の明かりが部屋に入ってくる。


「いきなり消すなよ!」

「ルイス、静かに」


 今は夜、隣の部屋に声が漏れて起こしたりしていたらまずい。


「ごめんごめん、こんなに真っ暗になるとは思っていなかったから」


 さっきよりも弱々しく、蝋燭のような光が宙に浮かぶ。それでも、足元を照らすのには十分だ。


「扉は·····こっちね、じゃあ2人ともおやすみ」

「おやすみ」

「おやすみ、ベリア」


 ベリアが出ていく時に、『5分くらいしたら消えるからね』と同じ光を部屋の中央に残していった。

 残った光で道具を片付けて、ベットに入る。


「明日試験頑張って」

「おう」


 明日朝から別れて、それぞれの道を歩む。明日から僕の冒険者生活が始まるんだ。











「··········」


 目が覚めるとまだ外は暗く、近くから寝息が聞こえる。


「·····夜起きる体質だってことすっかり忘れてたっ·····!」

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