表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/34

15 帰り際に

設定や容姿、挙句の果てに名前まで忘れるって⋯⋯どれだけ忘れんぼ⋯⋯

『ヒヒーン!』


 昼を過ぎ、道はあと半分といったところで、馬が突然数頭嘶いた。


「何?」

「ねぇ止まったの?」

「どうしたんだよ御者!」


 客の中には御者に罵声を浴びせる人もいる。それもそうだ、行きの時は休憩や人を乗せる以外止まらなかったからね。

 それに今は速度を落として停車したんじゃなくて、急停止している。馬の嘶き付きで。


 明らかに何かがおかしい。

 目の前の父さんは朝よりも窓に顔を近づけて、更に険しい顔をしている。


「父さん?」

「なんだ?」


 呼ばれた父さんはそのままの顔で振り向いてくる。

 こんなに怖い顔をした父さんは見たことない。


「これって───」

「チッ、面倒臭ぇ奴が居やがる」


 父さんは舌打ち1つして、席を立つ。

 さっきから父さんの考えてる事がわからない。ベリアもルイスも同じくわからない。


「父さん?」

「お前ら」


 立った父さんはルイスを持ち上げて、こちらの椅子に座らせた。さすがに子供でも3人が1脚に座るのはきつい。


「そっから動くんじゃねぇぞ」


 僕に指を突きつけて、腰につけた鞄の中から布袋だけ取り出して馬車の外へと向かう。


 僕たちは言われた通り座ったまま、窓の外を見るしかなかった。






「いけ!そこだ!」

「「「おぉー」」」


 客室の後ろの席が騒がしくなった。

 僕たちが座っている席は進行方向を向いているので、席を立たないと後ろが見えない。


「見えないなぁ」


 ルイスのようにイスの上に立っても人の壁があるから見えない。

 大人しく座っているのが1番だ。


 予想だけど、多分戦っているのだろう。

 ここからじゃ何も聞こえないけど、父さんは険しい顔で出ていったし、ほかの客の声援?の言葉から戦っていることは予想できる。


 でも見たい、この世界じゃ冒険者という職業が存在している。

 だからモンスター等と戦うことが必要になってくるのだ。後学のためにもどうやって戦っているのか見てみたい。


「あ!ちょっとルイス!」

「いーだろ見たって!」


 ついにルイスが席を立って、後方の人混みへとまざっていった。

 捕まえようとルイスを追っていったベリアも人混みへとまざっていく。

 まぁ人の壁があるし、見えなくてすぐ戻ってくるだろう。


 予想とは裏腹に、その小さな体躯を活かして、足の隙間からグイグイと前に進んでいく。

 そして戻ってこなくなった。


 僕も見に行きたいんだけど、2人のように人を押しのけてまで見に行きたいとは思っていない。

 ルイスはベリアが見ているから大丈夫だし、僕は大人しくいすに座っておこう。


 横の窓から顔を出せば見えないことは無いけど、外開きの両開き扉なので開けた扉が邪魔になってよく見えなさそうだしね。

 ⋯⋯やってみるか


 扉を片方開けて、体を乗り出して後方を見る。

 だけど体長が足りない、せめてあと10センチあればいけそうなのに⋯⋯

 これ以上体を出して馬車から落ちるのは危ないので、いすに体を戻す。


「ギッギッ」


 その時に、枯れた声が耳に入った。


 この鳴き声は夜、村でよく聞いた。

 音がした方に目を向けると、緑色の物体が複数ゆっくりと馬の方に近づいていた。


 間違いない、ゴブリンだ。

 ほふく前進で馬へと近づき、その手に持った武器で馬を獲物にしようとしてるみたいだ。

 ということは今後ろで戦っているのは陽動隊ってこと?


 と、ここまでずっと見ているだけだったけど、馬を殺されては帰るのが遅くなってしまう。

 僕が倒すとおかしいと思われそうだし、父さんたちに倒してもらおう。


 でもどうやって?

 父さんたちは後方にいるはずだ、いくら草原でゴブリンの姿が見えやすいとはいえ、緑色に加えほふく前進しているのだ。見えなさすぎる。


 今気づいているのは僕だけ、御者さんは血が滾るのか、馬を放って後方で戦いを見ている。

 幸いなことに、僕を見張る人もおらず、勝手に行動していてもいい歳だし、いっちょ囮役やってみるか。


 頭の中で行動予定を組み立てて、窓から外に出る。自分の身長分の高さを両手を地面につけるようにして着地し、落下の衝撃を抑える。


 馬車の前側から大きく回るように動いていく。

 これでゴブリンの後ろを取れるはずだ⋯⋯


「ギャギャッ」

「ギーッ!」


 そうだよね、片側からだけで獲物を仕留めようとしないよね⋯⋯


 回り込もうとした反対側にゴブリンが2体いた、こちらもほふく前進で進んでいたのか、体の前面に草や土がついている。


 現在、馬車を背にしてゴブリン3体(うち1体は気づいていない)と対峙している。

 僕は武器も何も持ってはいない。対してゴブリンは石の斧や剣のような形をした武器、更に1体は鉄で作られてそうな剣を持っている。


 武器を奪えればなんとか戦えそう⋯⋯いやいや、何を言っているんだ僕は、囮役をするって言ったじゃないか。


 頭数で負けているので、気づかれていないゴブリンから先に⋯⋯


「ギーッギーッ!」

「ギギッ!」


 剣を持ったゴブリンが大きな声を出して知らせた。

 そのせいで僕に気づいたゴブリンがこちらに武器を向ける。

 いらないことしなくていいってのに⋯⋯


 気づかれたことで、僕はゴブリンに挟まれるように回り込まれてしまう。

 このまま挟まれてリンチされて殺されるのは嫌なので、ゆっくりと馬車よりも前に進んでいく。

 ゴブリンは僕が馬車から離れても、僕に武器を向けながらずっと僕の方を見ている。


 ほう?それなら⋯⋯


 そのまま大きく馬車を中心にして円を描くように少し速度を上げて進む。


 ゴブリンはまだ手を出さない。ずっと武器を向けるだけで、馬の方は見ていない。


 これはこれは⋯⋯


 一瞬周囲に顔を向け、他にゴブリンが居ないか確認をする。大丈夫、目の前の3体以外居ない。

 じゃあ、囮役やってみますか。


「こっちだ緑野郎共!」


 念の為挑発して馬車の後方に向かって走り出す。


『ギーッ!!』


 挑発が効いたのか、武器を振り上げたまま僕についてくる。

 よしよしその調子。


 ゴブリンが追いつける速度を意識しながら、付かず離れずの距離を保って馬車の側面まで走る。

 こうしてるとゲームでモンスタートレインしていたのを思い出す。あの時は味方が回復するまでモンスターと鬼ごっこ(捕まったら終了(デスポーン))してたっけ。


「ギッ!」

「危なっ!」


 石の斧?を持ったゴブリンがそれを僕に投擲してくる。

 危なかった、後ろを見る余裕がなければ即死だったぞ。


 ゴブリンに投げられた斧を拾いながら、真っ赤な服装の人目掛けてなお走る。

 斧は重いけど、持って速度が落ちるようなことは無い。鍛え方が違うのだよ鍛え方が。


「助けてーっ!」

「ヴォル!?」


 この際衆目なんて気にしない!

 後ろのゴブリンがちゃんとついてきていることを確認した僕は大声を出して冒険者に教える。

 ベリアの声が聞こえたけど今は気にしない。


 他の歓声もあったのだが、子供特有の聞こえやすい音の高さが功を奏したのか、1番近くにいた杖を持った女性がこっちを向いた。


「っ、ファイアボール!」


 異世界で初めて見たその魔法は、バーベキューの火を無理矢理球状にしたようなものだった。

 その球は僕の横を通り過ぎ、後ろでゴブリンの断末魔が響いた。


「うわっ!ぷ」


 後ろで音がしたと同時に、体が軽く前に押される。

 いきなりのことで足が追いつかず、前に傾いた体を支えれず顔面から地面にダイブした。


「大丈夫?怪我は⋯⋯無さそうね」


 女性が僕の体を起こしてくれる。

 体に傷が無いことを確認したら、掴んでいる両肩に痛みが走る。


「何してるの!危ないじゃないの!私がいないと死んでいたのよ!」


 別に貴女が居なくても死にはしないですよ、とは言えない。

 今の僕は5歳だ。地球の常識とは違う異世界でも、この歳でモンスターを倒すのは有り得ないはずだ。


「⋯⋯ごめんなさい」

「さ、早く馬車に戻って────」

「ヴォル!」


 後ろから聞こえた声に振り向くと、こちらにベリアが一直線に走ってきていた。


「怪我は?違和感のあるところとかない?」

「だ、大丈夫だって」


 僕に聞きながら、足や太腿、頬にぺたぺたと触れていく。

 その間に小声で「痙攣は⋯⋯」「筋疲労は⋯⋯」と喋っていたけど、全部は聞き取れなかった。

 前世は看護師とかなのかな?


「君も!早く馬車に戻りなさい!」

「「はいぃ!」」


 しまった、ベリアがいきなり触ってきたから後ろに女性がいるのを忘れてた。

 念の為、他にゴブリンがいないか確認をしながら馬車に戻った。

 ちらと父さんがいないか探したけど、白い毛並みは見えなかった。






 馬車に乗って現在、()はいすに()()()()()()()


「これどかしてもいい?」

「ダメ、また動くでしょう?」

「う⋯⋯もうちょっと窓の方に」

「なんで俺まで?」

「ルイスもいすから立ってたでしょ、ヴォルと同じよ、同じ」


 暖かい小さな手によって膝をいすに押し付けられて身動きが取りづらい。

 いすの反対に座るルイスも同じようにされている。

 ルイスはなんとか後ろを見ようと、体を捻り、首を捻ってまで後ろを見ようと頑張っている。

 それ後で体全体痛くなるよ。




「ふーどっこいせっ、と⋯⋯」


 数分膝を押えられていると、父さんが戻ってきた。

 なんだか疲れたような顔をしている。


「ヴォル」

「なに?父さん」

「帰ったら説教な」


 はいぃ⋯⋯






 その後、ベリアと父さんに睨まれながら村へと帰り、帰ったら帰ったで父さんと母さんに叱られた。


 我慢我慢⋯⋯言い訳は言わずに⋯⋯


 それでステータスのことについての話は無くなったからそれはそれで良かったかな?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ