12 初めてのステータス(前)
設定忘れてて半分まで書いていた時は焦りました⋯⋯
今回は長くなりそうだったので半分にわけます!
馬車は王都の中へと入っていく。
入る時にちらっと見たけど、城壁は中々の厚さだった。多分今乗ってる客室の大きさくらい厚い。
「着きやしたぜ」
御者さんが後ろから声をかけて、着いたことを知らせてくれる。
順番に乗客が降りていき、僕達も最後に降りる。
降り立つ先は、村には無かった石畳だ。
(これは⋯⋯)
顔をあげて周りを見ると、どことなく創作アニメのワンシーンを思い出してしまう。
3階建てのレンガ造りや石造りのカラフルな建物が道を挟み、道の所々に屋台が出ていて、その横幅が広い道では人と馬車が行き交っている。
買い物客の話し声や呼び込みの声が絶え間なく聞こえてきて、賑やかさを感じる。
(異世界に来たって感じがする!)
僕は緊張しているような面構えを作りながら、内心すごく興奮していた。
こんな往来の中興奮して大声を出すのは迷惑だからだ。でも興奮は抑えられない。
「うぉー!すっげー!」
ルイスがつい大声を出してしまった。
でもさっきの父さんとの約束を思い出したのか、すぐ手で口を塞いだ。
口を塞いでもなお、興奮が収まっていないのが目を見てわかる。
「お前らこっちだ。俺の毛を掴んでついてこい」
言われた通り父さんの両手にルイスとベリアが、服から少しはみ出している背中の毛を僕が掴んだことを確認した父さんは、僕達の歩くペースに合わせて歩き出した。
数分ほど大通りを歩いてから1つ道を折れると、さっきまでの道の声は小さくなっていく。
「綺麗⋯⋯」
道を折れてから少し歩くと、ベリアがボソッと呟く。
ルイスも目の前を見て、空いた片手でまた口を塞いでいる。
「着いたぞ」
父さんが立ち止まって僕の方を振り向く。
一体どこに着いたんだろう?
父さんの横にずれて、2人の見ている方を見る。
そこには、白い壁とステンドガラスで造られた教会があった。
街の建物からすると、かなりお金がかかっているように見える。
貴族とかが好きそうな見た目だ。
今こうしている間にも数人出入りしており、豪華だからと都民から避けられているわけじゃなさそうだ。
「父ちゃん母ちゃん、僕もこれで強くなれる?」
「えぇ、もちろんよ」
「おう!立派に育って俺みたいになってくれよな!」
「うん!」
僕達の横を親子が通っていく。子供は僕達くらいの背丈だ。
なるほど、この教会でステータスが見れる?わけだ。
「ここは王都の教会だ。普段は神様に祈る場所なんだが、ステータスプレートを作る場所が一緒になってるから、ここでステータスを受け取れるわけだな」
よかった、合ってた。
父さんは説明するとそのまま教会へと進んでいく。
教会は地球の教会と変わらず、真ん中を空けて長椅子を前に向けて設置しており、1番前に女性の像がある。
「ステータスプレートを受け取りに来たのでしょうか?」
おぉ、シスター登場だ。
シスターだけあって整った顔立ちをしてる。
「あぁ、今空いてるのか?」
「はい、こちらへどうぞ」
シスターが両開きの扉の前まで案内してくれる。
「おば様、3人来られました」
「はいよ」
ノックをしてシスターが声をかけると、中から少し枯れた声が返ってくる。
「中へどうぞ」
シスターが扉を開けてくれて、父さんが中へと入っていく。僕達もそれに続いた。
シスターが僕達が入ったことを確認したのか1つ頷くと、部屋の外に出て扉を閉めた。
中は窓もなく、蝋燭数本で照らされた部屋だ。目が慣れるまでその場を動かない方がいいかもしれない。
中でも蝋燭が固まっている所があり、白いもやのようなものが溢れ出る黒い壺を照らし出している。
「おや、子供3人って誰かと思えば白狼人の坊主かえ」
「俺はもう坊主じゃねぇ!」
さっきの少し枯れた女性声が何処からか聞こえてくる。
方向的には目の前なんだけど、そこには壺くらいしか────
「してその3人は坊主の子供さね?」
「「「うわっ!」」」
いきなり壺の上に生首が現れた!
「違ぇよ、組んでたパーティの子2人と、こいつは1人でいるところを保護したんだ。親が探してることも聞かねぇし、記憶も無ぇみたいだしな」
父さんはそう言いながら僕の頭に手を乗せる。
僕はこの体に憑依したことは誰にも言ってない。
話したとしても信じてくれなさそうだし、そもそもそんなこと言う必要が無いと最近感じている。
ステータスが桁外れだ〜なんなんだこいつは〜といったチート系の異世界物語ではその時に言わなきゃ怖がられるからとステータスを言っていたが、この世界じゃステータスを隠すことができる。つまりステータス詐称し放題だ。
例えテスターとしてのスキルが強くったって、弱く見せればそれでいい。
僕は目立ったり、大人数から見られることは苦手なんだよ。悪かったなコミュ障で。
しれっと僕を矢で射ったことを隠しているけど、まぁいいや、かなり前に過ぎたことだし。
「王都でも、子供が居なくなった話は聞かないねぇ」
暗闇に浮かぶ目がこっちを向く。
よく見たら生首じゃなくて普通に胴体と繋がってる。
部屋がかなり暗いことと黒い服を頭から被っているせいだ。
「今はステータスプレートを受け取るのが先さね。説明はいるかい?」
「いや、大丈夫だ。俺が覚えてる」
いや、ここで説明はいるでしょ、お約束的に。
そう思ったけど、声には出さない。薮蛇になりそうだしね。
「はいよ、これを使いな。こっちの準備は出来ておるでの」
「あぁ」
父さんがお婆さんから何かを受け取り、僕達に手渡す。
銀色の板だ。ロットさんがステータスの説明をする時に取り出した物と同じだ。これがステータスプレートになるのか。
違うのは、その板には何も書かれていないことだけ。
「それを額につけろ」
冷却シートのように額に貼り付ける。
すると、自分の五感が板に吸い込まれるような感覚がした。
ルイスなんて驚いて額から離してる。
「変な感覚があると思うが、それでいい。んで、『消えろ』って言ってみろ」
「「「消えろ」」」
言うと、板が消失する。出てきてと思うと、目の前に出てきた。反応出来ずに落としてしまう。
「そうだ、別に声に出さずとも出したり消したり出来んだ。考えて出さなきゃ、ヴォルみたいに落としてしまうぞ」
落ちたのを拾おうと思って、少し検証してみる。
落ちた板に手を伸ばして、『戻れ』と念じる。
でも板が消えなかったので、少しづつ手を近づけながら『戻れ』と念じ続ける。
指が触れるか触れないかの距離で板が消えた。
どうやらステータスプレートは自分の手の届く距離でしか出したり消したりできないようだ。
「おっし、じゃあ自分の手ぇ広げて、そこに出るように念じてみろ」
念じると、すぐさま手元にステータスプレートが現れる。
「最初はルイスだな、目の前の壺に入れてみろ」
「え?これを?」
「そうだ」
ルイスは未だもやを出し続けている壺に近づき、おそるおそるステータスプレートを入れる。
すると、もやの色が変わりだした。
数秒で薄緑色に変色し、もや自体が薄く発光するようになる。
「ルイスは風属性に適性があるな」
なるほど、もやで自分の適性がわかるのか。
薄緑色で風属性なら、赤色や水色もあるのかな?
「はいよ」
お婆さんがトングのようなもので板を取り出し、後ろを向いた。
シャーと何かが滑るような音がして、こちらを振り向く。
「あれ?俺のステータスプレートは?」
「後でちゃんと受け取れる。あの壺の中身がやべぇ奴だから拭いてもらってんだよ」
なるほど、こことは別の部屋でステータスプレートを洗うんだね。
「じゃあ次ベリアだな」
「うん」
え?僕最後?トリなの?
ベリアが壺の中にステータスプレートを入れると、もやの量が増えていく。
さらにもやの量が増え、色がついていく。
先程の薄緑色に、空色、薄茶色、薄黄色が4等分されて色がつく。
「こりゃすげぇな⋯⋯」
父さんの呟きが耳に入る。
確かに、ルイスの時と比べると圧巻だ。
例えるなら、ルイスが公園の蛇口から出る水とすれば、ベリアは公園の噴水だ。それもかなり大きなやつ。
ベリアのターンはまだ終わっていなかった。
4色の真ん中が蠢いたかと思うと、赤く真っ直ぐ高いもやが立ち上がる。
もやは高く昇り、天井に当たってもなお勢いは止まらず、天井を這うように広がっていく。
「これは⋯⋯?」
多分普通ではないと思うし、父さんに聞こうと振り向くと
「あっがが、が⋯⋯?」
父さんは顎を外して天井を這うもやを見ている。
それならお婆さんに聞こうとそっちを向くと、フードが落ちるのを構わずこちらも這うもやを見つめている。
「土と闇以外の全部⋯⋯しかも火は適性を超えてやがる⋯⋯それなら⋯⋯いや⋯⋯でもな⋯⋯」
父さんの顎が戻った。
今度は腕を組んでボソボソと何かを喋っている。距離が遠いせいで聞こえない。
天井のもやを見つめていたお婆さんも復活し、ステータスプレートを後ろへと回す。
「末恐ろしいのぉ⋯⋯。して、そっちの坊やも壺に⋯⋯いやまだじゃな、もう少し待ちなさい」
お婆さんは壺に蓋をした。
そんなことをされても、僕の結果は変わらないと思うけど⋯⋯大トリを伸ばす感じがして、かなり緊張する。
少し待って、お婆さんはベリアが出したもやが消えるのを確認すると、僕に目を向ける。
僕は頷き、壺の前に立った。
先程のベリアの件で、心臓の音が大きくなっているのがわかる。
これで僕もベリアと同じようになったらどうなるんだろう?
それともルイスみたいにもやが出て、普通の反応になるのだろうか?いや、それだとみんな普通を通り越して落胆しそうだ⋯⋯
1つ深呼吸して、壺の中にステータスプレートを入れる。
コポコポと空気を出しながら、もやが出⋯⋯出る?ん?
さっきまで出ていたもやが今は一切出ていなくて、首を傾げる。ルイスもベリアも同じように首を傾げた。
お婆さんは何も言わずに僕のステータスプレートを取り出し、後ろに回した。
あれ?おーい、僕のもやはー?
ポンと頭に手を置かれた、そのままわしゃわしゃと撫でられる。手の大きさ的に父さんだ。
「父さん?これってどういうこと?」
「⋯⋯後で話す」
父さんが僕にしか聞こえないくらいの小さな声でそう言う。
その態度で何となく分かる。
何も無かったんでしょ?僕の適性。
壺からもやも何も出なかった時点で察しはついていた。
この世界に無属性というものは無い。
これは父さん母さんの寝室に置いてある本に書いてあった。
人は皆、火、水、風、土、闇、光の属性のうち、1つ以上適性を持って生まれてくる。
極稀に1つも適性を持たずに生まれてくる子が存在し、その子は一生魔法を使えないという⋯⋯
その場に僕は膝をついた。
せっかく魔法がある異世界に来れたのに、魔法を使えないなんて、こんなのありかよぉ!
「ほ、ほら、もうすぐ自分のステータスが見れるぞ、ステータスプレートを取りに行こう。うん、そうしよう。な?ヴォル」
うん、父さん⋯⋯頭では分かってるんだ⋯⋯ただ極稀という悪い確率を引き当てた僕の運が悪いんだよね⋯⋯うん⋯⋯
「ほら、行くぞ!」
父さんが僕を肩に担ぎあげて両開きの扉へと向かう。
そうだね、ステータスを見よう、そうしよう⋯⋯
あっ!そういえばスキルテスターのスキルあるじゃん!
あの神様から何も言われてなくて、ずっと分からずじまいだったスキルがやっと分かるんだ!
そう意気込んで元気を出し、父さんに降ろしてもらう。
さぁ!ステータスプレートを受け取りに行こう!
おかしいところがあれば言ってください!