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11 初めての王都

 明日王都に行くと言われた夜、僕は興奮で眠れなかった⋯⋯ことはなく、すぐに寝付いた。

 どうせ起きても夜だから、寝不足の心配はない。


 王都に出る日なのにも関わらず、今日も今日とて外でトレーニングをしよう。


 そう思って外に出たんだけど、今日はいつもとは違った。



 村は隅々まで整備はされていないので、数は少ないけど自分よりも大きな岩がある。

 そのうちの1つに、人が座っているのが見えた。

 最初は父さんが僕が夜遅くに家の外に出ていることに気づいて待ち伏せているのかと思ったけど、それにしては人影は小さすぎる。


 僕が考えながら近づいて行くと、向こうもこちらに気づいたのか手を振ってきた。

 一応後ろを振り向いてみたけど、もちろん誰もいない。


 もう少し近づいて行くと、声が聞こえてくる。


「───も、眠れないの?」


 ちょうどその時、月明かりが差す。

 声が聞こえた時点で誰なのか判別はついていた。幼い顔が、月明かりに照らされる。


「そうみたいだ。ベリア」

「ふふっ、明日が楽しみだもんね」


 そう言いながらベリアは自分の横をぺちぺちと叩く。

 そんなに高くない岩なので、ロッククライミングして上まで登る。


「そんな事しなくても後ろに階段あったのに⋯⋯」


 確かに岩の後ろは階段状に削られていて、簡単に登れるようになっていた。


「後ろは見えなかったんだよ。仕方ない」


 肩を竦めて、内心疲れでがっくりと肩を落とす。



 ⋯⋯どうしよう、何も話すことができない。

 岩の上に乗ってから今までの10分弱、僕は何を話そうかずっと考えながら、視線を前に固定している。

 ベリアもちらちらこっちを見ているのは分かっているんだけど、すぐ前を向き直している。


「ねぇヴォル」

「なに?」

「私たちのステータスってどうなってるのかな?」

「うーん、Fが平均値だから⋯⋯ベリアは全部Dとかかな?」

「そんなことあるわけないでしょ、もー」


 笑いながら背中をばしばしと叩かれた。

 意外と叩く力が強くてバランスを崩して岩から落ちそうだったので、なんとか足で踏ん張って体を抑える。

 ちょうどそこに足をねじ込める窪みがなかったら今頃落ちてただろう。

 ありがとう、岩。


 ⋯⋯ほんとに全部D以上あるんじゃないの?



 そこからはルイスの天然エピソードだったり、森に入ったところにある木の実が美味しいことだったりと、当たり障りないことを話した。


 話している途中でベリアが可愛い欠伸をしたので、明日に備えてもう寝ることにした。

 寝るのはベリアだけだけどね。


「おやすみぃ」

「おやすみ、ベリア」


 口に手を当てながら家へと帰るベリアに手を振る。

 眠そうなベリアに比べて、僕は一切眠くない。

 さぁ、今日もトレーニング頑張ろう。


 あわよくばあの銀色スライムに会いますように⋯⋯






「おはよう、父さん」

「おう、ちゃんと眠れたか?」

「ちょっと、眠れなかったかな」

「ははっ!そうだろ!皆眠れねぇもんなんだよ!」


 父さんのテンションがいつもより高い。

 昨日はずっと周囲に意識を向けながらトレーニングをしていたけど、運良く銀色スライムが出てくることはなかった。


 でも今はすごくワクワクしてる。

 なんてったって王都に行く日だ。


 まだ見ぬ異世界の大都市、どんな風になってるんだろう。

 そびえ立つ高い城壁、遊園地にしか無いような豪華な城、レンガ造りのカラフルな建物⋯⋯想像していたら時間が足りなさそうだ。


「そういえば父さん、王都まではどれくらいかかるの?」

「半日と少しだな。まぁ俺が走ったらそれよりも速ぇぞ」

「すごい!」

「そうだろそうだろ!」


 父さんは元々高い鼻をさらに高くしながら胸を張る。

 そこに朝食を持った母さんが来た。


「アンタが全速力で走っても途中で疲れて、抜かされて遅くなるんだろう?嘘つくんじゃないよ」

「へ、へい⋯⋯」


  あぁ、父さんが萎んでいく⋯⋯






 その後、朝食を食べてから村の門まで歩いた。

 そこにはみんなと、馬4頭でひく馬車がある。


「俺たちが最後だったか」

「みたいだね」

「お前らおせーじゃねぇか、もうみんな乗ってんぞ?」


 ほんとだ、ベリアとルイスが馬車の後ろから顔を出してる。


「それともなんだ?普段毛づくろいしねぇ癖に今日やってて時間食ったってか?」

「んだとゴルァ!」


 うわぁ、口喧嘩が始まっちゃったよ⋯⋯

 見慣れてはいるんだけど、今はそんなタイミングじゃないと思う。

 僕じゃ何を言っても収まらないと思うし、だから。


「ねぇ、母さん」

「分かってる」


 母さんが横から2人に近づいていく。

 2人とも応酬がさっきより激しくなっていて、近づく母さんに気づいていない。


「アンタ達、落ち着きな!」

「ぐっ」

「ぷっ」

「今日の主役は子どもたち、アンタ達が目立ってどうすんだい!」

「おう⋯⋯」

「へい⋯⋯」


 さすが母さん、一瞬で喧嘩を止めた。

 片方は頬を、もう片方は腹を殴られてたけど。






「それじゃあ行ってくる」

「勝負に勝ったんだ、わかってるよね?」

「大丈夫だ、俺が必ず守ってやる」


「母さん、いってきます」

「王都を楽しんでらっしゃい。半日くらいしかないだろうけどね」

「うん!」


 馬車が進み出した。

 ここから半日ずっと馬車に乗ることになる。

 あ、酔い止め薬とかは大丈夫かな⋯⋯






 馬車の中は椅子が置かれており、大人2人が乗れる横幅の椅子が左右に1列ずつ、それが前に向かって3段ある。電車とは違う置き方だ。

 そのうち1番前が後ろを向いており、僕たちはそこに向かいあわせで座っている。

 1番前の席にルイスと父さん、2段目に僕とベリアが座った。


 他に客はおらず、僕たちだけの声が車内に響く。


 ⋯⋯ことはなく、聞こえるとしても寝息だけだ。

 発車して早々、馬車の揺れが心地いいのかベリアとルイスは寝てしまった。

 父さんは寝ているようには見えないけど、目を瞑って、腕を組んでいる。

 あ、船を漕ぎ出した。

 みんな昨日は眠れなかったのかな?


 みんなが寝るような車内だけど、実際には少し(たっぷり)寝た僕は眠くない。


 何もすることがないので、途中で止めた王都の想像を再開する。






「ありゃ、お客さん眠っちまったかい」


 昼になって、馬を休ませるためか馬車を止めて、いすの所まで御者さんが来ていた。


 3人は馬車が止まってもまだ寝ている。

 よっぽど今日が楽しみだったんだろう。


 御者さんは僕を退屈させないためか、色々なところに御者の仕事で行ったことを話してくれた。

 南の火山に東の海、北の極寒の大地に西の死の森のことまで。

 御者さんは随分と若く見えるけど、その歳で世界を見て回ったと大笑いした。

 僕がこれから王都に初めて行くと言ったら、王都のことも教えてくれた。


「う〜ん」


 御者さんと話していたら、前で眠っていたルイスが目を覚ました。


「うわっ!誰!いたっ」


 目の前にいる御者さんに驚いて、いすから落ちた。


「落ち着いて、御者さんだから」

「え?」

「こんな見た目だけどな!はっはは!」


 御者さんは僕に話してくれたことをルイスにも話した。

 聞いていたルイスはずっと目を輝かせていた。


 ルイスは冒険の話を聞いて興奮して、ずっと大声で相槌をうった。

 そのせいか父さんとベリアも起きてしまった。


 ちょうど昼ごはん時だし、ご飯を出してもらおっと。






 ご飯は異世界の当たり前なのか、白米は無い。

 全員分のパンを父さんはウエストポーチほどの大きさの布袋から取り出した。


 その布袋より確実に大きいパンが出てきたが、()()驚かない。


 これは魔法の袋と言って、大きさ関係なく物を入れることが出来る。

 上限は持ち主の魔力量が多いほど上がる優れものだ。

 また、袋以外にも種類はあって、他にも魔法の鞄や魔法の箱がある。

 魔法の鞄だと上限が魔法の袋の2倍、魔法の箱だと4倍になる。

 ただ相応のお金はかかるという⋯⋯途方もない金額がかかってそうだ。


 お腹を満たして、再び馬車は進んでいく。






 途中に通った村で数人馬車に乗せたりしながら、王都へと整備された道を進む。

 乗客のほとんどが父さんに驚いていたけどね。

 狼人族って珍しいのかな?






「ほら、見えてきたぞ」

「「「おぉー」」」


 空に茜色が混じり始める頃、目的地の王都が見えた。

 想像通り、壁がそびえ立っていて、真ん中の辺りから何かが突き出ている。

 ここからだとそんなに大きく見えないけど、王都まではそれなりに距離はある。もっと近くで見たい。






 早く早くと馬車に揺られ十数分後、王都の外壁へと到着した。

 やっぱり城壁は高く、4階建ての建物よりも高く見える。

 それに見える範囲の城壁の上に何箇所か部屋のようなものが見える。多分見張り用の部屋があるんだろう。


 馬車が城壁の前で少しの間止まり、また動き出す。


「お前ら、今から王都に入るが静かにしろよ?」

「「「はーい!」」」


 返事の声が大きかったのはまた別ということで。

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