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キセキのステージ ~ Wildest Dream ~  作者: 一河ツクモ
旗揚げ公演:正しいヒーローの作り方
8/13

第八場

「(・・・)」



ん?



「(・・・も、・・・も)」



耳元に何かが届く。



「(・・・くも、・・・ぶか?)」



うるさいな。俺は疲れたんだ。



「(つくも!!)」



・・・うん?どこかで?

俺は呼ぶ声の正体が気になり、目を開く。

だが、たった目を開けるといった、それだけの事を・・・ふごぉッ!



「(ッ、つくも・・・。つくもッ!!!よかった!!)」



俺に抱きついて喜んでくれたのは、俺の兄貴だった。



「(先生!患者さんが目を覚ましました・・・)」



遠くで女性がどこかに連絡を入れている。

そんな女性は看護師の格好をしており、辺りを見回すと白で統一されたベッドや家具、そして見慣れない電子器具が配置され、俺と細い管の様なもので繋がれていた。そのことから、ここが病院だと言うことが分かった。

でも、なぜ病院に・・・。あと、なんだこの違和感・・・。鼻にツーンと来る病院の臭いがしない。


・・・夢。


なんでかな?夢の中にいながら、俺はこれが夢なんだとわかる時がある。言葉で表せない様なちょっとした違和感だったり、現実とのちょっとしたズレのようなほんの些細な事から、それが夢だと気づくんだ。でも、今回の様に臭いがしないといった大きな違和感は初めてだった。



そして、この夢だと分かる夢を見る時に必ず現れるのが、・・・俺の兄貴。



「・・・苦しいよ。兄貴・・・。」


俺はギュッと抱きしめられていた事に気づき、そう口にした。それを聞いた兄も慌てて俺から離れる。


「悪い。お前が目を覚ましたら、なんかほっとしちゃってな・・・」

 

このやり取り、どこかで・・・。


「それにしても驚いたよ。普段は大人しいお前が喧嘩だなんて。」


 思い出した。俺が中学2年の時、綺麗な先輩がいて、俺はその先輩を放課後呼び出して告ったんだ。そしたらその綺麗な先輩はサッカー部の先輩の彼女で・・・。それで、うちのサッカー部は不良の溜まり場だったから、告った直後に先輩たちが現れて、フクロにされたんだった・・・。そうだった。あまりにも苦い過去だから忘れてた。・・・どうやら俺は女性絡みになると、殴られる傾向にあるらしい。


「別にしたくてしたんじゃないよ・・・。」

「そうだろうな。」

「・・・それでどうしたの?」

「ん?」

「兄貴が俺に会いに来るなんて?」


 この頃になると、兄貴はほとんど家にいる事はなくなった。何をしているのか分からないが、大学に入り浸っているらしい。だから、こうして会話をするのも数カ月ぶりだった。


「何言ってんだ。弟が病院に運ばれたって聞いたら、駆けつけてくるのは当たり前じゃないか。」

「そっか・・・。」


 俺は兄貴の言葉に照れるのを精一杯隠しながら、言葉を絞り出した。

 そして・・・。


「・・・」



「・・・」



 ・・・。



 ・・・・・・。



 ・・・・・・・・・。


久しぶりに会ったら会話が弾むというが、それはきっと身内は対象外なのだろう。身内で、しかも兄弟ともなると、本当に何を話していいかわからない。最近の時事ネタ。最近の流行曲。そして、お互いの近況・・・。話そうと思えば話すことなんていっぱいあるが、なんかこそばゆい。

きっと、兄貴もそうだったに違いない。だから・・・。


「じゃあ、俺そろそろ行くわ。」

「えっ?もう?」

「ああ。お前の顔も見られたしな。」

「そっか・・・。」


 俺もあえて止めなかった。兄貴が大学で忙しく何かをしているのを知っていたから・・・。


「そうだ。ツクモ。分かってると思うが、男だったら無暗に拳を振るうな。」

「振るいたくて振るったんじゃ・・・。」

「振るっていいのは決して譲れないモノを守るときだけだ。分かったな。」

「・・・うん。分かったよ、兄貴。」

「よし。・・・でも、よく逃げずに戦ったな。それだけは偉かったな。」


 そう言うと、兄貴は俺の頭をポンポンと優しく叩き、出ていった。

 これが俺と兄貴の最後の会話・・・。兄貴はこの1ヶ月後事故で亡くなったんだ。

 そしてこの頃の俺は、兄貴と比較されることを疎ましく思うことはあっても、決して兄貴の事が嫌いではなかったし、むしろ好きだったと思う。俺が兄貴の事を嫌いになったのはこの後の事・・・。



・・・。



 百キロのダンベルを両の目に付けているかの如く重かった瞼をどうにか開けると、人影が写る。

 だが、突如目に入ってきた光がその人の顔をぼやけさせる。



「あ・・・にき・・・。」



 兄貴の夢を久しぶりに見たからかな。なんかそんな気がしたんだ・・・。

 俺の声を皮切りに、誰かが飛び出していく。どうやら他にも人が居たらしい。



 痛ッ。



 頭と頬、いや体全体に激痛が走る。俺はどこを押えれば分からず、とりあえず体を丸めた。

 そんな俺を見て先程から隣で俺を見ている人が、労る様に上半身で俺を包んだ。

 

柔らかい感触・・・。そして、いい匂い・・・。

 

女の子だ。そうに違いない。

 俺はどんな子だろうと確かめようと、顔を覗こうとした。



 痛ァッ!



 どうやら天罰が下ったらしい。もう一度痛さに耐える為体を丸める。

 だが、これを俺を包んでくれている女の子が・・・。


「大丈夫、一河くん。」


 と、透き通る声の持ち主が俺を更にぎゅっと抱きしめてくれる。


 ん?


 この左頬にあたる柔らかい感触・・・。

 もしや・・・オッパイ!!!

 オッパイ!オッパイ!!オッパイ!!オッパイ!!オッパイ・・・。

 ダメだ、ダメだ。落ち着け、俺!!こういう時こそ全神経を研ぎ澄まして、おっ、オッ、オッパイを堪能するんだ!!


 だが、刹那。


ドッシィィ。


どこからともなく鈍器の様なモノが俺の頭に降り注ぐ。


「いってぇぇぇえええええ!!!」


 俺は瞬時に頭を押えながら、殴られた方を振り返った。するとそこには木刀を俺にかざした女と、七瀬ことりさんが木刀女に守られるように立っていた。どうやら俺の頭に叩きつけられたものは鈍器ではなく、木刀だったらしい・・・。ということは、あの柔らかいオッパイの感触・・・。あれはきっと七瀬さんの・・・。


ドッシィィ。


「いってぇぇぇえええええ!!!何すんだ!!」

「いやらしいこと考えてたでしょ。」


 木刀女はどうやら俺の心を読めるらしい。


「そんなことねえよ。」


 一応、否定しておく。


「どうだか・・・。」


 まあ、信用されるかは相手次第だ。


「ちょっと、ちゆちゃん!!」


 その横で七瀬さんが木刀女の袖を引っ張っている。どうやらちゆちゃんと呼ばれているのが木刀女の事らしい。


「私を助けてくれた人に暴力はダメだよ。・・・ごめんね。一河君。」


 俺の顔を覗き込む。

 目と鼻の先に七瀬さんの顔が・・・。それにしても可愛い。


「改めまして。さっきは助けてくれて本当にありがとうございました。郷田君達、しつこくって・・・。」


 俺に向かって立つと、七瀬さんは深々と頭を下げた。どうやら郷田というのがあのガラの悪い連中の誰からしい。


「いや。・・・ごめん。俺、教室に飛び込んでからの記憶、ほとんどなくて・・・えっと俺が七瀬さんを助けたの?」

「はぃ・・・」


 何かを言いかけた七瀬さんの言葉に割って、木刀女が入ってくる。


「いいや。ことりを助けたのは私。あなたは郷田達にやられて気絶していたの。」


俺、激ダサじゃん!!


「ちょっと、ちゆちゃん!!」

「ことり、こういうのははっきりさせておかないとコイツが調子に乗るわよ。」

「一河君はそんなことしないよ。ね?」


 いや、分かりません・・・。


「・・・」

「ほら、何も言わないじゃない!とにかく郷田達を追っ払ったのは私。あんたはことりの上で覆いかぶさってただけ。」

「俺・・・激ダサじゃん・・・」


 つい、思ってたことを口にしてしまう。


「そんなことないです。」

「えっ?」

「そんなことないですよ!」

「・・・」

「少なくとも一河君があの時教室に入ってこなかったら・・・。何度も殴られながら、何度もどかされながらも一河君が私に覆いかぶさってくれなかったら。ちゆちゃんの助けは間に合わなかったし、多分もっと私、郷田君にひどい事されてたと思います。」

「・・・」

「だから、ダサくなんかないですよ。むしろあの時の一河君はとってもカッコよかったです。」

「・・・あっ、ありがとう。」


 なんだか照れ臭くなって、お礼を言ってしまった。


「お礼を言うのは私の方です、一河君。本当にありがとうございました。」


 七瀬さんは再び深々と頭を下げる。

 どうやら俺はこういうのが苦手らしい。背筋がモソモソする。そして、なんて答えたらいいかが分からない。だから、


「・・・どういたしまして。」


 とだけ答えた。


「あっ、そうだ。改めて自己紹介するね。私は七瀬ことり。経済学部経済学科の一年生です。ことりって呼んでください。それで、こちらが・・・」


 ことりが木刀女を指名するが、黙り込む。


「・・・」

「ちょっと、ちゆちゃん!挨拶!!」


 ことりの言う事も聞かず、何も喋らない。どうやら俺は好かれていないらしい。


「・・・もう。えっと、この娘は三枝千弓さえぐさ ちゆみちゃん。私はちゆちゃんって呼んでます。私と同じ経済学部経済学科の一年生で、私とは小さい頃からの幼馴染なんです。」

「へぇー、幼馴染・・・」


 確かに、ことりと並んで立つとフィット感がある。見た目も悪くないし、肩甲骨くらいまでの髪を後ろで束ね、整った顔立ちやスラっと伸びた手足などスレンダー美人で、ことりと一緒に歩いても全く引けを取らずに周囲の目を集める事だろう。


「ぅん?」


 ただし!鋭い眼光を除いて・・・。


「こら、チユちゃん、睨まないの。チユちゃんは凄いんですよ。昔から続く大きな剣道場の一人娘で、三枝流剣術の継承者なんです!」


 あっ、だから木刀ね・・・。

 ことりは自慢気に話すが・・・。えっ、この御時世に「なんとか流」なんてあるのか?と疑問がわくが、それを言葉にすると、三枝さんがもっている木刀で今度こそ刺されそうなんで、飲み込むことにした。


「三枝さん、よろしく・・・。俺は一河九十郎、二人と同じ経済学部経済学科の一年だ。」


 あえて爽やかな青年っぽく短文で、格好もつけずにサッと手を差し出してみた。


「いてぇぇえええ!!」


 だが、そんな爽やかさをどう取り違えたのか、俺の手はバッシーンと木刀によって払い落とされた。


「チユちゃん!!」

「なんだ。叩き落してくれではなかったのか?」

「どう解釈したらそうなるんだよ!! 握手だよ、握手!!」

「そうか、握手だったか。猥褻行為かと思った。」

「ああんん??」


 いちいち、俺のカンに触る。


バッシィィン!!


 もう何度目かの木刀が俺に降り注ぐ。


「なに?文句があるの?」

「理不尽すぎる・・・」

「ちょっと、チユちゃん、仲良く・・・」

「そうですよ。仲良くしましょう?」


 三枝千弓から一方的に虐められる俺を、ことりと如月直哉が庇う。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

 如月直哉ぁぁぁあああ!!


「お前どうしてここに!?っていうか、よくお前シレっと顔出せるな!!あんなことしておいて!!」

「あんなこと?」


 三枝千弓が聞いてくる。


「いや、コイツ。さっきことりが絡まれているのを見ていながら、シレっと見捨てて、自分だけ逃げたんですよ!!」

「あぁんん?」


どうやら俺が七瀬さんの事をことりと呼んだのが気に入らなかったらしい。三枝千弓がものすごい形相で睨んでくる。・・・理不尽すぎる。


「ちがうよ!直哉くんは私を見捨てて逃げたんじゃなく、チユちゃんを呼びに行ってくれたんだよ。」

「えっ?」


 思わぬ所からの援軍。


「ほら、僕なんかがあの場に居たって、あのチンピラ達には敵わないから。だから、強いチユミちゃんを呼びに行ったのさ。」

「・・・」


 得意気に話す如月直哉がやけにイラっと来る。


「いやぁ、でもツクモ君が来てくれて助かったよ。あの時一瞬君の顔が見えたから、あとは君に任せて飛び出せたんだ。君ならあのチンピラに立ち向かってくれるって分かってたからね。」

「・・・」


 全部知ってたかの様に話されると余計に腹が立つ。


「もし、俺が飛び出さなかったらどうするつもりだったんだよ?」

「いいや。君は絶対飛び出したさ。」

「・・・」


 如月直哉の変に信頼しきったような言い方が少しうれしかった。


「それにしても、どうして、君はあの場に居たんだい?」

「もしかして、入部してくれる気になりました?」


 パッと明るい顔を見せることり。


「あれだけの悲鳴が聞こえたら、普通誰だって駆けつけるだろう?」


 俺の言った一言で、ことりと如月直哉が顔を見合わす。


「・・・」


 ・・・あれ?


「・・・俺、おかしなこと言った?」

「・・・ツクモ君、その悲鳴ってどんな声だった?」

「えっ、キャーっていう女の声で、俺はてっきりことりの声だと・・・。」

「・・・それはおかしいよ。ことりちゃんはあの時、一度も悲鳴を上げていないんだ。ね?ことりちゃん?」

「ええ。」

「そんな。じゃあ、俺が聞いたあの声って・・・。」

「・・・」


 誰もその後を喋ろうとせず、ただ、時間だけが過ぎていった。


「・・・まあ、今日の所は夜も遅いし、また今度にしましょう。」


 居心地の悪い雰囲気を変えようと、ことりが提案する。


「・・・そうだな。」


 俺も同意し、横になっていたベッドから降りる。


「あっ、そうだ。一河君。演劇サークル入部の件、考えておいてくれないかな?」

「ちょっと、ことり。私はアイツを入部させるのは反対よ。あんなモヤシ野郎、いる事でマイナスになることはあっても、居なくてマイナスにはならないわ。」

「あの~、聞こえてますけど・・・」

「聞こえるように言ってるんだから、聞こえてなくちゃ意味が無いでしょ?」

「ぁん?」


 どうやら、三枝千弓は俺を毛嫌いしているらしい。


「こら、二人ともやめて。」

「・・・私ね、知ってるんだから。オリエンテーリングの時、扉の前で六本木真琴さんの手をイヤらしい顔しながら取っていたことを・・・。」

「だれがそんなでまかせを!!」


 アイツは男だ!!


「火のない所に煙は立たぬ。それに聞いちゃったの。一河ツクモって奴が、彼女を作る為だけに部活やサークルに入ろうとしている、クズ野郎だって。」

「そんなこと・・・」

「そんなことないの!?」


 三枝千弓の威圧が俺を黙らせる。


「・・・」

「ほら、やっぱりね。そういう不純な目的で入部しようとしているクズ野郎だった。あぁ~あ、危ない危ない。ウチには女の私から見ても可愛い可愛いことりがいるんだから。気を付けないと。」


三枝の言葉の端々に怒りを覚え、必死に我慢してきたが、さすがにここまで言われては俺の沸点も超えてします。


「言わせておけば・・・。あぁ~、俺もお断りだね。誰が助けて貰った恩を仇で返すような奴がいる部活なんて入るかよ!!」

「だから、アンタは誰も助けてないんだって!!」

「うるせぇ、このアマ!!・・・それに誰がこんなお遊戯に俺の大切な大学生活をかけられるかってんだよ。こっちから願い下げ・・・」


 刹那。

バッチィィイイインン!!


俺の首が今まで回ったところない所まで回り、その後からやってきた左頬の痛みから、俺は突然目の前に立っていたことりに叩かれたんだと知った。


「・・・」


 キッと俺を睨むと、ことりは保健室から走り去ってしまった。


「あぁ、怒らせちゃった。」


 ニヤリと笑みを残し、三枝千弓も去っていく。


「今のは言い過ぎだよ・・・。人が一生懸命やっている事を、お遊戯って。まあ、僕がフォローしておくから。」


 そう言い残すと、如月直哉も彼女らを追って去っていった。

 俺は、左頬に感じる痛みを冷やす様に、保健室の窓から顔を出した。



「・・・なんだよ。」



☆☆☆☆☆☆☆

『正しいヒーローの作り方』:第八場


居酒屋「ねずみ小僧」

信太朗、弘志、つかさ、卓を囲っている。四葉、仕事をしている。

睦月、やってくる。


つかさ「ムッチャン、こっち。」

弘志「ムッチャン、信太朗のこれ見てよ。誰にやられたか言わないんだよ。怪しいと思わない?絶対女だよ。」

信太朗「何でそうなるんだよ!?」

弘志  「こう言うときは女って決まってんだよ。」

四葉「ラブコメの王道ね。」

信太朗「だから、違うって!!…ごめんな。」

睦月「…うん。」

つかさ「ほら、二人共暗くなってないで呑もう?」

全員「カンパーイ!!」

つかさ「…それで、二人共教育実習は順調?」

信太郎「おう。順調も順調。順調に毎日高橋に怒られてるよ。」

つかさ「それは自業自得でしょ?」

弘志「なんたって、本人に向かって『チェンジ!!』って言ったんだから。」

信太郎「まあ、そうだけど。」

つかさ「ムッチャンは?」

睦月「…私も順調だよ。」

つかさ「睦月ちゃんの担当はレズなんだっけ?」

信・弘「そうなの!?」

睦月「…うん」

弘志「気を付けた方が良いよ。ムッチャン可愛いから。」

睦月「そんなかわいくなんか…」

つかさ「でも、本当、気を付けた方がいいよ。」

睦月「…うん。」

つかさ「どうしたの?さっきから元気ないよ?」

睦月「…実は、私のクラスにいじめがあるみたいなんだけど、どうしたらいいか分からなくって。」

つかさ「いじめか…。最近多いって言うよね。」

弘志「ああ。…でも、ムッチャンなら大丈夫だよ。」

つかさ「そうだよ。ね、信太郎?」

信太郎「…ああ、大丈夫だよ。俺達と居るように、生徒と真っ直ぐ向き合えば、きっと解決の糸口が見つかるさ。だから、そんなに背負いすぎるなよ。」

睦月「…ありがとう。私、頑張ってみる。」

信太郎「ああ。もし辛くなったらいつでも俺を頼れよ。同じ学校にいるんだから。」

睦月「うん。」

弘志「よーし!もう一回呑み直すぞ!!カンパーイ!!」


ゲーム機が起動する。

どこともわからない場所。信太朗以外ストップ。

渚、現れる。


渚「あなたの運命を決めるゲーム。ここまでの人生を記録しますか?それともしませんか?」

信太郎「なんか久しぶりにその台詞最後まで聞いた気がするよ。」

渚「それはあなたがいつもカットインしてくるからです。」

信太郎「あれ?ムニエルさんは?」

渚「…今、休憩中です。」

信太郎「ふーん。天使にも休憩とかあるんだな?」

渚「当り前です。私達を何だと思ってるんですか!!それよりここまでの人生を記録しますか?しませんか?」

信太郎「記録するよ。」

渚「それでは、望月信太郎」

信太朗「挨拶かよ!!」


渚、睦月、つかさ、弘志、四葉、去る。

信太朗、携帯が鳴る。


信太朗「睦月からだ…。えっ…」


夜の公園。結菜が誰かを待って立っている。

睦月来る。


結菜「夜遅くにごめんね。」

睦月「ううん。話って何?結菜ちゃん。」

結菜「…ん?うん…。…実はさ、私、学生の時から信太郎の事好きだったんだ。」

睦月「…」

結菜「…でも、この前フラれちゃった。まだ始まってもいなかったんだけどな…。」

睦月「…知ってた、結菜ちゃんが信太郎の事が好きなの…。あの頃の信太郎はいつも私達といて、正直、結菜ちゃんの事が好きなのか、私の事が好きなのか、それとも他の誰かかが好きなのか分からなかった。でも結菜ちゃんは大学進学を機に、私達から離れていった。あれって…」

結菜「そう。あえて別にしたの。別の大学に行って、自分を磨いて、もう一度信太郎に会った時、絶対私に振り向かせるんだって。そう思って別の大学を選んだ。でも、失敗だったかな…。余計に信太郎と睦月ちゃんの絆が深まってた。」

睦月「…実はね、大学に進学してからすぐ私と信太朗、付き合い始めたんだ。そして先日、信太朗からプロポーズされたの。報告しなくてごめんなさい。でも、保留にしたんだ。結菜ちゃんがメールで同じ学校で教育実習やるって言ってたから。もう一度信太郎が結菜ちゃんと会って、結菜ちゃんに頑張って欲しかったから。それで結菜ちゃんに振り向くんだったら仕方ないって…。」

結菜「優しいんだね。睦月ちゃんは何も変わらない。ヒーローの睦月ちゃんのまま。」

睦月「ヒーロー?」

結菜「そう。…ヒーローは自分の為じゃなく誰かの為に行動できる人。ねえ、睦月ちゃん。」

睦月「なに?」

結菜「…私の為に死んで。」


結菜、睦月を刺す。


結菜「ずっと邪魔だった。ずっと疎ましかった。ずっと死んで欲しかった…。別の大学に進んで、毎日のように来る睦月ちゃんからのメール。悪気が無いのは分かってる。でも、それでも…。でもこれで信太朗は私のもの…。これでやっと…。」


信太郎がやってくる。

信太朗「睦月!!」

結菜「信太郎!!どうして!!」

信太郎「むつき?むつきぃぃいいいーーーー!!!!」


救急車の音。


☆☆☆☆☆☆☆


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