第七場
七号館と管理棟が周りを囲むように建つ溜め池に、夕日が反射して、もうすぐ日没を感じさせる。溜め池の周りにはよく見かけるが名前が分からない草花が一面に敷き詰められている。俺はそれらを踏み潰す様に横たわった。
演劇サークルの説明会でサークルに睦月先輩が所属していないと知った俺は、その後の稽古見学もせず、生きた屍の様に呆然と教室を後にした。
今日1日俺の中を駆け巡っていた熱が、一気に冷えていくのが分かる。
そう言えば、あの場には如月直哉もいたんだっけ・・・。どうしたかな・・・。まぁ、いいや。俺には関係ねえし。
辺りの草花の臭いを散らすように風が吹き通る。
東南大学に入ってまだ1週間もたってないのに、本当に色々な事があった。
絶対彼女を作るんだっていう強い想いで入学したら、同じ学部には男しかいなかったり。でも、その夜には睦月先輩っていう可愛い彼女が出来たり。そして、睦月先輩を探して色々な人に出会ったりもした。
・・・携帯のアドレス、聞いとけば良かったな。
悔やまれるのはこの一点のみ。この後悔がなければ七瀬ことりさんや如月直哉とも知り合わなかったかもしれないが、この後悔だけはしてもしきれない。
カサカサ―、カサカサ―
日がかなり落ちたこの時間になると、少し肌寒い風が吹き抜ける。
何のためにこんな時間まで残っていたのか、考えるだけバカバカしくなってくる。そして、次に考える事は決まって、「睦月先輩は結局どこにいるんだろう」だ。
帰るか・・・。
俺は重い腰をドッコイセという掛け声と共に上げる。
その時だった。
『きゃぁぁぁああああああーーーーーー』
俺の後ろから微かに届いた声。
俺は咄嗟に後ろを振り向くが、誰もいない。
気のせいか?
『きゃぁぁぁああああああーーーーーー』
また聞こえた。
俺は耳を澄まし、もう一度声が聞こえるのを待った。
だが、少し待っても声は聞こえない。やっぱり気のせい・・・。
『きゃぁぁぁああああああーーーーーー』
聞こえた。
声はどうやら俺がさっきまでいた八号館や七号館から聞こえた様だった。
俺の足は何かを考える前に動き出していた。
草花で満たされた溜池を背に、七号館を抜け、七号館と八号館の間の広間にやってくる。
俺は再度耳を澄まし、目を閉じた。
『いやぁ!!』
先程より弱弱しく聞こえるその声を俺の右耳がキャッチする。どうやら声は俺がさっきまでいた八号館から聞こえてくるらしい。
俺は急いで八号館の扉を開けた。そのまま、近くにあった、古い病院を思わせる足元の見えずらい階段を駆け上がり、八号館の四階まで一気に登り切った。
はあ、はあ。
肩を大きく動かし、息を整える。そして、そのまま俺は息を殺し、音を立てない様に先程演劇サークルの説明会が行われた教室へと、足を向けた。
「やめてください。」
どうやら、悲鳴の正体はやっぱり先程の教室らしい。
バクバクと体の内より心臓が鳴り響いてくる。
俺はそれを押し込めるように大きく息を吸うと、少し空いていた扉の隙間から中を覗き込んだ。
だが、隙間が細く中がよく見えない。
俺は扉を少し開けるため、音が出ないように細心の注意を心がけながら扉を押した。
しかし、先程説明会を受けた時とは異なり、教室一面に並べられた机が後ろに下げられており、その机が邪魔をして扉が開かない。
仕方なしに俺は目を細めながら再度中を覗き混んだ。
最初は目がぼやけ中の様子があまり見えなかったが、次第に目がなれてくる。
中では七瀬ことりが、先程一緒に説明会を受けたガラの悪い三人組に囲われ、手首を捕まれていた。
「はなしてください。」
「はなしてくださいだってよ。かわいい~。」
他には中に誰もいないのか・・・?
ん?・・・如月直哉もいる。俺以外の説明会参加者が全員揃っている。
そう言えば説明会の後、稽古見学があるって言ってたな・・・。じゃあ、これも稽古の一貫・・・。そうだよな。如月直哉も大人しく座ってるし・・・。
そう思いながら俺は再度覗き込む。
「だから、はなして下さいって言ってるでしょ!」
振りかぶられたことりさんの平手打ちが、手首を掴んではなさないガラの悪い男たちのリーダー格の男の左頬をとらえ、バッチーンと音をたてる。
えぇー・・・。
いっ、今のは稽古じゃないよなぁ・・・。
「何すんじゃ、テメェーッ!!」
やっぱりー!!
恫喝するリーダー格の一声をきっかけに、他の二人がことりさんを囲む。
どうしよ、どうしよ!!助けに入るかぁ!!あっ、でも、俺が入ってもズタボロにぼろ雑巾の様になるのがオチだし・・・。っていうか、大学生になってまだ二・三日だっていうのに、こういう現場に出くわすのが二回目っておかしくない?
自慢じゃないが、俺は十八年生きてきて、昨日まで一度も他人と喧嘩と言うものをしたことがないし、そういう場面にすら出くわさなかった。っていうか、出くわさないように相手の顔を伺い、相手の意思に合うように行動してきたつもりだ。
だから、これも自慢じゃないが喧嘩慣れしてそうなアイツ等三人を相手に勝てる気が全く起きない。
あっ、今、ヘタレと思っただろ?
いやいや、それが普通だって!!普通に生きて、普通に過ごしたら、思い返せば皆そうだって!!皆も俺と同じ場面に出くわしたら、きっと同じことを痛感するから!!
「キャーーーぁ」
ことりさんの声で心の中の誰かとの会話から呼び戻される。
見ると、両の手を抑えられていた。
「良いじゃねぇか。あんた、可愛いしさ、ちょっと付き合えば、演劇サークルに入会してやるからよ。」
「いや・・・です。」
どうにか絞り出すように声を出す。
「そう言うなよ。」
「あんたの他にも今、もう一人部員がいるんだろ?」
「俺らが入れば、そいつと合わせて五人。サークルで必要な人数を満たせて、晴れてサークル成立だぜ?」
「・・・」
ここからも見てとれる位、身を縮ませながら俯く。その間も三人組は追い討ちをかける。
「それに聞いたぜ。説明会が一回しか開催出来ない理由。」
「新規にサークルを立ち上げて、説明会用の教室を借りる為には、文化団体何とかっていう所に3月中に申請しなきゃいけないんだろ?」
「それに対して、ことりちゃんは新入生。4月から生徒になったばっかりだ。だから、その申請に間に合わなかった。それでも諦め切れないことりちゃん達は何とかお願いして、1日だけ教室を借りられた。それが今日だ。そうだろ?」
「・・・はい。」
更に縮こまって、答える。
「だったら、今日の説明会で新入部員入れないとまずいんじゃないの?」
「・・・」
見ていられない・・・。
「それに今日の参加者思い出してみろよ。俺達とこんな状況でもニコニコ見てるヘタレだけ・・・。唯一マトモそうだったヒョロモヤシ野郎は途中で帰っちまった・・・。」
「俺達の参加は必至だせ?」
「・・・」
そうだ!中には如月直哉がいるだろ!!なんでこんな状況でも黙って見てるんだよ!!
俺の怒りの矛先は自然と如月直哉に向けられた・・・って、いねぇーー!!
アイツ、どこ行った!!
目で如月直哉を探したが、見つからなかった。
「そういや、ニコニコ野郎もいつの間にかいねぇな。」
どうやら俺の見えない所にいるわけではなく、中にいないらしい。
自然と両の手に力がこもる。
何とかしなくちゃ・・・。
「仲良くやろうぜ、なぁ?」
なんとかしなくちゃ。ナントカシナクチャ。なんとか・・・しなくちゃ・・・。
「なぁ?」
俺は自然と扉を押していた。
あれ?開かないィーー!!
扉の向こうに何かが・・・って、机!!
そうだった。この奥に机が引っ掛かっていて、開かないんだった!!
どうしよう!どうしよう!!どうしよう!!!
頭が真っ白になる。
どうしよう!どうしよう!!どうしよう!!!どうしよう!どうしよう!!どうしよう!!!!
・・・その時だった。どこからともなく声が聞こえたんだった。
「こっち・・・」
カチャッ・・・。
どこかで物音が鳴る。
パニックに陥る俺の頭に、何故かその声だけは響き渡った。
俺は気になって辺りを見回す。俺が来た方は・・・、誰もいない廊下を、太陽が落ちきって暗くなった空を一定間隔に並んだ窓が写し出していた。
じゃあ、反対は・・・?
一筋のうっすらとした細い光が扉の間から発している。
そして、その扉を誰かが押し開けて、部屋の中に入って行くのを見た気がした。
「・・・睦月先輩?」
何故そう思ったのか、わからない。でも、そんな気がしたんだ。
『走れぇぇぇ!!』
どこから聞こえたか分からないけど、確かに俺の耳にはそう聞こえたんだ。
俺は咄嗟に走り出し、そして・・・。
「睦月先輩ッ!!」
昨日会ったのに、もう何か月も会ってないようなこの気持ちを込めて、俺は叫んだ・・・。だが、返ってきたのは睦月先輩の優しい声ではなく・・・。
「あぁぁあああん??」
という、ヤクザなどがイチャモンを付ける時に使うドスの利いた声・・・。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
あれ・・・?
「なんだお前ぇ!!」
しまったぁぁぁああああーーーー!!教室に思わず入っ・・・グフォッ!!
そう思う隙も与えられず、何かが俺の左頬を吹き飛ばす。
どうやら殴られたらしい。いやいや、素手の威力じゃないでしょ?鈍器・・・そう鈍器か何かで殴ったような、そんな痛みだった。
「きゃあああーーー」
誰かが叫び声をあげる。多分ことりさんだろう・・・。
「なんだお前・・・。さっき説明会受けていたヒョロモヤシじゃねえか。仲間に入れて欲しいのか?」
リーダー格の奴が俺の事を覚えていた。それにしても先程殴りつけられた左頬が痛い・・・。左手で殴られた痕を押えてみる。
「・・・そんな訳あるわけないだろ・・・。」
「ああん?なんだってぇ??」
リーダー格の奴がまた腕を振り上げる。
ダメだ。怖ぇぇぇえええ・・・。声がでねぇ・・・・。さっき殴られた箇所から危険信号が上がっている。
「おい。こいつ、足震えてるぜ。」
「へっははは。本当だ。カッコ悪い。」
仕方ないだろう。怖いんだから。
「それで?俺たちの仲間に入れてほしくないんだったら、何しに来たんだよ?」
嫌だ、いやだ、イヤダ。殴られるのは嫌だ・・・。
昨日睦月先輩とガラの悪い奴らに囲まれた時とかこんなに怖くなかったのだが、先程の一発が俺を一気に憶病にさせる。
「はっ・・・はい・・・。仲間に・・・」
(ありがとう・・・。)
こんな時、何故か頭に横切るのは、昨日俺がガラの悪い奴にのされて目を覚ました直後の睦月先輩の顔。
すみません、先輩・・・。こんな弱い人間で。強い者に屈する人間で・・・。どうせ俺なんて先輩に相応しい人間じゃんないんです。きっと先輩はそれが分かったから、俺の前に現れないんですよね?
『・・・そんなことないよ』
ダメだ・・・。こんな時まで睦月先輩の声が・・・。
『そんなことないよ。私が知っているツクモはいつも楽しそうで、女の子が大好きで・・・』
あれ?俺ってそんな印象?
『でも女の子の為なら何でもできる勇気がある子だよ。』
ははは。それじゃ、褒められてるかわからないっすね・・・。
「でも・・・。」
「あん?なんか言ったか?」
「でも、そんな風に思ってくれているのであれば、頑張らないとっすね!!」
「何言ってんだよ?お前は!!」
今度は右頬を思いっきり殴られる。
「どうだ。参ったか?」
チッ・・・。口ん中切っちまった。でも・・・。
「いや全然。」
渾身の力で足を踏ん張り、キッと奴らを睨み返し言い放ってやった。先ほどまで俺を縛り上げていた恐怖心が不思議といつの間にか消えていた。
「気持ち悪いんだよッ!!」
怒涛の拳と蹴りが俺に降り注ぎ、それが俺に突き刺さる度、俺は突っ伏しそうになる。でもその度俺の目には何故か睦月先輩の姿が見えた。
「今度こそどうだ!!」
「・・・効かねぇな。・・・それとさっきの質問。」
「ああん?」
「俺、やっぱり、仲間に入れて欲しくなんて全然ねぇわ。」
「・・・てめえ」
三人組はそれぞれ拳を高く振り上げる。
俺はそれを見ると自然と
「かかってこいやぁぁあああああ!!!」
そう叫んでいた。
・・・俺が覚えているのはここまで。この後俺は━━。
☆☆☆☆☆☆☆
『正しいヒーローの作り方』:第七場
あの世とこの世の狭間の世界。
睦月、横になっている。近くには渚が立っている。
渚「お目覚めですか?」
睦月「きゃぁぁあああーー!!」
渚「私は死んだ者を死後の世界に案内する水先案内人。天使の渚です!短い間ですがどうぞよろしく。綾瀬睦月さん。」
睦月「天使…?私てっきり死にが…」
渚「何か仰いました?」
睦月「…いえ。」
渚「まったく、最近ここに来る奴はどいつもこいつも私の事を死神、死神って…」
睦月「でも!どうして私の名前を?」
渚「失礼しました。実は綾瀬睦月さん。あなた、死んだんです。」
睦月「えっ…」
渚「ここに来る前、貴方何をしていましたか?」
睦月「確か…きゃぁぁああああ――――!!」
渚「落ち着いてください。」
睦月「はぁ…はぁ…はぁ。」
渚「少しは落ち着きましたか?これから貴方は私と一緒に死後の世界に行って頂きます。」
睦月「…」
渚「ですがその前に、貴方には四十九日間現世に留まり、貴方に残っている未練や恨みを払い落として頂きます。」
睦月「…どうやって?」
渚「自分が死んだ後の日常を傍観して頂きます。」
睦月「…見たくないです。」
渚「ダメです。掟ですから。」
睦月「…」
渚「…では、天使見習いという事で、私の仕事の手伝いをするというのはどうでしょう?」
睦月「…天使見習いって何をするんですか?」
渚「死者の案内です。ただし!一人だけタイムリープを許している方がいるので、その方のフォローも行います。」
睦月「タイムリープ?」
渚「簡単に言うと、タイムトラベルです。」
睦月「へー」
渚「私達はその方に呼ばれたら現れて、時間を戻すかを聞いて、指を鳴らすだけです。」
睦月「簡単ですね。」
渚「でしょ?しかも、普通は時間を戻されると、その人以外記憶を超越出来ないのですが、私達天使は記憶を維持することが可能です。」
睦月「なんだか良くわからないですけど、お得なんですね。…わかりました。頑張ります。」
渚「結構です。それでは、参ります。付いてきてください。」
睦月、渚、去る。
火葬場。
信太郎、火葬場から出る煙を見上げている、弔問客、色々話をしている。
弔問1「自殺ですって…。」
弔問2「なんでも車が来た時に恋人に突き飛ばされたとか。痴情の縺れってやつ?」
弔問3「あらやだ…」
つかさ、信太郎を探してやってくる。
それと入れ替わりで弔問客達、去る。
つかさ「こんな所にいた。…もう帰るってよ。…信太郎?」
信太郎「あの煙が、睦月なのかな…」
つかさ「たぶんね…」
渚、睦月、現れる。
睦月「…信太郎。」
渚「触れてはだめですよ。私達はこの世界には存在しえない存在。そんな私たちがこの世界に干渉したら、少なからず影響が出てしまいます。…って死神野郎っ!!!」
睦月「えっ?知ってるんですか?」
渚「コイツですよ!私の事を死神とけなした奴は!!あぁ、地獄に落としてやりたい!」
睦月「…どうぞお好きに」
渚「いいんですか?」
睦月「何がです?」
渚「私のメモによると、貴女と死神野郎は恋人関係に…」
睦月「付き合ってなんかいないです。誰がこんな浮気野郎なんかと…。ですから、どうぞ地獄でもなんでも連れて行っちゃってください。」
渚「えっと…、なんか、とてつもなく怒ってます?」
睦月「怒ってません!」
つかさ「ほら、行こう?」
信太郎「…なんでこんな事になっちまったんだろうな?」
つかさ「え?」
信太郎「別に睦月を裏切ろうだなんてこれっぽっちも思ってなかったんだ…。」
つかさ「…」
信太郎「…睦月はさ、俺にとってのヒーローだったんだ。いつもそばにいてくれて、困った事があると優しく微笑みかけてくれて。何度もその笑顔に救われてきた。俺が教師を目指したのも、あいつの様に、俺もいつか誰かのヒーローになれればと思ったからなんだ。それなのに俺は俺のヒーローを裏切っちまった…死んだのが俺だったら良かったのにな。」
つかさ「(信太郎に掴みかかって)アンタ、本気で言ってんの!?」
信太郎「だって、そうだろ!」
つかさ「…」
渚「なんか、険悪な空気になってきましたよ…」
睦月「信太郎…」
信太郎「はは。なにも言い返せないのは、そう思ってるからだろ?」
つかさ「違う!!」
信太郎「じゃあ、何でだよ?」
つかさ「それは…」
弘志、入ってくる。
弘志「信太郎、これ何?…あれ?…取り込み中?」
つかさ「(信太郎から手を放す) …」
信太郎「…」
弘志「あっ、ごめんな。出直してくるわ。気にしないで続けてくれ。レディー・ファイト!!」
つかさ「ちょっと待て!なにか言うことがあるでしょ?」
弘志「だから、ごめんって!」
つかさ「そうじゃなくて。」
弘志「じゃあ、なんだよ。」
つかさ「友達二人が掴み合っています。アンタはそれを見てしまいました。はい、何て言いますか?」
弘志 「レディー・ファイト!」
つかさ 「アンタに聞いた私がバカだった…」
信太郎 「何しに来たんだよ?」
弘志 「あっ、そうそう。信太郎のバッグあさってたら、こんなの見つけた。」
信太郎 「あさるなよ!」
弘志「これって昔流行ったゲーム機だろう?何で持ってきてんの?」
信太郎「いいだろ別に。それに壊れてんだよ、それ。」
弘志「そうなの?」
信太郎「いくら電源ボタンを押しても、電源入んないんだ。」
渚「(携帯電話を取り出して、)あっ、本当だ。たくさん着信来てますね…。」
つかさ「押し方が悪いんじゃない?もう一回押してみたら…。」
ゲーム機に電源が付く。
つかさ「ほら?」
信太郎「(ゲームボーイを奪って)チェンジ・マイ・ライフ」
信太郎以外ストップ。
渚、睦月、現れる。
渚「あなたの運命…」
信太郎「オイぃぃいいいーーーー!!」
渚「ハイッ!!」
信太郎「なんで直ぐに現れなかったんだよっーー!!」
渚「こっちにだって色々用事があるんです!一方的に呼んでおいて理不尽です!!」
信太朗「…あれ?一人増えた?」
渚「ああ、新しく天使見習いになったム…」
信太朗「む?」
渚「むっ、ムニエルです!」
信太朗「外国人ッ!?」
睦月「はっ、はじめまして。むっ、ムニエルです。」
信太郎「大変だね。魚料理みたいな名前で…。あっ、そんなことより時間を戻してくれ。」
渚「また、何かありました?」
信太郎「俺の大切な人が死んじゃって…。」
睦月「大切な人?」
信太郎「ああ、そいつを生き返らせたいんだ。」
睦月「その人が生きたいと望んでいるとは限りませんよ。」
信太郎「それでも頼むよ。」
渚「ムニエルさん。…わかりました。それでは、望月信太郎に神の御加護があらんことを…。」
渚、睦月、陰で見守る。結菜、待ち合わせにやってくる。
結菜「信太郎、待った?」
信太郎「いや、今来たとこ。」
結菜「またまた。まぁ、いいや。行こう。」
信太朗「行くって…どこ行く?」
結菜「ネコカフェに行きたい。」
睦月「ネコカフェ…」
信太朗「…ごめん。やっぱり皆で呑まないか?」
結菜「あっ、ネコカフェ嫌い?別にネコカフェじゃなくても…」
信太朗「そうじゃなくて…。ごめん。昨日、弘志から呑みに行こうって言われたんだけど、断れなくって…」
結菜「…信太郎は私と二人でどこかに出かけるの、いや?」
信太郎「えっ?」
結菜「信太郎は私と二人だと楽しくない?」
信太郎「そんな事…」
結菜「じゃあ、断って。」
信太郎「それは…」
親子連れが通りかかる。
子供「ねえ、ママ?これが修羅場ってやつだね?」
母親「コラ。子供は見ちゃいけません。」
親子連れ去る。
信太郎「とにかく、今日はみんなで呑もう、な?」
結菜「…選んで?私の方が大事か?それともみんなの方が大事か?」
信太郎「俺にとっては、…皆の方が大事だ。」
結菜「(顔面パンチ)」
結菜、去る。信太郎も弘志に電話しながら去る。渚、睦月、出てくる。
渚「良いパンチでしたね。私の胸もスッとしました。…睦月さん?」
睦月「…。」
渚「私思うんです。人は過ちを繰り返す生き物だって。でも、それと同時に反省が出来る生き物だとも思うんです。いけない事をいけないと思い、反省し、次に繋げることが出来る。そんな生き物だと思うんです。確かに信太郎さんは彼女がいるのに浮気っぽい事をしました。本当にいけない事です。許されない事です。でも、信太郎さんはその事をいけない事だと思い、この世界では結菜さんの誘いを断った。上手くやればあなたに浮気はばれなかったかもしれない。それでも、断ったんです。許せとは言いません。でも、チャンスくらい与えてもいいのではないでしょうか?」
睦月「…でも、どうやって?」
渚「あなたはこれから、この世界の綾瀬睦月さんに戻って、この世界の暮らしをして頂きます。その中で答えを見つけてください。」
睦月「…わかりました。」
渚「それでは綾瀬睦月さん、貴方に神の御加護があらんことを…」
渚、去る。
☆☆☆☆☆☆☆




