第六場
俺は走った。
気持ちいい陽射しを降り注ぐ太陽が少しずつ下降し始める中、山頂にそびえ立つ東南大学に昼休みを終える鐘が鳴り響き、講義に向けて学生達が各々の校舎に散っていく。
俺が目指す図書館や記念講堂がある場所は、講義ではあまり使われることのない建物だが、昼休みや放課後に学生達が何かとタムロする場でもあり、こういった休み時間の終わりは、講義に向かう学生達が逆流となって押し寄せてくる。
俺はそれを掻き分けた。
腕を伸ばし、体を右へ左へ。あまり教科書入っていないリュックサックも抵抗となるため、もう片方の腕で抱えた。だが、思いの外前へと進まない。
くそっ、経路を誤った。
東南大学は校舎を縦に割るように公道が走っている。昨夜睦月先輩と出会ったあの場所へ繋がる道だ。
その道は、俺が今必死で掻き分け通っているこの道と平行に走っており、もしかしたらあっちの道を使った方が良いかもと、俺の危機感知システム(直感)がアラートを上げていたが、若干の遠回りとなるため、深く考えることなく、最短距離のこっちの道を俺は選んだ。
急がば回れ。
読みが外れるって言うのはこう言うことを言うんだろうな。
遠回りでももう一方の道を行っていれば、既に目的の広場には到着していただろう。
ええい!今更『たられば』なんて考えても仕方ない。とにかく先を急ぐんだ。
「すみませーん!!通してくださーい!!」
俺は不特定多数に向けて声を張り上げた。もちろんそんな声誰かに届くなんて思ってないし、案の定誰も道を譲ってくれない。それでも俺は足を進めた。少しでも早く、一歩でも早く、辿り着くために!!
それから数分後、俺は図書館と記念講堂が取り囲む広場に辿り着いた。
だが、時既に遅し。その場にはチラシを配っている者などなく、如月直哉と、自分が履修している講義まで時間を潰す学生が数人と、カラスが数羽いるだけだった・・・。
・・・・・・
・・・・・・・・・??
ッ!!
如月直哉ァァァアアアッ!!!
こちらが気付いた事に如月気付いたのか、「やぁ、また会ったね。」と軽く手を挙げ寄ってくる。
「何故お前がここに?」
当然で使い古された質問をする。
「僕はどこにでもいるよ。」
・・・よく言ってる意味が。
「それより残念だったね。このチラシを配っていた女の子、もう講義に行ってしまったよ。」
「そんな・・・」
人混みを逆走した辛さが、また蘇りそれらが俺の肩にのしかかった様に肩にずっしりと重みを感じた。
「気を落とすことはないさ。そのチラシをよく見なよ。」
ん?これか?
「演劇サークル劇団栄華・・・」
「チラシの下の方・・・。」
俺は視点をサッと下げる。
「新会員募集・・・。」
「もっと下。」
俺は視点をスルスル下げる。
「あなたも私達と一緒に・・・」
「もっともっと下。」
俺は視点をガッと下げる。
「連絡先・・・」
「行き過ぎ。ちょっと上。」
はい。ちょっと上・・・と。
「・・・説明会予定」
「そう。説明会。今はね、入学シーズンだからどこの部活やサークルも一部を除いては、説明会をやってるのさ。だから、入会希望の人はそのチラシに書かれた日時と場所に行けば良いと言うわけさ。」
こいつの話し方が鼻につきながらも、ほうほうと頷く。
「それで次の説明会はいつになってる?」
「えっと・・・四月三日の十七時から8号館の8411教室・・・。」
おっ!意外と近そうだな。今日は何日だ・・・。えっと、入学式が確か四月一日で、睦月さんと会ったのが入学式の次の日。更にその次の日だから・・・。三日・・・。
今日じゃァアアアーーーーん!!
しかも、よく見ると1日しか説明会書いてねえし!!
「じゃあ、ちょうど良かったね━━━」
「ああ。でも、危なく逃すところだった・・・って。」
あれ!?如月直哉がいない・・・。
辺りをキョロキョロ見回しても、次の講義まで時間を潰す学生や、カラスなどがそこにいるだけで、如月直哉の姿がない。
あいつ、どこへ・・・。
ツゥーン。
何かが背筋を走る。
そういや、あいつの事名前以外何も知らないな。学年は一緒だとしても、どこの学部なのか、どこ出身なのか。はじめましてが多いこの時期、話すことは盛りだくさんのはず。まぁ、演劇部のことで頭がいっぱいだったと言うこともあるが。
そんなこんなで、俺はその足で自分の講義に向かいながらも、演劇部の事だけでなく、如月直哉の存在が頭から離れなかった。
教室についている丸い時計の針が絶え間なく時を刻み、西の空が次第に赤くなっていく。
時計の針が16時半を指した。
キーン・コーン・カーン・コーーン
東南大学に四限終了の鐘が鳴り響くと同時に、学生が一斉に動き始める。次の講義に向かう者、部活やサークルに参加する者、帰る者。多種多様に目的はあるに違いないが、大半の者は一旦スクールバスの停留所がある管理棟へと向かう。
演劇サークルの説明会開始が17時。
同じキャンパス内。流石に間に合わなくなることは無いと思うが、俺は先程の教訓を生かし、その集団とかち合わないように遠回りの道を選んで、説明会が行われる八号館へ向かう。
八号館は隣に建つ七号館と同じく上は四階、下は地下一階建ての建物で、外装はレンガで覆われており、レンガのかけ具合やレンガにこびりつく蔦等が若干の古さを漂わせていた。
一階の喫煙スペースの横を通り、ガラス戸をギギギッと開け中に入る。
校舎の中も、外見から連想させる古さとそう違いの無い汚さ・・・古さをしていた。
さてと・・・8411教室を探すか・・・。
辺りを見回すと、この校舎の見取り図があり、そこには新入生と思われる男女が数名、手に持っているチラシと地図を見比べていた。おれもそれに混じる様にチラシを取りだし、地図を見る。
8411・・・8411・・・8411・・・。
八号館は横に長く、四階を除いて、一つの階に5から10部屋程の教室があり、それらが区画毎に1から順に並べられている。
8411・・・8411・・・8411・・・。
俺は四階の地図へと目を移す。四階には2部屋しか記されていなかった。
これを見る限り、もう一つ向こうの通路に四階へ上がるためのエレベーターがあるらしい。
俺が再び歩き始めるとコトーン、コトーンと足音が廊下に響き渡る。エレベーター迄の廊下の左側には窓が付いており、赤く染まり始めた光が弱々と差し込んできた。
反対の右側には小ぢんまりとした教室が三つ四つ並ぶ。どの教室にも学生がいないのは新学期が始まったばかりであろうか?
エレベーターの「▲」ボタンを押すと、エレベーターはすぐやって来て、規則正しく並ぶ移動階を指定するボタンから俺は迷わず「4」を押した。
エレベーターが俺を四階へ運んでいる間、次第に俺の胸の高鳴りが大きくなっていく。
『今度こそ睦月先輩はそこにいるのだろうか?』
エレベーターを降り、先程確認した8411教室を目指す間もどんどんと鼓動は大きくなっていった。まるでコトーン、コトーンと廊下に鳴り響く足音をかき消す様に。
そして、一番奥にあった8411教室の扉の取っ手に手をかけた。
・・・ダメだ。緊張し過ぎて手汗が・・・。手汗をズボンで拭うがおさまらない。こう言っちゃあなんだが、俺は人見知りが激しい方だ。睦月先輩や真琴、ここ数日で会った奴らにはあまりそれを感じなかったが、それは場面だったり、人柄のお陰であろう。でも、今回は違う。
THE・初対面感満載だ。どうやって入ったら?自己紹介は?何を話したら?不安がだくだくと満ち溢れてくる。
・・・。
あぁーー!!考えるのはやめだ!!
俺はそれらを振り払う様に大きく息を吸った。
『そして、今度こそ俺はどんな出会いをするんだろう!!』
ドアノブをカチャっと下げ、ゆっくり扉を開ける。ドアの古さを伝えるようにギィーーっと音をたてる扉の傍らから教室の中の光がこちらを照らし、俺の目に光のブラインドを作る。
「・・・入会希望の方ですか?」
俺が一歩教室に踏み込むと、教室の中より声がかかる。その声は透き通りきれいで、そう、まるで睦月先輩の様な・・・。
「睦月先輩?」
「・・・」
次第に目がなれてくる。
どうやらその教室は、普段は受講者の多い講義で使われる大教室らしく、何十セットもの机と椅子が並んでいた。
説明会の参加者は・・・と。
この演劇サークルの人だと思われる女の子が、黒板前に1人立っており、あとは椅子に着席している学生がガラの悪そうな男共が1、2、3人と、あと如月直哉・・・。
なんだ、全員男じゃねぇか。・・・ん?
一瞬そんなことを思っていると、その男共の内の一人がこちらに向かって、手を降っている。
てっ、如月直哉っ!!
何であいつがここに!!!
そんなことを思っていたものだから、「入会希望者ですか?」と聞いてくる女の子の質問に気付かなかった。
「あっ、はい。」
「そうですか。では、そちらに座ってください。」
なんか、色々な感情がごちゃ混ぜになりながら、俺は如月直哉の横に座った。
「(どうしてお前がここにいるんだよ!!)」
「(言ったじゃないか。僕はどこにだって現れるって。そんな事より、ほら、始まるよ)」
「(てめぇ・・・)」
なんかコイツに操られているような気がしてムカッと来たが、色々なものと一緒に飲み込んだ。
「それでは、時間になりましたので、演劇サークル『劇団栄華』の説明会を始めたいと思います。まずはお互い自己紹介からですね。まずは私から・・・。改めまして、経済学部経済学科一年の七瀬ことりです。よろしくお願い致します。ではそちらの方から・・・」
七瀬ことりと名乗った、女の子はガラの悪そうな男を指し促した。
・・・さっきはこのバカ(如月直哉)に気をとられ、意識しなかったが、・・・かわいい!
肩甲骨よりちょっと長めで、ちょうど良い長さの黒髪のロングヘアーに、整った顔立ちと、くりっと大きな目、慎ましい口に塗られた薄い桃色のルージュが少し大人な雰囲気と子供っぽさを両立させる。背も俺より少し低いくらいで、こんな女の子が街を歩いていたら、十人中十人の男が・・・いや、女性も振り向いてしまうだろう。
そして、何より俺の気がいったのは、その声をはじめ、どことなく睦月先輩に似ている点だ。
いや、本当に似てるのよ!!
きれいな声から、顔立ち、佇まいに雰囲気、何から何まで・・・。
だからね、いつの間にか自己紹介が俺の番になっていた事に気付かなかった・・・。
「ツクモ君、ツクモ君・・・キスしちゃうよ。」という言葉と、暖かい吐息が耳にかかり、俺は意識を取り戻した。
「うわぁぁぁあああ」
奇声と共に思わず立ち上がる。
息がかかった方を見ると、如月直哉が前のめりで手を振っている。
「てめぇ・・・」
俺はキッと殺すつもりで睨み付けた。
だが、そんなのお構いなしに、如月直哉は黒板の方を指差す。
「ぁん?」
俺はその指し示された方を疑問に思いながら見る。
するとそこに映ったのは、両の手を腰に手を当てて立つ七瀬ことりだった。
「・・・次、君の番なんだけど。」
「・・・あっ」
「自己紹介・・・いいかな?」
「・・・はい。」
やっちまった・・・。
そう思いながら、俺は簡潔に自己紹介して、席に座った。
「さて、これで全員ですね・・・。では、改めまして演劇サークル・『劇団栄華』説明会にお越し頂きまして、誠にありがとうございます。早速劇団栄華の説明会に入らせて頂きます。」
俺の自己紹介が済むや否や、七瀬ことりが淡々と進行していく。
「━━劇団栄華は演劇サークルという事で、年に二回の公演を目指し、稽古・活動していく団体です。」
年に二回というのが多いのか少ないのか?そんな判断も出来ないので、とりあえず頷くことにする。
「そして、大事な事なので初めに言いますが、劇団栄華は今年度立ち上げたばかりのサークルで、現在、大学側に申請中です。」
・・・。
「ですので、大学側にサークルとして認めてもらう為に、二つの条件をクリアしなくてはなりません。」
・・・?
「まず、一点目。活動内容です。東南大学に所属するサークル並びに部活動は、六月に行われる文化団体全員参加の六月祭と十一月に行われる全団体参加の文化祭・東南祭への参加が必須となります。ですので、私達はまずはそれに向けて活動を行っていきたいと思います。」
だから、年二回の公演なのか・・・。
「そして、もう一つの条件が、人数です。サークル活動として認めてもらう為には5名以上の東南大学の学生が所属している必要があります。」
5名か。こんなに学生がいるんだ、5名なら全然余裕・・・
「ですが、現在劇団栄華に所属しているのは二名となります。」
たった!!たった、二名しかいないの!!!
・・・まあ確かに好き好んで私演劇やりたいですって奴は、サッカーや野球、吹奏楽の様なメジャーなサークルや、バトミントンやテニスなど手軽にはじめて楽しめるサークルに比べたら、大幅に少ないだろう。
「ですが、人数が少ないのが悪いことばかりではありません。」
まあ、確かに人数が少なくても、七瀬ことりさんをはじめ、もう一人の部員であろう睦月先輩、美女二人と仲良くサークル活動出来るのだから、文句はあるまい。
「劇団栄華には現在、私ともう一人一年生の女の子しかいません。だから・・・」
ほら、やっぱりもう一人も女の子・・・って、えっ??
「今なんて?」
つい口に出してしまった。
「えっ?えっと・・・。」
いきなりの質問に戸惑う様にどもる七瀬ことりさん。
不良の様な学生からも、「よく聞いた。」や「節操のない奴」などヤジが飛び交う。
「えっと。・・・女の子しかいません。」
聞きたいのはそこではない。
「もう少し前。」
「えっ?・・・私ともう一人・・・」
「もう一人?」
「もう一人、一年の女の子・・・しかいません。」
一年の女の子?
睦月先輩は確か三年って・・・。別人か?
「だから、同じ一年生同士、縦の関係など気にせず楽しくサークル活動が出来ると思います。━━━」
それから、しばらく説明が続いたと思うが、ダメだ。そのもう一人が睦月先輩なのか否か気になって頭に入ってこない。
どうすれば・・・どうしよう・・・っと、頭を抱えているうちに、どうやら説明会のほとんどの内容の説明が終了してしまったらしい。俺の耳に聞きなれた言葉が入ってくる。
「以上で、説明は終了です。何か質問はありますか?」
俺は考えるより前に手を挙げていた。
「もう一人の女の子の名前って・・・七瀬睦月さんではないですか?」
「えっ・・・」
ことりが俺のガメツイ質問に対して驚いたように、たじろいだが、
「・・・いえ、違いますよ。」
すぐに落ち着いた様に言葉を返してきた。
・・・やはり別人。
俺の真ん中にぽっかりと穴が空いたように力が入らない。
次第に意識が薄れていく。
無理もない。今日一日走り回って探した結果が肩透かし。
「他に質問はありませんか?・・・内容なので、この後十八時より新入生を対象に、演劇の稽古の体験会を行いますので、時間のある人は見ていってくださいね。」
この言葉を最後に、俺はすっと席を立った━━━━。
☆☆☆☆☆☆☆
【『正しいヒーローの作り方』】第六場
居酒屋『ねずみ小僧』
睦月、つかさ、弘志、卓を囲っている。
四葉、店の仕事をしている。
つかさ「ごめんね。教育実習で疲れてるのに、呼び出して。」
睦月「ううん。大丈夫。」
弘志「本当は信太郎も誘ったんだけど、メールの返信なくってさ。」
睦月「そうなの?何で連絡がないんだろう?」
四葉「きっと、返信が出来ないほど、何かに夢中なのね。」
弘志「彼女が出来たとか。」
睦月「…」
つかさ「ぅぅおおーーーいぃーー!!何言っちゃってるのアンタ!!大丈夫だよ、ムッチャン!!」
弘志「ごっ、ごめん。」
睦月「…なっ、何言ってるの。しっ、信太朗がそんな事するはずないでしょ?」
つかさ「…そうだよね。…ねえ!アンタのせいでしょ?どうにかしなさいよ!!」
弘志「う~ん…。」
四葉「悩みなさい。若人達…。」
猫カフェ。
信太郎と結菜が猫1(『鉛の矢』が刺さっている)とジャレている。
結菜「猫抱けるようになって良かったね…。あっ、飲み物取ってくるね。何が良い?」
信太郎「何でもいいよ。悪いな。」
結菜「はーい。」
結菜。去る。
弘志「…よし!電話しよう!」
つかさ「なんで?」
弘志「電話して、確かめれば済む話だろう?」
睦月「そうね!」
つかさ「えっ!」
弘志「よし、決まりだな!」
弘志、信太郎に電話する。
信太郎、ネコ1と戯れている。電話を取る。
信太郎 「はい、もしもし。」
弘志 「あっ、信太郎?昨日何回もメールしたんだけど。」
信太郎「悪い。寝ちゃってた。」
弘志「別にいいけど。今、睦月ちゃん達と居酒屋『ねずみ小僧』で飲んでるんだけど、どう?」
信太郎 「睦月もいるのか…うーん…でも、今回はいいや。」
弘志 「そうか。」
信太郎 「じゃあ、またな。…ほら、あっち行ってろって。」
弘志 「えっ?誰かいるの?」
信太郎、電話をきる。
弘志 「信太郎?信太郎!?…ダメだ。切れちゃった。」
つかさ 「どうだった?」
弘志 「信太郎、誰かといるみたいなんだよ。」
睦月 「一人でいるんじゃないの?」
弘志 「でも、あっち行ってろって言ってた。」
つかさ 「どういう事?」
弘志 「やっぱり仲良くなった女子生徒とよろしくやってるとか?」
つかさ 「なんで女子生徒って分かるの!?」
弘志 「こう言うときは女子って決まってんだよ。」
四葉「ラブコメの王道ね。」
睦月 「…」
つかさ 「…大丈夫だよ、ムッチャン。信太郎はそんなことしないよ。」
弘志 「なんか、楽しくなってきた!師匠、こんな時、私はどうしたら…。」
四葉「もう一回かけてみましょう。」
つかさ 「四葉さんまで!!」
弘志、電話をかける。
信太郎「もしもし?」
弘志「信太郎?今、誰かといるの?」
信太郎「えっ、いないよ。」
結菜、飲み物を取ってくる。
結菜「はい。誰と電話してるの?」
信太郎「おう、サンキュー。…悪いけど、後でかけなおすわ。」
弘志「えっ、今女の子の声しなかった?」
信太郎「わるいな。」
信太郎、電話をきる。
弘志「切られちゃった。」
つかさ「信太郎、女の子といるの?」
弘志「そうみたい。」
つかさ「でも、なんで女の子と…」
四葉「決まってるでしょ。」
弘志「浮気とか?」
つかさ「馬鹿ぁぁあああーー!!」
弘志「なんで俺だけ!!」
睦月「…」
つかさ「大丈夫。信太郎はそんなことしないって!?ね?」
睦月「つかさちゃん…」
弘志「師匠、こんな時私はどうしたら?」
つかさ「私に教えられる事は全て教えたわ。あとは自分で考えなさい。」
弘志「よし!もう一回電話してみよう!」
つかさ「それしか教わってないもんね!?」
睦月「電話してどうするの?」
弘志「何してるか聞く!」
つかさ「直球ぅぅうううーーー!?」
結菜「その猫ばかり見つめてどうしたの?」
信太朗「この猫(猫4)、なんか俺と近いものを感じるんだよな…。」
結菜「そうなの?そうだ、お客さん、ほとんどいないし、ネコたくさん集めて来てあげるよ!」
結菜、猫を集めに去る。
信太郎に電話がかかってくる。
信太郎「もしもし。何度もどうした?」
弘志「お前、今なにやってんだよ。」
信太郎「えっ?…べっ、別に何も。」
弘志「本当か?」
結菜、ネコ2、ネコ3、付いて来る。ネコ3、信太郎にじゃれる。
信太郎「本当だって…あぁん…。」
弘志「えっ、変な声だしてどうした?」
信太郎「舐めるなって、くすぐったい…。わ、悪い!15…いや30分後に連絡するから!」
電話が切れる。
一同「…」
弘志「俺、焼き討ちに行ってくるわ~!!」
つかさ「焼き討ち!?焼き討ちって何!?」
四葉「弘志、落ち着きなさい!!」
弘志「すみません。師匠。ムッチャンと言うものがありながら、別の女とヤってると思ったら、意識が…」
睦月「どういう事?」
弘志「いや、よく分からないんだけど、なんか舐めるとか聞こえてきて…。」
睦月「…」
つかさ「ムッチャン、気を確かに!!」
結菜「なんか電話多いけど大丈夫?急ぎの用なんじゃ?」
信太郎「大丈夫だよ。つかさと弘志にこれから呑みに行かないかって誘われただけだよ。」
結菜「そうなんだ。…行くの?」
信太郎「いや、今日は結菜と先に約束してたから。今度にしてもらった。」
結菜「本当?ありがとう。」
つかさ「行くって言っても、場所分かるの?」
弘志「その辺は大丈夫。俺、前に名探偵専門学校に通ってたから。しばし待たれい…。」
弘志、ガラ携を取り出し、床に配置するとその周りをおもむろに乱舞する。
つかさ「なに、その胡散臭い名前の専門学校は?」
弘志「ダメだ。大体の位置は特定できたけど、詳細な位置までは…」
つかさ「なんでわかるの!?」
弘志「師匠、どうしましょう!?」
四葉「仕方ないわね…。」
四葉、スマホを取り出し、軽く操作する。
つかさ「いやいや、見つかるはずが…」
四葉「見つけたわ。」
つかさ「はやッ!!っていうか、四葉さんって何者?」
弘志「あれ、みんな知らないの?四葉さんは俺に色々な専門学校を紹介してくれる師匠であり、前に言った東京怪盗専門学校の創始者の一人で、第48代ネズミ小僧を襲名した大怪盗なんだ。しかも、『優れた怪盗程何でも熟せる(こなせる)』と言わせる程、何でも卒なくこなせる…って何やってるの!!」
つかさ「警察に通報。」
弘志「止めてぇぇえええーーー!!」
睦月「…ねずみ小僧って、世襲制なんだ。」
四葉「それより大変よ。」
睦月「何ですか?」
四葉「これを見て。この辺りってホテル街よ!」
弘志「あっ、本当だ。あいつ、やっぱりホテルでやってるんじゃ…」
睦月「…わっ、私は信太郎を信じてる」
睦月、武器を持って出ていこうとする。
つかさ「って、言っておきながらどこ行くの、ムッチャン!?」
睦月「だって!」
弘志「とりあえず、行ってみようぜ!!」
睦月「うん!」
つかさ「仕方ない。」
四葉「いってらしゃーい。」
睦月、つかさ、弘志、去る。四葉見送る。
信太郎と結菜、ネコと戯れている。
信太郎「そんなに無抵抗だとやられるぞ。」
ネコ1「浮気野郎に心配される筋合いはないにゃ」
信太郎「そうか。お前も俺の事が大好きか…。」
結菜「信太郎、猫の言葉がわかるの?」
信太郎「うん?全然。」
結菜「なにそれ。そろそろ行こっか。」
信太郎「そうだな。」
信太郎、結菜、去る。
睦月、つかさ、弘志、入る。
つかさ「地図によるとここら辺だよね?」
弘志「あっ、ここだ!やっぱりホテルだったか…」
睦月「信太郎…」
弘志「よし。俺らも入ろう!」
睦・つ「入りません。」
弘志「なんで?」
つかさ「こっちの台詞よ!大体、三人で入ったら、ホテルの人に警戒されるって!」
弘志「そうなの?」
信太郎、別の入り口から出てくる。
一同「…。あぁぁぁああああーーー―――ッ!!」
睦月「…(信太朗にビンタ。)」
睦月、出ていく。
信太郎「睦月!!」
つかさ「アンタ、こんな所で何してんの?」
弘志「やっぱりお前、女子高生とホテルに行ってたのかよ?」
信太郎「はぁ――!?」
結菜声「どうしたの?」
結菜、信太郎と同じ出口から出てくる。
弘志「女子高生じゃなくて、お姉様だったか…」
信太郎「よく状況が呑み込めないんだけど?」
弘志「だから、お前がゲスだったって話だよ。」
信太郎「汚れてないよ!?お前らが思ってるほど俺は汚れてないよ!!」
弘志「汚れてない奴が彼女いるのに、別の女の子とホテルに行くかよ!?」
信太郎「ホテルなんか行ってないって。」
つかさ「じゃあ、なんでホテルから出てくんのよ?」
信太郎「いや、俺が出てきたのはこっちだから!」
弘志「…猫カフェ!?じゃあ、この子は?」
信太郎「お前等分からないのかよ。高校までつるんでた…」
つかさ「結菜ちゃん!?」
信太郎「そう。」
結菜「皆、久しぶり!!」
信太朗「今、たまたま同じ高校で教育実習を受けてるんだ。」
つかさ「そしたらアンタ、結菜ちゃんとホテルでよろしくやってたの?」
信太郎「だから、よろしくやってねぇって!!」
弘志「でも、舐める、舐めるって!!」
信太郎「結菜が大量のネコを連れてきて、そいつらが人懐っこくって。」
弘志「地図はここを示してるし!」
信太郎「ちょっと待て。少しずれてないか?」
結菜「本当だ。拡大すると余計にズレてる。これ隣の猫カフェのビルね。」
弘志「えっと…。いやぁ、浮気とかじゃなくて良かった。これにて一件落着。」
一同「弘志!!」
弘志「ごめんなさぁぁああーーい」
つかさ「うわっ、どうしよ。アンタが女子高生とホテルでよろしくやってるって言うから。」
弘志「なんだよっ!!全部俺のせいだっていうのかよ!!」
つかさ「全部とは言ってないけど…。」
弘志「だいたい、信太郎が変な声だすから」
信太郎「だから、あれは猫が…。って、俺のせいかよっ!!」
結菜「ちょっと落ち着いて!」
つかさ「あっ、そうだ。睦月ちゃん、追わないと!!」
信太郎「そうだった…。ちょっと待てよ。」
信太郎、つかさ、弘志、結菜、睦月を追って去る。
繁華街から公園へ。睦月、足早にやってくる。それを追って信太郎走ってくる。
信太郎「待てって…。」
睦月「放して!(腕を振り解く)きゃっ…」
睦月、去る。車のブレーキ音と衝突音。
つかさ、弘志、結菜、やってくる。
つかさ「信太郎、ムッチャン?」
信太郎「…睦月。むつきぃぃいいいーーーー!」
暗転。
☆☆☆☆☆☆☆




