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キセキのステージ ~ Wildest Dream ~  作者: 一河ツクモ
旗揚げ公演:正しいヒーローの作り方
4/13

第四場

「・・・も」

 遠くで声が聞こえる。だが、瞼がかつてない程重い。

「・・・クモ」

 女の子の声・・・。睦月先輩!!・・・ダメだ。瞼が持ち上げられない。

「ツクモッ!!」

「うわぁぁあああーーー」

 突然の空爆の爆発音の様な音が耳から入ってきて、俺は思わず立ち上がった。


・・・・・・。


俺に集まる視線の数々。辺りを見渡すとここは大学の何かの講義中だった。

『はっはッはッーーーーーー!!』

誰から始まったか分からない笑いが、笑いの嵐を巻き起こす。

「・・・せっかく起こして上げたのに。」

 左隣にいた真琴がつぶやいた。

「・・・お前。初回の講義から爆睡とはいい度胸だな。」

そして、目の前には教授が立っていた。


夢だったのか・・・睦月先輩に会ったことは・・・。


俺は額に滲む汗を袖でぬぐいながら席に座った。

コツッ。

ズボンの左ポケットに携帯電話とは別の小さな異物を感じ、俺は咄嗟に手を突っ込んだ。


夢なんかじゃない・・・。睦月先輩との出会いが夢であるはずがない・・・。


そう思うと俺の中の鼓動が早まっていくのが分かった。

ガタ、ガタガタ。

鼓動の高鳴りが足に伝染し、いつの間にか癖でもない貧乏ゆすりとなっていた。


ダメだ・・・。


いてもたっても入られず、俺は走り出した。

後ろから小声で「どこ行くの、ツクモ」と真琴ちゃ・・・じゃなかった、真琴の声がしてくるが構うものか。


俺の左ポケットに入っていたもの。・・・それは昨日睦月先輩に貰った鍵だったんだと思う。

別に確認していなかったから、多分そう思っただけで、今思えばちゃんと確認するべきだったと思う。


入学三日目。俺は初めて授業を抜け出した。



教室を飛び出すと、俺は取り敢えず演劇部の部室があるであろう部室棟へと足を向けた。

9号館の横を抜け、研修棟の脇を通り、公道を横切って、スクールバスが貯まる大学の駐車場へ。流石に講義中と言うこともあり、生徒が少なく、キャンパスは静かだ。

そして、それらを駆け抜けた先に待っていたのは、一際古さを醸し出す部室棟だった。

その外観は他の校舎と異なって、学校の怪談とかのロケ地として使えそうなくらい古びており、何かの霊が出てきても何ら不思議がないと思う。


まぁ、そんなことはどうでもいい。それにしても、これからどうしたものか・・・。


サークル活動や部活動というのは、大学生活において華だ。それを目当てに入ってくるものもおかしくないと俺は思う。だから、各団体勧誘活動に力を入れ、新入生たちも必死で自分の憩いの場を見つけるのであった。そんな部活動やサークルを見つける方法は二つ。各団体が入学から三日。学校中の至る所に新入部員勧誘のチラシが貼られていたり、休憩時間なんかは所かしこで勧誘活動が行われているのを目にしているが、俺は一度も演劇部の文字を見たことがなかった。


「君、どうかしたか?」


後ろから聞き覚えのない野太い声に呼ばれる。まぁ、入学して三日、聞き覚えている声の方が少ないと言うのは突っ込まないでおこう。


「いえ、部活やサークルに興味があって、見学に来たんですが・・・」


振り向くと、声に似つかわしくないひょろっとした眼鏡をかけ、ちょいロン毛をおしゃれにセットしたキューティクルな優男が立っていた。俺はカッコいいとは思えないがきっと女子はこんなキューティクルな長身イケメンに弱いのだろう。


「おぉ、新入生か!?」

「えぇ、まぁ・・・」

「で、どんな部がお探しかな?」


どこかジェントルマンの様なしゃべり方が少し鼻につく。っていうか、新入生がいきなり授業をさぼっている事を咎めねえのかよ!!って言うか、って言うか、誰!?


「我が東南大学にはサッカー、野球はもちろん、ラグビーやラクロス、テコンドー等、この広大な土地の利を生かして、マイナーなスポーツでも何でも揃っているぞ。あっ、でも卓球部だけはないな。」

「はぁ・・・」

「無いと言うのには少し語弊があるな。昨年まではあったのだが、成績不振と新勢力の部活が躍進したため、練習場を搾取されてしまった。まぁ、弱肉強食というやつだ。仕方あるまい。」


よく舌が回ると感心する。


「ただし。運動部に入るならしっかり心構えをした方がいい。なぜならうちの大学は運動部に大変力を入れているからだ。だから、他の大学の運動部より練習量が多いのは勿論のこと、規律も厳しい。覚悟して入部しなければ一週間ともたず退部。そのまま自主退学と言うケースも珍しくない。」


 こぇぇえええ!


「まぁ運動部に入る気はないので・・・」

「なに!!では我が文化団体かね!!文化団体も数だけでなく、種類も豊富だ。応援団や漫画研究会、軽音部をはじめ、落研、琴和道会、児童研などその種類は五十以上。公式の部にも関わらず部室を与えられないのは心苦しい限りだ。」


先程の運動部の説明よりも何故かより力が入る、優男を見ていると少しひいてしまう。


「あっ、別に児童研といっても、ロリコンのロリコンによるロリコンの為の怪しい部じゃないから安心してくれていい。」


そこじゃねぇよ!!


「・・・実は入る部はもう決めてまして。」

「ほう。何かね?」


やっと、激しい言葉攻めがおさまった。


「演劇部なんですが・・・。」

「演劇部?」


優男の眉間に少ししわがよる。


「・・・種類が豊富と言っておいた手前大変申し訳ないのだが、うちに演劇部は無い。」

「えっ?」


思わず声が漏れる。


「いや、正確では無かったな。現存する演劇部が無いと言うのが正しい。私が入学するより以前にはあったのは確かだ。だが、今はない。」

「いやいや、無いこと無いでしょ?俺、ある人から誘われたんですよ。演劇部に入らないかって。」


どうしていいのか分からない気持ちを声にのせる。


「いや、無い。断言できる。」

「なんでですか?」

「この私が四之宮康隆。東南大学文化団体連合会の会長だからだ。」


なんか偉そうな肩書きと名前だな。


「なんですか?そのなんとか連合会って?」

「文化団体連合会。うちは部活動が盛んだからな。学校側だけでは、部活動の運営まで手が回らないと言うことで、発足されたのが体育会系の部活動が所属する体育団体連合会と文化系の部活動が所属する文化団体連合会だ。だから、その会長である私は全ての文化系の部活を把握しているし、その私が無いと言うんだから、演劇部は無い。」

「いやいや、本当に友達に誘われてたんですって。」

「ふむ・・・。」


会長さんはあからさまに眉間にしわ寄せ考え始める。


「・・・もしかしたらサークルの可能性もあるな。それなら私の管轄外だ。把握出来ていないサークルがあっても不思議ではない。で、その演劇団体の団体名は何と言うのかな?」

「・・・団体名?」

「そうだ。団体名だ。文化団体連合会に所属できるのは、一種類一団体ずつ。だが、同種の団体はサークルを含めると無数にある。例えば軽音や、バドミントンで言うと、部は1つだがサークルは10をこえる。だから、団体を識別するために団体名を付けているのだ。」

「なるほど。」

「それで?団体名は?」

「・・・さぁ。」



分からないのだから仕方がない。


☆☆☆☆☆☆☆

【『正しいヒーローの作り方』】第四場


明転。

信太朗達行き付けの飲み屋。

朝比奈つかさ、山田弘志、卓を囲っている。信太朗、酔いつぶれている。

奥で石川四葉が働いている。


弘志「信太郎…。信太朗…」

信太朗「ぅう…。…あれ?ここは?」

弘志「やっと起きた。」

つかさ「ここは行き付けの飲み屋『ねずみ小僧』。アンタは酔い潰れて寝てちゃってたの。」

信太朗「さっきのは夢だったのか?」

つかさ「何が?」

信太朗「いや、記憶が錯綜していて…」

弘志「やっぱりこの前事故にあった時、頭打ったんだな。」

信太朗「…」

つかさ「私たちの事、覚えてる?」

信太朗「覚えてるよ…。朝比奈つかさ。あれ?お前誰だっけ?」

弘志「なんで俺だけ忘れんだよ!?」

信太朗「冗談だよ。山田弘志。二人とも俺の幼馴染だ。」

つかさ「じゃあ、教員免許取得の為に、会社を辞めて、通信制大学に通ってることは?」

信太朗「…通信制大学ってなんだっけ?」

弘志「俺が説明しよう!通信制大学っていうのは、レポートの提出と長期休暇等を利用してのスクーリングで学位、または教員免許等を取得する大学の事。」

つかさ「今日もムッチャンと行ってきたんでしょ?」

信太朗「ムッチャン?」

つかさ「アンタの彼女。綾瀬睦月。アンタ本当に大丈夫?」

信太郎「あっーー!思い出した。」

つかさ「たく。ふざけてないの。」

信太郎「悪い悪い。」


睦月がやってくる。


睦月「遅くなってごめんね。どうかしたの?」

弘志「いや。信太朗、事故のせいで記憶が曖昧みたいなんだ。」

睦月「ちょっと大丈夫?」

信太郎「心配かけてごめんな。」

睦月「うん。」

つかさ「今度コイツに厄払いしてもらったら?なんか、最近、呪術的な学校に通い始めたんだって」

信太郎「へー、そんな学校まであるんだ。」

つかさ「今は何でもあるよ。神頼み専門学校とか。友情表現専門学校とか。」

信太郎「いらなくね!!」

つかさ「あと、東京怪盗専門学校とか。」

信太郎「いやいや。存在自体ダメだろ?!なに明るく犯罪者予備軍を育成しようとしてんだよ!」

弘志「俺、それ全部通ってた!!」

信・睦「卒業生がいた!!」

弘志「東京怪盗専門学校をバカにすんなよ!あそこも凄い所なんだぞ!なんたって第47 代ねずみ小僧さんの意志を継ぐ、大泥棒達によって創られて…って、どこに電話かけてんだよ!!」

信太郎「警察?」

弘志「売るのか、友達を!!」

信太朗「つかさは何やってるんだっけ?」

弘志「聞けよ!!」

つかさ 「CEO」

信弘不「社長ぉぉおおお!!」

つかさ 「あれ、言ってなかったっけ?私、独立したんだ。はい、これ名刺。」

信太郎 「独立って、何やってたんだよ、今まで?」

つかさ 「まぁ、コンサルみたいなものかな?」

信太郎 「…」

睦月「でも、つかさちゃん、社長さんなのによく毎週、毎週、この『あひるだって空を飛びたいの会』、通称『あひるの会』に参加できるよね。」

つかさ「何言ってるの。石川四葉さんが開いてくれるこの『あひるの会』で、四葉さんに相談したから、私は会社を立ち上げられたんだし。今度は私が返していかないと。」

睦月「私、つかさちゃんと結婚する。」

つかさ「私もムッチャンなら大歓迎。」

信太朗「ぅぅううおおおい!!」

睦月「冗談。焦った?」

信太朗「無職の俺には冗談に聞こえねえよ。…ところで、『あひるの会』って?」

つかさ「アンタ、本当に大丈夫?」

弘志「俺が説明しよう!『あひるの会』とは、俺の師匠、石川四葉さんが開く、何かの夢追うあひるの俺達が夢の空に向かって大きく羽ばたく為に、情報交換や座学などを学び、身に着ける為の集まり、兼、飲み会の事。」

四葉「石川四葉です。(印象に残る自己紹介)」

一同「知ってます。」

つかさ「そういえば、来月から二人とも教育実習だよね?」

睦月「そう。ちなみに明日、受け入れ先の高校でオリエンテーリングがあるんだ。」

つかさ「そうなんだ。頑張って!!」

睦月「うん。ありがとう。」

四葉「では、二人の夢への門出を祝して、カンパーイ!!」


信太朗以外は去る。

渚、現れる。


渚「あなたの運命を決めるゲーム。ここまでの人生を記録しますか?それともしませんか?」

信太郎「いきなりーーッ!!・・・これがセーブポイントか・・・」

渚「あなたの運命を…」

信太郎「分かりました。分かりましたから。…じゃあ、セーブします。」

渚「それでは、望月信太郎に神の御加護があらんことを。(渚、指を鳴らす。※以下略)」


渚、消える。

結菜、信太郎に近づいてくる。


信太郎「はぁ…。」

結菜「…信太郎?…望月信太郎?」

信太郎「おう、結菜。久しぶり…。お前も来月から教育実習なんだろう?よろしくな…。」

結菜「うん、よろしく。って、えっーーー!!なんでわかったの!?」

信太郎「まあ、色々あってな。」

結菜「そう…なんだ。」

信太郎「…はあ。」

結菜「どうしたの?」

信太郎「いや、高橋にこれから三週間いびられ続けると思うと憂鬱で…。」

結菜「ご愁傷さま。でも、私は良かったかな…。」

信太郎「優しい柏先生が担当だったからだろ?」

結菜「信太郎と同じ学校で教育実習ができて。」

信太郎「え?どういう意味?」

結菜「知らなーい。(去る。)」

信太郎「…前と違う。」


睦月がやってくる。


睦月「ついに明日からお互い教育実習か…。あっという間の1ヶ月だったね…。」

信太郎「本当だな…。オリエンテーリングやったのが、ほんの数秒前だった気がするよ。」

睦月「それを言うなら昨日のような気がするとかでしょ?大丈夫。信太郎はこの1ヶ月必死に勉強してきたじゃない。」

信太郎「そのはずなんだけど、この1ヶ月間の事を全く思い出せないんだよな…。」

睦月「なんと見事な?」

信太郎「平城京」

睦月「なくよウグイス?」

信太郎「平安京」

睦月「いい箱作ろう?」

信太郎「鎌倉幕府」

睦月「うん、完璧!!」

信太郎「馬鹿にしてる!?誰でも知ってるから!!」

睦月「じゃあ、サイン・コサイン?」

信太郎「タンジェント」

睦月「ほら、完璧!!」

信太郎「数学!!俺、社会の先生なんだけど!!」

睦月「じゃあ、今の消費税は…」

信太郎「8%…。って一般常識だから!!」

睦月「ですが…」

信太朗「おっと、まさかのひっかけ問題…」

睦月「消費税が10%になるのは何年でしょう?」

信太朗「2019年」

睦月「やっぱり完璧!!」

信太朗「結局、一般常識かよ!!…でも、サンキューな。」

睦月「どういたしまして。」

信太郎「そう言えばさ、睦月、前に学生の苛めについて悩んでたよな?」

睦月「そうだっけ?」

信太郎「あれ、ごめん。勘違いだった。」

睦月「それじゃあ、明日は早いし、帰ろう。」

信太郎「おう。…あのさ。」

睦月「なに?」

信太郎「…前にした約束、覚えてるか?」

睦月「…」

信太郎「俺、待ってるから。」

睦月「うん。」


信太郎、睦月、去る。

生徒達、現れる。


全生徒「そして、教育実習が始まった。」


☆☆☆☆☆☆☆


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