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キセキのステージ ~ Wildest Dream ~  作者: 一河ツクモ
旗揚げ公演:正しいヒーローの作り方
3/13

第三場

トンネルを抜けると見渡す限りの雪景色だったり、眠りから目を覚ますと美女の顔が目の前にあったり・・・。何かから目を覚ました時、美しいものが真っ先に目に飛び込んでくるのが物語の王道だが、俺の場合、苺大福を小さな口に頬張るロングヘアのお姉さんだった。


「うわぁぁああああ!!」

「こんばんは」

「・・・こんばんは」

 反射的に挨拶を返す。


「もう起きて大丈夫?」


 そうだった。俺は真琴ちゃんが真琴君だった事がショックで・・・。そう言えばあの後どうなったんだ?


「同級生の女の子がずっと気にしてくれてたんだよ。」

「そうなんですか?」


 フワフワしたフリルの付いた白いシャツに、薄いクリーム色のカーディガンを羽織り、膝上までの薄青いスカートをはいた女性は、その時の事話してくれた。


「それで、みんなはどうしたんですか?」

「帰ったよ。」


 薄情な奴ら!!


「お姉さんは?」

「あっ、ごめんごめん。私は七瀬睦月。3年生。よろしくね。」


 真正面から見つめてくる七瀬先輩は、俺と三つくらいしか変わらないのに大人びていて、凄く可愛くて、美人で、思わず見とれてしまった。


「・・・どうしたの?」

 その言葉が俺を我に返す。


「えっ、ああ、俺・・・僕は一河九十郎って言います。」

「一河・・・」

「どうかしました?」

「ううん。なんでもない。」

「それにしてもここどこだ?俺、何でこんなところに・・・。」


 俺は辺りを見回したが、全く見たことない景色が暗闇の向こうに薄っすらと広がっていた。


「ここはね、東南大学から山を下った場所。ほら、この桜の木。見覚えない?」


 七瀬先輩が指さす先には、夜空に大きく広がる桜の木が立っていた。


「この桜・・・」

「わかった?」

「ええ。朝、スクールバスに乗っていた時に見ました。でも、なんで俺はこんな所に・・・。」

「なんでも肝試しをやるんだって、ツクモは担がれて来たんだよ。」


 美人のお姉さんにツクモって呼ばれてドキッとする。


「肝試しですか?また何でこんな季節に・・・?普通やるとしたら夏でしょ?」

「あれ、ツクモは知らないの?」


 七瀬先輩がのぞき込んでくる。


「何がですか・・・七瀬先輩?」


  きっかけを作るのだと、名前を呼んでみる。


「睦月でいいよ。」

「じゃあ、・・・改めまして。何がですか、睦月先輩。」

「ふふっ、律儀だね、ツクモは。」


 睦月先輩は軽く息を吸った。


「ツクモは、・・・この時期に出るお化けの話って、聞いたことない?」

「?」

「ほら、この時期に山の麓に聳える桜の木の・・・」

「ああ、そう言えばクラスメイトがなんか言ってたかも・・・。じゃあ、睦月先輩はそのお化けを見るために、ここで幽霊が出るのを待ってるんですか?」


「えっ??あぁ・・・まぁ、そんなところ。ははっ・・・」

「睦月先輩も以外と子供なんですね。」

「もー!ツクモ、上級生に対して失礼だよ!!」


 ぷっくりと顔を膨らませながら睦月先輩が怒るが、その姿が子供っぽくてかわいい。


「ごめんなさい。ごめんなさい。・・・でも、こんな夜遅くに暗いところに女の子が一人でいると、危ないですよ。・・・こんな風に。」


 睦月先輩との話で気づかなかったが、いつの間にか頭の悪そうなセンパイ方三人に囲まれていた。学校の敷地外であり、この時期は例の噂も相まって何人もの学生が訪れるのだろう。だから、この場所はコイツらの絶好の狩りスポットなのだろう。


「よう、後輩。夜遅くにこんな人気の無いところに来ちゃ危ないぜ。わるーいお兄さん達に絡まれちゃうぜ。」


 ロン毛野郎が脅しのテンプレ的な台詞で話しかけてくる。どうにか睦月先輩だけでも守らないと・・・。


「そうそう。」


 スキンヘッドのいかにも頭の悪そうな奴も同意しながら間合いを積めてくる。どうにか睦月先輩だけでも!!


「そうですね。それじゃあ、僕らは失礼します・・・。行きましょう。先輩。」

 冷静を装って落ち着いた口調で言ってみたが、どうだろうか?ビビっている様に見えないか?別にビビっている様に見えてもいい。どうにかこの場を去らないと!!俺は何気ない素振りで睦月先輩を誘導する。

「あぁん??何言ってんだ、てめぇ??」


 ダメか・・・。


「あっ、そうだ、後輩。俺達さ、ちょうど金がなくて困ってんだ。入学祝いに金よこせや。」

「・・・」


 出た。思った以上にストレートな恐喝・・・。もう少しオブラートに包めなかったんかい!!


「ツクモ、どうしよ?」

「・・・安心して下さい。俺がなんとかしますから!」


 ニッ。不安がる睦月先輩を怖がらせまいと無理に笑顔を作ったが、正直、これが精一杯。


「ツクモ・・・」


 少しでも睦月先輩の恐怖を取り除けたかな・・・


「おい、コラッ!!何無視してんだよッ!!」

「(ビクッ)」


 リーダー風の金髪野郎の大声に、俺は思わず反応してしまった。これからコイツらと殴り合うのか・・・。自慢じゃないが生まれてこの方一度もしたことがない。フルボッコされるな・・・。三対一だもんな・・・。ベテラン対初心者だもんな・・・。ええーーい!! 覚悟を決めろ!!睦月先輩を守るんだ!!


「うをぉぉぉおおおおーーーー!!!」


 そこからはもう無我夢中だった!!アドレナリンが俺の体を駆け巡り、それとは別に痛みも身体中を駆け巡り、もう何がなんだかわからなくなっていった・・・。


「うりゃぁぁぁあああああーーーーーー!」


 分からないまま、とにかく両の腕や足を前に振り抜き続けた。


「うぎゃぁぁぁぁああああああーーーーーー!」




 そして、気付いた時には・・・



・・・本日二度目の星空を見上げていた。どうやらまた気絶したらしい。

 遠くで何かの虫の鳴き声が聞こえる。



 ・・・睦月先輩は?俺はさっきと同じようにバッと上体を起こした。


「睦月先輩・・・」


 そうか、睦月先輩は・・・。バッドエンディングが刹那のごとく頭を駆け巡る。だが・・・。


「ツクモッ!!」


 後ろからの大きな声に俺はパッと振り向いた。そこには睦月先輩が立っていた。


「よかっ・・・フゴォ」


 俺が喋ろうとするのを遮る気はなかったんだろうが、心の赴くまま睦月先輩が俺に抱きついたことにより、結果的にそうなった。


「よかった・・・。よかった・・・。目を覚まさないから・・・」


 何か言っているようだが、睦月先輩が泣きながら喋っているのに相まって、睦月先輩の胴体に俺の顔がうずめられて聞き取れない。


「睦月先輩、痛いです・・・」


 聞いてない・・・。でも、やめてもらいたような貰いたくないような。睦月先輩が来ている柔らかいシャツの質感が少し気持ちよかった。・・・あっ、柔らかい部分が俺の頬に・・・。それにしてもなんか眩しいな・・・。

 睦月先輩の胸に埋まった俺の目の近くに、強烈に何かが光っている。携帯の着信か?


「・・・あの、何か光ってますけど?」

「えっ?」


 あっ、やっと話を聞いてくれた。睦月先輩は焦って、服の内側に光る何かを取り出す。

 出てきたのは、首から下げるための紐で一つにまとめられた二つの鍵だった。



「・・・光った。」



 持ち主である睦月先輩にとっても鍵が光輝いているのは意外だっのか、目を丸くしている。

「・・・何ですか、これ?」

 俺が話しかけると、二つの鍵は光るのを止めた。


「えっ、あぁ、ん?うん、なんでもないの。それより帰ろ?」

 明らかに少しどころじゃない動揺を隠すように、鍵をまた服の内側に隠しながら睦月先輩はすくっと立ち上がった。先ほどまで泣きじゃくっていたのがまるで嘘のようだ。

「ほら、何してるの?置いていっちゃうよー。」

「あっ、待ってくださいよ。」


 時計に目をやると、既に21時を回っていた。


 この時間、既にスクールバスの最終便も、民間企業が運営しているバスの最終便も終わっており、山の麓から駅まで歩いていかなければならない。一度スクールバスで通っただけの道のりなので、どのくらい時間がかかるか分からないが、少なくとも三十分から一時間近くはかかるであろう。


「・・・」


睦月先輩は鍵が光り輝いて以来、ずっと黙り込んで、俺の少し先を歩き続けていた。俺は駅までとにかくいろいろな話を睦月先輩にした。子供の頃の話や、地獄の高校生活の話、趣味の話、その他色々。だが、睦月先輩から返答がなく、すぐに話題は終了。さすがのおれの持ち玉も底をつき、禁断の禁じ手、天気の話をしようと口を開いた時、ぶるぉおおんと遠くでエンジン音が聞こえた。どうやら市街地に近づいてきたらしい。


「・・・ツクモは何で東南大学に入学したの?」

 久しぶりに聞こえてくるウグイスの様に綺麗な睦月先輩の声。良かった少しは元気になったのか?

「なんでと聞かれても、ここしか受からなかったと言うか・・・」

「じゃあ、大学で何かやりたいこととかあるの?」

「・・・そうですね。」


 とても言いづらい。「彼女が欲しい!!」とか、とっても言いづらい!!


「無いの?」

「ありますよ!!」

「・・・」

 透き通ったそんな瞳で見つめられると、この邪な気持ちに満ち溢れた回答は言いづらい。

「・・・充実した学生生活とか。」


 嘘は言っていない。


「例えば?」

「例えば・・・、そうですね。サークル活動とか・・・。」


 これも嘘は言っていない。


「あとは・・・れんあ」

「じゃあ、演劇部に入らない!!」


 あと一文字『い』と言うだけだったのに、睦月先輩が話の腰をおる。


「・・・演劇ですか?」

「そう、演劇!!興味ない?」

 先ほどの落ち込んだ空気はどこへやら・・・

「興味なくはないですけど・・・」

「そうなの!?」

「はい。友達と何かを作るって楽しそうな感じですし。」

「そう!すごく楽しいよ!」

「でも、やる気はないですね・・・」

「なんで!!やってみたくないの・・・」

 睦月先輩の表情が言葉一つ一つでコロコロ変わる。

「やってみたいと思わなくはないですけど・・・」

「じゃあ!!」


 高速道路が下を通過するちょっとした橋のを通り過ぎると、目の前の交差点の信号が赤に変わった。


「・・・」


 黙り混んでいる俺にグイグイ迫ってくる。


「わかった!恥ずかしいんでしょ!!」

「・・・」

「大丈夫!!恥ずかしいのは最初だけだよ!稽古してくるとね、何故か自然と恥ずかしく無くなるの!」

「それもあるんですけど。」

「他にもあるの?」

「・・・」


 不思議そうに睦月先輩が顔を覗いてくる。


「何て言うか、演劇って初心者には敷居が高そうじゃないですか。」

「ふふ・・・はははっ」


 睦月先輩は想像出来ないほど豪快に笑った。


「だから、言いたくなかったんですよ!」


 信号が青に変わったのと同時にまた歩き始める。


「ごめんごめん。いやぁ、今までの言動から想像できない程かわいい理由だったから、ついね・・・。」

「・・・」

「でもね、ツクモ。人間、何かを始めるときは誰でも初心者なんだよ。大人になってくると臆病になって、何かに踏み込む勇気をなくしちゃうけど、ツクモは勇気を持ってるもん。だから、大丈夫!」

「・・・勇気、俺、持ってますか?」

「持ってる、持ってる。ほらさっきだって私を守ってくれたし。」

「あれは無我夢中で・・・」

「でも、格好良かったよ。」


 思いもよらない言葉に、俺は耳まで赤くなるのを感じた。


「あと、今も私に理由を打ち明けてくれたじゃない。人に本心を話すことって勇気がいる事だと私は思うな。」

「そうですか?まぁ、あれがすべてじゃないんですけど・・・」

「まだあるの?」


「・・・」


「ここまで言ったんだから言っちゃいなさいよ。」


「・・・ひかないですか?」

「ひかない、ひかない。」


 視界の中に小さく駅が映った。


「彼女が欲しいんです。」


「・・・」


「・・・」


 横の道路に車が一台、通っては消えていった。



「ははははははっーーー」



 先程の比ではない笑い声を上げ、睦月先輩は笑った。


「だから、言いたくなかったんですよ!!」

「ごめんごめんごめん」


 ごめんがさっきより一回多い。睦月先輩なりの誠意なのだろう。


「でも、それだったら、よりうってつけだよ。」

「なんでですか?」


 睦月先輩がニヤニヤしながら悪い顔をする。


「演劇部って、人に魅せてなんぼでしょ?だから、演劇やりたい子ってカッコいい男の子やかわいい女の子が多いんだよ。」

「・・・」


 そして、耳元で囁く。


「だから、かわいい子とお知り合いになるチャンスだよ。」


「本当ですか!!」

「本当、本当!!」

 

そうか、そうなのか、演劇部!!確かに睦月先輩もかわいいし!!うん?あれ?でも、待てよ。自分はカッコいいに含まれるのか・・・?・・・中の中。いや中の中の上以上であると信じたい。


「だから、ツクモにも・・・あっ・・・」

「えっ、なんですか?」


「・・・」


「なんなんですか!?教えてくださいよ!!」

「・・・大丈夫!きっとツクモにも彼女できるよ!!」

「目を見ていってくださいよ!!あぁ、いいですよ!!いいですよ!!どうせ俺には・・・」

「本当、大丈夫!!お姉さんが保証しちゃう。」

「そのお姉さんの本心を今聞いたばかりなんですけど!!」


 思わぬ所で会心の一撃を受けた俺をどうにか励まそうとしているが、そんなんで俺のグラスハートに入った傷は治らない。



「そうだ、じゃあ、私が彼女になってあげる。」


「なってあげるって・・・ぇぇぇええええええーーーーーー!!」



「いや?」

「嫌なわけ無いっていうか、むしろ大歓迎なんですが、そんな軽々となるもんじゃないでしょ!!」

「む、失礼な。」


 睦月先輩が人差し指を立てて続ける。


「私だって誰とも付き合うわけじゃないよ。そこらの変な男とは付き合わないし。」


 そうなのか?会ってまだ間もない俺はそこら辺の変な男の1人ではないのか?


「でも、ツクモの事は気に入っちゃったから、ツクモなら良いかなって。」


 そんなものなのか?


「それで、どうなの?付き合うの?付き合わないの?」


「・・・」


 何を迷うことがある、俺!!


「・・・自分で言うのもなんだけど、こんなかわいい子、そうはいないよ」


 あっ、自分で言っちゃうんだ!!



「・・・御願い致します。」



「はい。こちらこそよろしくお願いします。」



 どちらが先に差し出したか分からない手を握りあう。


「ふふっ、ツクモが彼氏かぁ・・・。なんか、おかしい。」

「僕だってまだ信じられないですよ。」

「ツクモ、初めて彼女ができたんだもんね。しょうがない、しょうがない。ちなみに私にとってツクモは二人目の彼氏ね。」

「それ言っちゃうんですね・・・」

「あっ、ごめん。気にしちゃう?」

「別にいいですけど・・・。」


 でも、意外と少ない。

 気がつくと、駅のロータリーだった。流石に駅前だけあって、この時間でもタクシープールを囲むようにチェーン店がロータリーを賑やかす。


「そうだ。じゃあ、お詫びに私の唯一をあげちゃう。」

「ゆいいつ?」

「はい。これ・・・。」


 睦月先輩はそう言うと、ポケットからプレートに「7」と書かれたキーホルダーの付いた鍵を取り出した。そう、先ほど光っていた鍵だ。


「これは?」


 手にとっても、なんの変哲もない鍵だが、キーホルダーの方は少しばかり使い古されているようだった。


「私の彼氏の証。私の彼氏になったんだし、いずれ使うかもしれないと思って。だから、あげる。」


 彼氏・・・。証・・・。いずれ使う・・・。

 ッッッ!!!!!!

 もしかして睦月先輩の家の鍵っ!!!


「これって!!」

「今は秘密。だから、なくさず持ってて。」


 はい!!絶対になくしません!!


「・・・分かりました。」


 落ち着いた素振りで返事をして見せる。


「よし、じゃあ、私、こっちだから。またね。」

「あっ、はい。また。」


 それだけ言うと、睦月先輩はたたたっと、線路沿いの道に消えていった。


 あっーーー!!連絡先!!!聞くの忘れた!!!

 やり直すことが出来ない事を後悔というのであって、それに気づいたときには既に睦月先輩の姿は見えなかった。


「またね・・・か。」


 まぁ、いっか彼氏彼女の関係になったんだ。焦らずに今度会った時聞けば。そう心で言い聞かすと、俺も東南駅に歩みを進めた。


 明日もどんな出会いが待っているんだろうか。


☆☆☆☆☆☆☆

『正しいヒーローの作り方』:第三場


あの世とこの世の狭間の世界。

信太郎、横になっている。近くには渚が立っている。


渚「お目覚めですか?」

信太郎「うわぁーー!!…あんた、誰?」

渚「私は死んだ者を死後の世界に案内する水先案内人。天使の渚です!」

信太郎「死神の間違いじゃないの?」

渚「はい、地獄行き決定…と。」

信太郎「嘘!嘘です!!…全身黒いスーツ姿だったから、死神かと思ったよ。」

渚「はい、地獄行き決定…と。」

信太郎「ワンモア・チャンス・プリーズ!!」

渚「死神なんかと一緒にしないで下さい。私はこの仕事に誇りと夢を持っているんですから。」

信太郎「誇りと夢?」

渚「はい。私には人間に転生するという夢があるんです。それを叶える為に私は今日まで誇りをもって、天使の仕事を全うし、徳を積み重ねてきました。」

信太郎「はあ…。」

渚「…では、本題に入らせて頂きます。」

信太郎「本題?」

渚「貴方、先程交通事故に合われて死んだのです。」

信太朗「えっ…?あっ!!いたたたたぁぁぁぁあああああ……くない。どういう事?」

渚「思念体ですから、痛みはありません。話を戻しますが、実は貴方、まだ死ぬ予定では無かったのです。」

信太郎「さっき、地獄に落とされそうになったのに?」

渚「貴方が死ぬのはあと五十年後…。それがちょっとした手違いがありまして。」

信太郎「なんだよ、手違いって?」

渚「…『金の矢と鉛の矢』って話をご存知ですか?」

信太郎「いや。」

渚「天使が持つ矢には二種類存在します。一つが刺さった者に少しの幸せを呼び寄せる『金の矢』。もう一つが、刺さった者に不幸を呼び寄せる『鉛の矢』。これ(信太朗の背中)を見て下さい。」

信太朗「これは?」

渚「おめでとうございます。あなたにはその『鉛の矢』が少し前から刺っているんです。」

信太郎「ちょっと待て!もしかして、俺のプロポーズが保留にされたり、交通事故にあったのって…。」

渚「…」

二人「(笑いあう。)」

信太郎「人の一世一代のプロポーズを何だとおもっとんじゃーー!!」

渚「ごめんなさぁぁぁあああい!!」

信太郎「ごめんですむかぁぁあああ!!」

渚「…そこでですね。貴方にプレゼントがあります。」

信太郎「そんなんで許してもらえると思っとんのか!?」

渚「(見習い天使がゲーム機を取り)トゥッ、トゥルー!これは貴方の運命を決めるゲーム機です。」

信太郎「バカにしてんの!?」

渚「嘘ではありません。まぁ、決めると言っても、まだ何もセーブされておりませんので、ほとんど決める事はできません。ですが、貴方は一つだけ選ぶことが出来ます。『生きる』か、『死ぬ』かです。(渚が『最初からはじめる』と『ゲームをやめる』のパネルを取り出す)」

信太郎「極端!!」

渚「先程も言いましたが、貴方は現在仮死状態です。生きる事も、死ぬことも可能です。あなたが『最初からはじめる』を選択すれば、病院のベッドで貴方は目を覚まします。逆に『ゲームをやめる』を選択すれば、そっと息を引きとります。ではあと10秒のうちに選択して下さい。十…(以後、カウントする)」

信太郎「えっ、そんな急に!」

渚「ゲームのコンティニュー時間は10秒と決まっています。」

信太郎「えっ!!」

渚「三…」

信太郎「生き返る!!望月信太郎、『最初からゲームをはじめます』!!」

渚「…この先沢山の辛い事が待ち受けていたとしても?」

信太郎「それでも、生き返るチャンスがあるのに生き返らない奴はいないだろ。」

渚「…わかりました。では、ゲームの説明をさせて頂きます。」

信太郎「ああ。」

渚「現世に戻る際、貴方にこのゲーム機をお貸し致します。これを持っているとセーブポイントが現れ、そのセーブポイントで貴方は、今までの人生をセーブするか、しないかを選択できます。」

信太朗「セーブ」

渚「はい。セーブをすることで、貴方はそのセーブポイントから人生をやり直すことが出来ます。ただしセーブをする際は気を付けて下さい。メモリーには一つの未来しかセーブ出来ません。ですので、以前セーブしたポイントからやり直したくなっても、セーブポイントを上書いてしまった場合、以前のセーブポイントからやり直すことは出来ません。」

信太郎「じゃあ、セーブしなければいいんじゃないの?」

渚「それもダメです。セーブデータは1週間しか保持できません。1週間が過ぎてしまうと、『ゲームをやめる』しか選択出来なくなります。ということは…」

信太郎「死ぬの!?」

渚「それはもう苦しんで!!」

信太郎「マジで!?」

渚「マジです!ですので、小まめなセーブをオススメします。最後に、掛け声の説明です。『続きからはじめる』場合は、ゲーム機の電源を入れながら大きな声で『チェーンジ・マイ・ライフ』と叫んでください。」

信太郎「えっ?」

渚「『最初からはじめる』場合は『ツベルクリンハンノーゥ』。『ゲームをやめる』場合は、『ウィンドブレイカー』。以上でゲームの説明は終了です。」

信太郎「ちょっと待ったぁーーーッ!」

渚「はい。望月さん。」

信太郎「おかしいでしょ、最後の二つ!言い方だけで、物凄く聞いたことがある単語でしたけど!!」

渚「叫ぶ言葉なんてなんだっていいのです。ですので、ヒーローの必殺技の名前っぽい単語にしてみました。」

信太郎「イヤァァぁあーー!」

渚「他にも『イヤホンジャァァァクッ!』とか考えたんですけど…」

信太郎「もう。さっきので良いです。」

渚「他にはございませんか?」

信太郎「要はこのゲーム機を持って生活して、現れるセーブポイントでセーブして、やり直したくなったらゲームを起動すればいいんでしょ?」

渚「そうです。大丈夫そうですね。ちなみに同じセーブポイントから始められるのは2回までです。それでは…」

信太郎「ウェイト・ア・ミニッツぅぅううう―――!!えっ、回数があるの?」

渚「はい。2回までやり直せます。2回以上やり直そうとすると、選ぶことが出来るのは、『ゲームをやめる』のみとなります。」

信太郎「大事な事をしれっと…」

渚「では、最後にもう一度だけ聞きます。」

信太郎「…」

渚「あなたの運命を決めるゲーム。はじめますか?それともやめますか?」

信太郎「はじめる。はじめてくれ。」

渚「それでは望月信太郎に神のご加護があらんことを。」


渚、指をはじく。渚、見習い天使、去る。

オープニング、ダンスや身体表現。

暗転



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