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キセキのステージ ~ Wildest Dream ~  作者: 一河ツクモ
旗揚げ公演:正しいヒーローの作り方
2/13

第二場

━━俺は兄貴が嫌いだ。



俺には数年前まで九歳離れた兄貴がいた。



兄貴は昔から頭も良ければ運動もできる。俗に言う『神は二物を与えた』っていう言葉を体現したような人だった。



でも、兄貴はそれを鼻にかける事はなく、ガキだった俺が「遊んで」と甘えれば、当時中学生だった兄は部活動で疲れていただろうに、文句も言わずに俺と遊んでくれた。



その頃、俺は兄貴が大好きだった。



・・・俺が兄貴の事を嫌いになりはじめたのは、俺が学校に入って、テストや試験で他人と比べられるようになってからだ。


学生時代って言うのは、大人達はどうしても子供たちに優劣をつけたがる。


算数や国語、理科、社会、英語に始まり、体育のスポーツテストはオーソドックスなものとして、家庭科のリンゴの皮むきまで・・・。


いや、別にいくら剥いた皮の長さを比べられてもな・・・。将来の役に立つのだろうか?



そして、保護者も参加する運動会や授業参観。


運動会は赤組・青組・黄色組なんかに分かれて競い合うからまだわかる。だが、授業参観に至っては授業やん!競い合うもんじゃないやん!!



俺はとにかく親の為に頑張った。

頑張って、頑張って、トップを取り続けた。

算数や国語、理科、社会、英語は小学校ではずっと学校トップ。

運動だって大抵のものはトップだった。



でも、人間には誰だって苦手なものはある。

それは俺だって例外ではない。


俺はとにかく家庭科が苦手だった。

ミシンを扱うと縫っていた布と一緒に自分の袖を縫ったり。味噌汁を作るはずが理科の実験で使う薬剤の色になったり・・・。



もうね、包丁を握ると手が震えるね!!



そんな苦手な家庭科があるせいで、俺はいくらテストで百点をとろうが、父さんや母さんは褒めてくれなかった。


あろうことか決まって父さんや母さんはこういう。


「お兄ちゃんは百点だったのに・・・」


その言葉とその後の溜息は今でも忘れられない。

俺はその言葉とため息を聞く度、父さんと母さんから心が離れていった。


そして、兄貴も決まって言うんだ。


「気にするな」と。


その言葉を言う兄貴の顔を、俺は一度も見る事が出来なかった。悔しさや怒りを、とにかく手に握りしめるので精一杯だった。



いったい兄貴はどんな気持ちでいたのだろうか?



━━兄貴が亡くなったのは、それから何年も後、大学三年、俺が中学一年の冬だった。


兄貴は大学で何かのサークルに入っていて、そのサークル活動中サークルの仲間と一緒に交通事故にあったらしい。



大好きだった・・・いや、大嫌いだった兄貴は呆気なく亡くなった。



それからと言うもの、父さんや母さんが俺を見て言う事が変わった。


「なんで出来の良いお兄ちゃんの方が死んで・・・」


その先の言葉は聞かなくても察しが付く。

俺はこの何年間兄貴に追いつくためだけに生きてきたと言っても過言ではない。


だから、大学も自然と兄貴の通っていたこの東南大学を選んだ。


そして、俺はこの春、ついに目標としていた兄貴と肩を並べた・・・。



並べた・・・。並べたんだ・・・。



これからは、俺は俺の為に生きるんだ。




・・・でも、俺のこの胸に引っかかるモヤモヤ。



いったい兄貴はどんな気持ちでいたのだろうか?




☆☆☆☆☆☆☆

『正しいヒーローの作り方』:第二場



夜の公園。結城信太郎がやってくる。信太郎に『鉛の矢』が刺さっている。


渚「刺さってる!!…まずい。非常にまずい。このままではこの男に不幸なことが…」


そこに綾瀬睦月がやってくる。


睦月「信太郎。」

信太郎「睦月。」

睦月「遅くなってごめんね。」

信太郎「いや。俺も今来た所だから。」

睦月「話って何?」

信太郎「ん?…んん。」

睦月「なに?」

信太郎「…あのさ、俺達って付き合ってどのくらいかな?」

睦月「ん?そうだね…。大学1年からだから、8年くらい?それがどうかしたの?」

信太郎「いや…」

睦月「へんなの。」

信太郎「…あのさ、ずっと言おう、言おうと思ってた事があるんだ。睦月が俺のヒーローであるように、俺に睦月の未来を守らせて…」

睦月「ストップ。」

信太郎「え?」

睦月「今は私達二人共大事な時でしょ?…だから、今はダメ。」

信太郎「じゃあ、いつなら良いんだよ?」

睦月「コホン。望月信太朗くんに問題です。」

信太郎「…はい。綾瀬睦月先生なんですか?」

睦月「一度は就職したものの、やっぱり教師になりたいと会社を辞めて、教員免許取るために通信制の大学に通い直して、既に何年が過ぎようとしているでしょう?」

信太朗「2年…」

睦月「正解。続いて第二問。来月に予定されている、先生になる為に必要な大事な事はなんでしょう?」

信太郎「教育実習…。」

睦月「正解。」

信太郎「別に教育実習があったって。」

睦月「…私はちゃんと生徒と向き合いたい。だから、分かって?」

信太郎「…。」

睦月「…もし、教育実習がお互い成功して、理想の教師の階段を一段昇れたら、夢に一歩近づけたら、その時はもう一度信太郎の口からプロポーズして。その時はちゃんとお返事するから。」

信太郎「…うん。」

睦月「分かってくれてありがとう。…じゃあ、帰ろう。」


睦月、信太朗、去る。


渚「…あれってやっぱり『鉛の矢』のせいですよね。」


車の急ブレーキの音と衝突音。


渚「効果抜群!!」


暗転。


☆☆☆☆☆☆☆

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