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キセキのステージ ~ Wildest Dream ~  作者: 一河ツクモ
旗揚げ公演:正しいヒーローの作り方
1/13

第一場

 ━━俺はあの時からずっと東南大学演劇部、通称『劇団現身』の記録を付けていた。



 日記とか日誌と言うにはあまりにも濃密で、小説と呼んだ方がしっくりくる、そんな日々の記録。



 これから語るのは、無名校が努力と根性で成り上がっていく様な、そんな『奇跡』の物語じゃない。



 色んな人達との出会いや別れが織りなす、『劇団栄華』復興への『軌跡』。



『キセキの物語』だ━━。





 電車で一時間程、東京から埼玉に向かって走ると、俺がこの四月から通うことになった東南大学の最寄り駅『東南』駅がある。駅の周りには三階建て以上の建物が一件もなく、どうにか小さな店が立ち並んでいた。しかも、駅から少し離れると、空き地や駐車場、農地が目立つ。それが埼玉県東南市であり、東南駅である。

 そして、その東南駅から更にスクールバスで十五分程行った所に、俺が通う東南大学はあった。

 見渡す限りの緑と新入生を祝福するかの如く咲き誇る桜、景観を損なわないように建てられた三~四階建ての校舎と、広々と整地化されたグランドは周りの自然と一体となって無数に建てられている。その広大な光景だけで、ずっと都会で暮らしてきた俺は圧倒された。

だから、スクールバスに乗っていた十五分の間に、信号に捕まったのが一回だったり、大きな動物公園を横目にしたり、自転車競技を行う奴らには有名な山を登ったりしたことは触れないでおこう・・・。


 今日は、四月二日月曜日。昨日入学式を終え、今日は二回目の登校日であり、新入生を対象にオリエンテーリングが開かれる日だ。


 そんな今までとは全く違う環境で、今日、俺はどんな出会いをするんだろう━━━。


 心踊らせながら俺は、新入生対象のオリエンテーリングが開かれる教室のドアを開けた。



 見渡す限りの男子学生━━━。



 ・・・パタン。

 思わず、ドアを閉める。

 ・・・。

 ?????????????????

 ・・・あれ?

 頭に浮かびまくる「??」を追い出す様に深く息を吸い、とりあえずさっきまでの新鮮な気持ちを思い出し、もう一度ドアを開けた。

『・・・どんな出会いをするんだろう━━━。』



 見渡す限りのムサ苦しい男の園━━━。



 違うんだァァぁぁぁああああーーーー。俺が望んでいた大学生活は真逆なんだ!!

 他に合格した高校が無かったので仕方なく入った男子高校。それが地獄の始まりだった。楽しいと思ったのは初日のみ。それから三年間、ひたすら『ムサ苦しさ』と、バカ騒ぎする『男子校のノリ』に耐えて、耐えて、耐え続けた。その精神的苦痛に錯乱を起こし、進路希望に女子大と書いて、先生にこっぴどく怒られもした。

 そして、迎えた『卒業』という名の解放。やっと女子と交流を持てる、いや、お友達に・・・、否、彼女を作れると思っていたのに!!


 なぜ、男しかいないんじゃぁぁぁああああーーー!!

 共学って書いてあったのにぃぃぃいいいいいいい!!!!!!


 俺は気付かぬ内に地面を叩いていた。

「あのー」

 ん?

「入り口でそんなことやってると迷惑だよ。」

 俺の後ろから誰かが可愛らしい声をかけてくる。俺は咄嗟にその天使を見るべく振り向いた。

 そして、そこに立っていたのはまさしく天使。ショートカットではあるものの、整え切られたサラサラの髪に、パッチリくりくりの目、人形の用意整った顔立ち、どこかふわっとしたパーカーの様な上着と、パッツンと肌に密着し足の綺麗な曲線を見せるジーンズと、白色のシューズ。全体的に淡い色で統一されているからなのか、天使のように見える。

「・・・大丈夫?」

 ・・・。

「天使だ。」

「えっ?」

 思わず心の声が漏れてしまったことに気付く。

「あっ、いや、なんでもない。」

「そう?」

 天使ちゃんは俺を気にしながらも、大きな教室に規則正しく並んだ机達の中から、良さそうな席を探し始めた。俺もそれに続くが、来る時間が遅かったせいか、後ろの席は既に野郎共で埋まっており、空いているのは一番前やせいぜい二列目くらい。

 あっ、そうだ。この子の名前を俺は知らないから、さっきから俺の中でとりあえず天使ちゃんと呼ぶことにしている。

 天使ちゃんは空いてる席の中から、窓際の前の方の席を選び、席に着いた。


 瞬間、教室中の野郎の視線が天使ちゃんの横の席に集まるのを、一番近くにいた俺は感じた。


 ニッ・・・。

 せっかく見出した薔薇色のキャンパスライフ。逃してなるものか!!

 

俺は「隣いいかな?」と声をかけながらも、即座に隣の席に座り、天使ちゃんに選択の余地を与えなかった。その間約三秒。


 チィッ!!


 かつてない舌打ちの大きさを耳にし、俺はたまらず振り返った。

 殺気と憎悪を帯びた視線や、狂気にも近い視線が俺を一点に俺を睨んでくる。


「えっ、なに?」


 さすがに不審に思ったのか、天使ちゃんも振り返る。

 気持ち悪いくらい好意的な笑みに一瞬にして切り替わるその様に、俺は「なんでもないよ・・・。」としか言えなかった。


「そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕は六本木真琴ロッポンギ マコト。真琴でいいよ。よろしくね。」

 天使ちゃんが挨拶してくる。でも、自分のことを僕って・・・。そうか、僕っ娘か・・・。

「俺は一河九十郎イチカワ ツクモ。俺も気軽にツクモって呼んでくれて構わないから。」

 そんなテンプレートのような自己紹介をしていると、ガイダンスを行うために数人の大学事務員が山のようなプリントとシラバスを持ってやって来た。


 第一ラウンド『ベストポジション争奪戦』の終演のゴングが、野郎共の心の中に鳴り響く。

 よしッ!!心の中でガッツポーズを高々に俺は掲げた。


 その後のガイダンスの間も突き刺さるような憎悪を感じはしたが、それは大した問題ではない。肝心なのは、一番最初にお近づきになること。一番と二番以降では大きな差がある。初彼氏とか初エッチなんかが忘れられないのと一緒で、二番目以降は『その他大勢』の一人にすぎなくなってしまう確率が非常に高い。とにかく一番はなんでも印象に残るものだからだ。

 これで他の男子生徒より、薔薇色のキャンパスライフに一歩リードだぜ!


 そして予想通り、ガイダンス途中の休憩の度に薔薇色キャンパスライフ争奪戦の開始を告げるゴングが鳴り響いた。


この夜の街灯に群がる二番煎じどもめ!!

俺は男どもに囲まれ、困っている真琴ちゃんを彼氏気取りで助けながら、若干の優越感に浸っていた。

 そんなウジ虫共の一人が話題を変える。


「そう言えば、真琴ちゃんはこの学校お化けが出るって知ってる?」

「あっ、知ってる。なんでもこの時期にしか出ないんでしょ?しかも苺大福を持ってると出やすいとか!」

 真琴ちゃんも意外と食いつきがいい。

「そう、しかも校門を出て、山を下った所に大きな桜があるっしょ?その桜が満開の時だけ出現するんだって。どう?よかったら一緒に肝試しなんて?さっき確認したら桜満開だったんだ。」

 ふん。俺の真琴ちゃんがそんな安っぽいナンパに・・・。

「面白そう」

 のったーー!!

「よし、じゃあ決まり!!」

 不味い。まずい!マズイ!!俺の天使ちゃんが・・じゃなかった。『俺の』真琴ちゃんが!!こんな二番煎じ共に取られてしまう!!!

そうとなれば俺も便乗して・・・


 はぅッ!!


 急に体の奥底から尿意が催してきた。それもそのはずだ。オリエンテーションが始まったのは八時四十五分。現在はお昼ご飯も食べ、太陽も傾き始めた十五時・・・。その間『俺の』真琴ちゃんを取られない為に一切この席を離れていないのだから、尿意を催しても仕方がない。でも、アイドルはトイレなんかしないと聞いたことがあるが、まさか真琴ちゃんも一切トイレに行かないとは・・・。その説は本当だったんだな。

 そんな風に俺が尿意に気を取られている間にどんどん話が進んでいく。

あぁ・・・どうしよう。どうしよう。俺の真琴ちゃんが!!だが、仕方ない。

「わりぃ、ちょっとトイレ」

 と言って野郎どもをかき分けトイレに走った。さすがに天使ちゃんの前で小便を漏らすわけにはいかない。

 俺が今いる二号館は、扇の大きな階段状の造りをしており、まさに大学の教室というイメージと相まって、とにかく古くて、ボロい。

 だから、トイレの戸を開けるだけでも、大きなギィーと音を発する。まぁ、水洗トイレと言うのが唯一の救いであろう。

トイレの中には誰もおらず、俺は一つの便器の前に立ち、社会の窓を開け、用をたし始める。再びギィーと言う音がなり、

「二号館って、ちょっと古くて怖いよね・・・」

 誰かが俺に声をかけてくる。

 礼儀知らずめ。男は用をたっしている時無防備になるというのに。

 俺が適当に「そうだな」と言葉を返すと、誰だか分からないソイツは俺の分身を覗き込んできた。

「うわっ、ちょっと大きいね。」

「ちょっ!!」

 俺は無防備ながらも、除かれるのを防ごうと立ち位置を斜めにし、俺のマグナムを隠した。

この無礼者め!!用を達している最中にお互い顔を確認しない、マグナムを覗き込まないが暗黙の礼儀だというのに。話しかけてきただけでなく、俺のマグナムまで覗き込みやがって・・・。顔を拝んでやる!!


「やぁ。」


 ショートカットの女の子が気さくに挨拶をしてくる。


あれ?


それはとても見覚えがあると言うか、さっきまでどこかで・・・。


「・・・えっ??真琴ちゃん??」

「あっ、名前覚えてくれたんだ。」

 優しく微笑みかけてくるが、そんなことはどうでもいい!!

「なんで、ここに?」

「なんでって、僕もトイレ行きたくって・・・。」

 ふぅーん、そうなんだ・・・とは、ならないぃぃぃいいいいいいいッ!!

「何でここにいるの!?」

「えっ、ここがトイレだから・・・」

「そうじゃなくて。ここ。男子トイレだよ!!」

「僕も男だよ。」

 ??

 ・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・。

「ええぇぇぇええええええーーーーーーーーーー!」

 うそだ。ウソだ!嘘だぁぁぁああああああ!!

 真琴ちゃんが男なわけない!!かわいくて、優しくて、可憐で、そして、優しくて!!あっ、優しくて二回言った・・・。そんなことはどうでもいい。とにかく大学生になって初めて出来た、こんなに可愛い女友達が男なわけない!!

「嘘じゃないよ。ほら・・・」

 どこからか心の声が漏れたか、もしくは心を読まれたか知らないが、真琴ちゃんは恥ずかしいそぶりも見えず、女なら本来ついていない、ちょっと大きめのマグナムを見せてくる。


「でけぇ・・・。じゃなかった、いやぁぁぁあああああああ!!!」


 声にならない心の雄たけびを上げると同時に俺は崩れ落ちた。俺の象さんも水遊びを終える間際で、何回か脈打ったが、落ち着いて考えるとまき散らすなんていう大惨事にならなかっただけ良かったが、この後記憶が俺にはない。


☆☆☆☆☆☆☆

『正しいヒーローの作り方』:第一場

夜の公園。


そこに渚現れる。


渚「世界には数多くの法則が存在します。その法則の一つに、化学変化の前後では物質の質量は変わらないと言う法則、『質量保存の法則』があります。そして、それはこの世の生死を司る輪廻にも適応されるのです。例えば、人が1人生まれれば、この世のどこかで一つの命が失われます。そして、それは逆も然り。そうやって、世界の質量は保たれているのです。そして、それを保守するのが私の仕事の一つ。そして、私のもう一つの仕事はコレ!(渚、キューピットの弓矢を取り出す。)そう、この『黄金の矢』を使って、人間界の幸福を保つこと!」


神様がやってくる。


渚「ですが時々、刺さった者に不幸を呼び寄せる『鉛の矢』が混じってるんです。私も先程見つけて、端に避けておいたのですが失くしてしまって…神様にバレる前に見つけようと・・・。」

神様「バカモーーン!!」

渚「ぎゃぁぁあああーーーー!!神様!!」

神様「そんな大事なものを失くしおって!!」

渚「ごめんなさーーい!!」

神様「あれが人間に刺さったらどうするつもりだ?一度刺さったら抜けんのだぞ??」

渚「そうは言われましても…」

神様「言い訳はいい!…お前、何かあったら人間に転生する夢は諦めるんだな。」


神様、去る。


渚「私には人間に転生するという夢があります。それを叶える為に今日まで私は、地道に輪廻と人間の幸福のバランスを保ち、徳を積み重ねてきました。そして、やっとあと二人にまで迫ったのに…。私はミスを挽回する為、『鉛の矢』を探して、現世に降り立ちました…。」


☆☆☆☆☆☆☆



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