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不死身で無能な最強の盾  作者: Hoto
第一章:金髪碧眼の魔法少女
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プロローグ

処女作です。

「ん…う~ん……」


 目が覚めたら俺、藤代守は見知らぬ場所にいた。

 どこを見ても真っ白な何も無い空間だった。


 え、何、誘拐?

 参ったな~、ヤンデレちゃんに攫われちゃったのかな。

 これからエロエロな生活が始まっちゃう?


 なわけないだろ。

 大体、ヤンデレの監禁生活なんて恐怖でエロスを感じる暇が無いわ。

 

 それ以前に、俺に女の子との関わりが無さすぎて恐怖だ。

 最後に女の子と会話したのなんて何年前だよ。


 ――そうだ、女の子。


 確か俺は、男に襲われそうになった女の子を助けようとしたんだ。

 襲われると言ってもエッチな意味ではなく、暴力的な意味で。


 女の子はナイフを持った男に刺されそうになっていた。


 そんな女の子の前に、何を血迷ったのか俺は颯爽と駆けつけて、そして――

 

 あっさり殺されたんだったな。


 無理もない、俺はアニメにゲームにとオタク趣味にかまけている、ただのもやし野郎なのだから。


 「案外、何も感じないな……」


 自分が死んだというのに、人生が終わってしまったというのに。

 悔しいとか、悲しいとか、心残りとか。

 そういったものは一切感じない。


 人生詰んでたとか、死にたかったとかそんな事はない。

 ごく普通の高校生活を送っていたにも関わらず。


 「それだけ君が空っぽな人生を送っていたという事だよ」


 突然、後ろから声が聞こえる。

 振り返ると、そこには天使がいた。


 いや、天使のように美しいとかそう言った比喩ではなく。

 白い衣装に立派な翼、頭上には光の輪が浮いている。

 まんま、天使そのものだった。


 ちなみに容姿も天使のように美しい。

 年齢は少なくても見た目は俺と同じくらいだろう。

 銀色に輝く髪に青色の瞳。

 陶器と見間違うくだい綺麗な肌に恐ろしいまでに整った顔立ち。

 完璧すぎて言葉も出ない。


 そんな天使は、俺が驚いているのを満足そうに眺めると不敵に笑って


 「どうも、私は天使。親しみを込めて天使ちゃんと呼んでくれたまえ」


 と言った。


 「了解、天使ちゃん」


 俺は特に断る理由も無かったので、そう呼ぶ事にした。


 「ごめん…やっぱやめて」


 対して天使ちゃんはしゃがみ込んで両手で顔を覆う。

 思いのほか、恥ずかしかったんだろうなぁ…。


 俺にも似たような経験はあるので、同情してしまう。

 なので、俺は優しい言葉をかけてやる事にした。


 「まぁ、そう気を落とすなよ天使ちゃん。誰にだって失敗はある。それこそ天使の天使ちゃんにだってね」


 吹き出しそうになるのを堪えて、長台詞を何とか言い切る。

 個人的には天使の天使ちゃんがツボだった。


 まぁ、これで相手が怒ったとしても、精々消し炭にするとか風穴空けるとかそう言った事を顔を真っ赤にして叫んでくるぐらいだろう。


 万が一、それを実行しようとしたとして、だからどうしたという話だ。

 こちとら既に死んでいるのだから、消し炭にされようが風穴空けられようが関係ない。

 

 怖いもの無しだぜ、と思っていた俺の余裕は、しかしすぐに覆る事になった。


 「地獄送りにするわよ?」


 漫画だったら背後にゴゴゴと擬音が付きそうな程怒り狂った、天使のその一言によって。


 「ごめんなさい」


 何気に人生で初めて土下座をした瞬間だった。

 人生終わってるけど。

  

 さすがに地獄送りは勘弁して欲しかった。



 ◇◇◇

 

 

 「そういえば」


 あの後、天使の怒りが収まるまでおよそ五分間土下座を続け、そしてようやく天使が本題に入ろうとした時。

 俺は思い出したように呟いた。


 「何も感じないなんて言ったけど、そういえば一つ心残りがあった」


 「……何?」


 「俺が助けようとした女の子はどうなった?」


 俺が尋ねると、天使は一瞬驚いたように固まった。

 だがすぐに我に返ると、


 「死んだよ。君のすぐ後に刺されて、ね」


 と言った。


 「そっか」


 予想はしていたが、やはりショックだ。

 別に自分が死んだにも関わらず結果は無意味だったからとかではなく、単純に。

 あの女の子を助けられなかった事がショックだった。


 「…君はおかしな奴だなぁ」


 天使は俺を珍獣を見るような目で見る。

 自身の死には無感情だったくせに、という事だろう。


 確かに俺自身、何で女の子の事がこれ程悲しいのかが分からない。


 「もしかして、その女の子に一目惚れしたとかかい?」


 天使がおどけた様子でそう言う。

 そんな理由で死ぬなんて滑稽だと言わんばかりに。

 俺をからかって少しでも先程の仕返しがしたいのだろう。

 

 「そう…かもな」


 だけどそんな天使の意に反して。

 一目惚れという言葉は、不思議と腑に落ちた。


 俺には大切な人がいなかった。

 恋愛感情とかそういったものは関係なしに。


 早くに両親を亡くし、兄弟もいなかった。

 一応親戚に引き取られはしたが、良好な関係は築けなかった。


 友人はいるにはいたが、とても浅い関係だった。

 休み時間に話す程度で、一緒に帰るわけでも休日遊ぶわけでもない。

 当然、悩みを相談するなんてありえない。

 そんな、クラス替えや卒業であっさり無くなる浅い関係。


 そんなわけだから、俺の毎日は空っぽだった。

 バイトで予定を埋め、趣味で心を埋めようとしたが、所詮それは空腹を水で満たすようなもので。

 俺は空っぽな人生を歩んでいた。


 そんな俺が。

 女の子に惚れた。

 一方的とはいえ、俺にとって大切な人が出来た。

 初めて心が満たされた。

 

 だから。


 助けられなかった事が凄く悲しいのか。

 

 「もし次があったら――今度は最後まで守り切りたいな」


 大切な人を。

 俺としては独り言のつもりだったが。

 天使はそんな俺を見て得意げに、


 「もし、次があると言ったらどうする?」


 そう問うた。


 「どういう事だ?」


 「異世界転移、オタクの君なら分かるわよね?」


 「そうだな」

 

 異世界転移、ひょんな事から異世界、剣と魔法の世界に転移してしまう展開。

 オタクなら一度は憧れた事のある展開と言っても良いいだろう。


 「君にはその異世界転移をして貰おうと思う」


 「おぉ!!」


 もう一度、人生をやり直す事が出来る。

 しかも憧れていた異世界で。

 

 そして何より、また心を満たす事が出来る。


 その魅力的な提案に、俺は心を躍らせた。


 「…あ、でもまた空っぽな人生を歩む事になるかもだな」


 大切な人が出来るなんて確証は無い。

 むしろ、今まで十五年近く出来なかったんだ。

 異世界でも出来ない可能性が高い。


 そんなのは御免だった。


 「それについては安心して良い」

 

 天使は見透かしたようにそう言う。

 

 「どういう事だ?」


 「君の場合は環境が悪かった。一度その感情を知れば、次はすぐ来るさ」


 そういうものだろうか。


 「それに、君のそれは恋愛感情じゃなくても良いのだろう?」


 天使の言う通りだった。

 大切な人、というのは別に恋だの愛だのである必要はない。

 友人や仲間とかでも良いのだ。


 「それなら問題ないさ」


 天使は断言する。

 不安要素が無くなり、俺は安堵した。

 

 「改めて問おう。異世界転移するかい?」


 「あぁ!」


 即答だった。

 そんな俺に苦笑しながらも天使は続ける。


 「それで、どんな能力が欲しい?」


 「くれるのか?」


 確かに、アニメや漫画だとチート能力は定番の展開だ。

 しかし、俺としては人生をやり直せるだけでも魅力的な提案なのに、異世界にチート能力にとボーナスが付きすぎて、何だか申し訳なくなってくる。


 「いや、平和ボケした世界の住民を戦いが渦巻く世界に送るんだ。能力を与えない方が酷というものだ」


 なるほど、そういうものか。


 「その、貰える能力は俺が決めていいのか?」


 「無論だ。私はこれでも神の使いだからね。大抵の能力は与えられるよ?」


 頼もしい限りだ。

 

 どんな能力が良いだろうか。

 

 死に戻り、不死、一撃必殺、ステータスカンスト、モテモテ…。

 色々な案が頭に浮かぶ。


 とりあえず最後のは却下だ。

 チートで手に入れた恋人を大切な人とはとても言えないだろうから。


 何でもありだと逆に悩むよなぁ…。

 贅沢な悩みだ。


 そんな中、ふと一つの願望が脳裏をよぎる。


 「なあ、それって転生したいとかでもいいのか?」


 「構わないよ」


 天使からしたら、チート能力も転生も大差ないらしい。


 「それじゃあ吸血鬼になりたい」


 吸血鬼。

 美しい容姿で年を取らない。

 圧倒的な身体能力と回復能力を誇る最強の存在。

 その反面、日光と十字架を苦手とし、夜しか活動する事を許されない邪悪な存在。


 そんな存在になりたいと、ふと思った。


 というか、ぶっちゃけるとアニメのような格好良い吸血鬼になってみたい。


 「厨二病だねぇ…」


 そんな風に一人で盛り上がってる俺に天使は呆れているようだ。


 「しかし、本当にそんなのでいいのかい?」


 「そんなの?」


 吸血鬼はかなり強い種族のはずだが…。

 天使はしばらく逡巡した様子でいたが、やがて何かを結論付けたのか納得したように頷く。

 そして天使は俺に向けて右手をかざした。


 「それじゃあ、これから君を異世界に送る。何か聞いておきたい事はあるかい?」 

 

 「特にはないな」


 俺があっさりそう答えると、 


 「そうかい、それじゃあ楽しい異世界生活を送ってくれたまえ」


 天使は笑顔でそう言うと同時に彼女の右手から光が溢れ出す。


 あ、そういえば。

 何で俺が異世界転移されるのか聞いてなかったな。

 

 物語の定番だと世界を救ってくれ、なんて事もあるんだが。

 まぁ、きっと寂しい人生を送ってきた俺にサービスとか感じだろう。


 湧いてきた疑問にそう結論づける。


 ――力は手に入れた。

 今度こそ、大切な人が出来た時には守り切ろう。


 それが奴隷少女か女騎士か女魔導士か一国の姫かは分からないが。

 …下心丸出しじゃねえか。


 俺が自分自身に呆れていると。


 溢れ出した光が俺の視界いっぱいに広がった。



 ◇◇◇


 私、天使ことシルヴィアは藤代守を異世界へ送ると、ふぅと一息つく。


 「あんな奴で良かったの?」


 ふと、後ろから声がする。

 振り返ると、声の主は私の同僚、リリィだった。


 「良かったって?」


 私はリリィに訪ねる。


 「あんな訳の分からない奴に世界を託して平気なの?って事」


 守には敢えて伝えなかったが、彼を異世界へ送った理由は厚意などではない。

 彼にはあの世界の命運がかかっているのだ。


 「どうだろうねぇ……」


 私ははぐらかすようにそう言う。


 「ふざけないで!もっと戦闘に特化した候補もいたはずよ?」


 守は、オタク趣味のひ弱な少年だ。

 そんな男が戦いの渦巻く世界でやっていけるわけがない。

 例え力を手に入れても使いこなせるわけがない。

 彼女はそう思っているのだろう。


 「確かに、彼に戦いの才能は無い。今後開花する事も無いだろう」


 ただ、と私は続ける。


 「今度こそ守り切ると決意した彼を信じてみたくなったのさ」


 「天使ちゃんって初めて呼んで貰えたからじゃなくて?」


 「違うわよ!!」


 いきなりからかってきたフラミィに私は反論する。

 冗談を言ってくるという事は、一応納得してくれたのだろう。

 

 圧倒的な力を持っていても、異世界で調子に乗って悪に染まっては困る。

 能力面以上に精神面の方が重要なのだ。


 世界を頼んだよ、守。


 私は心の中でそう呟いた。

 最も、まだ彼は自分に世界が託された事を知る由も無いのだけれど。


文章力を始め、まだまだ未熟ですがよろしくお願いします。

しばらくは1日1話ペースでの投稿予定です。

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