零の章 脱走
初投稿です
もう何度目か知らないが自分の顔は水の中に突っ込まされている。両手は何か器具につけられていて動かせない。両足は脳からの司令を全く受け付けていない。それどころか身に起こっていることを伝える仕事すら放棄しているようだ。
「おいおい。まーだ死なないヨナ?まだまだ俺のストレスはぁ・・・治まってネーーーんだよ」
顔を突っ込ませている犯人は水の中にいる僕には聞こえないことを知っていながら、僕に話しかけた後何分かぶりに僕に外の世界を見せた。井の中の蛙はついに外の世界を見た。何分か前に見ていた世界は何も変わっていないことに蛙は落胆した。
「グフッ、うぇえおえ」
自分でも何を言っているか分からない声が出る程、僕は水を吐き出すのと空気を吸う運動を繰り返した。しかし、それが終わる前に男は再び僕を水の中に突っ込んだ。
そんなことを繰り返してようやく解放される頃には寒いという感覚はほとんど残っていなかった。待機していた別の男二人に運ばれていく先はいつもの穴蔵とは違う別の部屋だった。
「あらっよっと」
男の一人が僕を部屋の中へ投げ込んだ。
床に落ちた瞬間上半身に痛みが走る。床には釘の部分がむき出しにされた板が敷いてあった。
どうにか頭と背骨を守って受け身をとった結果、背中全体の被害だけですんだ。いや、実際には下半身はかなりひどいが感覚がないので無視する。
「すげーこいつ、ほんとに自殺しようとしねーな」
「だろ、あれだけ拷問受けてるのに自殺って道を選ぼうとしない。それどころか被害を少なくしようとしてやがる」
「しかし、なんだマーフリン家のお坊ちゃんといえど考えることはまだまだ十二歳のガキだね-。板に釘なんざぁさあー。そのせいでこいつにはまだ、たまが残ってやがる」
「まあ、こうしておもちゃは手に入ったんだし、方法は選べないにしてもストレス発散にはなるんだ。感謝しねートナ。おい、玩具立てよ。部屋を間違えちまって悪かったな。」
そういうと男は僕が立てないことを知りながら僕を無理やり立たせては釘の床に打ちつけてを何度も繰り返した。そしてようやく穴蔵に返却された。
穴蔵にはムカデなどの虫が我が物顔でうろついている。もうなれた僕にとっては数少ない癒しとなっている。といっても何匹かは自分の飯になるのだからなのだが。
この2週間拷問を受け続けた。といっても相手は自分が忠誠を誓った国なので拷問とは言えないだろうが。僕は国にはめられたのだ。なのでこれは情報を聞き出そうとしてやっているものではない。つまり拷問ではないということだ。
どこかの有名な家がかつて拷問所として使われたこの施設を買ったらしい。もちろん拷問のためだが今はその家の息子のストレス発散所になっている。
一度その息子を見たことがある。僕を拷問する連中に友達らしき何人かを率いて指示をだしていた。そのまま僕が拷問される様子を嘲笑しながら見ていた。
いつの間にかそんな人間だけになってしまった。昔、この世界には魔王がいた。全ての生物は魔王を恐れた。それが五年前に魔王は打倒された。覚えている限りはその人世界中が一つになり魔王が去ったことを喜んだ。そして、そこから世界はおかしくなった。魔王を倒すためだけの存在である魔術師が各国で反乱を起こし自分達を王とする国家を築いた。魔術を使えるものを尊び使えないものをゴミとする国を・・・
過去を懐かしんでいると見慣れない男が僕の穴蔵に近づいて来た。この時間見張りはいない。男を見ていると不思議な気分になる。何かここではないどこかに・・・・と、思ったらほんとに
「って魔法ものだったんかーーーい」
自分で書いておきながら優一はそのあまりにもな超展開に愕然とした。いやそもそも彼がこの小説サイトに投稿しようとしたのはバトル恋愛ものだった。しかもメインのバトルは銃を使ったものであり、断じて魔法ものではない。それが雰囲気をだすために拷問シーンを出そうと考え追加したものの主人公脱出の方法が思いつかない優一はあろうことか魔法に頼ってしまったのだ。
「ユーくん。今何時だと思ってるのうるさいよ」
そして、この母親からの言葉が優一に絶望的状況であることを知らせた。もう、午前一時なのである。彼が夕食を終え執筆活動を開始したのが午後八時つまり五時間彼は執筆活動をしていたのである。学校からの課題は明後日までの数学課題プリント計五枚、さらに現文の課題が滞納分合わせてわんさかわんさか。いかんともしがたい状況出会った。
「じゃ、ユーくんママもう寝るけどあまりご近所の迷惑にならないようにね」
その言葉は届いたのかいないのが優一は小声で戦略を練り始めた。
「どーすんだよ、これ。いやちがう今はどうするか考えろ。まず、現文だが猪高は寛容な人だ。遅れても許してくれるはず・・・」
優一は脳内シミュレーションを開始する。
「先生すみません。課題をすっかり忘れちゃって来週には必ず持ってくるので」
猪高口を開く
「真城君さあ、それはいいけど滞納分どうするの?」
「くはっ!?」
~シミュレーション終了現実に戻ります~
「まだだ、まだ終わってなーーい。なら数学の阿田はどうだ。あの人は厳格な人だがもしかしたら」
シミュレーション開始
「先生、すみません。課題まるで手をつけてません」
阿田口を開く
までもなく冷たい目で見てくる
~シミュレーション終了します~
優一の理想の明日は現実に直面する前に妄想の時点で敗れ去ってしまうのー♪
優一はその深い絶望の味をかみしめながら夜風にあたろうとカーテンと窓を開ける。
「ズドン」
というスゴい音が天井からの聞こえた優一は母親が起きないか心配したが己の母親が一度眠ったらめざましの音以外では起きないことを思い出した。
そして優一は窓から身をのりだし屋根に落下したものを確認するためにやねにのぼった。
「今日はスーパームーンだったな」
ツキアカリに照らされていたのでよく見えた。屋根には銀色の髪をした女の子がちょこんと座っていた。
女の子は口を開く
「ヤア」
優一も口を開く
「えっ」
なし