珠子と天使
珠子は、天使になりたかった。いや、今も目指しているのかもしれない。
珠子は小さい頃から大人しかった。親も手のかからない子だと言っていた。珠子は考え事が多く、考え事をするのは楽しいと感じていた。だから小さい頃からまるで全て悟ったような、可愛いげのない子供であった。やっぱり自分でもわかっていた。
構って貰いたい…幼い自分が愛して貰う為に出した答えは、天使のような人間になることだった。幼稚園の先生が読む絵本とか、親が教えてくれることとか。皆、いい子にしないといけないと教えてくれたから、珠子はいい子になろうと決めた。そうしたら、皆に愛して貰えると信じて。
天使って、綺麗。見たことないけど。白くて、柔らかくて、優しくて。純粋そう。私もああなれたらいいのに。もしかしたらこんないい子だし、実は前世は天使だったのかもしれない…
そうだったら良かったのに。珠子はそう思った。
最近歳を重ねる事に強く感じる。皆がどんな人を好くのかも大分わかったつもりだ。純粋な、狙っていない素で好印象を与える人。個性的な人。いい子なんて、つまらない。もっと自分を出しなよ…
学校も、会社も、皆、個性的な人間がお好き。
いい子なんて嘘。信じてたなんて、バッカジャナイノ?
何があっても、珠子はいい子であろうとした。でも、いい子への理不尽な仕打ちはひどかった。そしてそれは黒い気持ちに固まって身体の奥へ沈み、珠子を憧れの天使から遠ざけた。
この世界では、ただのいい子は報われない。
しかし、もう遅かった。長いこといい子を続けていたので、もう自分の性格としてくっついてしまったのだ。長年培われた皮肉も合わさって、なんと醜いことだろう。
それでも、珠子は愛して欲しいからいい子を続ける。
いつか天使になることを夢みて。