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scene8

 ラベンダーのギルドには、珍しいほどの熱気が渦巻いていた。食堂のテーブルはほぼ全て冒険者で埋まり、悪魔四天王への対抗策があれこれと話し合われ、祭りの前のような喧騒が場を支配していた。

魔王軍襲来の可能性を聞いて逃げ出した者も多かったが、世話になった町を自分自身の手で守ろうという意志を持つ冒険者も少なくなかったのだ。


町は冒険者達に連携を呼びかけ、3億G以上まで跳ね上がった報酬金は一番の活躍を見せたチームに支払い、また作戦に協力した冒険者全員に功績に見合った報酬を支払うことを約束した。

これは報酬をめぐっての内輪揉めを防ぐ意味合いもあったのだろう。


「これから死人が出るかもしれないっていうのに、何でお祭り騒ぎなんだろうな……」


「一攫千金って響きで燃えてるんだろ?よくあることだ」


捕らぬ狸の皮算用で盛り上がるチームを見て呆れた佐藤に、そっと同意する男がいた。

佐藤の、と言うよりは、佐藤たち4人と今回の作戦で組むことになった2人組の、その1人だった。


佐藤たちは無難にと言うべきか、冒険者になりたての頃から懇意にしているチームと組んだ。

佐藤よりも少し年上のこの男と、彼の妹の2人組だ。

兄の名前はヨーアン・フロールマン、妹はロヴィーサ・フロールマン


「なあ、思ったんだけど」


ヨーアンが口を開いた。


「何でオレ、妹のパシリなんかやってんだろ」


現在、野郎2人は例に漏れずテーブルを囲んで話し合っている女子4人分の食事を買いに走らされた帰り道である。わざわざギルドの外のパン屋で、もちろん自腹だった。

ちなみに、フロールマン兄妹の序列はロヴィーサ>>>(超えられない壁)>>>ヨーアン


「仕方ねえだろ、うちの連れはわざわざ働くやつらじゃないから……てか俺は三人前の(めし)買わされたんだぞ。妹1人分でガタガタ言うなっての」


「イチさんは前に依頼を解決して40000Gくらい持ってるから言えるんだよ。俺なんて今月の稼ぎ0よ?真面目に素寒貧(すかんぴん)だぜ」


「40000も持ってねえよ、37500Gだ。銭勘定は正確に、がモットーでね」


「今度金くれや」


「何言ってるかちょっと分からないな。1日15%の複利付けて貸付、だったら乗ってやるぜ?」


「ひでえ」


パン屋の袋をぶら下げながら馬鹿な会話をしていると、1つのテーブルから声が飛んできた。


「兄貴遅い。5分遅刻」


責めるようにそう言ったウェーブのかかったショートヘアの少女がロヴィーサ・フロールマン。兄と同じ栗色の髪が揺れた。


「馬車渋滞があったんだよ」


ヨーアンが適当に答え、袋を放った。ちなみに非常時なので馬車など走っていない。

佐藤も買い物を渡す。一応お礼らしいものを口にし、サーシャがパンを配分し始める。


「久しぶりにラベンダーのパンを腹一杯食べるかな」


「……でも彼らの分の昼食が来てからに」


「気にするな」


「私たち皆腹ペコなんだ」


「ゾフィーのことなんかいいよ」


「何でや!ゾフィー関係ないやろ」


青い極悪宇宙人が出てくる前に会話をぶった切る。

3人で5人分の場面を回す、無駄に器用な連中だった。


「ええっと……」


ここで置いて行かれるロヴィーサだった。そもそも彼女はウル〇ラマン(タロウ)を知っているかどうかが疑問だが、佐藤から見れば異世界の住人である3人は好んで地球のサブカルチャーのネタを引用したがる。いったいどうなっているのだろうか

佐藤はロヴィーサの心中を代弁して、前から聞きたかったことを尋ねた。


「そもそも何でお前ら全員でネタに走るんだ?」


「そういえば気が付いたらいつもボケに回ってますねぇ。依存症でしょうか」


恐る恐る、今度はロヴィーサが口を開いた。


「ちなみに……茶番を切らしたらどうなるの?」


「禁断症状が出ます」


「そんなの出るの!?」


「……爆発するわ」


「爆発するの!?」


まだ大して言葉を交わしたわけではないが、佐藤はロヴィーサが自分と同じ側の人間だと察して安堵した。後で頭痛薬を買ってきてやろう、そう思った。


「そういえば、さっきからオレら喋ってないよな」


「私は慣れている」


ヨーアンと桜庭はなぜか打ち解けたらしい。


***


 その場が落ち着くと、自然と話題は襲ってくるであろう魔王軍への対抗策へと移っていった。


「ギルドは『魔王軍』って言ってんだろ? アンタらが会った悪魔一匹以外も攻めてくるのか?」


表情を真面目なものに切り替えてヨーアンが尋ねた。佐藤はこれに頷いた。


「予測は悪い方向にするものだし、俺が町に泣きついたことぐらい向こうも察してるだろ。もし先方が町ごと俺を轢き殺す気なら、せっかくの軍隊を使わない理由がない」


「……敵の侵攻ルートは、分かる?」


これに答えたのはロヴィーサだった。


「情報にあった魔王軍の居留地の場所から考えて予想されるのは2方かな。1つは南西の平原を町までまっすぐ突っ切ってくる場合。2つ目は遠回りになるけど山を越えるルート」


「いや、それなら3方じゃないか?」


桜庭が顎に指をやりながら言った。


「どういうこと?」


ぴっ、と人差し指を上に向ける。


「空、はどうだ?仕事柄、上からの攻撃はやり慣れているから思っただけなんだが」


これは『巨大ロボットの操縦士』という肩書を持つ桜庭だから早くから気付けたことだろう。

佐藤は、自分たちのカオスなチームの意外な利点に気付き、密かに感心した。


「そういえば、アドラメレ……何とか氏は軽々と空を飛んでいましたね」


「『ク』ぐらい思い出してやれよ。それはそれとして、空か……。遠距離攻撃できる連中には伝えておいた方がいいな」


「知り合いに腕のいい弓士がいる。オレはそいつを当たってみる」


「……魔術師も適任。私はノーコンだから他の人に任せるけれど」


「空はまあいいとして、問題は平原と山道、敵はどっちから抜けようとしてくるか、だな。オレたちは人数にも限りがある」


ヨーアンが新たな疑問を発した。


「全部で……70人強というところですか。私に言わせれば、これでも意外と集まった方だと思いますけどね」


「……均等に守ったらそれぞれ35人…………少なすぎる」


「ええ、戦力は集中させなければ各個撃破されて終わりです」


あくまでも冷静にサーシャが言う。


山、と聞いて何かが引っかかった。佐藤は悪友に確認した。


「なあヨーアン、確か山道って例の岩塩荷馬車事故の片付けがまだ終わってないせいで封鎖されてなかったか?」


ヨーアンは頷いた。しかし、


「おいおい、敵さんは封鎖してるから別の道を通ろうと考える連中だと思うか?」


「思わないね。でも今回はどうだろうな?」


「……?」


「俺は山を抜けようとした敵が進路を変えて、空か平原の加勢に回ると思うぜ?もしかしたら……ってレベルだけど」


「……どんな理由があるのかは分からないけど、もしそうならば片方の道をがら空きにして、全員で一か所に固まるのは駄目なの?」


「えっ……とそれは、まあ見張りと言うか何というか……」


やっぱり思い付きなど喋るべきではなかったと佐藤は思った。

意見を撤回しようと思ったその時、場に1つの爆弾を放り込む少女がいた。


「もし山道に何かがあるとしたら、少数の人員は置いておくべきだと思いますよ。餌がまったくいないのでは不自然じゃないですか」


サーシャだった


「……餌って、どういうこと?」


「敵の立場になって考えてみてくださいよ。町に攻め込む時に通れる道は2つだけ。片方は敵が待つ平原、もう片方は人っ子一人いない山道。この場合、むしろ山道の伏兵や策を警戒し、徒に犠牲を出さないためにも平原を一点突破した方が安全だと考えるのではないでしょうか?」


「……あえて中途半端な人数を置いておけば、守りが薄いと思って山道に行くと?」


「ま、私の適当な予想に過ぎません。でも仮に山が通れないようになっているのならば、大人数に無駄足を踏ませることができると思いますよ」


「……『餌』にされた人はどうなるか、分かっているんでしょう?」


「大人数に袋叩きにされて死ぬでしょうね。それなりの逃げ足か戦力を持っていなければ。でもそれによって敵の規模も分かる、防衛線をあらかじめ決めておけば山道組が全滅しても本隊は敵の襲来の時間も大体割り出すことができる。迎撃が間に合う。万々歳じゃないですか」


「…………それは……」


リンの翡翠色の瞳が揺れた。彼女の正義は、サーシャが語る効率という概念が受け入れられずにいた。

サーシャは労わるような目で続けた。労わるのはリンに対してだ。


「少数を切り捨てるのとたくさん巻き添えを出すのと、どっちの方が死者を出さずに済むか。リンちゃんにも分かるでしょ?」


「……………………分からないよ」


小さく呟くとリンは席を立ち、彼女に背を向けた。矮躯はすぐに人混みに紛れ、見えなくなってしまった。

桜庭が小さくため息をついた。


「やり過ぎだ、少しは抑えろ」


「笑いごとで済ませられる戦いなら別に良かったんですけどね。アレは適当に戦ったらこっちが殺されかねない」


アドラメレクを直接見て、サーシャが抱いた評価だった。桜庭も同じ意見だったのか、あとで詫びの一つでも入れてやれよ、と言うにとどめた。


佐藤はサーシャの青い瞳を真っ直ぐに見て、言った。


「お前は、餌役の人間は基本全滅は免れないと、そう言ったな?」


「ええ。よほどの(、、、、)ことがなければ(、、、、、、、)


一拍置いて、こう続けた。


「よろしければ、今度一緒に山へデートに行きませんか?」


「……」


彼女が意図していることが分かった。素直じゃねえな、とため息が漏れる。


「辞書的な意味では間違ってねえけども」


薄笑いを浮かべていたサーシャの眼差しが、真剣なものになる。


「佐藤さんが言った、敵が山を諦めるという予想。何となく意味が分かりましたよ」


「正解だと祈りつつ、敵が帰るまでの間は他のやつを死なせなければいいんだろ?」


Exactly(その通りでございます)

短めの会話回が続くと宣言したな。あれは嘘だ


今回はかなり眠い中でディケイドのop聞きながら急ピッチで書いたので誤字脱字、おかしな会話が多々含まれているかもしれない。申し訳ない


そして新キャラです。兄妹です

妹は現実に実物がいるけれど、姉はいないから小説で姉さんキャラ出したら超人か何かになりそう


そして口論シーン、眠くて何書いたか覚えてないけど、リンは悪く言えば幼い、よく言えば純粋な正義感を持っている、サーシャは脳内花畑かと思いきや意外と曲者。そういうキャラクターで書いたつもりです

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