scene7
魔王軍撃退の依頼の報酬金額が跳ね上がり、逆にギルドに寄せられる仕事の数は減った。恐ろしい魔族がついに動いたのだ。ラベンダーの町の外に出たくない、という住民や冒険者が続出したのだ。むべなるかな、と佐藤は思う。
3日前、アドラメレクと名乗る悪魔に佐藤たちは襲われた。無我夢中で殴りかかり、結果的には今こうして自分は生きている。しかし、それは先方が退いてくれたからだ。お世辞にも勝ったとは言えないだろう。
そして町に戻り、冒険者のギルドに事の顛末を伝えた。
事件が町中に広がるのに、大した時間は必要なかった。
「3億5000万G……か」
ギルドの食堂スペースの片隅で、佐藤は密かにため息をついた。ここではもちろん食事を提供してもらえるし、酒などを持ち込むこともできるらしい。
佐藤の席からは寄せられた依頼が貼りつけられている掲示板がよく見える。
彼が今眺めているのは、町の郊外の魔王軍の退治依頼だ。
確か昨日までは6800万Gの依頼だったはずだ。報酬をこんな阿呆みたいな値段にしたのは自分のせいだ、と言うつもりはないが、この件に深く関係しているのも確かだ。今回の混乱で人手不足になって作業を中断している岩塩撤去の依頼の報酬は30万Gだということを考えると、気分が重くなった。
「ここ、空いてるか?」
「? ……ああ、桜庭か」
佐藤の向かいの席についた桜庭はゴブレットに注がれた赤い液体を口に含む。
「変なにおいが……おい、それ酒じゃないだろうな」
「酒だぞ? 一応断っとくが、『私の』世界じゃ15になれば成人なんだ。違法じゃないからな」
「あ、そう」
「……」
「……」
……話すことがない!
思えば普段はサーシャがあれこれと話題をポンポン放り投げてくるから会話(?)も円滑に進んだものの、この2人だけで話す機会はほとんどなかった。
リンのようにいつもぼーっとしているわけではないが口下手、という2人だけだと気まずくなるのだ。
「まあ……あれだ、調子はどうだ?」
「悪くはないぜ」
「何かこれ、残業終わって帰ってきた親父が夜遅くまで一人で起きてた思春期の息子にばったり遭遇して、ブスっとした雰囲気の我が子を見ながら昔はかわいかったなあと思いつつ黙りこくってるのもアレだからとりあえず何か喋ろうとしている状況みたいなんだが……」
「例えが長えよ」
佐藤がいつもの調子で返すと、やがて2人は薄く笑いを浮かべた。桜庭は静かに真っ赤な酒を啜った。
「ま……正直疲れたわ。サーシャは意外と教え方が上手くて、小さなスライム程度なら召喚できるようになったんだけどな……」
悪魔に襲撃されてから今日まで、佐藤は少女たちの知識を借りて、アドラメレクに対抗する手段を模索していた。桜庭は『彼女の世界』に存在する巨大人型兵器の仕組みや操縦法などの座学がメインになり、サーシャは異世界に干渉する方法と召喚について、佐藤に実践を交えながら教えている。
主に佐藤を疲れさせているのは、彼に魔術の手解きをしているリンだろう。
「あいつの話、擬音が多くて何が何だか」
ちなみにその時の会話が、
『……魔術の基本は円の力、ぐわーっと魔力をやったら呪文の補助でぎゅーっとまとめて、あとはこう…………ずちゅううううううううんデデーンと』
『分かんねぇよ、ってか惑星シャモ破壊されてんじゃねぇか!』
桜庭はこめかみを押さえた。
「あかんやつだこれ……」
「お前に関しては……意外だな」
「何がだ」
「やたら詳細な手描き図面見せられて触ったことのない兵器の操縦方法講座だぜ? 俺はお前のことだから、てっきり……めっちゃ脳筋じみた格闘戦訓練でも始めるのかと」
無言で小突かれた。かなり痛い
「ところで佐藤よ」
「何さ」
「頭痛い……気持ち悪い…………ぅぶ……」
「弱!? というか人が酒の存在忘れた頃に酔ってんじゃねえよ‼」
テトラのビームだから仕方ないのかな?何でLA、すぐに死んでしまうん?
最近は更新遅れても謝らなくなったな、この投稿者(他人事)
今回からしばらく、主人公とヒロインの短めの会話回が続きます。
仕事が増えるよ! やったね地の文ちゃん!
今回は、最近どんどん影が薄くなっている(気がする)桜庭遥をメインに出しました。常識人枠(一応)なので書きやすいキャラではあります。彼女を空気にしないようにするのは作者の仕事ですね。(善処はしたのですが・・・)