scene6
その悪魔は白い顔に薄笑いを貼りつけて言った。
「では……死ね」
突き出された指先が光を帯びた。
「ッ!」
その光がアドラメレクの指から放たれる直前に、佐藤は跳んでいた。
体が霞んで見えるほどの速度で下がった佐藤が一瞬前までいた場所が、圧縮された炎に焼かれた。
髪が熱風になぶられる。ぞわり、と鳥肌が立った。
直撃したら…………死ぬ
口の中がカラカラになっていた。それでも喉が唾を飲もうと喉が上下するのが分かった。
焼け焦げた地面に、大悪魔が音も無く降り立つ。
「ほう? まさか躱すとは思わなんだ。やはり常人ではないか」
「く…………」
何かないのか、と目の動きだけで周囲を探す。あの悪魔を何とかできる都合の良い何かは……
「……」
見つけた。
佐藤はサーシャの青い目を見て尋ねた。これ、手を触れずに動かせるか?
あまり期待していなかったのだが、ほんの僅かに金色の髪がさらりと前後する。肯定
ならば…………
「進路をアドラメレクに取れ! 全速☆前進☆DA!」
「はッ!」
運転席に誰も乗せていないはずのいすゞのトラ〇クのタイヤが猛回転した。
まるでアクセルを全力で踏み込んだかのように10tトラックは急発進し、直線上にいたアドラメレク目掛けて猛スピードで突っ込んだ。
「っ!」
悪魔の顔に、微かな驚きが浮かんだ。
人外の膂力で10tトラックを飛び越えると、佐藤の背中側に着地した。
標的を見失ったトラックはしばらく蛇行した後、召喚限界時間を迎えて空気に溶けた。
それが合図だったかのように、佐藤の足が地面を蹴った。
一般人の3乗の膂力で踏みつけられた大地に激震が走る。佐藤からはある程度離れた場所にいたリンが、思わずたたらを踏んだ。
「ぬっ!?」
アドラメレクの表情に、今度こそ明確な「驚愕」が貼りつく。
佐藤は5メートルほどあった距離をたったの1歩で詰め、躊躇なく右拳を打ち出した。
「シッッ‼‼」
「!」
直撃の寸前でアドラメレクは黒い翼を広げ、上空に逃れた。
人間を自分たちの遥か下に見ている魔王軍の、しかも悪魔四天王の1人が、丸腰の一般冒険者の少年が打ったパンチを直撃してはいけない一撃と判断した。
「その程度‼」
黒い運動靴が地面を蹴った。
これが『一般人』佐藤一郎の跳躍ならば、精々20cm浮けば上出来だっただろうが、『冒険者』佐藤一郎の身体能力はその3乗。
アドラメレクの眼前に学生服の少年が躍り出た。
佐藤が一瞬で拳を4回繰り出す。どれももろに食らえば人体が破裂するような威力だ。
だが相手はただの人間ではない。
白い手が佐藤の拳を弾き、あるいは身を捻って、全ての攻撃を受け付けない。
「ヤロ……ッ!」
焦れた佐藤は大きく右腕を振りかぶった。
「甘いな」
「!」
隙を晒した少年に、アドラメレクの右足が飛んだ。佐藤は咄嗟に左腕を挙げてガードすると、くるりと空中で体勢を立て直し、両足で着地した。
視線が激突する。少年と悪魔は、しばらく互いを睨んだまま動かなかった。
2人が放つ殺気に、少女たちはその場で釘付けにされていた。今の一瞬で交わされた攻防が、まるで見えなかった。
不意にアドラメレクが右腕を挙げた。一瞬でその手の中に一塊の炎を生み出し、無造作に放った。
標的は佐藤ではなく、桜庭遥。
同時に佐藤も動いていた。炎が少女の体を焼くのに先んじて桜庭の体を攫い、跳躍。
爆発が地面を震わせた。もうもうと舞い上がった土埃が、空を舞う悪魔の体を隠す。
「ここは蟲の集落の一つだ、私としても魔王様の御命令なしに被害を広げるのは避けたい故、今は退こう」
爆風の向こうから聞こえる、魔性の声。
「名乗れ」
「……佐藤一郎と愉快な仲間たち」
「「「……省くな」」」
「蟲の分際で、よくも私を煩わせてくれたな。貴様は私が潰す、拒否は認めない」
そう告げると、土煙の向こうの悪魔はその輪郭を薄れさせ、やがて掻き消えた。
砂埃が晴れ、日光が再び大地を照らした。
悪魔四天王は去り、あとは4人の人間と静寂だけが残された。
「……」
「……」
「……」
「……」
やがて、佐藤の頬を滝のように汗が伝った。
「な……何じゃありゃあああああああッ!?」
「というかさっさと私を降ろせ! どこの世界にヒロインを荷物担ぎして逃げる奴がいる!?」
「ん?荷物担ぎ以外って言うと、桜庭ちゃんはどんな攫い方をご所望だったのです?」
「ええいうるさいさっさと降ろせ! ってそこ! そのムカつく笑みを引っ込めろ! 即刻ぅ! そして永遠になあ‼」
「真〇のジハードやめろ」
「……ト〇ルーライズで検索検索ぅ」
「著作権の侵害は犯罪だぞ!もしばれたりしたら……」
「いつも平気でやってることだろうが!今更御託を並べるな!」
「……トゥル〇ライズで検索検索ぅ」
「天丼やめろ」
佐藤がゆっくりと桜庭を地面に降ろすのを待って、にわかに4人は真面目な表情になった。
「悪魔……四天王」
「変なのに目をつけられましたねぇ」
「……ねえ、左腕が」
「あ? ……どーりでな、ジンジンするわけだ」
アドラメレクの蹴りをガードした佐藤の左腕には、痛々しい青痣ができていた。
桜庭が小さくため息をついた。
「これで済むわけがないな。敵はまた来る、魔王様の御命令とやらを携えて、な」
サーシャが頷く。
「これは、町にきちんと報告した方が良いですね。多少の混乱は予想されますが、奇襲されて皆殺しよりはいくらかマシでしょう」
佐藤は、背中を嫌な汗が伝うのを感じた。
俺がいったい、何をしたって言うんだ
「これは、佐藤さんにももっと力を付けてもらう必要がありますねぇ」
「俺?」
「ええ、あなたは我々の3つの世界の影響を受けています。例えばその身体能力や街中で道に迷わない能力などなど」
「何が言いたい?」
サーシャは悪だくみを思いついた悪戯小僧のような笑みで言った。
「私が召喚術を、リンちゃんが剣と魔法を、桜庭ちゃんが喧嘩殺法ではない本当の格闘やロボットの操縦技術を教えたら、それは佐藤さんにも使いこなせるのでは、と思いましてね?」
「リアルが忙しかったから更新が遅れた」と、ありきたりな言い訳を。
主に俺タワーに熱中してたり英単語詰め込んだり俺タワーやってたりとか、まあ色々サボってました。
バトルパートの書き方が全然分からない、でも一人称小説でバトルパート書こうとしたらもっと大変なんだろうなあ