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scene5

「ッ!」


闇が(うごめ)いた。それは微かな動揺の気配。


「どうなされましたか」


闇の中から投げかけられた問いに、それ(、、)は答えた。


「この空気の揺らぎ(、、、)、だ。貴様にも分かろう……私には分かる」


「強い魔力を持つ者が近くに居る、ということでございますか?」


「そうだ。しかし……この気、本当ににんげんか……?」


呟くと、それ(、、)は音も無く立ち上がった。


「アドラメレク様?」


「少し出る」


「どうなさるおつもりか」


「なに、調べもの(、、、、)だ……すぐに戻る」


ふと、闇の中から一つの禍々しい気配が消えた。

後には、静けさだけが残された。


***


「うがああああああ!めちゃんこ重いんですけど!工事キツすぎますよコレ‼」


「口より足を動かせ。まだ材木は残ってるんだ」


大きな材木を担ぎ、足をまるで生まれたての小鹿のように震わせているサーシャを、同じく材木を担いだ桜庭がすたすたと追い越した。


「桜庭ちゃん何でそんな余裕なんですかあ!?あんたその服の下ゴリマッチョなんですか!?その豊満なお胸は全部筋肉ですか!?」


「え~何~よく聞こえないな~☆」


なぜか棒読みで桜庭が振り返った。やたら勢いをつけて、肩に材木を担いだ状態で……

彼女の真後ろには、まだ小鹿状態のサーシャがいて……


ゴバキッ‼‼


その結果、風切り音を立ててフルスイングされた材木が召喚士の側頭部に直撃した。


「あべし‼」


ものすごい勢いで金髪の少女が地面になぎ倒された。8時に全員集合する感じの番組の大工コント内ではお約束のようなものだった。


「そ、そんなに怒ることないじゃないですか!ああ、コブになっちゃった」


「殺す気でやったんだが、何でお前はコブで済むんだ……」


「元の世界じゃクマムシって呼ばれてましたからね、タフネスが売りですよ」


「ゴキブリじゃなくてか」


「黒光りするアン畜生が大嫌いなので、ゴッキーって言われるたびにクマムシにしてくれってガチ土下座をですね」


そこに、材木を担いだ佐藤一郎が通りかかった。


「お前ら、虫談義は後にしてくれよ?日没までにあと10本運ばないといけねえんだから」


「いや、虫じゃなくて生命の神秘についてですね」


「どっちでもいいわ!」


佐藤はツッコミのつもりでサーシャの頭をはたいた。すぱぁん、といい音がした


「うぐおおおおッ!そこ桜庭ちゃんに殴られてコブになったとこおおおお!」


「あ……悪い」


「……サーシャ、危ない」


「え?」


ゴン‼


サーシャと同じ、小鹿状態のリンが運んでいた材木の角っこが、見事に召喚士のドタマに命中した。


「◎△$♪×¥●&%#?!」


「……あ、ごめん」


そろそろ本当に命が心配なサーシャやフラフラのリンを見て、佐藤はため息をついた。

連日の肉体労働は、この二人には荷が重い。

金に困らないために毎日毎日工事現場に足を運んでいるのだが、急ぎすぎなのだろうか?


「男の俺とか軍人の桜庭はともかく、やっぱり二人にはキツ過ぎんのかな……」


「あ、そういえば桜庭ちゃんは軍人って設定でしたね、忘れてました」


「いや本当に復帰早過ぎだろ!?」


思わず章名を『ご注文は召喚士(ゾンビ)ですか?』にしたくなる程のダウン復帰の早さ。

すっくと立ち上がったサーシャに桜庭が詰め寄る。


「というか私のことを何だと思ってた!?」


「男口調なせいで4人全員で喋ってる時は佐藤さんと見分けがつかなくなるヒロイン」


「やめろおおおおおお!気にしてるんだ、私も自分の影の薄さは気にしてるんだ‼」


「……キャラ崩壊、ダメゼッタイ」


「お前はブレないな」


「ともかく!」


ぱん、と手を叩いてサーシャが言った。どうやら強引に話題を本筋に戻すらしい。


「今日の依頼は材木を現場まで運ぶこと。ちょっと裏技使いまっせ」


「……裏技?」


「召喚士ってのがただの代名詞ではないことを教えてあげましょう」


不敵に笑うと、彼女は右手を虚空に向かって突き出した。


「SUMMON:〇すゞのトラック(10t)!」


「いす〇言うな!」


「10tもいらねえわ!」


地面に青白い燐光を放つ魔方陣が広がり、地球ではおなじみの大型トラックが本当にせり上がってきた。


「……確かに、男口調二人が同時にしゃべると……」


「あ、前が桜庭ちゃん、後のが佐藤さんね」


「その解説は誰に言ってるんだよ?」


「読者様」


「メタやめろって言ったろがあああッ!」


「やめて危ない!まだコブ治ってないから叩かないでください!」


一息つき、サーシャは改めていすゞの〇ラックを手で示した。


「どうです、ちょっとしたものでしょう」


「お前、呼び出せるのってスライムみたいな魔物だけじゃねえのかよ」


「一体いつから……生物しか呼べないと錯覚していた?」


「何・・・だと・・・?」


「……そろそろやめよう?前回だってネタ詰め込み過ぎって突っ込まれたらしいから」


「だからメタ発言やめろって言って……」


その時だった。

唐突に青空に黒雲が立ち込め、辺りを禍々しい『殺気』とも形容できる不穏な空気が支配したのは。


「何だ……?」


「……嫌な、感じ」


「薄気味悪い……」


「ッ!佐藤さん、上ッ‼」


「な……っ」


サーシャの声につられて、佐藤はバッと上を向いた。

そこには、


いつからいたのか、背中から漆黒の翼を生やした人間が浮いていた。

いや、『人』と表現して良いのだろうか?体つきこそ人と似ているものの、その頭には一対の捻じくれた山羊のような角が生えていた。耳も、ツンと尖った三角形。まるで妖精か、もしくは……


「誰だ…………アンタ」


「お初にお目にかかる。(ひと)の子」


低い、落ち着いた声だった。しかし、その『声』に乗った濃密な敵意と魔力は、4人の人間をその場に釘付けにするには十分すぎる殺気を孕んでいた。


「私の名はアドラメレク」


男か女か分からないそれ(、、)は、悠然と笑んだ。


「偉大なる魔王軍の悪魔四天王を務めている者」


「っ!」


魔王軍、その単語には聞き覚えがあった。そう、ギルドで常識外れな報酬額を提示していた依頼が一件だけあったではないか


「ラベンダーの郊外に居を構えた悪魔…………アンタのことだったか」


佐藤は、自分の背中を冷汗が伝うのを感じながら呟いた。

ああ、クソ!そういうことか

6800万Gなどという報酬が提示されているのに、誰もこの依頼に関心すら持っていなかったのはそういうことか。

腕に覚えのある強者が十数人集まれば何とかなるのではないか、と他人事のように思っていた自分に腹が立つ。

こんな化け物、誰も相手にしたいとは思わないだろう。


「何の用だ」


押し殺した声で尋ねた。


「おや、悪魔が蟲を潰すのに理由が必要だとでも言うのか?」


「…………」


「強いて言えば、貴様の魔力が煩わしかったからだ。では……」


佐藤は……いや、桜庭もサーシャもリンも、この悪魔が次に何と言うのかを容易に想像できた。

できてしまった


「死ね」

前回について、リアルの知り合いの知り合いくらいから「詰め込み過ぎ」と言われたらしく、今回はシリアスを混ぜたのもあって茶番控えめでお送りしました。

でも、悪魔四天王ってネーミングのせいで全然シリアスに見えない……


今回はずいぶんと急展開だったので、もし混乱された方がいらっしゃればすみません。

さて、次話投稿は何週間後になるのか、楽しみです(錯乱)

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