scene3
「では、これよりあなた方はラベンダーの冒険者として正式に登録されます。あなたがたがその手で魔王を撃ち滅ぼす日を願っております。神の恩寵のあらんことを」
なんだかRPGのエピソード1第2章あたりで出て来そうなセリフを頂き、佐藤と愉快な仲間たちは、冒険者という職業に就いてラベンダーという町の住人になることができた。
冒険者ギルドを出て、彼らは手に入れたねぐらに向かう。
異世界に吹き飛ばされていきなり野宿という事態を回避し、彼らの間には一安心ムードが漂っていた。
「にしても、この町って名前あったんですねぇ」
金髪と茶色のローブが特徴的な少女、サーシャがさらっと失礼な発言をする。
佐藤は頭の後ろで腕を組んで、
「まあな、俺そろそろこの町を正式に『はじまりのまち』って呼ぼうとしてたぞ」
「さすがにそれはナンセンスだと思うんだがな」
「じゃあ、お前らは町って聞いて何を思い浮かべたよ?」
「ガザ○ソニカ」
「MADL〇X懐かしいなおい!」
「マサラタ〇ンですかねぇ」
「タウン隠しても意味ねぇじゃねえか!」
「……アッ〇ムト」
「最初に訪れた町の住民が毒ガスでバタバタ倒れてたら詰みだろ!?」
というか、ガ〇ッソニカとかは分からない人もいるだろうし、町という単語で真っ先にアッテ〇トを思い出す人間はリンを含めても相当少ないような気がする。そもそも何で別世界の住人である女子三人がこんなネタを知っているかだが、そこら辺は佐藤が次元の干渉を受けたように彼女らも佐藤の次元に影響されたとか何とか、そんな具合の使い捨て設定でどうとでもなるのだ。
「まあいいか。これで宿は手に入れたけど、仕事をしないと金が入ってこなくてロクな生活もできないんだろうな」
「では、一休みしたら再びギルドに向かいますか」
「そうだな。私も少し休みたい」
「……例え巴の本当の魂がお前に微笑んだとしても……」
「それは働きたくないでござるって訳でいいですか?」
「……うん」
えらく遠回しなネタだった。
* * *
まるで寮のような冒険者用住居で一休みして、3人は再びラベンダーの冒険者ギルドに足を運んだ。
前述のとおり、仕事を手に入れない限り衣食住の食を満足に満たすことができないし、寮も追い出されてしまうかもしれない。
「意外と少ないんだなぁ、冒険者ギルドに寄せられる依頼ってのも」
「えーと、今寄せられてるのは4件ですねぇ」
・畑を荒らすブラウンボアを1体退治してください 報酬:10万G
・街道で岩塩を山積みしていた馬車が横転しました。現場処理手伝い求む 報酬:30万G
・草原に発生するレッドウルフを3体討伐してください 報酬:15万G
・ラベンダー郊外の魔王軍を駆逐してくれ 報酬:6800万G
「……Gは通貨の単位?高額の仕事ばかりに見える」
「そりゃ現実的に考えて、危険な野生動物の退治依頼を4000円とかで依頼するゲームの方がおかしいじゃねえか」
「さっき町で売っているパンの値段を見てきたが、少なくとも私が知っているパンの値段ではあったし、むしろ安いくらいだった。報酬が見た目以上に高額であることは確かだ」
「マジですか!じゃあさくっと魔王軍とやらを退治しましょうよ」
「「「……え?」」」
「いや、だって、一番お高いじゃないですか。別々の世界観の物語の主人公とヒロインが4人もくっついているんです、誰か一人くらい怪物をあっさり屠れるような逸材も混じっているでしょう?」
「そういうお前はどうなのさ」
「え?私自身の戦闘力は皆無ですよ?モンスターを召喚することはできますが、まだ敵の力も分からないので役に立つかどうかは分かりません」
「……ここは一番安くてもイノシシを狩ろう。安いってことは安全だということから」
「いや、そんなに慎重になることもない。草原の犬コロでいいだろう?手持ちの武器はハンドガンしかないが、急所に鉛玉をブチ込めば黙るはずだ」
「お前ら全員バラバラじゃねーかっ‼」
「……そういう佐藤は何がいいの?」
「いや……俺は岩塩の件が良かったんだけどさ」
「「「却下、ストーリー的につまらない」」」
「メタ発言止めろお前ら!」
多数決で、草原のレッドウルフ(×3)を討伐することになった。が、
* * *
「おい……お前が犬コロとか呼んでた獣、俺が知ってるトラくらいの大きさがあるんだが……」
「軽率な発言だった……」
意気揚々とラベンダーの町を出た彼らを待ち受けていたのは、動物園の檻の向こうにいなければいけないサイズのバケモノだった。
オオカミなのに例えはネコ科。これはいったい何なのか
「うわぁ、めっさ唸ってます。向こうは殺る気まんまんじゃないですかやだぁ」
「……いいね、ああいうのと一度やってみたかった。私が殺る」
「おい、こっちにもバーサーカーがいたぞ」
「てかリン、お前騎士だろ?剣一本で何をやる気だよ?」
「……魔法を使う」
「え?あなたそんな素敵技能持ってたんですか?」
「……言ってなかったっけ?」
リンが静かに前に出る。レッドウルフの標的が桜庭からリンに移る。
「……炎よ、我が槍となりて魔を穿て……」
前に突き出した右手の周りに赤い魔方陣が浮き上がり、回転を始める。
同時にリンの右の掌に炎が集まり、ソフトボール大の球体になった。
「……【ファイアジャベリン】」
リンの手から魔法が放たれた瞬間、熱風が吹き荒れて4人の髪をかき乱した。
球状の炎は彼女が呪文を紡ぎ終えると同時に細長くその姿を変え、まさしく投槍のようにレッドウルフに向けて飛んだ。
炎の投槍は着弾した瞬間に膨張し、すさまじい爆発を引き起こした!
…………なお当たらん模様
ウルフはリンの手から魔法が放たれる瞬間、横に跳んで事なきを得ていた。
「……動かないで、当たらない。【ファイアジャベリン】」
miss
「【ファイアジャベリン】」
miss
「【ファイアジャベ
miss
「【ファイア
miss
「【ファ
miss
「
miss
「……魔力が尽きた」
ぺたり、とリンが草地に座り込んだ。
「使えねえええええええええええッ!?」
「……だって、動くんだもん」
「そりゃあーた、生き物なんですから動くに決まってるじゃあないですか」
「おい逃げろ馬鹿、来るぞ!」
「「「……あっ」」」
桜庭の声が響いた時には、既にレッドウルフは悠長に語らう馬鹿3人(内一名は魔力切れで行動不能)に向けて飛びかかっていた。
佐藤の鼻に、ウルフの獣臭い呼気が届く。
佐藤と飛びかかってくるレッドウルフの顔面は、30cmも離れていなかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
佐藤は右腕を振り回していた。
特に何かを考えたわけでもなく、ただ反射的にオオカミを払いのけようと腕を振っていた。
バグシャアッッ‼‼
草原に凄まじい音が響く。
「……は?」
「……はい?」
「……え?」
「……あ?」
全員の口から間抜けな声が漏れた。
佐藤が振り回した右腕がレッドウルフに偶然ヒットした瞬間モンスターの巨大な顔面が陥没し、胴体から千切れて鮮血をぶちまけながらボールのように5メートルも吹き飛んだという、現実離れした光景を目にしたからだ。
これは3つの次元の影響を体に受けている佐藤の筋力と防御力が一般人……いや。元々の佐藤一郎の3乗という馬鹿げた値を示していたために起こるべくして起きた現象なのだが、その時彼らにそれを知る方法はなかった。
リアルが忙しくて更新が予想以上に遅れるんですよね。
まだ続ける気はあるんですよ?