scene1
どこまでも広がる青い空、緑の草原、草木を撫でる穏やかな風。
そんなのどかな午後の風景に、一つの異変が起こった。
具体的には青空に浮かぶ、巨大な入道雲のあたりに。
白かった雲に、一つの黒点が生まれたのだ。始めは豆粒よりも小さかったが、見る見るうちに大きく、その形をはっきりさせていく。
「「「ぎぃぃぃぃゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ‼? 」」」
「…………きゃー」
なんと、それは4人の人間だった。
『ある日、団体様が空から降ってきた…』と、有名アニメ映画のキャッチコピーのパチモンくらい簡単に頭に浮かぶ光景だ。
落下組の構成は、これまた奇妙な面々だった。
空の中に放り出された理由がまったく分からない、学ランとショルダーバッグを装備した男子学生
整った顔を恐怖のあまり全力で歪める、暗緑色の軍服を纏った黒髪の少女
全力で悲鳴をあげた結果声がかすれ始めた、茶色のローブを羽織った金髪の少女
とりあえず周りに合わせて棒読みで悲鳴(?)をあげてみる、白銀の鎧姿で赤毛の少女
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬひゃあああああああああああああああああああああああSUMMON:ヒュージスライムッぎゃあああああああああああ‼‼」
悲鳴なのか呪文なのか、もはや判別不能の一節を叫ぶ金髪。
効果は一瞬の後には現れていた。草原に青白い燐光を放つ魔方陣が広がり、そこから10tトラックと同じくらいの大きさはあるであろう巨大な粘液状の生物が這い出てきたのだ。
直後、その上に4人が墜落する。草の上に投げ出され、特撮ヒーローに倒された雑魚怪人みたいにゴロゴロと転がり、やがて止まった。
「「「「……………………」」」」
4人とも風でボサボサになった髪を気にすることもせずにしばらく呆然としていた。
スライムの残骸の粘液で全身がべとべとになっているのにも気づいていないようだ。
ちなみに少女に召喚されたヒュージスライムは、4人分の運動エネルギーを同時に受け止めた時に破裂して絶命している。
やがて、誰かが言った。
「…………どうして、こうなった」
* * *
10分ほど経過すると、ようやく彼らは我に返ってお互いの顔を見合わせる。
高校生、佐藤は白いYシャツにこびりついた土と粘液を大雑把に払い落としながら尋ねた。
「いきなり全員で紐なしバンジーやらされたりしてすっかり忘れてたけどさ、そもそもお前ら誰だよ」
いい加減『黒髪』『金髪』『赤毛』と書くのが面倒なので、さっさと名前を出してしまいた……あ、ゲフンゲフン、いやなんでもない
「『連合軍』第八艦隊所属、桜庭遥。桜庭でいい」
と軍人が言う。
「召喚士やってるアレクサンドラ・ミローノヴナ・コストマロヴァですよ。長いでしょ?サーシャって呼んでください」
と召喚士が言う。
「……どうしよう、私だけ大した所属もないのだけど」
そして困り顔になる赤毛の少女。
「心配するな。俺はただの学生だ」
「……ん。小さな村の教会で騎士をやっていた、リン」
「まあ……よろしく、なのか?」
桜庭が首を傾げる。本当はさっさと『自分の世界』に主人公を連れて帰ってしまいたいのだが、そもそも自分たちがどこにいるのかも分からないのだ。いったいどうすれば良いのだろう、いや、どうしようもない(反語)
佐藤は草の上にあぐらをかいて、自分の膝で頬杖をついてため息をつく。
「そもそもさっきまで深夜の住宅地にいただろ、俺ら。何でこんな太陽が差す大草原にいるんだよ?」
「本来存在する次元が違う私たちが、何の偶然か1人の男の子を目当てに同じ次元に集合してしまったせいで次元が歪んじゃったみたいですねぇ。その結果、なんかよく分からない次元のどこかに存在する別の世界に全員まとめて吹っとばされちゃったみたいです」
「何なんだ、その投げやりな説明は」
ジト目で問う桜庭に、サーシャは肩をすくめて見せる。
「こんな会話さっさと終わらせておかないとストーリーが進まな…………もとい、今大事なのは、『どうしてこんな所に来たのか』ではなく、『これからどうすればいいか』を話し合うことじゃないですかぁ」
「何かそれっぽくまとめやがったぞ、コイツ」
「安心しろ、私もさっぱり分からない」
「……次元の話なんて始めたら、今私たちは何語で喋ってるのって話になるから、駄目」
「お、おう」
「ほんじゃあ皆様方、これからどうしましょうかねぇ?」
「RPGの理屈で行くなら、まずは『はじまりのまち』的な代物をさがせばいいんじゃねぇの?」
「ナイスですよ佐藤さん!現在地と町の場所が分からない今じゃ何の役にもたちませんが☆」
「……分かるよ?」
「「「はい……?」」」
リンは鎧の腰に結び付けられていた鞄から新聞紙大の紙を引っ張り出して、見せた。
「何だ、それは?」
桜庭が眉をひそめる。
「……オートマッピング機能付きのタウンマップ」
「わお、いきなり出ましたよご都合アイテム!」
「……旅をするのに、地図は必須でしょう?」
しかし、なぜそのマップに『リンの世界』ではなく現在地が載っているかについては説明されない。いろいろと面倒くさいからだ。
「……北東15キロに『はじまりのまち』って書いてある」
「ふむ……意外と近いな」
「いや、遠いでしょう!?私そんなに体力ありませんよぉ‼」
「俺もだよ!軍人目線で語るな、俺はお前らと違ってずっと帰宅部でインドア趣味なんだっつの!」
「うるさい、歩け」
「「あ、はい」」
こうして、奇妙な4人組の旅は幕を開けたのだった。
……割とお気楽に
まさかメインの片手間に書いた方の小説のアクセス数がこんなに伸びると思っていなかったので、調子に乗って続きを書いてしまった馬鹿ことマガヤです。
メインがシリアス系なので、こっちはチートもご都合主義も何でもOKなコメディにしてしまおうと思い、1話を作ってみました。
まだまだ拙い文章ですが、生暖かい目で見てやってください