魔王を一発殴ってくるだけの簡単なお仕事です2
2話目です。
前のお話は、こちらをお読みください。
魔王を一発殴ってくる簡単なお仕事です
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工房でいつも通り炉の前で鉄を打っていたら、女神様が降臨して勇者に任命されてしまった。
罪人を連行されるかのごとく、聖騎士に神殿に連れてこられた俺は、神殿に呼び出された時点で断れないんだろうなぁ、という予感だけあった。
まぁ、実際その通りだったのだが、見た目は子供に見えるかもしれないが、それなりに生きて人生経験もそこらの若い奴よりは積んでいる。俺も男だと腹を括って女神様にサクッと魔王を倒せる力をくれと言ってみたら、歴代最強の勇者の力が手に入った。
おっしゃ! これで余裕と、思ったのは一瞬でした……。
サクッと魔王を倒せる程の力を貰ったのは良いのだが、力が強大過ぎるので一ケ月以内に魔王を倒さないと、勇者の力に押しつぶされて死亡することが確定しましたー!
それってちょーヤバいじゃん! さっさと出発しないと俺死んじゃうよ!!!
女神様のその一言を聞いたら、腹を括った決意を巻き戻したくなりました。
そんな感じで神官のおっさんと二人して焦ってはみたものの、この国の王様には一応お目通りしておかないといけないということで、着の身着のまま王宮に連れてこられた。
王宮に連行された俺を待っていたのは、こちらを怪訝な表情で見つめていた王様だった。
偉い人なだけに、玉座にふんぞり返っているものだと思っていたのだが、なんだか拍子抜けした様子で、椅子からずり落ちそうになっていた。
うん、王様の威厳とかあったもんじゃないね!
「陛下、こちらが女神様より加護を与えられました、今代の勇者、ジャン・スミス殿でございます」
「……子供か?」
何を言われるかとハラハラドキドキしていたのだが、最初の発言でがっくりした。
ショックと言うか、もう自分の容姿については色々と諦めた。
神官のおっさんが王様に俺の事を説明しているのだが、俺の耳には入ってこない。その前に、謁見の間は衆人環視の場所なんだな。この場所に居るだけで、貴族やら近衛騎士たちからの視線がちくちく刺さって居心地が悪いことこの上ない。
居心地の悪さと国のトップとの謁見で、俺は魂が半分くらい抜けた状態で居たのだが、王様が労いの言葉と、大臣からの質問やらをいくつか答えたのち、別室に移された。
謁見の間よりも狭いとはいえ、神殿よりもきらきらしていて眩しいです。庶民としては、今座っているソファを汚したらいくらするとか考えてしまうため、先ほどから背中に冷たい物が伝っているのだが、王様はその辺りは分からなそうだなと思った。
「まぁ、勇者よ。そう緊張するな。この場は、儂とマーレイしか居らん」
「さ、さようで!」
「こう見えて、儂は庶民派でな。若いころは、各地の魔獣をマーレイたちと共に蹴散らしたものだ」
自称庶民派の王様が緊張するなと言うが、目を背けたくなるほど豪華な部屋に居て、そんなことができるわけがない。緊張をほぐすようお茶を進められたのだが、王室御用達で確実に高価だと思われる茶の味なんぞ分かるわけもなく、俺は藁にすがる気持ちで横に座っている神官のおっさんに視線を向けること助けを求めた。
神官のおっさんは俺の視線の意味を正確に理解してくれたらしく、王様の昔話をさっさと切り上げ、本題に入ってくれた。
まぁ、神官のおっさんが伝えたことと言えば、謁見の間では説明できなかった、魔王を倒せる期限の事だった。
それを聞いた瞬間、王様が心底気の毒な目で俺を見るようになり、余計にいたたまれなくなった。
「そうか……。時間が決まっていると言うことは、国民へのお披露目はできんな……」
「それよりも、一緒に連れて行く共の者を選ばねばなりません」
「む、そうだな。ハーヴェスト騎士団長とハロルド魔道師団長から推薦者を出してもらい早々に協議せねばなるまい」
王様がそういうと、壁際に控えていた従僕の人に騎士団長と魔道師団長を呼んでくるように伝えた。
しばらくして、従僕の人に連れてこられた二人が我先にと言わんばかりに王様と神官のおっさんと一緒にああでもないこうでもないと俺のパーティメンバーを誰にするかと話し始めたのだが、肝心の俺が置いてけぼりになっていますよ。
そりゃもう堂々と話すものだから、俺にも話の内容が聞こえてきた。パーティメンバーの候補は何人もいるようで、全く決まりそうにない。それよりも、この協議とやらで何日消費するのかすごく不安になった。
「陛下、失礼ながら発言してもよろしいでしょうか?」
「うむ、なんだ? 申してみよ」
「その協議はどのくらいかかりますか? あまり時間がかかりすぎると、魔王を討伐しに行く時間が取れません」
「…………早馬を跳ばせば、どうにかな「いや、無理でしょう!」らないか」
「すみません、俺は馬には乗れません。あ、鐙に足が付かないので……」
俺が言う前に、騎士団の偉い人がキパッと断言した。
ち、ちくしょう! 騎士団で使うような軍馬は足が速いのは分かるが、俺は乗れるような身長じゃねぇんだよ(泣)
最後の方の台詞をいう声が小さくなってしまったのは仕方ないと思う。王様の従僕が肩を震わせながら笑っているのが見えて、ちょっと泣きそうになった。
「そういうことなら、二人乗りになってだな……」
「陛下、馬の二人乗りをしなければならない勇者居ると噂になったら、我が国の恥です!」
「む、そうか? 見た目が子供だからな。体格的にいけると思うが……」
「まぁ、今代の勇者殿は歴代最強のようですからな、旅にも慣れていると伺っていますし、別に供の者はいらないのでは?」
王様は確実に俺の事を子ども扱いしているし、騎士団長と魔導師団長は確実に俺の事をバカにしているように見える。
まぁ、すごいのはふんだんに注いでもらった女神様の加護付きの勇者の力だから、俺自身がすごいわけじゃない。ただ、あからさまに馬鹿にされているようでものすごく腹が立つけどな!!
「そんなっ! 供の者を付けずに勇者殿に、もしもの事があったらどうするのですか!」
とりあえず、俺の見方をしてくれているのが神官のおっさんだけみたいだ。
ごめんよ、神官のおっさん。エロジジイみたいな容姿だって思っちゃって、見た目と違ってこの人めちゃくちゃいい人だったわ。
「勇者殿といっても一人で旅をしたとしても多勢に無勢では分が悪いでしょう! それに、一人で旅をしてみてごらんなさい! 確実に子供扱いされて、一人で宿に泊まれないかもしれないじゃないですか!! せめて一人は保護者役として供の者を付けるべきです!!!」
「ちょ!? そんな恥ずかしい理由でお供の人を付けるなら、俺絶対に一人で行きますよ!!」
「勇者殿! 貴方、その容姿で魔王討伐の旅に行けるとお思いですか? いや、行けない! 何故なら、あなたが子供にしか見えないからです!」
前言撤回、アンタが一番失礼だった!
神官のおっさんが、この中のメンツで確実に一番失礼なこと言った!
さっきから俺を馬鹿にした目で見ていた騎士団長も魔道師団長もそんなに失礼な事言ってなかった(泣)
っていうか、この場に居る全員が、神官のおっさんの発言にドン引きして、俺を気の毒な目で見つめてくるのがものすごく精神的にくる。
「アンタら、いい加減にしろよ? 揃いも揃って若造の癖に、俺の事を子供子供と馬鹿にしやがって。俺の齢を知りもしないで良く言えたもんだなぁ。いいか、俺の姿がこんななのは、エルフとドワーフの血で成長が遅いせいだ!」
「ゆ、勇者殿!?」
これって、キレちゃっていい案件だよね。確実に! いきなりキレた俺に部屋にいる人たち全員がぽかーんとしているが、この際、気にしないことにする。
「貴様! 陛下の御前でなんと言うことを申すのだ!!」
「へぇ、先に失礼なことを言ってたのはアンタ方でしょうが。別にいいよ俺を捕まえたって、どーせこのまま何もしなければ、勇者の力とやらに押しつぶされて一ケ月後に死ぬんだし。悠長に構えてるアンタ方と違ってこっちは寿命が決まってんだ!!」
騎士団長が無礼者だって言って剣を抜こうとしたが、だって、キレちゃったものは仕方ないし? 考えるより先に口が勝手にしゃべってた。
口から飛び出した言葉は引っ込めることができないからね、こうなったら言いたいこと言うことにした。
「言っておくが、ハーフエルフなんざ市内にはざらにいるからな、そう説明すれば旅なんぞ一人でやっても問題ないわ! こっちは命がかかってるんだよ! 装備なんかもあるならさっさと準備して出発できるようにしろよ。あ、陛下、旅券って発行するのにどのくらいかかりますか?」
「え、あ、すぐにでも作らせる!!
「ありがとうございます、陛下」
「侍従長! は、早く装備を用意せよ!」
「かしこまりました!!」
俺がにこりと微笑んでやると、王様は顔を真っ青にして壁際に控えていた従僕に指示を出した。ただの従僕だと思ったら、侍従長だったんだな、あの壁際のおっさんと考えつつ、ちらりとそちらに視線を送ると、小さく悲鳴を上げて侍従長のおっさんは王様の命令を遂行すべく部屋を出て行った。
「それから、神官のおっさんよぉ。さっきの発言で俺が心配なのはよぉく分かるが、いくらなんでも失礼すぎやしないかぃ?」
「も、もうしわけ、ございません!!!!」
「誤って済むなら、騎士団はいらねぇよなぁ。なぁ、騎士団長?」
「……」
言葉尻に怒りの感情を混ぜつつ、神官のおっさんに詰め寄った。神官のおっさんは顔を真っ青にして、土下座しようとしたところで、椅子をガンと蹴っ飛ばす。心なしか、騎士団長たちの顔色も悪い。
「俺が子供に見えるから宿も取れないだろうってか? 宿の心配までしてくれてんだから、宿の用意はそっちでしてくれるのが筋だよなぁ」
「それは、もう……。各神殿に通達を出して、勇者殿が来られましたら泊まれるよう手配をさせます!」
激昂する口調とは反対に、頭の隅では確実に王様の不興を買ったろうなと、妙に冷静な自分が居た。
「ああ、そうだ。騎士団長と魔道師団長だっけ? 先代の勇者様って各地の魔獣討伐をして経験を積んだらしいけど、俺それ出来ないから間引きの方はしてくれんだろ?」
「国を守るのが騎士団の務め、勇者殿に言われるまでもなく全うするつもりだ」
憮然とした態度の騎士団長とは違い、魔導師団長は怯えきっており、俺からの視線をそらしつつ肯定の意を伝えるべく首を縦に振りまくっていた。
一方的に怯えさせてしまったのは申し訳なかったが、馬鹿にされた態度に対する溜飲は下がった。
しばらくして、先ほど出て行った侍従長が旅に必要なものをそろえて戻ってきた。別室にあるとのことで、俺だけそちらに移動することになった。
「準備が出来たら出てくし、別に怯えなくてもいいですよ。まぁ、一ケ月過ぎて何の音沙汰もなければ、死んだことにしておいてください」
「……」
「すまぬ、我らは勇者たるそなたに頼るほかないのだ」
「……別に。俺が死にたくないから行くだけです。陛下が謝ることではありません。では失礼します」
国をまとめる人たちに対して、散々失礼な態度をとった後だったが、王様が俺の身分を保証する証文と旅券を直接手渡してくれた。
申し訳ないと頭を下げる王様に対して、こちらの都合で行くのだから気にしないでくださいとだけ伝えると、侍従長の後に着いて部屋を後にした。
装備に関しては多々問題はあったものの、旅費や食料など至れり尽くせりな荷物を受け取り、一度自分の工房に戻った。
近所の人たちに諸事情があって旅に出ることになったとだけ伝えた。気のいい職人のおっさんたちは何か事件かと嬉々として聞いてきたが、事情は話せないため半年過ぎて戻らなければ祖父に手紙を送ってくれとだけ伝えて、手紙を預けてきた。
王様の前で悪態を突いたりしたから、魔王を退治したら反逆罪に問われかねないなぁと、最後の夜を自宅のベッドで過ごしながら考えた。
最悪の場合、この国に帰れなくなるかもしれないが、その辺りは手に職があるため問題ない。
出発の朝、武器の代わりに鉄を打つ愛用の大槌も持ってきた。本当ならば金敷も持って来られればよかったのだが、それは無理だろう。まぁいい、別の国に移住したときに買えばいいことだ。
俺はたった一人で王都の城門を後にし、魔王退治の旅に出た。
俺が王都を去ったのち、王都では歴代最強の勇者誕生との噂と共に、今代の勇者は国王を脅迫する鬼畜だとの噂も広まったらしい。
旅をして最初の街でその噂を聞いた時には、ある程度身に覚えがある俺としては、絶対にこの旅の最中に俺が勇者だとばれないようにしなければと心に決めたのだった。
読んでくださりありがとうございました。
かるい気分で2話目も書きました。
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