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第一話 非日常との邂逅 その一

 いつだったか、バター猫のパラドックスなるものを聞いたことがある。

 確か、必ず足から着地する猫と必ずバターを塗った面を下に落ちるトーストをくくりつけて落とすとどうなるのかというものだったはずだ。

 考察としては、着地する寸前で停止して回転し始めるだとか、猫が足から着地した瞬間にひっくり返るだとか、皆色々と考えていた。

 全くもって馬鹿馬鹿しいことではあると思う。我々日常生活を送る人間にとっては猫が足から落ちようと、背中から落ちようとそんなことは関係なく、どうしても知りたいのなら実際に落としてみれば一発で答えがわかる。しかしこういったユーモアこそが、馬鹿馬鹿しさこそが疲れきった現代社会には一番必要なのではないかと思う。

 特に、最近の子供たちを見ていると、どんなことに関しても意味を求め、無駄を嫌悪しているように思える。将来何の役に立つのだとか、そんなことをしょっちゅう口走る。

 一体そんなに意味を求めてどうしたいのか。むしろこの世は無駄なことの方が多いのではないのか。そうだとすれば意味を求めることが無意味といえるだろう。

 ならば、それならば、そんなことは深く考えずに日々を楽しんだ方が意味あることをするよりもずっと得で、利口な行為だといえるだろう。

 今から始めるのはそんな馬鹿馬鹿しくって、心底どうでもいい無意味な物語である。

 


 夏、遥か高く昇った日の光がじりじりと照りつけ肌を焦がし、じめじめと湿った風が大粒の汗が滴る頬を拭うなかで私、東藤とうどう うたげは走っていた。

 走っている理由は特に特別なことではなく、別段話す必要性も感じないけれども一応念のため言っておくと、高校に遅刻しそうだったからである。

 今日は朝の五時半頃に目が覚め、することもないので二度寝することにしたのだが、そんなことをしてしまったのが運の尽き。今から思えば寝る以外にも考えればいくらでもすることはあっただろう。しかしそのときの私には、瞼を開けておくのも限界だった私にはそのような考えを持つことは不可能だった。

 そして二度寝から目が覚めると、まず私に飛び込んできたのはニュースが流れるテレビの左上に表示された八時十分の文字だった。

 最早絶望に浸る時間さえも残されてはいなかった。気がつくと私は壁に掛けられた高校の制服に手を伸ばし、着替えを始めていた。

 そうして私は尋常ならざる速さで着替えを済ませて現在に至るというわけである。

 汗で服がびっとりと肌にまとわりついてくるのがとてつもなく不愉快だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。とにかく私はマラソン選手さながらに走り続けた。

 ランナーズハイというのか、もう既に十分以上は走っているがほとんど疲れていない。否、疲れを認識していないだけなのか。とにかく、本当にマラソン選手になれるのではないかと思うほどの勢いで私は走っていた。

 右へ左へと入り組む住宅街の道を曲がりながら学校へと突き進んでいると、学校へと続く最後の曲がり角が見えた。

 走りながらで手間取りながらもなんとかスマートフォンを取り出すと、現在の時刻は八時半を少し過ぎた辺りだった。このままいけばもしかしたらもしかすると、間に合うかもしれない。

 ほんの少しだけ見えた希望の光に、私は最後の残されているのかも危うい力を振り絞ってラストスパートをかけた。

 だんだんラストコーナーが近づいてくる。そしてもはや気力だけで動いている足に力をこめて家の塀で囲われた曲がり角を右に曲がる。

 自分でも見事なターンだった。一切無駄のない完璧なフォームで、もしもここに審査員がいたら間違いなく十点の札を揚げていただろう。

 と、そんな馬鹿なことを考えながら走っていると私の目の前に異様な光景が広がっていた。

「なあ!?······」

 思わずそんな声が出てしまう。

 いつも通りの通学路。家々に挟まれた急な坂の先に私の通う高校が見える、どうということもない平凡な道。

 あそこの角を曲がればそんないつもの光景が見える。見えるはずだった。

 しかし、私が角を曲がった先に見えた光景はそんないつもの光景とはあまりにかけ離れたものだった。

 もしかすると、もしかすれば工事などで若干風景が変化するかもしれない。だがこの風景の変わり様は工事などでは到底説明できないような変化だった。

 語彙の乏しい私の言葉で例えさせてもらうなら、パソコンの画像編集で、ある画像に全く関係のない画像を切り取り貼り付けたような、そんな光景だった。

 私が見るはずだった住宅街の道。その道が途中でぶつ切りにされたように終わり、そこから先に可笑しなほど不釣り合いな林道が続いていた。

 昔話にでも出てきそうな鬱蒼と生える木々の隙間に申し訳程度に人が通れる程度の道がある。もう獣道と言っても差し支えないだろう。

 全く、一切、さっぱり、理解できない。

 何の脈絡もなく、自分が当たり前だと思っていた風景が初めからなかったかのように綺麗に消え去り、その代わりに雑木林が広がっている。

 一体どこの誰ならばこんな状況を理解できるのだろうか。

 私はしばらく動けなかった。この雑木林に入っていくべきなのか、それとも別の道を探した方がいいのか。

 いや、ここはどう考えても後者を選択すべきなのだが。そんなことは百も承知なのだが、それでも私は決断できずにいた。

 学校に遅刻したくないという気持ちももちろんあるのだが、自分の目の前に存在する非日常、非常識に関わってみたいという気持ちもかなり強くあった。

 スマートフォンを見てみればもう既に八時四十分。もう完全に遅刻する時間だ。

「よし、行ってみよう」

 そうして私はこの得体の知れない雑木林に足を踏み入れることにした。

 しっかりとコンクリートで舗装された道から土の地面がむき出しの道とも呼べない獣道に入っていくと、もうずっと長いこと忘れていた泥の感触が足に伝わってくる。

 そびえ立つ背の高い木のおかげか、林の中は夏とは思えないほどひんやりと涼しく、ときたま吹いてくる風が心地よい。

 木々の独特の香りに包まれながら歩みを進めていくと、段々と林は深みを増していき道も狭まっていった。

 数分も歩くと最早獣道とも言えない状態になっていた。それはもう道というか、隙間といった方が的確に思える。

 普段の私ならもうこの辺りでやる気を失って引き返しているところだが、今日は不思議と好奇心が沸き上がり、やる気が尽きなかった。突きだしてくる木の枝や鬱蒼と茂る草を掻き分けながらより深みに入り込んでいく。

 そうして、何度か木の枝で制服を傷つけそうになったが、何とか少し開けた場所に出ることができた。このままずっとこんな道が続いたらどうしようかと心配だったけれど、どうやら杞憂だったようだ。

 一息ついたところで私は周りを見回してみる。何だか本当に町中に突如出現したとは思えないほど幻想的な森林だった。まるでずっと昔からここにあったように、歴史的な雰囲気が身体中に伝わってくる。

 そして、私はあるものを発見する。昔は鮮やかな赤色であったであろうことを思わせる黒ずんだ赤というよりは褐色の表面のところどころには深い緑色の苔が我が物顔でへばりついている。恐らくは世の中の人間ならば一度は見たことがあるであろう、何故か言葉では表しづらい形状、そこには大きな鳥居があった。

「うわあ······」

 実際にはそこまでの大きさはないのだが、その悠久の時を過ごしてきたのであろう古めかしさが私というちっぽけな存在を圧倒させた。

 まさかこんなところに神社があったとは······

 町中に雑木林があることにも驚きだというのに、さらに驚かされることになるとは思いもよらなかった。

 よくよく見れば鳥居の奥の方に社のようなものも見える。

 近づいてみると、朽ちに朽ちて辛うじて社とはわかるもののとても酷い状態だ。

 震度三くらいの地震で倒壊してしまいそうな社をずっと見ていたら、なんだか哀れに思えてきてちょっと参拝してみることにした。

 いかがだったでしょうか。私は話を考えるのが下手で投稿ペースも遅いと思いますが、どうか今後ともよろしくお願いします。

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