第6話:小さな悪役ムーブ②
昼休みの教室は、ざわざわしていた。
昼食の匂い。
椅子を引く音。
取り留めのない会話。
レオンは、自分の席に座っていた。
特別なことは何もしていない。
机に肘をつくこともなく、腕を組むこともない。
ただ、静かに座っているだけだ。
そのはずだった。
「……ねえ」
前の席の生徒が、振り返る。
視線が、ほんの一瞬だけ、怯えを含む。
「さっきの件だけど……」
言葉が途切れる。
レオンは、顔を上げる。
何も言わない。
どう返すべきか、考えているだけだ。
――その瞬間。
空気が、きしんだ。
言葉にできない緊張が、教室に広がる。
「……なに、その目」
誰かが、小さく呟く。
(目?)
レオンは、自分の表情を意識する。
怒っていない。
睨んでもいない。
ただ、無表情なだけだ。
視界の端に、UIが浮かぶ。
【威圧:上昇】
【恐怖:微増】
(……はあ)
内心で、ため息をつく。
話しかけられたから、見ただけ。
返事を考えて、黙っただけ。
それだけで、“威圧”。
レオンは、口を開くのをやめた。
何を言っても、
どうせ、歪む。
沈黙が続く。
だが、その沈黙が、さらに意味を持ち始める。
「……脅してるみたい」
「言い返せない空気にしてるよね」
ひそひそとした声。
視線が集まる。
UIの数値が、勝手に動く。
【冷酷:付与】
【他者軽視:強化】
(勝手に進むなよ)
そう思ったが、
口には出さない。
抵抗しない。
弁解もしない。
ただ、面倒だった。
(何も言わないのが、一番マシだな)
レオンは、視線を落とす。
それでも、数値は止まらない。
まるで、
沈黙そのものが罪であるかのように。
前の席の生徒は、耐えきれなくなったのか、
椅子を引いて立ち上がる。
「……ごめん、やっぱいい」
逃げるように、去っていく。
残された空気が、
レオンの周囲だけ、重い。
だが、彼の内心は静かだった。
怒りはない。
悲しみも、薄い。
ただ一つ、はっきりしていることがある。
(もう、会話はリスクだ)
言えば歪む。
黙れば、さらに歪む。
それなら――
必要最低限でいい。
レオンは、教室の喧騒から意識を切り離す。
世界は、彼に“悪役らしさ”を求めている。
本人の意思など、関係なく。
そのことを、
この日、はっきりと理解した。
そして同時に。
(……追放、まだかな)
そんな考えが、
ほんの一瞬だけ、頭をよぎった。




