第40話:共存の距離感
その日、二人は並んで歩かなかった。
レオンは畑へ向かい、
セラは森の縁を見回る。
約束も、指示も、ない。
それでも、
互いの存在は把握していた。
昼前、セラは戻ってきた。
魔物の気配は遠く、
今すぐ危険になることはなさそうだ。
「特に変わりはない」
報告というより、
事実の共有。
「そう」
レオンは土を払い、
短く返す。
それだけで会話は終わる。
セラは、少しだけ考えた。
(仲間、ではないな)
剣を預けたわけでも、
命を任せたわけでもない。
背中を守る、
そんな関係でもない。
だが――
(追い出されてもいない)
ここにいる理由を、
証明する必要がない。
午後、レオンは家の修繕を続け、
セラは刃の手入れをする。
互いに干渉しない。
だが、視界の端に、
もう一人がいる。
不思議な距離感だった。
夕方、セラが口を開く。
「……いつまで、ここにいるつもりだ?」
試すような問い。
レオンは、少しだけ考えてから答えた。
「追い出されるまで」
「随分、受け身だな」
「慣れてる」
それだけだった。
セラは、鼻で笑う。
「じゃあ、私は?」
「好きにすればいい」
即答。
「守ってほしいとも、
戦ってほしいとも思ってない」
それは拒絶ではなかった。
期待を、最初から置いていないだけだ。
セラは、少し黙り込み、
やがて剣を肩に担いだ。
「……当分、厄介になる」
「どうぞ」
歓迎でも、拒否でもない。
ただ、場所を共有する許可。
夜、二人は同じ火を囲む。
会話は少ない。
だが、沈黙は重くない。
(仲間じゃない)
(でも、敵でもない)
その中間。
名前のない関係。
レオンは、それが心地よかった。
役割も、契約も、
約束すらない。
それでも――
今日も、二人は同じ場所で眠る。
それだけで、
十分だった。




