第33話:眠れる夜
夜は、相変わらず暗い。
火を落とすと、
世界はすぐに輪郭を失う。
廃屋の中、
簡素な寝床に横になり、レオンは天井を見ていた。
風が吹く。
木が軋む。
そして――
遠くで、魔物の鳴き声。
低く、長く、
夜に溶ける音。
「……いるな」
以前なら、
この時点で眠れなかった。
身体を固くし、
意識を張り詰め、
いつでも逃げられるように構えていた。
だが、今日は違う。
鳴き声は遠い。
距離はある。
(大丈夫だ)
根拠は、薄い。
それでも、
“慣れ”という感覚が、
確かに生まれていた。
生き延びてきた、という実感。
避けて、逃げて、選んできた積み重ね。
それが、
不安を少しだけ薄めてくれる。
レオンは、息を整える。
深く吸って、
ゆっくり吐く。
心臓の音が、
徐々に落ち着いていく。
鳴き声は、まだ聞こえる。
消えてはいない。
それでも――
身体は、休もうとしていた。
(……眠れるな)
自分でも、少し驚く。
魔物がいる世界で、
完全な安全なんてない。
それでも、
ずっと緊張し続ける必要もない。
夜は、
警戒と休息の、境目だ。
目を閉じる。
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
魔物の声は、
やがて背景音になる。
怖い、という感情は、
もう暴れていなかった。
緊張が、
少しずつ、抜け始めている。
(……ここで、生きていける)
その感覚が、
眠りへと背中を押す。
レオンは、
誰にも起こされない夜に、
静かに身を委ねた。
そして――
魔物の声が聞こえるまま、
眠りに落ちた。
それは、
この場所で初めての、
ちゃんと休める夜だった。




