第28話:何も成果が出ない日
朝、畑を見に行った。
昨日と、何も変わっていない。
土は土のまま。
草も芽も、生えていない。
レオンはしゃがみ込み、
指で軽く土を触った。
湿り気はある。
硬さも、昨日よりはましだ。
だが――
「……出ないか」
芽は、ない。
生活魔法のUIが、視界の端に浮かぶ。
【生活魔法:微弱補助】
【対象:農作業】
【効果:作業効率向上(軽)】
試しに、魔法を使ってみる。
土をもう一度耕し、
種の代わりに、拾ってきた野草の根を植える。
変化は、ない。
光も、反応も、奇跡も起きない。
魔法は、
“成長させる力”ではなかった。
「……まあ、そうだよな」
肩をすくめる。
学園なら、
この結果に、焦っていただろう。
成果が出ない=無価値。
結果が見えない=怠慢。
そう刷り込まれていた。
だが今は――
焦りが、ない。
(あれ……?)
レオンは、そこで気づく。
胸の奥が、ざわついていない。
不安も、苛立ちも、
自分を責める声も、ない。
(出ない日も、あるか)
そう思える自分に、
少しだけ驚いた。
畑は、何も言わない。
土は、結果を急がない。
人の都合など、知らない。
だからこそ、
今日芽が出なくても、
それは失敗じゃない。
ただ、
“今日じゃなかった”だけだ。
レオンは立ち上がり、
土を払う。
やることがなくなったわけじゃない。
屋根の補修も、
薪集めも、
水汲みもある。
成果は、目に見えなくてもいい。
生きていれば、
それで十分だ。
畑を振り返り、
レオンは小さく息を吐いた。
「……明日でいいか」
その言葉が、
自然に出てきたことに、
自分でも少し笑ってしまう。
何も成果が出ない日。
それでも、
心は、不思議と穏やかだった。
ここでは――
結果が出ない一日も、
ちゃんと“一日”として、許されていた。




