第25話:夜の恐怖
夜は、思っていたよりも深かった。
火は小さく、
闇は広い。
廃屋の中で横になりながら、レオンは目を閉じていた。
眠ろうとしている――わけではない。
耳が、冴えていた。
風が草を揺らす音。
木が軋む音。
遠くで、何かが動く気配。
そして――
低く、長い鳴き声。
「……魔物、か」
腹の底に、冷たいものが落ちる。
学園で聞いた話を思い出す。
辺境には、人より魔物の方が多い。
夜は、特に危険だと。
ここには、壁もない。
結界もない。
守ってくれる兵士もいない。
逃げ場は――ない。
レオンは、自然と呼吸を整えた。
心臓は、少し速い。
だが、暴れてはいない。
(怖いな)
正直な感想だった。
死にたくはない。
襲われるのは嫌だ。
だが、それ以上に、
別の感情が浮かんでくる。
(……でも)
この場所は、
誰かに押し付けられたわけじゃない。
追放されたのは事実だ。
選択肢は、ほとんどなかった。
それでも――
ここに留まると決めたのは、
自分だった。
逃げ出すこともできた。
泣きつくこともできた。
助けを求める相手を、探すこともできた。
それを、しなかった。
鳴き声が、もう一度響く。
今度は、少し近い。
レオンは、身を起こし、手の届く位置に置いた木の棒を握った。頼りない武器。それでも、空手よりはましだ。
震えは、ない。
あるのは、覚悟にも似た静けさ。
(もし来たら……その時は、その時だ)
投げやりではない。
諦めでもない。
ただ、自分で選んだ結果を、
自分で引き受けるという感覚。
しばらくして、鳴き声は遠ざかっていった。
森が、再び静かになる。
レオンは、ゆっくりと息を吐いた。
「……行ったか」
身体の力が、少し抜ける。
怖かった。
確かに、怖かった。
それでも――
学園で感じていた恐怖とは、違う。
誰かの気分一つで壊される未来。
理由のない断罪。
役割に潰される日々。
あれよりは、
ずっと、ましだ。
レオンは、再び横になる。
屋根の隙間から、星が見えた。
(ここは……俺の場所だ)
安全じゃない。
優しくもない。
それでも、
自分で選んだ夜だった。
闇の中で、
レオンは、静かに目を閉じた。




