第24話:初めての食事
火は、まだ生きていた。
夜の冷え込みの中で、赤く揺れる炎は心許ないが、消えてはいない。
レオンは、腰を下ろし、荷袋の中身を確認した。
王都を出る前に渡された最低限の支給品。
乾いた保存食が、いくつか。
(……これが、最初の飯か)
固い。
匂いも、あまり良くない。
それでも、文句を言う相手はいなかった。
昼に見かけた野草を思い出し、いくつか摘んできていた。食べられるかどうか、確信はない。だが、少なくとも毒草ではないはずだ。
鍋代わりの器に水を入れ、
保存食を砕き、
野草を放り込む。
火にかける。
煮立つまで、ただ待つ。
誰も、急かさない。
やがて、よく分からない匂いが立ち上った。
「……うわ」
思わず、素直な声が出た。
色は濁り、
見た目は最悪。
味の予想も、あまりしたくない。
だが、腹は減っている。
レオンは覚悟を決め、一口、口に運んだ。
――まずい。
舌に広がる、苦味と渋みと、妙な酸味。
保存食の癖と、野草のえぐみが、容赦なく主張してくる。
「……最悪だな」
そう言ってから、ふと気づく。
誰も、睨んでいない。
誰も、「贅沢だ」と言わない。
誰も、「努力が足りない」とも言わない。
もう一口、食べる。
味は変わらない。
それでも、身体は少しずつ温まっていく。
腹が満たされていく感覚が、はっきりと分かる。
(これでいい)
美味しくなくてもいい。
効率が悪くてもいい。
誰かの期待を満たさなくてもいい。
学園にいた頃なら、
こんな食事は嘲笑の的だっただろう。
だが今は違う。
この料理は、
誰の評価も受けない。
失敗でも、成功でもない。
ただの、今日の食事だ。
最後の一口を飲み込み、レオンは深く息を吐いた。
「……生きてるな」
呟きは、夜に溶けた。
火は静かに燃え、
星は変わらず瞬いている。
味は、確かに最悪だった。
それでも――
文句を言われない食事は、
不思議と、心を満たしていた。




