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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第22話:最低限の住処

 朝の光の中で、レオンは村を歩いた。


 と言っても、整備された道はない。

 草に覆われ、石が転がり、建物の輪郭だけが辛うじて残っている。


 どこも似たような廃屋だった。


 屋根が抜けている家。

 壁が半分崩れている家。

 床ごと沈んでしまっている家。


「……ここかな」


 選んだ理由は、単純だった。


 屋根が、まだ残っている。

 柱が、倒れていない。

 入口の扉が、一応閉まる。


 “使える”というより、“直せば住めそう”な家。


 レオンは中に入る。


 埃の匂い。

 湿った木材。

 床には枯葉と土と、何かの巣の名残。


 誰かの生活が、時間に押し潰された空間だった。


「まずは……掃除か」


 誰に命じられたわけでもない。

 だが、自然にそう思えた。


 外から折れた枝を集め、

 床を軽く掃き、

 瓦礫を端に寄せる。


 作業は遅い。

 道具もない。


 それでも、不思議と苦ではなかった。


 途中、屋根を見上げる。


 穴がある。

 雨が降れば、確実に濡れる。


(直さないと駄目だな)


 その瞬間だった。


 視界の端が、わずかに揺れた。


 久しぶりの感覚に、レオンは手を止める。


 半透明のUIが、静かに浮かび上がった。


【生活魔法:微弱補助】

【使用可能】

【効果:作業効率の軽度向上/疲労軽減】


 派手な演出はない。

 警告も、強制もない。


 ただ、選択肢として“そこにある”。


 レオンは、しばらくそれを眺めていた。


(……強制じゃない、のか)


 学園では、UIは命令だった。

 数値は裁定で、表示は運命だった。


 だが今は違う。


 使わなくてもいい。

 拒否もできる。


 誰も困らない。


 レオンは、静かに息を吐いた。


「……使うか」


 初めての、自分の意思。


 UIを“押す”感覚は、ほとんどなかった。

 ただ、そう思っただけだ。


 次の瞬間、身体が軽くなる。


 力が増したわけではない。

 魔力が溢れるわけでもない。


 ただ、

 埃が舞うのが少し減り、

 木材を持つ手が、少し安定する。


「……地味だな」


 だが、その地味さが、妙にありがたかった。


 屋根の隙間に板を当て、

 隙間を埋め、

 最低限、雨を防げる形にする。


 完璧ではない。

 見た目も悪い。


 それでも。


 作業を終えて、家の中に立つ。


 屋根がある。

 床が見える。

 自分の居場所が、はっきりと存在している。


「……十分だ」


 誰かに褒められることもない。

 評価も、点数も、好感度もない。


 だが、この空間は、

 確かに“自分が作った”。


 レオンは、壁にもたれかかり、座り込む。


 外では風が吹き、

 廃村は相変わらず静かだった。


 それでも――


 最低限の住処は、

 確かにここにあった。


 そしてそれは、

 誰の役割でもない、

 レオン自身の選択だった。

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