第19話:グレイウッド到着
馬車は、そこで止まった。
それ以上、道は続いていなかった。
「……ここが、グレイウッドです」
御者の声は、必要最低限だった。
説明も、同情もない。
レオンは、馬車を降りる。
足元の土は固く、
踏みしめると、乾いた音がした。
見渡す限り、建物がある。
――だが。
どれも、壊れていた。
屋根が抜け、
壁が崩れ、
窓は割れたまま。
かつて人が住んでいた痕跡だけが、
風に晒されて残っている。
廃村。
それ以外の言葉が、思い浮かばなかった。
人の気配はない。
声も、足音も、ない。
聞こえるのは、
風が草を揺らす音と、
遠くの森のざわめきだけ。
御者は、鞭を軽く振る。
「帰り道が、日没までに――」
言いかけて、止めた。
ここでは、
その言葉自体が意味を持たない。
馬車は、向きを変え、
来た道を引き返していく。
あっという間に、
小さくなり、
やがて見えなくなった。
一人。
完全に、一人。
レオンは、
しばらくその場に立っていた。
視界の端に、UIが浮かぶ。
だが、反応はない。
好感度も、恐怖も、
ここでは測る相手がいない。
(……静かだ)
不安は、ない。
寂しさも、思ったほどじゃない。
むしろ、
頭の中まで、音が消えていく。
王都の喧騒。
学園のざわめき。
断罪の拍手。
すべてが、
遠い出来事のようだ。
廃屋の一つに、目を向ける。
壁は崩れているが、
雨風は、ある程度しのげそうだ。
(住めなくはないな)
そんな、現実的な考えが浮かぶ。
それが、
妙に嬉しかった。
誰かに決められた役割じゃない。
生き延びるための、ただの判断。
レオンは、深く息を吸う。
空気は冷たく、澄んでいる。
(何もない)
その事実を、
否定しようとは思わない。
何もないから、
始められる。
ここには、
物語も、期待も、観衆もいない。
あるのは、
壊れた村と、
静寂と、
自分だけ。
レオンは、
ゆっくりと歩き出した。
誰に見られるでもなく。
評価されるでもなく。
――ここからは、
ようやく、
自分の時間だった。




