第1話:王立学園入学
王立学園の正門は、やけに立派だった。
白い石造りのアーチ。
紋章の刻まれた門扉。
集まる生徒たちは、どこか誇らしげで、少し浮ついている。
――貴族社会の縮図。
レオンは、その中にいた。
派手な装飾はない。
制服も規定通り。
背筋は伸ばしているが、視線は前だけを向いている。
目立たない。
目立とうともしない。
(学園……か)
前世の学校とはまるで違う。
だが、空気の重さだけは妙に似ていた。
ここでも、人は役割で見られる。
家柄。
立場。
将来性。
入学した瞬間から、序列は決まっている。
周囲の視線が、レオンの上をなぞる。
好奇。
警戒。
そして、ほんのわずかな――嫌悪。
(……もう始まってるな)
何もしていない。
ただ立っているだけだ。
それでも、視界の端に浮かぶ半透明の表示が、静かに動く。
【好感度:低】
【信頼:未形成】
予想通りだった。
ざわめきが、一段と大きくなる。
理由はすぐに分かった。
「王子殿下だ……!」
人の流れが割れる。
自然と、中心が生まれる。
そこにいたのは、金髪の少年だった。
背が高く、立ち姿に迷いがない。
王子アレクシス。
彼が歩くだけで、周囲の空気が整えられていく。
期待され、信頼され、歓迎される存在。
レオンの視界にも、数値が見えた。
【好感度:非常に高】
【信頼:高】
【期待:固定】
(最初から、完成品だな)
羨望はない。
敵意もない。
ただ、違う世界の人間だと理解するだけだった。
その少し後ろ。
人混みの奥に、柔らかな光のような存在が見える。
白に近い髪色。
控えめな微笑み。
聖女ミリア。
まだ遠い。
直接関わることはない。
だが、彼女の周囲だけ、数値の動きが異様に滑らかだった。
(……触らない方がいい)
直感が、そう告げる。
レオンは一歩、距離を取る。
列に並び、入学手続きを淡々と済ませる。
教師に挨拶されても、短く頷くだけ。
周囲の生徒とも、必要以上に関わらない。
無害。
無口。
目立たない。
それが最適解だと、分かっている。
――分かっている、はずだった。
だが。
背後から、ひそひそと声が聞こえる。
「……あの人が?」
「そう、あの家の……」
「なんだか、冷たそうよね」
振り返らない。
否定もしない。
(色眼鏡、か)
溜息すら、心の中で済ませる。
この学園で、レオンはまだ何もしていない。
それでも、すでに役割は始まっている。
――悪役令嬢。
そういう目で、世界が彼を見ていた。
レオンは、静かに歩き出す。
気づかれないように。
期待されないように。
それが、ここで生きるための第一歩だと、信じて。




