第18話:辺境への道
道は、いつの間にか舗装されなくなっていた。
石畳は土に変わり、
整えられた街路樹は、まばらな雑木になる。
馬車は揺れる。
王都では感じなかった、不規則な振動。
それでも、嫌じゃない。
むしろ、
「ちゃんと外に出た」という実感があった。
窓の外に広がるのは、荒れた土地だ。
耕されていない畑。
崩れかけた柵。
人の気配が、薄い。
御者が、ぽつりと口を開く。
「この先が……グレイウッドです」
グレイウッド。
名前だけは、
ずっと前から知っていた。
追放先。
隔離先。
中央にとって、
“使い道のない場所”。
レオンは、景色から目を離さない。
荒れている。
管理も、期待も、放棄されている。
捨てられた土地。
(なるほどな)
学園が、
自分を捨てる場所として選ぶわけだ。
ここなら、
目障りにならない。
物語の外に追いやれる。
だが――
レオンは、不思議と嫌悪を覚えなかった。
完璧に整えられた世界より、
ずっと、正直に見える。
視界の端に浮かぶUIは、
ほとんど沈黙している。
数値は表示されているが、
干渉してこない。
命令も、補正もない。
(ここは……物語の外だ)
その感覚に、
胸が、少しだけ温かくなる。
荒れた土地は、
同時に、自由な土地でもある。
誰にも期待されない。
誰にも評価されない。
だから、
何をしてもいい。
何もしなくてもいい。
馬車は、
さらに奥へと進んでいく。
人の営みが途切れ、
自然の音が増えていく。
風の音。
鳥の声。
遠くで、獣が動く気配。
レオンは、
それらをただ受け取る。
(……悪くない)
むしろ、
この場所なら、
やっと呼吸ができそうだ。
辺境への道は、
荒れていて、
不親切で、
何も保証してくれない。
だからこそ。
レオンは、
その先にあるものを、
少しだけ楽しみにしていた。
物語の続きを、
自分で選べる気がしたから。




