第16話:別れ
馬車は、学園の裏門に停められていた。
正門ではない。
来賓も、生徒も行き交わうことのない、
普段はほとんど使われない場所。
――追放者には、相応しい。
荷物は少ない。
小さな鞄が一つ。
それで十分だった。
レオンは、ゆっくりと周囲を見回す。
誰もいない。
教師も、
級友も、
理解者(未満)だったあの人物も。
見送りは、ない。
呼び止める声も、
「すまなかった」という言葉も。
風が、木々を揺らす音だけが響いている。
(……そりゃ、そうか)
驚きはなかった。
来ると期待していない。
期待しないことに、もう慣れている。
レオンは、学園の建物を見上げる。
高く、立派な校舎。
ここで過ごした日々が、
頭の中をよぎることはなかった。
楽しかった記憶も、
苦しかった記憶も、
不思議と浮かんでこない。
ただ、
役割を演じさせられていた場所という認識だけが残っている。
視界の端に、UIが浮かぶ。
感情数値は、ほとんど表示されない。
この場所に、
もう自分に関係する感情がないからだ。
(綺麗に、切れたな)
それは、悪い気分じゃなかった。
むしろ、心地いい。
前世で会社を辞めたときも、
最後はこんな感じだった。
誰も引き止めず、
誰も振り返らない。
だからこそ、
後腐れがない。
御者が、短く声をかける。
「……行きますか」
レオンは、頷いた。
馬車に乗り込む前、
もう一度だけ、学園を見る。
未練はない。
怒りもない。
ただ、
「終わった」という実感。
(これで、いい)
誰にも理解されなくてもいい。
誰にも覚えられなくてもいい。
この世界が、
自分をどう扱おうと、もう関係ない。
馬車の扉が閉まる。
車輪が、ゆっくりと回り始める。
振り返らない。
見送りがないことを、
寂しいとも思わない。
それが、
レオンにとっての、
学園との決別だった。
静かな道の先に、
辺境が待っている。
グレイウッド。
人の目が届かない場所。
役割が、薄れる場所。
レオンは、
馬車の揺れに身を任せながら、
小さく息を吐いた。
「……さて」
それは、
新しい人生の始まりにしては、
ずいぶん静かな一言だった。




