第13話:冤罪の読み上げ
静まり返った会場に、声が響く。
「これより――」
進行役の教師が、一歩前に出た。
その手には、数枚の書類。
紙の束が、やけに重く見える。
「レオン・グレイハルトに関する、数々の不正行為について読み上げる」
その瞬間、
観衆の空気が一段、引き締まった。
――来た。
レオンは、そう思っただけだった。
「第一。
聖女ミリアに対する、度重なる嫌がらせ」
ざわり、と声が漏れる。
「第二。
学園内における、生徒への威圧的態度」
「第三。
授業および行事への妨害行為」
「第四。
身分を笠に着た、傲慢な振る舞い」
一つ一つ、
言葉が積み重ねられていく。
どれも、聞き覚えがある。
――というより、“使いやすい”。
(ああ……その分類か)
レオンは、内心で整理する。
事実かどうかは重要じゃない。
重要なのは、それっぽいこと。
聖女が泣いた。
誰かが怖がった。
雰囲気が悪くなった。
それだけで、罪は成立する。
証拠は、提示されない。
日時も、具体的な行為も、曖昧だ。
「複数の証言があり――」
その“証言”が誰のものかは、語られない。
だが、誰も疑問に思わない。
皆、もう知っているからだ。
――レオンは悪役。
その前提が、すべてを成立させている。
レオンの視界に、UIが浮かんでいる。
【嫌悪】
【恐怖】
【納得】
数値は、完璧に揃っている。
まるで、
「正解」をなぞっているかのように。
(綺麗だな)
皮肉ですらない感想が浮かぶ。
これだけ大勢の感情が、
同じ方向を向くことは、普通ならあり得ない。
だが、この世界では――
予定されている。
「これらの行為について、弁明はありますか?」
教師の声が、淡々と問いかける。
全員の視線が、レオンに集まる。
期待。
怒り。
好奇心。
――何か言え。
――悪役らしく、足掻け。
そんな圧が、はっきりと伝わってくる。
レオンは、口を開かない。
瞬き一つせず、
ただ、そこに立っている。
否定しない。
肯定もしない。
沈黙。
その沈黙が、
さらに場を熱くする。
「やはり反省がない……」
「無言は、認めたのと同じだ」
勝手に意味が付与されていく。
レオンは、それを聞き流す。
反論しない理由は、単純だった。
言っても、変わらない。
いや――
正確には、変えさせてもらえない。
この場は、裁判じゃない。
確認作業だ。
すでに決まっている結論を、
皆でなぞるための儀式。
(これ、仕事のレビューと一緒だな)
前世の記憶が、ふと重なる。
結果が悪いと決まっていて、
理由は後付け。
説明すればするほど、
「言い訳が多い」と評価される。
だから、何も言わない。
それが、最も早く終わる。
教師は、短く息を吐いた。
「……弁明なし、と受け取ります」
その宣言に、
観衆が満足そうに頷く。
レオンの役目は、
もう終わっている。
これ以上、彼の意思は必要ない。
冤罪の読み上げは、
滞りなく完了した。
会場には、
正義が達成されたあとの、
奇妙な高揚感が満ちていた。
その中心で、
レオンだけが、静かだった。
(最大ストレス点、通過)
そう、どこか他人事のように思いながら。
次に来るのは、
――判決。
そして、
――追放。
それだけは、もう分かっていた。
だからこそ、
レオンは、微動だにしなかった。




