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追放された悪役令嬢(♂)に転生した俺、チートを隠して辺境でスローライフするつもりが世界最適解になっていた件  作者: 南蛇井


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第0部:プロローグ 世界は“役割”を人に押し付ける

 深夜のオフィスは、いつも同じ匂いがした。

 埃と、冷めたコーヒーと、終わらない仕事の匂い。


 モニターにはエラーログが流れ続け、

 チャット欄には未読メッセージが溜まっている。


「君がやらないと回らないんだよ」


 上司の言葉に、レオンは何も返さなかった。

 返せなかった、の方が正しい。


 断れば誰かが困る。

 自分がやれば、とりあえずは丸く収まる。


 そうやって生きてきた。


 誰かの役に立っていないと、

 自分には価値がない気がしていたから。


 コンビニ弁当を片手に、椅子から立ち上がろうとした瞬間。

 視界が、わずかに歪んだ。


(ああ……)


 痛みはなかった。

 苦しさも、恐怖もない。


 ただ、妙に納得していた。


(もう無理だな)


 それが、最後の思考だった。


 次に目を開けたとき、白しかなかった。


 上下も、奥行きも分からない空間。

 音もなく、風もない。


 そこに、声が響く。


 姿はない。

 感情も、温度も感じられない。


「あなたは転生します」


 淡々と、事務的に。


 魔法の存在。

 貴族制度。

 学園。


 説明は流れるように続く。


 レオンが違和感を覚えたのは、その内容ではなかった。


(……なんだ、この説明)


 まるで、書類を読み上げているようだ。

 そこに「意思」が感じられない。


「あなたはこの役割です」

「あなたの立場はここになります」

「例外は想定されていません」


 決定事項だけが、次々と告げられる。


 そのとき、視界に変化が起きた。


 半透明の表示。

 ゲームのUIのような枠。


 そこに並ぶ文字。


 好感度。

 信頼。

 嫉妬。

 恐怖。


 数値が、上下している。


(ゲームみたいだな)


 そう思ってから、すぐに訂正した。


(……いや、ゲームより気持ち悪い)


 これは操作画面じゃない。

 管理画面だ。


 人の感情が、管理されている。


 そして、最後に。


「あなたの役割はこちらです」


 表示された文字を見て、

 レオンは一瞬、理解を放棄した。


【ロール:悪役令嬢】


「……令嬢?」


 思わず、声が出る。


「俺、男だけど?」


 返答は即座だった。


「性別は重要ではありません」

「世界に必要な役割です」

「物語の安定性が優先されます」


 その言葉を聞いた瞬間、

 胸の奥が、ひどく冷えた。


(ああ……)


 ここでも、か。


 誰かが決めた枠。

 誰かの都合。

 押し付けられる役割。


 未来の断片が、流れ込んでくる。


 学園。

 王子。

 聖女。

 断罪。

 追放。


 誰も、選んでいない。

 ただ配置され、動かされている。


 怒りは、なかった。


 代わりにあるのは、疲労と、諦観。

 そして、静かな拒絶。


(……今度こそ)


 心の中で、そうつぶやく。


(ちゃんと“自分の人生”を生きたいんだけどな)


 その瞬間、

 UIが、わずかに乱れた。


 数値が空白になる。

 役割表示が、一瞬揺らぐ。


 だが、声はすぐに言い切る。


「……問題ありません」

「役割は正常に適用されます」


 世界は、誤魔化して進む。


 そして――


 産声。


 重く、動かない体。

 誰かの「おめでとうございます」という声。


 視界の端に、小さく残る表示。


【ロール:悪役令嬢(固定)】


(……また、か)


 意識が、沈んでいく。


 この世界では、

 人は生き方を選べない。


 ――少なくとも、選べないはずだった。

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