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9章 圧勝

長らくお待たせしました。難しい話がゆえに、なかなか進まず、投稿も遅れました。

 目覚ましの音が鳴り響く。

時計は7時を指していた。

今日も平日だが、学校を休む。

洗面所から水道の音が聞こえる。

どうやら橘はもう起きているようだ。

洗面所にいるのなら、俺は朝食を作っておこう。

元気が出る食事といえば、あぁ、米だな。

 俺は朝食作りに取り掛かった。

 朝食ももうすぐできるという頃、橘がリビングに入ってきた。

「おはよう」

俺は久しぶりに家で誰かに対して挨拶をした。

久しぶり?なぜそう思ったのだろう。

母に対してなのか、よく思い出せない。

「おはよう」

橘は完全に準備ができている状態だった。

そして、朝食の準備が完了した。

 俺と橘は2人で朝食をとった。

 その後、橘の家に行く準備をした。

「行くか」

俺は玄関に立った。

「行こう」

橘の感情は微かに恐怖と不安もあるが、向き合おうとしているのか、勇気の色が出ている。

これなら問題はなさそうだ。

 橘の家に着いた。

家には灯りがついている。

もう起きているようだ。

現時刻は朝の9時。

もう家にお邪魔しても大丈夫そうな時間だろう。

俺は家のチャイムを押した。

そうすると、インターホンから誰かの声が聞こえてくる。

『どちら様でしょうか』

おじいさんのような声だ。

橘に聞く限りには家族の中におじいさんはいなかったはずだが。

「退けて、私が話す」

橘は小声で言って前にでた。

俺は頷いて後ろに下がった。

「父に繋いでもらえますか?娘の汐霖が来たと言えば納得してくれると思います」

橘は外面の仮面をかぶって話した。

「あの人は多分雇われた人」

橘は先ほどの外面から一瞬で元の橘へと戻った。

すごい変わりようである。

 少し経って、門が開いた。

橘は前に立って迷わずにスタスタと歩いてゆく。

 玄関に着くと、執事みたいなおじいさんが現れた。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

大きい豪邸に、執事のような人。ここだけ見れば昔の時代に飛んだように思える。

ここまで来てしまった。

橘はどんな気持ちなのだろう。

恐怖?不安?悲しみ?

橘の方を見ると、覚悟に染まった色をしていた。

こんなに一色の感情を見るのはそうそうない。

 人間の感情というものは混ざり合う。

そして、どす黒くなるものが大半を占めている。

あぁ、この一色の感情、なんて言葉で表すのだろうか。

よくわからない。

「私は一旦自室に戻って物を取りに行きます。その後に父のいるところへと案内してください」

橘はそう言うと、階段を上がった。

俺は橘の後ろについていくだけだった。

 少しして、橘が家の角のドアの前に立ち止まった。

ここが橘の部屋なのだろうか。

「ここで待ってて」

橘はそう俺の耳元で言って、部屋の中に入っていった。

もう覚悟の色に染まった橘なら俺の手助けなんていらないだろう。

そう思いながら、俺はドアの前でまった。

 数分して、ドアが開く音が聞こえ、ドアの方を見た。

橘が出てきて、白い袋を持っていた。

おそらくあれがパスワードの入ったパソコンなのだろう。

 そこから、執事みたいな人に案内してもらい、橘の父親のいる部屋の前へついた。

俺は橘を見た。

感情が変化してないかを見るために。

すると、覚悟一色に染まっていた感情がトラウマや不安に駆られていた。

だが、それも一瞬のこと。

すぐに感情は覚悟へと戻った。

「失礼します」

橘はドアをノックし、ドアを開いた。

そこに見えたのは、橘以外の家族が楽しそうにしているところだった。

「あぁ、来たか汐霖。それで、どうしたんだ?くだらない用事なら聞かないからな」

橘の父親は先ほどまで楽しそうな笑顔をしていたのが、橘に顔を向けた瞬間、厳しそうな顔になった。

感情も、楽しい黄色から邪魔だと思っているような紫になった。

この色は家族に向けられない色だと学んだ気がするのだが、違ったのだろうか。

「くだらない用事ではありません。ただ、⚪︎⚪︎企業、◻︎◻︎企業・・・からお金が入っている通帳を貸してもらいに来ました」

橘は冷静に話した。

それでもまだ、愛されたい、家族だからという思いがあるのか、否定されるのが怖いのか、少し怖さの色が滲んでいる。

「通帳?なぜ子供のお前にそんなものをあげねばならない。それに、⚪︎⚪︎企業といえば、私が持っている企業の中でも1位2位を争う大企業じゃないか」

流石に⚪︎⚪︎企業が大企業だと言うことは知っていたようだ。

準備してきたかいがあった。

俺はカバンから数枚のプリントを取り出した。


 昨夜

俺と橘は通帳をもらう準備として、橘が企業を手伝ったとわかる証拠、そして、橘の父親が何もしていないと言う証拠、証言。

その全てを準備した。

企業側からは、とても快く手伝ってもらえた。

様々な企業に連絡したが、その度に橘は少し楽しそうに見えた。

それは企業の人たちも同じだった。

俺はこの人たちなら橘の感情を掘り起こせるだろうと思った。

だから俺は、この人たちと一緒に橘が過ごしていくと言う未来をそっと胸においた。


「これを見てください。ちなみに、この資料はバックアップをとってるので消すことはできません」

俺は営業スマイルという仮面を被り、笑顔で話した。

ちなみに、俺は笑顔ができないわけではない。

ただ、慣れていないからやっていないというだけである。

その笑顔を見て、橘は表情には出さないが、目を見開いてこっちを見ていた。

橘はすごく、驚いていた。

「うん?お前は誰だ?」

この父親には俺が見えていなかったのだろうか。

まぁ、そんなことはどうでもいい。なんなら、これほどまで鈍感な方が扱いやすいだろう。

「申し遅れました。私、月城と申します。た、汐霖さんとはちょっとした縁があり、仲良くさせていただいています」

笑顔というものを久しぶりにするからか、顔の筋肉が少し辛そうだ。

「そうか。それで、このプリントを見ればいいのだな」

なぜか、橘の父親は少しおとなしくなった。

おそらく、世間に嫌な噂が流れたら嫌なのだろう。

「はい」

 橘の父親はその数枚のプリントに目を通し始めた。

1枚目を見ると、どんどん読むスピードが上がっていった。

「おい!これはどうゆうことだ!」

先ほどのおとなしさはどこへ行ったのかと思うほど、大きな声を出した。

その感情は言うまでもなく、怒りの赤だ。

「どう言うことも何も、事実を全て提示しただけですよ。信じられないのでしたら、企業側からも何か言ってもらいましょうか?」

俺は焦らずに冷静に話した。

その間も橘の父親は怒っているようだった。

「汐霖!説明しろ!」

橘の父親の怒りは俺から橘へと移った。

だが、それでも橘は冷静だった。

「その資料の通りですよ。あなたがこの家にいない間に私が企業を救ったんです。あなたが何もしないから」

橘の最後の言葉には少し棘があったように感じた。

感情は少しの怒りと悲しみだった。

「だ、だが、通帳は渡さんぞ。私が買った企業だ。私のものだ」

橘の父親は腰が引けながら言い放った。

とてもじゃないが説得力など皆無だ。

「今は確かにあなたのものですよ。ですが、買っただけじゃあいけないんです。義務は守らないといけないんですよ。その義務はた、汐霖さんがやってくれました。諦めて通帳を渡してください」

俺は言い返せないように淡々と言いつづけた。

橘の父親は何も言い返せずに黙り込んだ。

そんな態度の父親に橘は最終手段を言い出した。

「だんまりでもなんでもいいですが、自分の行動には責任を持ってください」

橘は父親の自分勝手な行動にムカついたのか、強めに言った。

 その後も無意味な言い争いは続いた。

その結果、通帳の今の中身は橘の父が。通帳自体は橘自身が持つこととなった。


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