8章 話し合い
すいません。投稿が遅くなりました
俺の家に着いた頃にはもう外は薄暗くなっていた。
「橘はリビングのソファに座ってて」
そう言って、俺はキッチンに向かった。
「はい、これ。頬がまだ少し赤いから」
俺はタオルで包んだ保冷剤を橘に渡した。
それと、麦茶をソファの近くの机においた。
「ありがと」
橘は保冷剤を受け取り、頬に優しく当てた。
「服は、母さんが買って着てない服があるからそれを使ったらいい。今日は心を安定させるためにゆっくりして」
時間はいっぱいあるのだ。
話を聞く限り、橘の両親は橘のことを全くもって気にしていないような感じだろう。
それに、学校は風邪だと言って休めばいい。
最大で1週間近くは休めるだろう。
ちなみに、心のことについては散々本やインターネットで調べたからなんとなくならわかる。
「わかった」
橘は少し落ち着いたようで、深い青が薄い青になっている。
だが、少し落ち着いたとはいえ、悲しみが完全になくなったわけではない。
橘には心が完全に安定するまでゆっくりしてもらえるようにしよう。
「18時だから、夕飯の準備をする。テレビを見てもらって構わないし、寝ていてもいい。本を読みたいなら突き当たりの部屋の本を読んで。自由に過ごしてもらって構わない」
俺は、夕飯を作りにキッチンに向かった。
そういえば、橘は嫌いな食べ物とかあるのだろうか。
何か食べたいものでも聞こうか。
「橘。嫌いな食べ物とかアレルギーとかあるか?」
俺はキッチンから少し大きな声を出して聞いた。
「ない」
「なら、食べたいものってあるか?」
「温かいもので」
「わかった」
温かいものか、心が冷えているのだろうか。
温かいもので心が温まるもの、。
俺は、料理をし始めた。
30分くらいして、出来上がった。
一人暮らしだし、お金も限られているから、ほぼ毎日自分でご飯を作っている。
大体のやり方さえわかればレシピを見れば普通に作れる。
「夕飯、できたぞ」
俺はエプロンを脱ぎながら言った。
橘は本を読んでいたみたいだ。
橘は立ち上がって食事をする机にきて、椅子に座った。
「シチュー?」
そう、シチューだ。
心が温まるといえばシチューだろ。
広告やら、シチューのパッケージに書いてあった。
「何か嫌なものでもあったか?」
嫌いなものがあったのか?
だが、嫌いなものはないと、橘自身が言っていたし。
シチューの暖かそうな湯気が立ち上る中、不自然な沈黙となった。
俺はその空気も読めずに、声を発した。
「食欲が湧かないのか?」
先ほどの沈黙の中、全くもって気にせずに話しかけてきた俺に驚きの感情を橘はむけてきた。
「違う。ただ、過去の、偽の記憶を思い出しただけ」
そういうと、橘の顔が少し陰ったような気がした。
俺は、橘の向かいに座り、シチューを食べ始めた。
こうして誰かと家で食事するなんて初めてだ。
ドラマやアニメだと、こういう時に涙を流して悪から善になるだろうが、俺はまだ黒い沼に残っている。
橘も食べ始めた。
味は不味くはないだろうが、もし嫌なら無理をさせてしまうかもしれないな。
「「ごちそうさま」」
二人とも食べ終わり、俺は食器を洗った。
その間に、前もって沸かしておいた風呂に橘を入らせた。
食器を洗い終わると、俺はまだ読んでいない小説を読み始めた。
微かに聞こえるシャワーの音と、一定の間隔で捲られるページの音。
そういえば、風呂上がりには飲み物が必要だよな。
俺は、透明なコップに氷を数個入れ、麦茶を注いだ。
そのコップを机に置いて本の続きを開いた。
橘が風呂から出てきた。
そして、俺も風呂に入った。
風呂に入り終わると、2人でソファに座った。
「これからどうするか、」
俺は腕を組みながら言った。
橘は家出状態だ。それに、俺はその橘を匿う共犯者だ。もし、橘が家に戻るとしても家族から居ないものとして扱われる可能性が多い。そうなると、橘のこの悲しみは解かれずに悪化してしまう。
「ごめん、迷惑かけて」
橘はまたもや顔を曇らせた。
それにしても、橘ってちゃんと謝れたのか。そこまで橘と話すことがないからそう思っているだけかもしれないが、。
「少し迷惑かもしれないが、橘の両親に会ってみてもいいか?」
俺は思いついたのだ。
中学生でも一人暮らしができることを。
それに、全寮制の学校に転校すれば親に会わずにすむ。
そのためには、橘の両親の保証が必要にもなってくる。
ならば、保証だけしてもらって、後は金銭的な問題なのだが、そこはどうにか説得しないとな。
「なんで?」
橘は少し警戒の色を出している。
それもそうだろう。
橘は昔、裏切られたことがある。
それに、今はひどく傷ついている。
「橘さえ良ければだが、一人暮らしをすればいい。それが嫌なら、全寮制の学校に行けばいい。そしたら、家族と会わずに済むだろう」
この条件なら、橘がこれ以上傷つくことはない。
このモノクロの世界に片足突っ込んだ状態から抜け出せる。
「いや。それって、逃げてるみたい」
橘はそれ以降も断り続けた。
俺は考えた。他に方法はないのかと。
そう考えて見ると、一つ不思議なことがある。
「そういえば、橘。書類などを送って企業を保たせたって言ってたけど、どう言うこと?」
俺は橘に聞いた。
考えてみるとおかしい。なんで社長でもなんでもない橘が書類を送るんだ?
例えそれが橘の自己満足でも何かの手掛かりになるかもしれない。
「毎回毎回、家に送られてくるの。潰れそうな企業からたくさんの手紙が。その手紙を私は自分と重ねてしまって、企業を保たせるために自分ができる最大のことをした」
橘は悲しさの色も出しながら、その悲しみの色の中にどこか暖色の色が見えた。
いい思い出でもあるのだろうか。
「そうか。それで、その企業はどうなったんだ?」
俺は何かしらで解決策を見つけようと思い、聞いた。
「ちゃんと今でも企業はある。あなたも知ってると思う。有名なので言ったら、⚪︎⚪︎企業」
その企業は日本全体で知らぬものはいないほどの大手企業だった。
そんな大手企業が何年前かに潰れそうだったなんて、信じられないな。
「橘は、その企業に書類を送っただけなのか?それとも、一緒に企業を保たせたのか?」
俺はどんどん質問をしていく。
それが何かにつながると思ったからだ。
もう、先ほどのような悲しく深い色ではなく、少しの悲しさが残っているだけだ。
この橘の悲しさを取り除けば、もう橘は大丈夫だろう。
「企業と一緒に倒産の危機を乗り越えたけど、__。それがどうしたの?」
橘は俺が質問ばかりを繰り返すあまり、疑問に思ってしまったようだ。
橘のこの答えを聞いて、俺は気づいた。
今、あの家族に行ってる金は橘が倒産の危機から救った企業からの物ではないのだろうか。
そうなったら、橘が有利となる。
「もしかしたら、橘の家族に行っているお金はその橘が救った企業のものが多いのではないか?どうにかしてわかる方法がないのか」
その言葉を聞いて、橘は考え込んだ。
5分ほど経った頃、考え込んで下を向いていた顔が前を向いた。
「あった。家に全てのパスワードが書かれた書類があって、それを昔コピーしてパソコンに隠してある」
橘はすごく考え込んだのか、少し疲れているようだった。
つまり、通帳さえ手に入れれたらどこから金が入ってきているかがわかる。
これで金が入ってきているところが橘が救った企業のほとんどが占められていたら橘が有利になり、最悪裁判でもできる。
証人は企業側にお願いすればいいだろう。
恩人に味方するのは世界共通の認識だと思う。
「なら、明日、橘の家に行って通帳をもらうのと、そのコピーを持って銀行へ行くことか」
俺は話をまとめた。
橘もそれでいいと言っていた。
その時、少し恐怖や怯えの感情が見えた。
俺はわざとそれを言わなかった。
その恐怖や怯えを認識してしまうともっと負の感情が増大してしまうからである。
時計をみるともう夜の11時だった。
俺は母の部屋に橘用の布団をひいて、自室で眠った。




