3章 橘の意外な一面
「ハッカーの非日常」と共に執筆していくので投稿がまばらになります。
一週間に一回は必ず投稿しようと思います。
今後ともよろしくお願いします。
母が死んだ日から1ヶ月がたった。
大して違いもない日常が過ぎていった。
2月14日は何人かに告白されたが、全て断った。その女の子達に対して愛というものを感じなかったからだ。
井上と高橋は羨ましいと言っていた。その後に小声で何か言っていたような気もするが、気にしないでおこう。
羨ましいもなにも、俺が好きではない人に告白されてもどうも思わない。
立春の時期になり、少し肌寒いような気温になってきた。
俺はその日、日直だった。そのため、いつもより早く学校に行った。
まだ日が登りきっておらず、空が真っ白だった。これは、寒い時にしか見れない光景だ。
学校に着き、いつもではありえない静けさの中靴を脱ぎ、教室へ向かった。すると、教室に橘がいた。日直は俺一人なはずだが、どうしているのだろう。
橘は窓の近くの壁に寄りかかり、空いている窓から外を見ていた。その表情はいつもの表情豊かな橘とは違い、どこか悲しそうな諦めたような、そして、俺と似たような表情をしていた。
俺のようなと言っても、無表情なわけではなく、俺と同じような悩みを持っているような。そんな気がした。
あの橘がなぜこんな表情をするのだろうか。少し、無音の時間が通り過ぎた。
すると、橘が窓をゆっくりと閉めた。窓を閉める音が教室内に微かに響く。
俺はタイミングを見計らって、教室のドアを開けた。
橘は笑顔で俺に挨拶をしてきた。
「おはよう。月城君」
いつの間にか、いつもの橘に戻っていた。だが、先ほどは確実に悲しそうな諦めたような表情をしていた。橘にもそんな感情があったのか。
「おはよう」
俺は挨拶をしてから、日直の仕事に取り組み始めた。
日直の仕事が終わると、クラスメイトがどんどん登校してきた。俺は自分の席に座り、机に潜ませていた本を取り出し、本を読むふりをした。そして、橘を観察した。
なぜならば、今朝橘を見てからというもの、橘の表情豊かな、色彩のようなのが、俺と同じモノクロに見えるからだ。
だが、今日1日中見ててもよくわからない。
俺は諦めて、帰ろうと学校の外を歩いていると、後ろから腕を誰かに掴まれた。
すぐに後ろを向くと、橘だった。
走ってきたのか、片手で膝を押さえて息切れしている。カバンも持っているから、帰ろうとしていて、学校の中から走ってきたのだろう。
「と、突然ごめんね。ちょっと話したいことがあって」
息切れしていながらも、笑顔を振りまいている。だが、どうにも、その笑顔が俺には嘘くさく見えてきている。
「大丈夫です。ここで話しますか?」
俺は橘の方を向いて、手を差し伸べた。アニメや漫画、小説の情報によれば、こういう時は手を差し伸べるのが普通だという。
「ありがとう!ここじゃ人目につくから、ちょっと移動しようか」
橘は息を整えたのか、真っ直ぐ立っていた。
橘についていくと、学校の近くの小さな公園だった。その公園の奥に進み、木に囲まれたベンチに座った。
微風が吹くと、葉同士が重なる音が聞こえてくる。
少しして、俺は思い出した。ここに、橘と話しにきたのだ。それも、橘から言われて。
「ここね、私のお気に入りなんだ」
橘が上を見ながら急に話した。
「そうなんですね」
俺はここのどこがいいのかはわからない。ただ、木々に囲まれているベンチなだけのところの何がいいのか。
「ねぇ、月城君。クラスメイトなんだから、敬語はやめようよ」
橘は笑顔で話してきた。どうなんだろうか、アニメや漫画、小説では粘ったり、すぐにタメ口になったりする。
悩んだ末、俺はすぐに敬語をやめることにした。なぜなら、表情が出ない俺では粘ることが難しいとわかったからだ。
「わかった」
頷きながら返事した。
「それで、話なんだけど、…」
俺はなんの話をされるのだろうかと思いながら聞いた。
「バレンタインの日さ、ゆあちゃん、山本さんが告白してきたの覚えてる?」
バレンタイン?てっきり朝のことかと思ったが、違った。
山本って、誰だ。数人、バレンタインで告白してきたから、そこまで覚えてないんだよな。
「ごめん、誰だっけ」
俺は少し考えて、思い出せなかったため、聞いた。
「ポニーテールの女の子。一応クラスメイトなんだけど…」
やっぱりと思うような、予想していたようにすらすらと答えてくれた。
ポニーテールでクラスメイトといえば、男子の話の中で出てきた子だな。大した接点がないから忘れていた。
「あの子か。それで、山本さん(?)がどうした?」
俺と山本さんはそこまで仲良くも、仲悪くも無かったが、なんなのだろうか。
「ゅ、山本さんがね、自分が振られた理由を知りたいんだって」
振った理由か、好きと思えなかったからという理由だが、これは言ってもいいんだろうか。
物語では、好きな子がいるからという理由が多い。だが、それだとクラスメイト達から詮索されることになる。ならば、振る理由として、相手が傷つかない言い方にしよう。
俺はよくバレンタインで少なくとも1人に告白される。その時に、振られた理由を相手が求めてくる時がある。
そのため、俺はネットで振る理由として相手が傷つかない言い方を調べたことがあるのだ。
「単純に、今は恋愛する気が無いんだ」
これで完璧だろう。ネットで調べたり、ネット民に聞いたりしたからな。
「そっか、伝えとくよ」
橘は何か、嫌なことを聞いたのか、落ち込んだような顔をしていた。なぜだろう。
そうして考えていると、橘が帰ろうとベンチを立っていた。
俺はふと思った。なぜ山本は自分から聞きにこなかったのだろう。
それが聞きたくて、俺は橘を引き留めた。
「聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「いいよ」
橘は笑顔で返事を返した。その時、俺は思い出した。
今朝の橘のことも聞こうと思っていたのだ。
「聞きたいことは、2つ。1つ目は山本さんはなぜ自身で聞いてこないんだ?」
橘はその言葉を聞いて、驚きの表情が隠せずにいた。その表情はモノクロではないような気がした。
「それ、本当に言ってる?」
何か、あり得ない物を見るような目でこちらを見ていた。
「あぁ、もちろん」
俺は、ふざけてなどいないため、正直に堂々と言い放った。
「えーっと、月城君は告白して振られた相手と今後普通に話せる?」
橘はどこを見ているのか、目を俺から逸らしながら話した。
「あぁ、話せる」
俺が自分から告白するなんてことは多分あり得ないが、もし告白して振られても、クラスメイトなのだろう?普通に話すだろ。
何を当たり前のことを言っているのだろう。
橘を見ると、固まっていた。そんな、固まるようなことなどあっただろうか。
「どうした?」
俺は、橘が大丈夫かわからなかったため、聞いた。
「あ、うん。大丈夫大丈夫」
橘は手を振りながらそう話した。
橘は大丈夫と言っているため、俺は質問に話しを戻した。
「それで、なんでなんだ?」
橘は手を顎に当てて少し考えた後、何かを諦めたのか、ため息をついた。
ため息をつく橘なんて見たことが無かった気がする。
「山本さんは、月城君と話すのが気まずかったの」
気まずいのか、なぜだろうか。やはり、俺には人の感情というものはまだ理解できない。
だが、ここはわかった振りをするのが一番妥当だろう。
「なるほど、。わかった」
俺は、一つ目の質問が終わったため、次の質問に移ることにした。
「それで、二つ目の質問。今朝のことなんだけど、」
俺が今朝というと、橘が少しピクリと反応していた気がした。
「橘さん、なんか元気なかったような気がしたんだけど、なんで?」
ただ、単純に俺とどこか似ているような感じだったため、もしかしたら、自分が感情を知れるかもしれない。そう思って聞いてみた。
「あれ?見てたの?恥ずかしいな。でも、元気ないわけではないんだよ」
橘は恥ずかしがる素振りを見せて言った。
だが、俺はその言葉が嘘だと、なぜか思ってしまった。
そのため、普通に言葉に出していた。
「嘘、ついてる」
橘はその言葉にイラついたのか、少し、表情が怒っているように見えた。
「やだなぁ、月城君。私だって、景観に浸ることだってあるよ」
橘は軽く笑って話した。
「だから、それは嘘」
俺は、橘のモノクロの表情を見て、嘘だと確信した。
そういうと、二人の間には静寂の時間が流れた。
「月城君ってさ、もしかして、空気読めないタイプ?」
橘は俯いている。
空気を読むという言葉は知っているが、どうやるのかはわからない。
だから俺は、小説や漫画、アニメ、ドラマなどで見てきた知識を使って過ごしている。
「空気を読むというのがよくわからないから、読めるか読めないかわからない」
俺はいつもながらに思ってしまう。
もし、俺に感情という概念が生まれていれば、と。
「それを空気が読めないっていうのでは、…」
橘は俺の方を下から見ながら小声でつぶやいた。
「とにかく!君に空気を読むという行為を期待した私が悪かった。でも、これだけは言わせて。私はいつも通りだよ」
今の橘の言葉には偽りが見えなかった。むしろ、心の底から何かを求めているようなそんな感じだ。
表情は、笑顔なのにどこか悲しさを帯びていた。その色は薄い青色に黒いレースを被せたようだった。
「いつも通りってことは、いつも元気じゃないのか?」
俺は橘の言葉の糸をうまく読み解いた。
「やっぱり、空気読むの下手くそだね」
橘はそう言うと、黙って行ってしまった。
なぜなのだろう。俺にはわからない。
「空気を読む」とは何なのだろうか。たまに、テレビや本で空気を読むことは大事だと書かれている。
だが、感情を知らない俺には到底無理な話だ。
俺は夕焼け色に染まったであろうモノクロの世界で一人、歩いて帰った。




