2章 葬式の翌日
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母の葬式が行われた次の日。平日だったため、普通に学校に向かった。
行かない理由もないし、休むと休んだ分の授業を取り戻さなくてはならないため、逆に休みたくはない。
今日は中1の1月の後半である。まだ冬の寒い感じが残っている。息を吐くたびに白い靄が見える。
冬で寒いと言うのはわかるが、寒いから嫌いという感情はない。今日もいつも通りの学校生活が始まる。
親がいなくなって住む場所はどうしたのかというと、そのまま住んでいたマンションに住んでいる。
葬式の際に、親族に引き取られるのもありだとは思ったが、引き取れない人と、どう見ても嫌がっている人、それに、母を亡くして泣もせず無表情でいる俺を気味悪がっている人がいた。
俺は一応一人暮らしができる。ただ、そのためには親の代わりに名前を借りたりしなければならない。
だから、名前だけ貸してくれる人を探した。すると、名前だけならと了承してくれる人がいた。
その人のおかげで、今は一人暮らしができているというわけだ。
俺は普段通りに学校へ行った。
教室へ着き、机に座ると、まあまあ話す男子の井上と高橋が話しかけてきた。
「大丈夫か?月城」
井上が心配そうな表情を浮かべていた。
「大丈夫とは?」
俺は何のことかわからずに聞き返した。
「え、昨日、母親の葬式だったんだろう?」
そうだった。普通、母が死んだとなると悲しいものだった。
「あぁ、大丈夫だ」
俺はいつも通りに無表情で答えた。
俺は、普通の気持ちがわからない。だから、国語や道徳で基本的な人の思いなどを学んだ。
気持ちなどに共感するのは無理だが、人付き合いでは多少なりとも必要だから少し覚えるようにした。
そうして話していると、クラス委員の橘 汐霖がこちらにやってきた。
橘 汐霖とは、簡単に言えば俺とは正反対の人間だ。
橘は友達がたくさんいて、クラスをまとめていて、とても表情が豊かな女の子だ。俺は、友達と思える人もいないし、クラスで言えば最底辺で、表情は全て無表情だ。
まあとにかく、橘はリーダーシップを持っている、癒し系ヒロインのような存在、というのが一般的な考えだろう。
「月城 疎雨君。大丈夫?悲しいよね。全然頼ってくれていいからね」
橘がわざわざこの言葉を言うためだけに話しかけてきたみたいだ。
世間体で言うとお人好しだ。
「ありがとうございます」
井上と高橋に対するタメ口ではなく、敬語を使った。
俺はこのクラスで2軍という位で、橘の近くは1軍の巣窟らしい。井上と高橋が話していた。
ちなみに、俺の見た目は、まあまあな感じだ。髪型は、ストレートヘアで前髪が少し目にかかっている。
もちろん日本人なため、黒髪黒目だ。身長は、165センチほどだ。
俺は、見た目に関しては最低限整えればいいと考えている。テレビで人の印象は見た目がほとんどだと見たことがあるからだ。
俺に対する一般的評価が可もなく不可もなくならばそれでいい。
もし、見た目を整えて人付き合いが多くなっても、感情というものを理解できない俺には難しいだろう。
逆に、見た目を最低限も整えていなくていじめなどが起こると、物が壊れたり服が汚れたりして、お金の消費が多くなる。
そのため、可もなく不可もなくという状態が1番いいのだ。
俺が橘にお礼を言うと、橘の周りにいた1軍達が話し出した。
「自分の母親が死んでも無表情って、気味が悪い」とか、「汐霖が親切で話しかけたのに、この対応、ロボットかよ」などなど、本人の目の前でこそこそと話し始めた。
別にこんなことを言われてもなんとも思わない。
橘がその人たちを諌めていた。
数分経つと、完全に俺に対する刺々しい目線がやみ、それぞれのグループで話し始めていた。
橘はなぜか俺の目の前に立っていた。
「みんながごめんね。どうか、許してあげてね」
橘が言ったわけでもないのに謝ってきた。なんでかわからない。
みんなのまとめ役はみんなの代わりに謝らないといけないのか。意味深だな。
「大丈夫です」
感情が全く動いていないから、嫌な気分も何も、何も感じていない。
それに、1軍達の言っていることは一般的に考えて事実だろう。
感情を取り繕って演技をしたとしても、感情というものがわからない俺には難しいだろう。
「本当?ありがとう!」
橘を見ていると色んな感情が表情に現れる。だが、どこか俺に似たような雰囲気をたまに感じる。
こんな表情豊かな橘が俺に似ているわけはないか。
橘はお礼を言うと、いつもいる1軍の群れに入っていった。
母親を亡くしただけでこんなにも話しかけてくる人がいるのか。やはり、俺は異端なのだろう。
いつの間にかどこかに行っていた井上と高橋が再び戻ってきた。
「やっぱ橘さんは優しいな。天使みたいだ」
高橋がうっとりと橘の方を見ながら話した。
「確かにな。俺達2軍に対しても優しく扱ってくれるし、」
井上が共感して頭を上下に動かしている。
なるほど。橘が優しいと言うものなのか。
俺は共感できないが、覚えておこう。
「さっきは離れてごめんな。1軍には近付きにくくてつい離れてしまった」
井上が思い出したように謝ってきた。
なんとも思ってなかった俺に謝られても別に意味はないと思うんだが。
だが、ごめんと言われたら、許すのが普通だった気がする。何かの本で読んだことがある。
「大丈夫だ」
少し井上と高橋と話していると、チャイムが鳴った。
先生が教室に入ってきた。
そこから、授業が始まった。
俺は必要な分だけ話しを聞き、ノートに書いた。
俺は勉強ができるかというと、普通だと思う。そこまで点数が悪いわけでもなく、いいわけでもない。一応平均点より少し上は取れている。
家に帰ってもやることがないため、寝るか、勉強するかしかない。
たまに、井上と高橋と遊びに行くが、長期休みぐらいしか遊ばないため、いつもやることがないのだ。
だからといって勉強ばかりしていい点数を取ると、先生方からたくさん頼られることになる。
実際、成績上位の人は先生にものすごく頼られている。
俺に頼られて、期待されてもどうすることもできない。なら、点数は平均点さえ取れていればいい。
授業中、窓からの風が髪を揺らした。俺はクラスの窓側の席だからだ。
外を見ると多様な色彩が広がっている。だが、綺麗や美しいなどという言葉は出てこない。
俺はまるで、モノクロの世界で過ごしているロボットのような存在だ。そんな中で、俺は何を探すというのだろう。
感情、表情、愛、恋、普通。特に、愛はよくわからない。
感情や表情は少し読み取れるようになった。だが、愛や恋は全くもって意味がわからない。
愛を知っていれば、母の葬式で泣けたのだろうか、悲しめたのだろうか。
気づけば、授業が終わって放課後になっていた。
外を見ると、オレンジ色一色に染まっていた。寒いからか、夕日が空に溶けているように見えた。
俺は部活に入っていないため、リュックを持って帰った。




