第15章
神々のトーナメントにて――。
「諸君ようこそ! 死闘のレースも無事終了。では第四ラウンドを始めよう!」
観衆が歓声を上げ、スマソニが玉座へふわりと戻る。
「ちょっと複雑な事情でバランスが崩れた。不均衡は嫌いだ。――間引きが要るね!」
頭上の対戦表を指し示す。
「“アライアンス・ラウンド”だ! 次の対戦相手同士を一時的に組ませ、二人一組で戦ってもらう! 各チームの代表が連合すれば、強力な二枚看板の完成だ!」
レガルが表を見上げると、チーム64が消えている。
「すみませーん! うちは相方がいません! どうすれば?」
「いい目だ、レガル」スマソニが笑う。
「君たちは単独でやってもらう」
「ちょ、待っ――」
「自チームから二人を出せ。火力は十分だろう? ――君たちの番は最後に回す。健闘を祈る。ではチーム2、チーム31との連合、前へ!」
観客席でゼロが立ち上がる。幼い少女が隣を歩く。ゼロはレガルへ一瞥だけくれて、アリーナへ。
「こちらだ」とゼロ。
彼の相棒が横に並ぶ。対するは赤髪と白髪の大柄な神が二柱。
「こちらも準備万端!」
「よろしい」スマソニが告げる。
「“ゼロの神”ゼロとその相棒――“おもちゃの女神”オモチャ!
対するは**“山の双神”――セツザンとホムラヤマ**!」
双子は胸板を同時に叩き吠える。
「この嵐、我らが制す!」
「笑止」ゼロが鼻で笑う。「自惚れるな」
ゴーン。
「始め!」
オモチャが腕を上げるが、ゼロが肩を押さえる。
「君の命を賭ける必要はない。私一人で足りる」
「は、はい!」
セツザンが腕を振り上げ、空に雪嶺の巨山を出現させる。
「単騎で挑むか! 愚か者!」
山が落ちる寸前、ゼロの手に透明の光球。
「消去」
光球が山そのものを無へ。セツザンが唖然とする間に、ホムラヤマが大地を噴き上げ、火山を起こす。
「焼き尽くせ!」
溶岩が床を覆うが、ゼロはオモチャを抱えて跳躍、もう一発の消去球で火山も溶岩もまとめて無効化。
「わぁ、ゼロ! すごーい!」
「職務だ。それだけだ」
双子は同時に地を叩き、雪山と火山が連鎖噴出、巨大な山脈を築き上げる。ゼロは軽やかに回避――
BOOM
「失せろ」
ゼロの掌に巨大な透明球。ふわりと天へ昇らせてから――
「オモチャ、後ろへ」
「りょ、了解!」
双子は思わず硬直。ゼロが振り下ろすと、闘技場が揺れに揺れる。
「おやおや! 痛烈!」スマソニが目を細める。
山も双子も痕跡なし。
「勝者、ゼロ&オモチャ組! チーム2連合、進出!」
オモチャは飛び跳ねて歓喜、ゼロは無言。
レガルはため息を漏らす。
「あの人、バケモン」
「ふーん」とニカラ。
「騒ぐほどじゃないわ」
「今の見た!?」
「私にもできる」
「あれを!?」とユウが震える。
「あんなのと戦うの? 俺、死ぬよね?」
ロノヴァは黙々と戦況を観察、レーヤは座席で逆さまになっている。
「ねえ」とニカラが立ち上がる。
「ユウ、ジュウシン。ちょっと来て。――良い案がある」
「安全?」とユウ。
「もちろん! 女王ニカラは最も慈悲深き――」
「それは言い過ぎ」
ニカラはレガルを抱きしめる。
「すぐ戻るわ」
そして二人の少年と共にふっと消えた。レガルは消えた場所を見つめてつぶやく。
「今ごろ拷問コースとかじゃないよな……」
試合は進み、次々と脱落。ついに最後の連合戦――レガルたちの番。
「チーム1!」スマソニ。
「最後の二人を出せ!」
「ユウ、まだ帰ってない……。――レーヤ、君だ! 前へ!」
レーヤがむくり。
その勢いでレガルの顔面に回し蹴り、彼は階段を転げ落ちる。
「意味は“殺せ”」とロノヴァ。
「降りて、殺す」
「了解!」
数秒で整列。きょろきょろと彷徨うレーヤの前に、ラクロがバク転で着地。
「対戦相手がコレ? 俺への嫌がらせか?」
その相棒――ランタンを手にした長身の神が横へ。
「本来ならもう一人いるはずだ。どこだ?」
ラクロが鼻で笑う。
「その提灯みたいなのは何だ」
「ランタンだ。力を媒介する」
「灯台守かよ。どうやって俺の役に立つ?」
「使い道はある。見ていろ」
「役立てよ、コラ」
「レーヤ、相棒は?」スマソニ。
「相棒?」
「この試合の」
「しあい?」
その時、駆け足の足音――ユウが戦術装備一式で飛び込む。
「ここ! 間に合った!」
「なんだあの見た目」レガルが叫ぶ。
「殺し屋かな?」
ラクロが鼻を鳴らす。
「人間。――場違いが過ぎる。茶番だ」
「よし、揃った」スマソニが手を打つ。
「最終試合、ラウンド4! レーヤ・オトカミ&ユウ 対 “殺戮の神”ラクロ&“ランタンの神”トウシン!」
対戦表が消える。
「3……2……1……Fight!」
ラクロはためらいゼロで両者に突撃、地面へ叩きつける。
BOOM
煙が晴れる――レーヤがラクロの腕を掴んでいる。
「えっと……たぶん、こう」
彼を背後へ放り投げ、すっと立ち上がる。ユウは埃を払う。
「何してんだ!」ラクロが吠える。「殺せ!」
トウシンがランタンを掲げ、光弾をユウへ。ユウはスライディング回避。
「止まれ、人間!」
もう一射――ユウは潜り込み、手から銃を形成、ランタンを射抜く。
BOOM
観衆が凍り付く。トウシンは砕けたランタンを見下ろし、ラクロは硬直。
「馬鹿が、何を――」
レーヤの拳が顔面直撃、彼は吹っ飛ぶ。
「まだ“しあい”?」
観客席でレガルが目を丸くし、ロノヴァは無言。
「ユウ、銃出したよ今!? ……ニカラ? 何したの」
ニカラが隣に出現。
「何もしてないわ。――どうして私のせいに」
レガルがユウを指差す。
「……ちょっとだけ**ユウとジュウシンを“合流”**させたかも」
「なんて?」
「恋人とかじゃないからね。神は凡そ、現世で力を増すために人間と融合できる。――パートナー契約を結んだだけ。ほら」
ユウはライフルを形成し、トウシンへ連射。弾丸が各所へ刺さる。
「それ反則では」とレガル。
「そうかしら? ジュウシンはチーム所属、戦ってるのはユウ。――理屈は通るわ」
「謀略家め」
「どうも」
トウシンは巨大なランタンを新造、光柱でユウを押し返す。ユウは狙撃銃を作り、心臓を撃ち抜く。
閃光とともにトウシン消滅。
「一柱脱落!」スマソニが宣言。「残り一!」
ラクロが咆哮。全身が赤黒に変色し、背に六本腕、体躯はT-レックスめいて巨大化。
「役立たずが! 俺一人で十分だ!」
別席からゼロが目を細める。
(また自我を喰わせた。――自ら不利へ)
「砕け散れ!」
ラクロはレーヤを顎で咥え、噛み砕く――
「――?」
歯が砕ける。ラクロは吐き出す。
「鋼鉄か!? 俺の歯が――」
首根っこを掴む。
「これ、ゲーム?」
顔面連打。レーヤは吐血するが、微動だにしない。
「君の妹の肉体、異常ね」ニカラが呟く。
「普通の人間じゃ殺戮神のラッシュは耐えられない」
「脳筋なんだ、体は最強、頭は最弱」とレガル。
ラクロは旋回し、レーヤを壁へ叩き付ける。
「後で嬲る。先に小僧だ」
ユウを探す――胸元に赤い点。
「Target: Locked」
発砲。だが弾は弾かれる。
「我が皮膚に銃弾は通らん。――終わりだ」
ユウはフラッシュバンを投げ、ラクロを盲目に。
「その力……“銃神”のもの! なぜ――」
「集中しろ、ラクロ」とゼロ。
ラクロは片腕のはたきでユウを吹き飛ばし、血が滲む。
「上位神に人間風情が勝てるか!」
大地を爪で穿ち、口腔から凶音。――闘技場が崩落を始め、破片が吸い込まれていく。
「喰尽!」
ユウも吸引に巻かれ、アーミーナイフで床に突き立て辛うじて耐える。
「ユウ、いける!」レガルが叫ぶ。
揺れは増し、ニカラはレガルの身体を支える。
ユウのナイフが吸い上げられた瞬間、レーヤの拳がラクロの顔面へ。
「このゲーム、つまらない!」
吸引停止。ラクロがよろめく。
「それだけか? イキりやがって――」
見上げると戦車の砲口。
「……マジかよ」
「Fire!」
主砲が直撃。ラクロは空へ吹き飛び、視界から消える。
BOOM
――遅れて炸裂。
鐘が鳴り、試合が止まる。スマソニが降りてくる。
「そこまで! ラクロは場外・トウシンは撃破。――勝者、チーム1! ラウンド4終了!」
歓声。ニカラとレガルも拍手。
「……いや待て。親友が冷徹スナイパーになって神を二柱落とすの見て、俺何拍手してんだ」
「神は戻るわ」ニカラが背をぽん。
「まあ……そうだけど」
やがて全チームがスマソニの前に整列。
「生存おめでとう! さて、神―人融合は本来禁止だが、今回は不利を考慮してユウを特例許可とする。――以後のラウンドは再び各チーム単独。連合は解散!」
「助かった……。二柱相手は御免だ」とレガル。
ゼロが肩をぶつけてくる。
「得意顔するな。――すぐに終わらせる。決勝まで生き残れたらな」
「口悪っ」
グランターが山ほどのケーキを卓に出す。
「食え! 中間到達のご褒美だ! うまいぞ!」
「相変わらずの大食らい」とニカラがレガルの頭の中で毒づく。「永遠に痩せないわね」
「明日からは第五ラウンド」スマソニが両腕を広げる。
「ただのバトルではない。――**“神々の試練”**に挑んでもらう!」
「試練? それって何――」とレガル。
「もっとも危険で、暗く、捻じくれた環境。その名も――“恐怖の洞窟”。ホラーの棲み処だ」
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