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第12章

――惑星エクスドラルにて。


オトカミは卓に座したまま微動だにせず、妻子だけが食事を口にしていた。

レメディが案じて口を開く。

「父上、体調が……。お召し上がりになっていません」


「おまえたちは食べよ」と彼は低く言う。

「私は考える」


コハルが肩を揉みながら、優しげに身を寄せる。

「あなた、何かお困りなら言って。私に話して」


卓の視線が一斉にオトカミへ集まった、その瞬間――ごとり。

一つの“首”が食卓へ転がり落ち、オトカミ以外の全員が跳ね退ける。

「きゃあああああ!」


オトカミはその首を拾い上げる。首は彼に怒鳴った。

「おまえ! 今すぐ私を身体の元へ連れて行け!」


「ヨルハナ……」オトカミは名を言い当てる。

「このざまか」


ラヴェナが冷静に観察する。

「前例がありません。父上、これは――」


「女神の首だ」オトカミは淡々。

「どうやってここへ」


「おまえの狂った妹だよ!」とヨルハナは噛みつく。

「護衛にでもしているの? どうして“簒奪者”が、おまえの都まで来られた」


「興味深い問いだ」オトカミ。

「私も知りたい」


コハルが眉をひそめる。

「話が見えないわ、あなた。女神だと“名乗る首”が食卓に落ちてきた? 罠じゃないの?」


オトカミは立ち上がる。

「確かめよう。――ニカラはどこだ」


「知るもんか!」ヨルハナは毒づく。

「あの女、私をこのバカ城に放り置いて好き勝手しに出て行ったんだ!」


「ニカラって誰?」ロイヤルが父を見る。

「初耳だけど」


首は卓を見回し、**わら**う。

「すぐに“オリジン”がおまえたち一家を拭い去るさ。おまえは“オールド・ワン”、しかも強者だろうが、“パンテオン”はすでに結集した。止めるためなら、この多元宇宙ごと切り落とす――おまえも、その向こうビヨンドも」


オトカミはヨルハナをラヴェナに手渡した。

「ラヴェナ……これを厳重に保管せよ。――関わるな」


ラヴェナは立ち、首を抱えて一礼。

「御意」


そしてオトカミは長女と次女へ向き直る。

「ロイヤル、レメディ……来い」


二人は即座に立つ。

「はい、閣下」


「どこへ行くの、あなた」コハル。

「少し見張ることがある」オトカミ。


「私も!」レヴェニュー。

「ぼく! ぼくを!」ラディアンス。

「父上、同行をお許しください」ラインドッティル。


言い終えるより早く、オトカミは二人の娘の手首を取り、金紫の閃光とともに掻き消えた。


「ちぇっ」ラディアンスが頬を膨らませる。

「わたしもパパと行きたかったのに」


コハルは深いため息。

「よりにもよって、残り物(この道化ども)の子守り役が私……最高に最悪」



――神々の大食堂ダイニング・ホールにて。


レガル/ユウ/ジュウシン/ロノヴァ/レーヤの面々は金装束の給仕により山盛りの皿を受け取り、他の出場者と並んで豪勢な饗宴に箸を付けていた。


「食え、戦士ども!」とスマソニが上機嫌に叫ぶ。

「この先は長いぞ!」


給仕の一人がデザートを持ってレガルの席へ来たが、顔を見た途端足を止め、吐き捨てる。

「オトカミの子か。――父親譲りの外道どもめ」


言い終える前に、ロノヴァが首根っこを掴み上げ、目だけで貫く。

「父の名を口にするな」


止めようとした別の給仕も、一瞥で硬直。その喉へ踵が乗る。


「や……め……」

ロノヴァの赤い瞳がまたたき、一人の心臓は沈黙。もう一人も死した。


「お、おっかねえ!」ジュウシンが青ざめる。

「こっちは常識」とユウとレガルが同時に肩をすくめる。


グランターが背中をぽんと叩く。

「食堂での殺しはやめな。――肉の味が落ちる」


ロノヴァは一言もなく席へ戻り、レーヤはフォークの向きと格闘。

「こう? こう?」


周囲の卓からは囁き。


「化け物の群れ」

「悪だ。ここにいる資格がない」

「神ですらない。最初に間引く」


皿が空くと、スマソニが手を打つ。

「さて! 本日はラウンド1&2を執り行う! 以後、毎日二回戦ずつだ! 勝ち残れば“真なる神格”の扉、そして“死の大鎌”にも手が届く!」


**とき**の声。


「規定を述べる。――殺し合いだ。勝利条件は相手の排除。

同一選手の連続出場は禁止、全員を一巡させるまでは重複不可。

最初の五回戦は一対一、残り三回戦は団体戦。

マッチ外での私闘は厳禁、指定領域のみ可。

神威の使用は許可、だが外部介入は不可。

談合・共闘は違反、発覚し次第失格!――異議は」


「ありません!」


「では第一戦を始めよう! チームを整列!」


少しして、全チームがアリーナに集結。

レガルが周囲を眺めると、ニカラが体外へふわりと現れる。


「怖いかい、恋人ディア


「まあ、うん! 見た目からしてボコられそう!」


ニカラは喉で笑う。

「大丈夫。私がいる」


「それ、反則じゃ」

「バレなければ」


スマソニが王座に収まり、通達。

「ラウンド1・第一試合! 各自ブラケットで番号を確認せよ!」


「ぼくら、チーム1だ」レガルが指で示す。

「ってことは……最初?」

「ええ」ニカラ。


「二五六チームか……」ユウが数に目眩。


「チーム1! 前へ! 対戦はチーム二五六!」


「誰が出る?」ユウ。

「ぼく! ぼく!」ジュウシンが手を挙げる。


「ニカラ、どうする?」

「君は温存。後半に備える。――彼でいい。特別ではないが及第」


ニカラはジュウシンに横目。

「しくじらないこと」

「はい、ニカラ女王!」

「“ミス・ニカラ”で」

「了解です!」


観覧席へ各チームが散り、中央へジュウシンと砂色の髪の若い神が進み出る。

スマソニの場内アナウンスが轟く。


「先鋒――ジュウシン! 銃砲と兵器の神!」


ジュウシンが手を振る。


「相対するはシャジン! 砂と真珠の神!」


「砂の神? 人は良さそうだけど、領域としては……」レガル。

「そこが狙い目」とニカラが肩に寄る。

「多くは弱いから来る。――『昇る』ために」

片目をつむり、耳元で囁く。

「ねえ、君は弱い女神あいつらじゃなくて“私”といる。――最高でしょ?」

「……まあ? だいたい?」

「“だいたい”?」


ロノヴァは梟のように無言で戦場を凝視。

レーヤは雲を見上げて数え中。

「いーち、にーい、にいと半分――」


「始め!」スマソニの一声。


ジュウシンはアサルトライフルを形成、一斉射。

シャジンは砂の城を隆起させ弾幕を遮断。


「やっちまえ、ジュウシン!」レガル。


砂城が増築され、天守に立つシャジンから砂砲台が棘弾を連射。

ジュウシンは散弾銃やライフルへ切替し、射線で粉砕。


「鉛でも食っとけ、サンドボーイ!」


ジュウシンが城壁へ穿孔射を浴びせれば、即座に再築。

両腕に砂槌を形成したシャジンが叩きつけ、ジュウシンは吹き飛ぶ。


「ぐっ……!」


頭上を砂の竜巻が覆い、ジュウシンはショットガンで裂断。

砂が場内を満たし、ジュウシンの下肢を拘束。

「うわ、パンツの中まで!」


ジュウシンは懐に手を入れ――

「グレネード!」


轟爆。

周囲の砂が吹き飛び、ショットガンの一発でシャジンの片脚が消し飛ぶ。

再生を図る腕も撃抜かれ、床に砂が飛び散る。


「起これ、砂! 起これ!」


地表の砂から砂兵が林立し、ジュウシンが各個撃破――が、一体が銃を叩き落とし、十数体で押し潰す。


「終わりだ。降参しろ」シャジン。

「思ったより、強いじゃん……」ジュウシンが苦笑。

「なら――大物ビッグガンズだ」


両腕が重機関銃へ変形。

観客がどよめく。


「女王を失望させねえ! ――死ね!」


暴風の弾幕がシャジンを貫通し続け、砂塊は粉末へ――崩落。


「勝者、ジュウシン! シャジンのチームは敗退! ご参加感謝!」スマソニ。


歓声。レガルが拍手。

「やるじゃん! 火力、隠してたな!」

ニカラは爪先を磨きながら、

「ふうん」

「……興味ないわけじゃないよね?」

「別に“ない”とは言ってない」


「次戦の準備に入る!」とスマソニ。

ジュウシンが上機嫌で戻る。

「やりました、ニカラ女王!」

「“ミス”・ニカラ」

「了解、女王!」

「座って」


ユウは砂神の残滓がきらめきながら消えるのを眺め、顔をしかめる。

「一人負けでチーム全滅って、公平? 足手まといがいたら……って、俺が足手まといじゃん!」

「そう」ニカラは即答。

「……じゃ、俺どうすんの。俺、掃除担当なんですけど」

「手段はある。――管理側は嫌がるだろうけど」

「あるの!?」

ニカラはうなずく。

「ラウンドが一区切りしたら、教える」


ジュウシンが小声。

「女王、あの二人の前で作戦を……」

「心配ない」とレガル。

「聞いてないから」


指差す先で、レーヤは飛ぶ虫とたわむれ、ロノヴァは戦場を見据え「殺す、殺す、殺す」と呟く。


「壊れてる?」ジュウシン。

「たぶん」レガルは肩を回し――

「でも、家族!」


ぎゅっ。

次の瞬間、レーヤの手刀一振りで、レガルはアリーナ外へカッ飛ぶ。

「ふぎゃああ!」

「あ、今のレガル?」

ロノヴァが横目。

「死んだ」


ニカラが溜息をついて立つ。

「拾ってくるわ」


「妙な一家だ」ジュウシン。

「知ってる」ユウ。


――第一ラウンドが終わると、スマソニが中央へ、隣にグランター。

「よく戦った! 残り百二十八! 締めに“ラウンド2”いくぞ! 準備はいいか!」

グランターが骨付き肉をかじりながら。

「組み合わせは《1対128》! さっさと出な!」


「今度は誰が――」と言いかけたレガルの視界に、

ロノヴァが観客席から音もなく降下――彼女の圧だけで道が割れる。


「答えは出たみたい」ニカラが愉悦を漏らす。

「この子、好き」


「やめた方が」レガルは額に汗。

「姉さん、ヤバいから」


スマソニが片眉を上げる。

「ロノヴァ・オトカミが名乗りを上げた! 対するは――」


灰白の肌と髪、瞳まで灰を帯びる女神がふわりと降りる。

歩むごとに灰が降り敷く。


「出た、灰か」スマソニが満足げに手を打つ。

「ハイバラ! 灰の女神!」


灰衣の裾が床に灰の尾を曳く。


「なんとつまらぬ造りもの」とハイバラは**あざけ**る。

「父の薄っぺらい模倣。承認が欲しくて鳴く雛」


ロノヴァは沈黙。凍てついた眼差しだけが鋭い。


「灰……」ニカラが頷く。

「しばらく姿を見なかった。――面白くなる」


「強い?」レガル。

「“十分”にね」


スマソニは王座へ戻り、マイクを握る。

「ラウンド2、キックオフ!――3……2……1……開始ビギン!」


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