第10章
城内――。
レガルはユウを城の大型ジムへ案内した。フリーウェイト、バーベル、トレッドミルがずらり。
「ワークアウト?」ユウがきょろきょろ。
レガルはこくり。「ニカラに鍛えろって言われてさ。――ついでに君も!」
「どれくらいでムキムキになれる?」
「未知数。――まずはベンチ! スポット頼む!」
レガルはベンチ台に寝転び、皿を確認。
「250ポンド……完璧!」
ユウが後ろにつき、レガルはラックアップ――見た目以上に重い。一発目から胸上で停止。
「へ、ちょい助け?」
ユウが必死で持ち上げるがびくともしない。
「お、重っ!」
「大丈夫! 引け! 合わせろ!」
――30分後。
レガルの瞳が黒く染まり、片手でひょいと天井へ投げ捨て、すぐに元のレガルに戻る。
「えっと、助かったよ、ニカラ……」レガルが赤面。
黒雲が体内から噴き出し、ニカラが顕現。
「見事な大失敗。――君の身体、思った以上に脆弱。そこの友人も同程度」
「運動なんかしてないだけです!」ユウの弁解。
「だからこそ鍛錬がある!」レガルは前向き。
ニカラは腕を組む。
「可とするまで一千年は要る」
「契約の時、“超ゴリマッチョ”になれって言ってないよね?」
「君が強ければ、私も強く乗れる」ニカラは淡々。「器をコップだと思いなさい。入れすぎれば割れる。頑丈なら多くを受け止める」
「じゃ、毎回力を入れるたびに俺が死にかけてるってこと?」
「違う」
「あ――分かった。俺の身体内では出せる出力が制限される。だから外へ出て戦う」
こくり。
「融合すれば出力は上がる。ただし君は――弱い、ひょろい、繊細、運動音痴、壊れやすい。――慎重にね」
レガルは胸を張る。
「そこまでポンコツじゃないって! ちょっとは甘く見て!」
ぴしっ。ニカラが額を弾くと、レガルはばたり。
「私が傷つくわ、レガル」
「了解」
ユウが小声で。
「普通の恋人ってこう? 俺の田舎だと、男のほうが腕力は上で――」
ニカラが首を傾げる。
「その田舎はどこ?」
「ここより遥かに普通な場所。神の戦争も殺人姫も野放しじゃない」
ニカラは肩へ手を置く。
「純朴ね、ユウ。――世界を知るには歩いて見ること」
「遠慮したい。金稼いで、静かに引退できればそれで」
「金?」ニカラが目を瞬く。「まだ流通しているの?」
「当然。硬貨。俺の故郷はドル、ここはコイン」
ニカラは拳を握り、床へ向けて開く。――黄金の硬貨が滝のように降り注ぎ、天井まで積み上がる。
レガル&ユウ「「…………」」
「リッチ!?」ユウが叫ぶ。「今ので三代分の遺産!」
「僕でもあれだけの塊は初めて……総資産の八割はある」
ニカラは肩をすくめる。
「慎ましいわ」
ユウがレガルの肩をがしっ。
「分かるか? 都ごと買える! 行くぞ!」
レガルがにやり。
「やっぱ、その発想だよね」
⸻
10分後――首都。
三人でぶらぶら。ニカラは無表情で周囲を眺め、レガルは肩を抱く。
「僕が“殺されない女の人”と歩くの、皆びっくりだから、目立ちすぎ注意な、ニカラ」
「理解不能」
「すぐ分かる。――**“彼ら”**が来る」
「彼ら?」
好奇心旺盛な少年たちがわらわら。
「王子! 女王さまが彼女を許したの!?」
レガルは頭をかく。
「ああ。ニカラは――外国の高貴な忠臣。母上の全幅の信頼ってことで」
「すげ! でも彼女、王子より背高っ」
「身長いじるな!」
「超美人! よく生きてるな!」
ニカラの瞳が黒く閃く。
「もう一度言ってみて?」
少年たち「「王子、さようなら!」」全力退散。
レガルは唇を尖らす。
「ニカラ、子ども脅すの禁止」
「先に挑発したのは彼ら。――相応の応答」
ユウがため息。
「五分持たずに治安悪化。やっぱ無理筋だった」
レガルが巨大モールを指す。
「まずはあそこ! 面白い店多いし!」
「賛成」ユウ。
ニカラは爪先を眺める。
「好きに」
レガルが指でほっぺをつん。
「高級服、見たいんでしょ?」
「一度見たら十分」
モール内は超満員。
「今日は妙に混んでる。セールかも」
レガルの目に**“Revenue’s Clothing”**の看板。
「やっぱりレベニュー……256個目の自ブランド」
ユウが首を傾げる。
「なんでそんなに増やす?」
レガルは肩を掴む。
「会ったよね?――答えいる?」
「……不要。でも品は良さげ。入る?」
入店。ユウが値札を見て仰天。
「靴下が十万コイン? 商売じゃなくて詐欺!」
「価格にはうるさいけど、品質は確か。――このスーツ見て、黒×金――最高!」
ニカラは目線だけでスルー。そこへ女性店員がニカラへ。
「背、高っ! 190超えてます?」
「だいたい一九六」
「わお!」
長丈の黒銀ドレスを掲げる。
「最大サイズです。いかが?」
「黒は好み。――頂く」
「あ、会計が……」
じゃららららら――黄金雨。店員硬直。
「お釣り、足りないかも……」
レガルが袖を引く。
「ニカラ、レジで払うの」
「義務? ――代価は渡した。それに――」
床の金に目を輝かせる店員を顎で示す。
「問題なさそう」
ニカラは頬を撫でるようにレガルの頬ぺち。
「君たちも好きに選んで。――余剰は彼女が喜んで回収」
二人は山ほど掴んで退店。老店主は腰を抜かす。
「ほほぉ! ぼろ儲け!」
外でレガルが次の店を物色。
「ゲーム、新作スニーカー、アイス爆食――どれ?」
ニカラは首を傾げる。
「どれも知らない」
レガルは手を取る。
「案内する!」
「ちょ、引っ張らないで」
アイス機の前。フレーバーがずらり。
ニカラは機械を凝視。
「これは?」
「アイスを出す装置。レバーを下げると――」
バニラをくるくる。コーンを差し出す。
「はい、どうぞ!」
ニカラはじぃっと見て――ぺろり。
「……美味」
「だよね。母上も冷蔵庫に常備」
ニカラはぱくっと丸呑み(コーンごと)。
「お腹空いてた?」
「空腹は感じないけど、味覚は愉しい。――もっと、**その“アイス”**を」
上目遣い。レガルは心の声(習得早すぎ。可愛い)。
振り向くと長蛇の列。
「ごめん、ニカラ。――順番を――」
「不要。――見てなさい」
ドゴッ。機械を台ごと蹴り上げ、片腕でキャッチ。
「専用機、一台」
「優しい……いや、列!」
客は総硬直からの総退散。ニカラはきょとん。
「彼ら、どうしたの」
「人間だから。――ユウと同じ。家族以外の超常に慣れてない」
「脆弱な精神。――臆病」
ユウが顔を出す。
「また騒ぎ?」
レガルは頷く。ユウは機械を見て目を輝かす。
「アイス!」
ひょいと持とうとして――機械が落ちてきて下敷き。
「ぐえっ。――助け……」
レガルが全力で持ち上げ――びくともしない。
ニカラは無表情で一言。
「男子」
⸻
三人でぶらぶら。ペットショップが目に留まり、レガルが目を輝かす。
「可愛いの撫でに行こ!」
「犬欲しい」ユウ。「いくら?」
「五万くらい。犬種次第」
入口でレガルが硬直。ニカラの手がするりと離れる。
「どうした――?」
視線の先。ロノヴァとレーヤが店内で動物虐殺。
ロノヴァは猫や鳥を麻痺させ、レーヤは犬や兎を壁へ蹴り飛ばす。
「これで良い? 姉さま」レーヤ。
「是」ロノヴァ。「死は当然」
レガルが飛び込む。
「ちょっと! 何してんの!」
二人が同時に振り向く。
「レガルだ! たぶん……?」レーヤ。
「レガル」ロノヴァの無感情。
睨みだけで小動物たちが心停止。ロノヴァは猫を持ち上げる。
「殺戮行に同道」
「む、無理!」
眉がひくり。
「じゃ、じゃなくて――したいけど今はもっと邪悪で重大な用が! 動物に構ってる暇はない! 大物を狙う!」
「説明」
視線だけで全身が粟立つ。
「あの二人、見える? ――同行者」
ロノヴァの冷視線がニカラとユウへ。
ニカラは退屈そう、ユウは背に隠れる。
「確認。――生存」
「生きてる! ――これから“邪悪な任務”。だから急ぎます! ばいばい!」
「同行を望む。――レーヤも」
「はぁ!?」レガル。
「え、私も?」レーヤ。
「殺戮と苦悶があるなら、愉悦。――任務内容」
「チーム会議の時間!」
レガルはそっとニカラへ。
「やばい展開。――撒ける口実?」
「闘技会」ニカラが即答。
「闘技会?」
「人間用じゃない」口角が上がる。「神々の。――優勝賞は**“死の大鎌”。死の女神のみが真に振るえる**。――観賞用にも良い」
「そんなの出られるの? 直前で?」
額をちょん。
「任せて」
ロノヴァが歩み寄る。レガルは姿勢を正す。
「愛しの姉上。――今から“神だらけの地獄トーナメント”。同行――本気?」
「可」
「ですよねぇ」
ロノヴァはレーヤに顎で合図。
「行く。――阿呆」
レーヤは周回し始め――襟首を掴まれて回収。
「そういう意味」
四人の前でレガルが両手を広げる。
ニカラがくすり。
「この子は好き。――話が早い」
レガルが咳払い。
「じゃ、転移。――動くな」
「ちょっと待って! “俺たち”って――」ユウ。
ぱちん。ニカラが指を鳴らす。黒い球状のエネルギーが全員を包む。一瞬の暗闇――視界が開ける。
天空に浮かぶ巨大闘技場。四方八方で戦士たちが激突。白の玉座に座る大男が立ち上がる。
「新参か! 素晴らしい!」
「な、なんだよここえええ!?」ユウの悲鳴。アリーナが唸り、観衆は狂喜。
大男は両腕を広げる。
「礼を欠いた。――ようこそ」
「神々の闘宴へ!」
—-