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14 公爵家の乱

 公爵家の朝と言えば、最高の朝食であるーー。


 いつものエリンと、ノエル君と。

 しかし、今日はいつもと違った。

 ノエルの隣には、なんとアシュリー公爵が座っているのだ。


 これまで食事は毎回、書斎でとっていたのに、どういう風の吹き回しだろうか?

 エリンは緊張していた。


 だが、今は最高の朝食である。

 全精神をお皿に集中させていると、アシュリー公爵とノエルが楽しそうに会話しているのが、エリンの耳に聞こえてきた。


 ノエルが解説するクマのバリエーションについて、アシュリー公爵は言葉は少ないが、優しく頷いて聞いている。

 エリンは最高のオムレツを頬張ったまま、アシュリー公爵の顔に見惚れてしまった。


 やはり、顔がいい。

 というか、より良く輝いている?

 エリンは幻を見ているようで目を擦った。


 その時ーー。

 食堂の外の廊下からドヤドヤと、いつもの公爵家らしからぬ、騒がしい声が響いた。

 硬いブーツの音がこちらに近づいて来る。


「お待ちください! レナルド様!!」


 執事の慌てる声と同時に、食堂の扉はバーン、と勢いよく開かれた。


「よぉ! ただいま!!」


 アシュリー公爵とノエルが、そしてエリンも目を丸くして、後方の扉に注目した。


 そこには、見知らぬ人が立っていた。

 薄汚れたブラウスとベストに、伸びきった髪を無造作にまとめた男性……。

 なかなかのイケメンが、後ろに異国の者を二人従えている。剣を下げて大きな袋を持ったその姿は、まるで海賊のようでーー。


 エリンは盛大に紅茶を吹き出した。

 公爵家に、正面から不審者が乗り込んで来たのである。


「か、かかか海賊!!」


 エリンがどもっているうちに、ノエルが立ち上がって、大声を上げた。


「お父様!!」

「お、お父様ぁ~!?」



 *・*・*



「いや~、まいった、まいった」


 例の海賊……。

 いや、ノエル君のお父様であり、アシュリー公爵のお兄様であり……。

 つまりはこの公爵家の長男である、噂のレナルドお兄様は悠々と紅茶を飲み干した。

 周囲の空気をもろともせずに、太陽のように明るい人だ。


 その隣には、まるで闇の塊のように不穏なオーラを背負ったアシュリー公爵が、レナルドお兄様を睨んでいる。


 一触即発のスリルがある光景を、対面のソファーでエリンとノエルは並んで眺めた。

 背後にいる執事は蒼白となっていて、気の毒なほど動揺していた。


 レナルドお兄様の後ろには、やはり異国の従者が二人。

 大きなズタ袋を持ったまま、直立している。


 エリンは、あの袋の中が気になって仕方がない。

 サンタクロースにはとても見えないので、爆弾なんぞ入っていないかと、気が気ではなかった。


 レナルドお兄様が紅茶のおかわりを所望すると、ティナは冷たく対応したが、やはりお兄様は動じない。

 見習いたい図太さである。


 お兄様は失踪事件の経緯を、身振り手振りを交えて、ドラマチックに教えてくれた。

 その語りはまるで、聞く者を夢中にさせる噺家(はなしか)のようでエリンは感心した。

 だが擬音も交えて話が長いので、ザックリと要約するとこうだ。


 お兄様の三番目の元奥様でらっしゃる方はとても奔放な方だったらしくーー。

 公爵家で散財を繰り返した挙句に、仮面舞踏会で出会った他国の男に惚れてしまい、船に乗って突然旅に出てしまったのだと。

 なかなかエキセントリックな元奥様だ。


 レナルドお兄様はその時の決意を格好良く語った。


「それで俺は朝一番に、見知らぬ船に飛び乗った。異国の船長に、俺をあの女のもとに連れて行け! と頼み込んだんだ」


 お兄様のドラマチックな口調に腹が立ったのか、アシュリー公爵がとうとう声を荒らげた。


「なぜ誰にも行き先を告げず、そんな唐突な行動を! 家族に心配をかけるとは思わなかったんですか!? しかも、公爵家の長男としての責務を放棄して!」


 ご(もっと)もな説教に、お兄様は悲しそうに首を振った。


「だって、俺も行き先がわからなかったんだ」

「え?」

「あの女と同じ方向に行くかと思ったのに、その船は真逆に航行を始めたんだよ。船員とは言葉も通じないから焦って勉強したけど、話せる頃には、船は遥か遠い地に上陸してたんだ」


 深刻な口調のレナルドお兄様と、鳩が豆鉄砲を食らったアシュリー公爵の顔を同時に見て、エリンは口に含んだマカロンを危うく前方に吹き出すところだった。


「お兄様はいつもそうです! 自分勝手に行動して、皆を振り回して!」


 いつも氷のように冷たく、静かな佇まいのアシュリー公爵は珍しく感情的になった。


 しかし、その顔も良い……と。

 エリンは紅茶を飲みながら、じっくりと盗み見た。


 お怒りを受けても、レナルドお兄様は悪びれなかった。


「事故だよ、事故。船があっちに行っちゃったんだから、仕方がないだろ?」


 さらにこの叱られターンを挽回しようと、後ろの従者を促して、例のズタ袋を取り出した。


 エリンは「おっ」と前のめりになった。

 ずっと気になっていたあのでかい袋が、とうとう開封されるのだ。


 金が出るか、蛇が出るか。


 隣で静かに座っていたノエル君も、緊張して姿勢を正した。


「そして俺は遠い地で、これに出会ったのさ!」


 お兄様は言いながら、袋の中身をテーブルの上に豪快にぶちまけた。


 ドジャーーーン!!


「な、何これ!?」


 エリンは思わず叫んだ。

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