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1 突飛な縁談がやってきた!

「こ、公爵家から、結婚の申し込み!?」


 エリンは朝食の席で、盛大に芋を吹き出した。

 正面に座る兄の額に当たったが、兄は真顔のままスルーした。

 どうやら、突飛な縁談に動揺しているのは兄も同じようだ。


「ああ。お父様は断るつもりみたいだけど」

「はあ? 私に来た縁談なのに、どうしてお父様が断るの!?」

「あまりに非常識な内容の打診だったらしい。いくらうちが貧乏どん底の伯爵家だからって、エリンをそんな酷い奴に嫁がせるわけにはいかないって」


 エリンはフォークを握ったまま、目を白黒とさせた。

 自分の手前を見下ろすと、芋、芋、豆と、質素な皿がある。

 我が家の定番の節約メニューで、味付けは塩だけだ。


 そう。

 うちは貴族とは名ばかりの、ど貧乏な伯爵家である。

 もともと過疎地なのに不作が続いて、領地経営は火の車。今や誰が見ても、没落寸前だ。


 しかし、兄いわく。

 公爵家との婚姻を承諾すれば、伯爵家の赤字の補填までしてくれるという、破格の条件付きらしい。


「公爵家って、あのでっかいお屋敷の、超・お金持ちでしょ!? 万々歳じゃない!」

「エリン。言葉遣い」


 冷静さを取り戻した兄は、興奮するエリンを(たしな)めた。

 それだけの好条件な縁談なのに、父が渋るとは、相当な理由があるのだろうか?

 エリンは考えうる限りの、最悪な理由を脳内で挙げてみた。


「すっごいお爺ちゃんとか、象みたいな巨体とか、はては100人ハーレムの一員だったり……」

「エリン。考えが全部口に出ている。公爵は23歳とお若いし、見目は整った青年だし、ハーレムはこの国で禁止されている」

「じゃあ、最高じゃない」

「ただしーー。愛は無い。完全なる "契約結婚" ってやつだな」


 公爵家は今、大きな問題を抱えている。

 先代の引退を期に家督を継いだ長男が奔放な人で、女性関係で揉めた挙句に、どこかへ失踪してしまったとか。

 それで急遽、跡を継ぐことになった独身の次男に、立場上の婚姻が必要になったらしい。


「なるほど。まともなご令嬢には、とっくに婚約者がいるもんね。公爵家はもしかして、手当たり次第に年頃の娘を探しているのかしら?」


 エリンは亜麻色の髪と若草色の瞳が可愛らしい花の17歳だが、色恋沙汰にはこれまで、とんと無縁だった。何しろ貧乏なもので、社交に参加するドレスもなければ、没落を背負った貴族の娘を貰ってくれる令息のアテも、まるでなかったからだ。


 兄はそんな不憫な妹に、少し申し訳なさそうな顔をして続けた。


「失踪した長男と違って女嫌いと噂される次男は、形だけの婚姻を要求している。契約金として伯爵家に結納金を支払い、エリンにも契約妻の報酬として高給が支払われる。年に数回の公務に付き添う以外は、自由にしてくれと。まったく、こんな人の心のない契約結婚なんて……」


 兄の言葉の途中で、エリンは椅子を倒して立ち上がった。


「それってやっぱり最高よ!! 私、その縁談をお受けするわ!」

「エ、エリン!?」

「お父様はどこ!? お断りの邪魔をしなくちゃ!」


 エリンはツギハギだらけのドレスのスカートをつまんで、廊下を走った。

 伯爵家で見慣れたボロボロのカーテンも、剥がれた壁紙も、燦然と輝いて見える。


 質素で平凡な貧乏生活に舞い込んだ、突飛な縁談。

 それは、エリンが密かに抱く「グータラな夢」を叶えてくれる可能性があった。


「せっかく貴族に生まれ変わったんだもん。優雅に遊んで、贅沢にグータラする生活がしたい!」


 エリンが他の令嬢とちょっと違うのは…… "前世の記憶" を、ぼんやりと覚えていることだった。

一年ぶりの新連載になります!

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