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語られる真相1

読んで頂けると嬉しいです!

 その日の夕方、私と御厨さんは成瀬さんのマンションを訪れていた。三人分のハーブティーを淹れた成瀬さんは、私達の向かいにある椅子に座ると、落ち着いた声で問い掛けた。


「それで、刑事さん達、今日はどういった御用ですか?」


 それを聞いた御厨さんは、真っ直ぐに成瀬さんを見据えて質問を返した。


「単刀直入に伺います。広川真理香さんを殺害したのは、成瀬綾音さん、あなたですね?」


 成瀬さんは、ティーカップを口に運ぶ手をピタリと止めて言った。


「どうして私だと?」


 御厨さんは、自分の後ろ側の壁に掛かっている時計に視線を遣りながら答えた。


「昨日私達がここを訪れた際、柿崎さんが途中で帰られましたよね?」

「ええ、友人と約束があるとか言って」

「その時、あなた、目を細めながらあの時計を見たんですよ。まるで、目を細めないと時計の針が見えないかのように」

「……」

「あなた、その眼鏡、度が合ってないんじゃないですか? 一か月前にあなたが眼鏡を新調したと柿崎さんから伺いましたが、その新しい眼鏡はどうしたんですか?」


 御厨さんの言葉を聞きながら、私は会議室での秀一郎さんの言葉を思い出していた。


       ◆ ◆ ◆


「成瀬さんが目を細めて時計を見た時、不思議に思ったんだよ。『どうして度の合わない眼鏡を掛けているんだろう』ってね」

「締め切りが近くて眼鏡屋に行く時間が無かった……では説明できませんよね」


 私がそう言うと、秀一郎さんは腕組みをして頷いた。


「ああ。彼女が眼鏡を新調したのは一か月前。私は医者ではないからはっきりとは言えないが、一か月かそこらで、時計の針が見えなくなる程に度が合わなくなるというのは考えにくいな」

「……コンタクトレンズを無くして予備の眼鏡を掛けていたわけでもないですね。成瀬さんは、コンタクトレンズを怖がっていましたし、予備の眼鏡を持っていないという話でした。なら、事情聴取の時成瀬さんが掛けていた眼鏡は……」


 私が考えていると、御厨さんが口を開いた。


「そうか……松谷さんだ……!」


        ◆ ◆ ◆


 リビングでは、御厨さんの言葉が続く。


「あなた、広川さんを殺害した時、新しい眼鏡を割ってしまったんじゃないですか? それで、誤魔化す為に酒のガラス瓶を割ってぶちまけた。今あなたが掛けている眼鏡は……松谷さんのものですね」


 成瀬さんは、諦めたように溜息を吐くと答えた。


「……そうです。松谷君は、私の犯行を知ると、自分がいつも掛けている眼鏡を私にくれました。真理香を殺したのは……私です」

「どうして殺害を……やはり、松谷さんをバカにされたのが許せなくて……?」


 私の言葉に、成瀬さんはゆるゆると首を振って答える。


「違います。私は……九か月前、美久ちゃんのアイディアを盗んで……自分の漫画として発表したんです」


 盗作という事か。


「あの時は、私の漫画がアニメ化したばかりで、次の作品も期待されていて、プレッシャーで、思わず……。美久ちゃんにはちゃんと断ったし、謝礼も渡したんですけどね。……以前、真理香が家に来た事があったんです。その時に盗作に気付いたらしくて、脅されるようになりました」



 事件の真相はこうだ。


 事件当日の夜、成瀬さんは広川さんに呼び出され、盗作の件で脅された。そして松谷さんをバカにされた件で揉み合う内に、成瀬さんは広川さんに地面に押し倒される。その拍子に眼鏡も壊れた。


「何よ、アニメ化なんかしてチヤホヤされちゃって! 三流漫画家の癖に、松谷君と婚約までしちゃって! 許せない、あんたの幸せ、ぶち壊してやる!」


 そう言って、広川さんは成瀬さんの首を絞め始めた。命の危機を感じた成瀬さんは、咄嗟に側に落ちていた石を拾って、広川さんの頭を殴りつける。

 そして気が付くと、広川さんは頭から血を流して地面に横たわっていた。


 広川さんを殺してしまった。愕然とした成瀬さんは、警察に自首しようとした。しかしその前に松谷さんにお別れを言いたくなり、松谷さんに電話をした。


 その時間が午後八時半頃。電話の用件が食事の日程云々という証言は、嘘だ。

 成瀬さんの電話を受けた松谷さんは、すぐに現場に駆け付けた。


「ごめんね、洋平。……私、警察に……」


 スマホで警察に電話しようとした成瀬さんの腕を、松谷さんが掴む。


「駄目だ、君が刑務所に行くなんて。漫画家としての未来が閉ざされてしまう!」

「でも……」

「頼む、僕の言う通りにしてくれ!」

「……分かった。ありがとう、洋平……」


 成瀬さんは、苦しげな顔でそう言った。


「じゃあ、綾音。君はすぐ自宅に帰って、アリバイを作るんだ。丁度締め切りが近いだろう? アシスタントの柿崎さんに来てもらえばいい。死亡推定時刻がどう見積もられるか分からないけど、取り敢えず十二時頃まではアリバイを確保してほしい」

「……分かった」


 そして、松谷さんは成瀬さんに自分の眼鏡を渡し、成瀬さんはその場を後にした。


 現場に残った松谷さんは、眼鏡のレンズが割れている事を警察に知られないよう、近くに落ちていた日本酒のガラス瓶を拾ってくる。そして、地面に叩きつけるようにして瓶を割り、遺体の側にぶちまけた。


 次に松谷さんは、落ちていた広川さんのバッグから広川さんのスマホを取り出し、島崎さんにSMSを利用してメッセージを送った。もちろん、広川さんがまだ生きていると思わせて、成瀬さんのアリバイを作る為だ。

 松谷さんは、万が一成瀬さんが疑われた場合、自分が罪を被れるようにわざとスマホの指紋を消さなかった。


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