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夢を追う女

読んで頂けると嬉しいです!

 翌朝、私と御厨さんは現場となった河川敷周辺で聞き込みをしていた。不審者を見かけた人がいないかもう一度調べていたのだが、中々成果は上がらない。

 そして昼近くになり、私達が近くのコンビニで昼食を買おうとした時、現場より少し離れた位置の川辺に見覚えのある顔を見つけた。柿崎さんだ。


「こんにちは、柿崎さん」


 私と御厨さんが声を掛けると、柿崎さんは笑みを浮かべて「こんにちは、刑事さん」と挨拶してくれた。

 柿崎さんは今、地面に青いビニールシートを敷き、スケッチブックを膝に乗せた状態で座っている。所謂体育座りに見えるような姿勢だ。

 白いパーカーに青いジーンズという格好が似合っている。


「柿崎さん、何をしてるんですか?」


 私が聞くと、柿崎さんは少し恥ずかしそうに答えた。


「絵を描いてました。漫画の背景を描く練習になるので……」

「へえ、見ても良いですか?」

「はい、どうぞ……」


 私は、柿崎さんからスケッチブックを受け取ると、目を見開いた。スケッチブックには、目の前の風景を細かく、立体的に表現した素敵なデッサンが描かれていた。


「すごいですね、まるで写真みたいだ」


 御厨さんが覗き込んで感想を言うと、柿崎さんは手を振った。


「私なんて、まだまだですよ。……私、プロの漫画家になりたいんですけど、実力は綾音先生の足元にも及びません」

「そうなんですか……」


 柿崎さんは、目を伏せがちにしながら穏やかな笑顔で言った。


「……私、中学の時虐められていて、当時新人漫画家だった綾音先生の作品に心を救われたんです。それで、私も綾音先生みたいになりたいと思って漫画を描き続けてたんですが、一年前やっと綾音先生のアシスタントになる事が出来ました。……でも、上手くいきませんね。いつも失敗ばかりして……」


 それから柿崎さんは、成瀬さんの原稿用紙に思い切りインクを零してしまった話や、成瀬さんの眼鏡を間違って壊してしまった話などを聞かせてくれた。

 成瀬さんの眼鏡を壊してしまったのは一か月ほど前の話で、成瀬さんは予備の眼鏡を持っていなかった為、急遽眼鏡屋で新しい眼鏡を作ってもらったらしい。


「はあ……でも、こんなデッサンが描けるなんて凄いですよ、柿崎さん。漫画家になれるよう応援してます。頑張って下さい」


 私がそう言ってスケッチブックを返すと、柿崎さんは満面の笑みで言った。


「はい、ありがとうございます」


       ◆ ◆ ◆


 午後も少し聞き込みをした後、私と御厨さんは捜査一課の会議室に戻った。しばらくすると、花音さんと堀江先生が顔を出す。今日も四人で事件について話す事になっているのだ。


「……という感じで、特に聞き込みの成果はありませんでした」


 私が報告すると、花音さんは捜査資料に視線を落としながら、考え込むような表情をする。


「……そうですか……何か思いつく事は無いか、秀一郎さんに聞いてみます」


 そう言うと、花音さんの目が虚ろになり、すぐに秀一郎さんの人格になった。


「聞き込みの成果は無かったのか……実は、思いついた事はあるのだが、それを証明する手段が無くてね」


 秀一郎さんが、困ったような顔で言った。


 何かこの状況を打開する事は出来ないか。そう思った私は、先程柿崎さんから聞いた話を秀一郎さんに伝えた。事件には直接関係なさそうだが、何がきっかけで事件の真相に辿り着くか分からない。


「……というわけで、柿崎さんは漫画家を目指しながら頑張っているそうです」


 私が言うと、何故か秀一郎さんは呆れたように自身の額に手を当てた。


「……小川君、御厨君、そういった事はもっと早く教えてくれないか」

「え、それって……」


 私が呟くと、秀一郎さんは不敵な笑みを浮かべて言った。


「ああ、二人共、お手柄だ」

次回から解決編です!

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