事情聴取2
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次に私達が向かったのは、島崎さんと同じく高校で広川さんと同級生だった松谷洋平さんのアパート。
二階建てのアパートに到着し、車を降りた私は、建物を見上げる。夕焼けのオレンジが白い壁に映えて綺麗だ。
御厨さんが松谷さんの部屋のインターフォンを押すと、「はーい」という返事の後に、一人の男性が顔を出した。
紺色の蔓というシンプルな眼鏡を掛けた、短めの黒髪を綺麗に整えた男性。彼が、松谷洋平さんだ。
「先程電話しました、警視庁捜査一課の御厨です。何度も申し訳ございません、お話を伺いに来ました」
御厨さんがそう言うと、松谷さんは少しだけ笑みを浮かべて「どうぞ、お入り下さい」と応え、私達を入れてくれた。
リビングで松谷さんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、御厨さんが尋ねる。
「松谷さん、今日はお時間を頂きありがとうございます。仕事が忙しいんじゃないですか?」
「いえいえ。今日は五時上がりでしたし、大丈夫ですよ」
松谷さんは、笑って手を横に振った。松谷さんは、外資系の保険会社に勤務している。
「それで、早速なんですが、同期会の時の話を確認させて下さい」
私が聞くと、松谷さんは苦い顔をして口を開いた。
◆ ◆ ◆
同期会で、真理香は結奈を脅した後、洋平の方へ近づいた。
「あら、松谷君、久しぶりね」
「……ああ、久しぶり、広川さん」
「松谷君、大手の保険会社に勤めてるんでしょう? 凄いじゃない。……高校の時は、地味で暗い感じだったのに、何だか垢抜けたみたい。ねえ、今なら、私、松谷君と付き合っても良いわよ?」
洋平は、困ったような顔で笑いながら言った。
「気持ちはありがたいけど……僕はもう、婚約してるんだ。ごめん」
それを聞いた真理香は、顔を引き攣らせて聞いた。
「……そう。相手は誰?」
「同級生の、成瀬綾音」
洋平の答えを聞くと、真理香は急に笑い出した。
「綾音? ホント? あの子、結奈よりは気が強いけど、結奈と同じオタクじゃない! あんな子と婚約するなんて、松谷君らしいというか何と言うか……」
洋平は、ムッとしながらも応えた。
「……僕は、綾音と婚約出来て幸せだよ。……じゃあね、広川さん」
そう言ってその場を離れようとする洋平を、真理香が大声で呼び止める。
「待ちなさいよ!……幸せですって? 高校の時、私に告白してフラれた癖に!……私のスマホに、今でもあなたが私にくれたラブレターの画像が残ってるのよ。読んであげましょうか」
真理香は、ハンドバッグからスマホを取り出すと、数回タップした。そして、ニタアと笑うと、大きな声のまま、ラブレターの文面を読みだした。
それを聞いて、洋平の頭に高校の頃の出来事が蘇る。
高校二年の時、明るく可愛い顔立ちの真理香に好意を抱いていた洋平は、真理香に告白する事にした。
ある日の夕方、思い切って真理香の靴箱にラブレターを入れる。しかし、翌朝洋平を待っていたのは、地獄のような光景だった。
「アハハ、何これー。『君の事を考えると胸が苦しくなります』だってー」
真理香が、教室で洋平からのラブレターを読み上げていたのだ。しかも、教室にいる皆に聞こえるよう大きな声で。真理香のバカにしたような表情と声は、ずっと忘れない。
そして、同期会の場で再び真理香にバカにされた洋平は、すぐにその場を立ち去った。
◆ ◆ ◆
「成程。広川さんに屈辱的な目に遭わされた事があるわけですね」
御厨さんが言うと、松谷さんは眉根を寄せながら応えた。
「はい。でも、僕は広川さんを殺していません」
手帳に聞いた事をメモしながら、私は再び松谷さんに質問を投げかけた。
「ところで、松谷さん。昨日と同じ質問で恐縮ですが、事件のあった九月二日の午後八時から午後十一時、あなたはどちらにいらしたんですか?」
松谷さんは、私の方に向き直って答える。
「その時間は、ずっと家でDVDを見ていました。……と言っても、一人暮らしなので証明してくれる人はいませんが」
「でも、婚約者である成瀬綾音さんと電話したんですよね?」
私が問い掛けると、松谷さんは頷いて言った。
「はい。午後八時半頃、綾音から電話がありました。近々綾音の両親と四人で食事をする予定があるんですが、その日程をずらしてほしいという用件でした」
電話していた事がアリバイの証明になるわけではないが、何が事件解決の手掛かりになるか分からない。私は、手帳にペンを走らせた。
その後も松谷さんから話を聞いたが、特に収穫は無いまま面談は終わった。
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